人類大好き吸血鬼、TSしてポストアポカリプス世界に再生する。 作:赤彦
真祖、ドラグウェル・アリス・マグナ――つまり我は吸血鬼である。
吸血鬼の王にして、不死の王。
人々が、神の存在を信じる「神暦」の時代。
我をはじめとした吸血鬼は、神の使いである「教会」と争っていた。
吸血鬼が人を襲い、血を吸うからだ。
中には、血に酔って吸血の際に人を殺してしまう吸血鬼もいる。
単純に、人ならざる力に溺れ暴虐の限りを尽くす吸血鬼もいる。
嘆かわしいことだ。
何にせよ、それらの要因と「教会」の信仰上、吸血鬼は彼らの敵だった。
ひいては人類の敵でもあったわけだ。
我もその例に漏れず、人類と敵対していた。
だが、一つ言えるのは我が人類と敵対していたのは、決して下賤な欲望を満たすためではない。
人類の輝きというものを、その眼に焼き付けたかったからだ。
人類は、美しい。
その生き様は、あまりにも眩しく。
我を焼き焦がすかのようだ。
人類が前に進む姿が好きだ。
悩み、戸惑い、絶望に打ちひしがれようとも、歩むことを止めない姿が好きだ。
人類が生き足掻く姿が好きだ。
死にたくないという渇望のママに生を欲し、時には卑劣な手段で周囲を陥れてでも生き残ろうとする姿が好きだ。
諦めを知らぬ人類の美しさは、わざわざ語るまでもないだろう。
誰もが知っている、人類の美徳であり、最大の武器だ。
だが、我は人類の醜悪な部分こそが人類の強さであり、人類を人類たらしめる
人は、生きようとするからこそ強いのだ。
誰もが生存を望む闘争の中で、人は弱者を淘汰して強者だけが生き延びていく。
だが、淘汰された弱者の中からも、その理不尽を執念に変え立ち上がる者がいる。
それこそが、人のあるべき姿だと我は思う。
弱肉強食、実に結構。
それは、最後に勝利したものが強者であるという、絶対の掟。
今の弱者が、未来の強者でないとは限らないのだから。
ああどうか、この世に生きる全ての人類が。
どのような形であれ生存を望み、生きることを諦めないでほしい。
その意志こそが、人類の輝き。
我の愛する、人の意志そのものなのだから―――――
✞
吹きすさぶ嵐の中、我は己が身一つで地を駆ける。
荒野にはなにもない。
ただただ、命無き世界が広がっていた。
このような土地で、人類がいまだ生き延びていることは理解っている。
だが、それがなかれば人類の生存を疑問視してしまいそうなほど、荒れ果てた虚無の世界だ。
「ああ、しかし。それでも人類は生きている」
故にこそ、そう考えるだけで興奮が止まらない。
こんな、草一つ生えてこないような土地で、人類はどうやって食料を調達するのだ?
水を、休める屋根を、人としての尊厳を、用意するのだ?
ああ、わからない。
わからないからこそ、興味深い。
とはいえ――
「……さしあたっての問題は、やはり血液か」
復活したばかりだからか、我は今血に飢えている。
吸血衝動にこそ悩まされていないが、常に水分が足りていないような飢餓感は感じていた。
あまり長く、この状況を維持したくはない。
しかし……
「まさか、ここまで生物の気配がないとは」
いくら荒涼した大地だと言っても、それに適応した動物くらいはいるだろうに。
今のところ、それを見つけることはできていない。
まさか、人類以外の生物は本当に絶滅してしまったのか?
