人類大好き吸血鬼、TSしてポストアポカリプス世界に再生する。 作:赤彦
――人類が放つ生命の輝きは、美しい。
あまりにも眩く、そして儚い。
触れれば崩れ去ってしまいそうな、余りにも脆いその輝き。
我は、それが愛おしくて仕方がない。
人ならざる血吸の鬼に成り果てて。
真祖の座を受け継ぎ、人類の敵となった。
それもすべては、人類の輝きを間近に見るため。
故に、我は――
「――――見事、人類!」
長い長い闘争の果て。
教会の聖女を筆頭とした討伐隊によって、討滅された。
それは、余りにも苛烈な死闘であった。
我が人生において二つとない、至福の時間だった。
だが、それも終わり、我は滅びる。
ああ、しかし。
少し、惜しい。
人類は、我の討滅で止まることなどしないだろう。
前を向き、進み続ける。
その前進の果て。
人類の行き着く先を、我は見てみたかった――
かくして、吸血鬼の真祖、ドラグウェル・アリス・マグナは討たれた。
神暦1603年、文明は後に中世と呼ばれる時代の、半ばのことである。
✞
ふと、目を覚ます。
意識があることを自覚する。
すぐに疑問を覚えた。
――なぜ生きている? 我は討滅されたはずだ。
聖女たちとの心躍る、余りにも苛烈なる死闘の果てに。
確かに、我は滅びた。
心臓に杭を打ち込まれ、朝日によって燃え尽きたはずだ。
だというのに、なぜ生きている?
理由はすぐに推察できた。
真祖の吸血鬼足る我は、討滅されても再生してしまうのだ。
不死の王たる吸血鬼は、しかし本来なら朝日を浴びれば消滅する。
心臓に杭を打ち込まれれば死亡する。
だというのに、その二つを受けてなお真祖は生きていた。
真祖が討滅されるのは、我が始めてのことだ。
それまでの真祖は、継承という不名誉な形で次代に真祖の血を受け継いでいたからな。
討滅の誉を受けることのできた我でなければ、知ることのできなかった事実である。
しかし、そうか。
――我は、再生してしまったか。
実に残念だ。
悠久の微睡みは、不死の王には許されぬことらしい。
とはいえ、再生してしまったものは仕方がない。
我が討滅されてからどれほどの時が立っているかは知らぬ。
故に、外の世界を垣間見るのも悪くはない。
アレから人類は、どれほどの発展を遂げているのだろうな?
――そのためには、まずは
現在、我は意識のみで存在していた。
霊魂の類はこの世界に存在しないが、人類の信じる霊魂の概念そのものの存在に我は成り果てている。
まずは器たる体躯を形成せねば。
――…………はて。
そういえば、我の身体はどういった姿形をしていたかな?
もう永く眠っていたから、忘れてしまった。
吸血鬼は姿見に映らぬ、姿形を頓着せぬのも致し方のないことだ。
ともあれ、記憶をたどって体を再生させる。
すると、空中に霧のようなモヤが発生し、ゆっくりと我の体が形成された。
「……こんなものか」
声を出す。
自身の体躯を確かめるように眺める。
そして、ふと気がついてしまった。
「……この声、体躯。……女のものだな?」
不味い。
しかも我はその声と姿に覚えがある。
我が目覚めたのは薄暗い室内。
姿見はなく、そもそも姿見に我は映らぬが……おおよそ、その容姿は想像がつく。
流れるような銀の髪。
陶器のごとき白い肌。
幼さが残る背丈は、百五十あるかどうかのはずだ。
その姿は、紛れもない美姫。
「それにしてもこの姿は……そうか」
自分の姿にそこまで頓着していなかったにしても、まさかこの姿を選ぶとは。
まぁ、いい。
体躯を作り直すには、血が足りぬ。
今更、性別に頓着する必要もないだろう。
とはいえ――
「……流石に、何も身に纏わないわけにはいかぬか」
この体は、幼き少女の身。
人前にその裸体を晒すわけにもいかぬだろう。
身体を再生したことで、血がほとんど残っていない。
真祖足る我は、生きるに血を必要とはしないが、力を使うためには血が必要だ。
残された血を、服を形成するためだけに使うのか。
少し悩むところだが――
「まぁ、いい。仮に人が見つからずとも、動物の血を狩ればいいのだ。ふふ、吸血鬼に堕ちたばかりの頃を思い出すな」
当時は、人を襲うのにも抵抗があり、何より人里に降りれば即座に討滅の対象となる。
故に、人里を避けて山で狩りを繰り返したものだ。
思えば、吸血鬼としての身体に慣れる意味でも、アレは良い経験だった。
真祖を
故に我は、布切れ同然の服を形成して身にまとった。
真祖の身にまとう衣服としてはあまりに粗末だが、今はコレが限界だ。
「それにしても……ここはどこだ? 建物の中のようだが、朽ちているな?」
我が目覚めたのは、不可思議な建物の中だった。
石造りでも、煉瓦づくりでもないおかしな作りの建物。
とにかく継ぎ目のようなものがなく、まるで箱をそのまま建物にしたかのようだ。
それが――朽ちている。
明らかに荒廃し、打ち捨てられている。
我が滅びた地から、我は動いてはいないはずだ。
であれば、その地に建物が建てられ、朽ちたのか。
一体どれほどの月日が流れているのだ?
