【連載版】ただのTS一般人が、主人公相手に召喚されし戦う使い魔面してみた。 作:御花木 麗
「えっ、誰」
「……ッ」
僕とご主人はルシファーの魔導書がある倉を背にして天使と対峙する。
原作ゲームに似たような展開があったため、デジャヴを感じた。主人公がルシファーを召喚する前に繰り広げられた展開。結局原作ゲームでは、ルシファーが召喚されたため、解決しているが、現実ではルシファーは召喚できず、いるのは僕。僕は、目まぐるしい程の知りたくなかった情報や出来事が立て続けに入ってくるせいで、気分が悪い。ご主人に肩を貸してもらっていたが、何が今から起こるか分からない以上、ご主人を天使から守れるような体勢は取っておきたいから、手を肩から離した。手が塞がれている状況じゃ、腕輪の力も発揮できない。
「私のこの状態の姿を見られてしまったか。…まぁ、いい。今までなぜ魔力探知に引っ掛からなかったか謎だが、単刀直入に言う。ここにある魔導書…いや、本を私に譲ってくれないだろうか?」
指差すは、ルシファーを召喚できる魔導書。ルシファーを主人公であるご主人が召喚できない今、主人公が召喚できるようになるまで、誰にもこの魔導書を渡さずに守り通さなければいけない。
これは流れ的にも、ルシファーを消滅させるために、ルシファー召喚の魔導書を入手したい野良の天使の1人だと思われる。
この天使の階級は確か…下級天使だったはず。
だが、油断はしちゃ駄目だ。
幸い、念のためにと普段から腕には上級悪魔程度の氷を操れる腕輪を装着しているけど、これがあったとしても、所詮は僕は人間。天使や悪魔に能力が劣るこの世界ではどう転ぶかは分からない。
ご主人が小声で僕に言う。
「な、なぁ、今この人背中についてる作り物みたいな翼で飛んでなかったか?これって変な事に巻き込まれてないよな…?」
「ご主人、残念なお知らせだけど、大正解だよ…」
「まじか…」
「いい加減、私の願いに対する返答を返してもらってもいいだろうか?私としても私の正義に反することはできるだけしたくないので、穏便に済ませたいと思って聞いているのだ」
「あ、いやーー」
ご主人はなんと返していいか分からず、戸惑いながらも何か言葉を返そうとしている様子を見て、ご主人の言葉を遮り、目配せで「任せて」と合図した。ご主人はその意図を汲み取り沈黙する。
「じゃあ、僕が答えさせてもらうよ。残念だけど、それは僕らにとっても大切な物でね。申し訳ないけど、今日のところはお引き取り頂けないだろうか?」
「………私の人ならざるこの姿を見た上で、そのような世迷言を言うとは。…呆れる。私は天使だぞ!!このような上位存在が人間相手に下手に出てやったというのに。………あまり強行手段に出たくはなかったがどうやら、そうせざるを得ないようだ」
天使の目が鋭く光り、その瞬間、天使は羽を広げて低空飛行でこちらに勢いよく向かってきた。このまま僕とご主人の間を無理矢理突破してそのまま倉に侵入し、ルシファーの魔導書を奪い取る気だ。僕は反射的にご主人を背後に押しやり、腕輪の力を解放した。氷の壁が瞬時に形成され、天使の進行を阻もうとする。「ご主人、そのまま後ろに居て!」僕は叫びながら、天使の動きを注視した。
「な…!?特殊能力だと…バカな!ただの人間のはずじゃ」
天使は急いで方向転換をしようとするが間に合わず、その勢いのまま壁に衝突。
「天使って輪っかや翼を隠せるよね?それと同じで悪魔もツノが隠せるとは思わなかったのかい?」
苦悶の表情で地面に倒れ込む天使にそう言う。
「お前は悪魔だったのか…、にしてはお前から魔力が一切感じ取れないが」
天使は痛みに耐えながらも憎々しげに言った。
「キミはそんな魔力ゼロかもしれない悪魔に負けたって事になっちゃうけど大丈夫かい?」
「き、貴様ぁぁぁ!!!!」
「ごめんね。ちょっと静かにしてもらうよ…えい!」
僕は氷でバットを形成し、天使の頭に力いっぱいに叩きつける。