真祖が討滅されるのは始めてのこと、再生にかかった時間など想像もつかない。
「まぁ、いい。外に出てみればいいだろう」
人の気配はない。
ならば、遠慮することなどなにもない。
外に出て、様子をこの眼で確かめてみればいいだろう。
我はそう考えながら、瓦礫まみれの部屋を出た。
それから、途中瓦礫のせいで通れなくなった道を素手で破壊して進んだり。
断絶され崖になっていた道を、跳んで進んだりした。
血がないため吸血鬼としての力――
特に真祖は、どれだけ血を失おうと最大の出力を発揮できる。
故に厄介なのだと聖女は苦虫を噛み潰したような顔で言っていたが。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
やがて我は、光をたどって外への出口を見つける。
どうやら、外は昼のようだ。
吸血鬼は朝日を浴びれば滅びる。
この様子だと、夜になるまで待たねばならないだろうが……軽く外を眺める程度なら問題ない。
そう考えて、出口に向かうと――
「……これは、人の骸か?」
ふと、足元にあるものを見つける。
骸――死体だ。
すでに干からびかけていて、血を吸うには適さないだろう。
とはいえ、
「……死者から血を奪うつもりはないが」
死した後、その生きた証を辱められるなど、本位ではないだろう。
我は死した人間からは血を吸わぬ。
それは人の尊厳に対する冒涜に他ならぬ。
骸は、この建物の奥へ向かおうとしているところで力尽きていた。
おそらく、この先にこの人類の目当てとなるものがあったのだろう。
それを道半ばで閉ざされた。
「……さぞ、無念だったろうな」
我は真祖、吸血鬼だ。
吸血鬼は人類の敵、しかし、死した者の敵になる必要もないだろう。
むしろ、こうして生きて、生きて、生き抜いた人類に対する敬意は忘れてはならぬ。
我は男を壁によりかからせて、目をつむらせる。
埋葬は、いずれこの男を人が見つけた時でいいだろう。
我の役目ではない。
そう考えて、我は立ち上がる。
祈りはしない、祈りとは人に与えられた救いであり、権利だ。
吸血鬼に、その権利はない。
「さて、外の世界はどうなっているやら」
それから我は、出口から外を覗き込む。
開けた視界に飛び込んできたのは、信じられないような光景だった。
――視界の先には、無限の荒野。
ただただ、なにもない荒野が広がっていた。
かつて、我が討滅された場所は自然に満ちた森林の中だった。
しにゆくさなか、木々の隙間から眺めた陽の光が、余りにも美しかったことを我は今でも覚えている。
が、しかし。
「……今は、昼のはずだが?」
我は、空を見上げてつぶやく。
空は、分厚い雲のようなものに覆われていた。
陽の光が、我を焼かぬほどの灰色の何か。
それが、我をデイウォーカーへと変質させている。
そして、開けた視界のどこを見渡しても、生物の姿はない。
人の姿どころか、動植物の姿すら、だ。
故に、我は思わず零す。
「…………我は、一体どれほどの時を眠り過ごしていたのだ?」
そして、何より。
この荒廃した土地に、人類は生存しているのか?
思わず、そう考えてしまう。
だが、
「ああ、いや」
視線を、後ろに向ける。
男の死骸が、眠りについていた。
男の死は、そう遠いことではない。
ならば、
「――この荒廃した土地で、人類は生きている」
我は、知らず笑みを浮かべた。
歓喜が我を支配する。
このような世界でも、人類は生きている!
素晴らしい!
それでこそ、人類だ!
時に美しく、時に生きぎたなく!
生き残ることこそが人類の証!
生存競争を勝ち抜いてきた、この世界の支配者足る証明だ!
ああ、あってみたい。
この時代の人類に。
もしも、教会の連中が嘯く黙示録によって、この世界が滅びたのだとしたら。
それでもなお生きている人類に、果たしてどれほど希望が残っているか。
「ああ、楽しみだ」
陽の光が遮られた世界。
我が、大手を振って歩ける昼の世界。
興味の付きないその世界に、我は最初の一歩を踏み出した。
TSロリ吸血鬼が不遜な態度で人類好き好きしながら無双する話です。