僕は今強化ポーションを飲んでいないので、その力も天使にとっては、たかが知れているが、そんな一撃でも気を失ってくれた。
「………ぇえ」
ご主人がちょっと引いていた。
「し、仕方ないじゃないか。仲間を呼ばれでもしたらたまったもんじゃないしさ」
既に呼ばれてるかもだけど。
それにだ。本当は気を失わせるのではなく、消滅させた方が手段的には最良だ。そっちの方が天使がここにいたという痕跡を手っ取り早く消せるからだ。
でも明らかにインプのように人から離れた化け物のような見た目をしている生き物とは違い、この天使は輪っかと翼があるだけで、他の見た目は限りなく人に近い。これは本当に身勝手なエゴだと理解はしているけど、人に似た生き物を殺せる勇気は今の僕にはない。
だから、消滅させるよりかは、よっぽどマシな処置だと思いたい。
「え、今みたいのが、他にもいるのか?」
「数十人規模でね」
「…まじか」
しかも、原作ゲーム通りなら中級相当が2人も。あっちは数が多い上に、中級天使が2人ともなると、僕1人で相手にできるかどうか。
「この人自分の事、天使とか言ってたけど、やっぱりそうなのか?翼と輪っかで見た目もそれっぽいし。前に言ってたもんな、悪魔の他に天使もいるって」
「…うん、そうだよ。驚いたかい?」
「やっぱりそうなのか。驚いたは、驚いたんだが…天使って思ってたより、言っちゃ悪いが俺の想像してた性格とだいぶかけ離れているような」
まぁ、要するに性格悪くね?と言いたいのだろう。優しさと純粋さを兼ね合わせたものが天使じゃないのかと。転生前の世界ではそうなのかもしれないが、原作ゲーム、いや、この世界の天使に限っては少し違う。
「天使は、己の正義感に忠実なんだよ。それ故に自分の正義から反するものには徹底的に嫌悪感を抱く。そういう生き物なんだよ。例外もいるけど」
「そういうものなのか。……それにさっきまで俺が開けようとしてた本に執着してたように見えたけど」
「そうだよ。天使の目的はあそこにある本もとい、魔導書の入手。でも天使には渡しちゃ駄目だよ。世界が悪い方向に進みかねないから」
「…これ一つの本で世界規模の話になるとか随分物騒だな。…魔導書っていうが、さっきルシファーがどうのこうの言ってたよな。それと関係ないわけないだろうが、まじでよく分からねぇ。すごい面倒くさい方向にいってる事は分かる。分かりたくもないけど」
「まぁ、細かい話は後ほどしっかり教えるさ。とりあえず渡しちゃいけないって事さえ分かっとけば大丈夫だよ」
正直、こんな事になってしまって本当は、小心者な僕なので、とてもこの場から逃げ出したい。
でも原作ゲームのストーリーを改変してしまった責任は取らなきゃ。
本当にご主人には申し訳ないと思ってしまう。だってルシファーと一緒ならノーマルモードでいけたストーリーを僕のせいでハードモードに変えてしまったのだから。
…その分の責任はきっちり取る。
「ご主人、この場から離れる準備をするよ」
「え?ばあちゃんの家からって事か?」
一瞬でも倉庫から魔導書が探知可能になってしまった今、もう倉庫に直しても遅い。その一瞬の魔力でも魔導書を特定することができるだろう。だからーー
「天使達が欲しいものを僕らが持っている以上この敷地内に僕らが留まっていたら、この家の敷地内までやってくる可能性があるんだ。それだけで済めばいいんだけど、ご主人のおばあちゃんに危害を加えるかもしれない。それは嫌でしょ?」
「まぁ、確かにそれは嫌だな…」
「だから天使達が欲しがっている、魔導書と今気絶させたこの天使を連れて、僕らがここから離れれば、回収したい物がここにない以上、天使達もわざわざ侵入することはないだろうしね」
それはそれとして魔導書は絶対に取られたくないので、守らなきゃ。
最悪この天使には人質になってもらおう。
「天使に追われるかもしれないから、その時のために身元を隠せるような格好はしとこうか。身バレのリスクは最小限にしといた方がいい。特定されるかもしれないからね」
◇
僕らは、一旦ご主人のおばあちゃんの家の中に戻り、準備を整える。
「準備終わったぞ」
ご主人はパーカーのフードを目が隠れるくらいまで深くかぶり、マスクをしてやってくる。こんな状況だけど、不審者みたいと思わずにはいられない。
「今から結構歩いたり走ったりするかもだけど、マスク結構キツくならないかい?」
「あ、確かに、顔隠すのにちょうどいいと思ったんだけどな……ヒョウはその格好でいくのか」
「うん、不完全バージョンだけどね」
今の僕はツノとドミノマスクの最低限しか付けていない。悪魔コス衣装を全身につけた状態が100%ならこの状態は10%くらい。本当は全部、身に付けたかったけど、とにかくそんな時間がない!!僕の着ている衣装は見栄えにステータスを全フリしているせいで、とにかく着やすいように設計されておらず、完全体の僕になるだけでも、結構時間がかかる。余裕ができたら早着替えでも習得したいな。そしたらどんなに少ない時間でも完全バージョンの悪魔になりきれる。 それか魔法少女みたいに一瞬で衣装チェンジできたらいいのに。
「あと一応これ、飲んどいて」
「なんだこれ」
僕はご主人に青色の液体が入った瓶を渡す。
「体が少し軽くなるよ」
「え、それ危ないクスリとかじゃないよな?」
僕は顔を逸らす。
「はぁ!?」
「大丈夫だと思うよ。少しくらいなら…」
「なんだよそれ!」
「てのは冗談だよ。まぁ、飲んどきなって」
「本当に大丈夫なんだろうな…」
ご主人は疑心の眼を僕に向けながら、ごくんごくんと飲み干し瓶の中を空にする。
「味は…あんまり美味しくないな」
ご主人に飲ませたのは強化ポーションだ。
ポーションは、万が一のために2瓶バックの中に入れていた。その内の1つで強化ポーションのレア度的には低い。
効力もそこまで大きくないが、天使に追われるかもしれないのだ。
体が少し軽くなると感じるぐらいだが、それでも無いよりかはマシだろう。
僕はもう一瓶の方を既に飲んでいる。そっちの方が、ご主人が飲んだ方の強化ポーションよりも効力が大きく、身体が強化具合が高い。
別に僕が楽したいとかそういった理由ではない。
それの逆なまである。やはり、原作ゲームのストーリーをめちゃくちゃにした僕だ。
天使達に攻撃をされた時、僕がご主人を、体を張って守ってあげるのが筋だろう。
その時に身体能力が向上する強化ポーションは守る側にとっては、機敏に動き攻撃を防いだりできるため、ポーションの効果性能は高ければ高いほどいい。
◇
「じゃあ今から出発するけど、本当に大丈夫?それ、せめてどっちか僕が持った方が良くないかい。魔導書と天使」
天使の口と両手首、そして飛ばれないように翼を氷で固めて拘束したまま、その天使をご主人が担ぎ魔導書まで手に持っている。
「俺にはこれくらいしか出来ないんだから、俺に任せとけって。俺が襲われた時に、盾となってくれるのはヒョウなんだ。手が塞がれているより、塞がれていない方が戦闘に有利なんて言うまでもない。
それに、まだ気分悪いんじゃないか?」
「それはそうだけど…」
「よし、こんな話してる時間も、もったいないだろ?行くぞ、ヒョウ。…にしても天使をこんな感じに拘束して人質まがいな事してる俺らって相当やばいよな」
「そうに違いない、まさに悪魔の所業だよ」
「だな」
ご主人はフッと笑う。
僕もそれに釣られて口角が上がる
2人の間で緊張により張り詰めていた空気が少しだけやわらいだのを感じた。
「じゃあ、僕らはその魔導書を最優先に保護しつつ天使達から逃げ切ろう。ご主人のおばあちゃんの家から、ある程度離れた所だったらそこに天使を置いていけるし、それが出来たら僕らが煙を巻くことも可能だ」
こうしてすっかり暗くなった空に浮かぶ月に照らされながら、僕らは行動し始めた。