そう考えた時だった。
我の吸血鬼としての優れた聴力が、その音を聞き取ったのは。
「――地響き?」
かすかな音ではあるが、確かに我の足音からそれは響いた。
間違いない、それは自然現象が大地を揺らしているのではない。
生物が、地の底から我の元へ迫ってくる音だ。
「ふむ、いいだろう」
我は、足の速度を緩める。
このままでは、地の底の何かが我に追いつけないと理解っていたからだ。
そして、待つ。
襲撃者が、我の喉元に食らいつく瞬間を。
「遊んでやる、楽しませるがいい」
直後。
巨大な虫のような生物が、我の足元から地面を食い破って現れた。
「こ、れは……ムカデか何か、か?」
得体のしれない、銀色の虫。
ムカデのような、複数の胴体が連結したような怪物。
その特徴は、言うまでもなく――
「……でかい、な」
その巨体さにあった。
一口で今の我を丸呑みにできる大きさだ。
それが、縦横無尽に地面を駆け回っている。
討滅される以前なら、有り得なかった光景。
どうやら本当に、人類はおかしな未来を歩んでいるらしい。
だが、悪くない。
迫りくる銀虫に相対する。
速度はある、巨体ゆえの膂力もあるだろう。
だが、所詮は虫。
その動きは――
「隙だらけだ」
我は、一歩踏み込み奴の懐に潜り込む。
虫は我を見失ったようだ。
動きが一瞬鈍る。
そこへ――
「耐えてみよ」
我は奴の体を蹴り上げた。
勢いよく吹き飛ぶ虫は、その後何度か地面に叩きつけられながら転がって。
やがて停止する。
死んではいない。
「なるほど、頑丈。巨体であり、動作も素早い。人であれば脅威であろう」
少なくとも、我の時代にこの怪物が現れれば、それは大きな脅威だろう。
下手をすれば、弱点の多い吸血鬼よりも人類を脅かすかもしれぬ。
教会の精鋭――あの吸血鬼の天敵達ならば、なんとでもするだろうが。
「とはいえこの手応え、脆い。運動性能も、我には遠く及ばぬ」
蹴り上げたときの感触から、虫の総合的な生命力を概算する。
脅威ではあるが、所詮は虫だ。
この程度で、我を止められるはずもない。
巨躯を誇る怪物との肉弾戦というのは、我にとって中々新鮮なものなのだが。
ここは、早々にとどめを刺すこととしよう。
なにせ――
「故に……我が贄として……その血肉を差し出せ!」
ようやく、血液が手に入るのだから。
我は一息に駆け出すと、動き出した虫の突進を交わして飛び上がる。
再び我を見失う虫。
だが、此度は我の姿を見つけられたようだ。
天高く飛び上がり、回転とともに虫の脳天にケリを叩き込む我を。
つまり、手遅れだ。
「ではな」
直後、虫の脳天に一撃が叩き込まれ。
奴は、動かなくなった。
我は虫を踏みつけながら、満足げに頷く。
この程度、完勝以外は赦されぬ。
しかし、
「…………これは、血……なのか?」
我は、思わずつぶやいてしまった。
我が蹴り砕いた脳天からこぼれる、青い液体。
匂いからして、これがこの生物の血液なのだろうが……なんとも。
「この世界は、血の色すら赤から青に塗り替えてしまったのか……?」
すでに理解できないことばかりだが、ことさら理解に苦しむ事実だ。
ここがかつて我の暮らしていた世界でないと考えたほうが、まだ納得できるくらい。
いや、その可能性は普通にあるな。
討滅された状態から再生するということ事態が異常事態なのだ。
何が起きていても不思議ではない。
「まぁ、今はこれを我が血肉とするしかない……のか」
いいながら、我は虫の骸から飛び降りる。
ケリ開けた脳天から血を啜るのは、砂の味がまじりそうなので、適当なところをこじ開けて血液を吹き出させる。
勢いよく噴出する青の血を、我は改めてしげしげと眺めた。
「匂いは……やはり血だ。この嗅ぎ慣れた香り、今更忘れるものかよ」
指ですくい取ってみる。
若干粘性は高いものの、血であることに違いはない。
「あまり気乗りはせぬなぁ」
仮にも真祖が、このような得体のしれない血を啜るなど。
野山の動物を狩るのも悪くないとは言ったが、流石にこれは想定外だ。
しかし――
疼く。
やはり血液を前にすると、衝動が肚の底から湧いてくる。
吸血鬼とは、どうしようもない生き物なのだ。
飢えて血肉を前にすれば、家畜以下の畜生の如き貪欲さが顔を出す。
まぁ、真祖たる我はそれを押し込めることは可能だ。
だが、今は押し込める時ではないだろう。
「……ええい、ままよ!」
我は、躊躇いを捨ててその血を口に含んだ。
そして――
「こ、これは……! なんと癖になる味だ!」
結論、美味である。
血液は、基本吸血鬼にとって最も美味に感じる食材である。
あらゆる熟成させたワインよりも、高級なステーキよりも。
何よりも甘美な調べを紡いでくれる食材だ。
虫の青血もそうであった。
実に、美味。
しかしそれでいて、これまで感じたことのないような独特な風味を伴っている。
これは、なんと表現するべきなのだろう。
間違いなく、我の時代にはなかった味だ。
だが、一つだけ言えることがある。
コレまで様々な血液を舌に乗せてきた我だからこそ、感じることがあるのだ。
余りにもドロドロしていて、さながら不摂生で肥え太った貴族の血を呑んでいるかのような。
アレは、人間性こそ醜悪だが、その生きぎたなさと血の濃さにおいては素晴らしいものがあった。
そして何より――
「これは……不健康な味だぁ」
呑んでいる我すら、健康を残ってしまいそうな味。
それでいて、独特な中毒性があるのだからやめられない。
この青血は、そういう味だ。
「うむ、うむ……素晴らしい」
人類は家畜を己のいいように作り変え、食すにふさわしい味に仕上げることがある。
コレもそれと同じように、人類が作り上げた結果生まれた怪物なのだとしたら。
人類、いい仕事をするな……!
そう言わざるを得ない。
「だが、不健康な血は栄養補給という面では効率が悪い。……これは、もう少しこの血を味わわなくてはなぁ」
血液を取り込んだことで、我の力は少し回復した。
だが、まだ足りぬ。
この虫の血を飲み干したとしても、まだ。
それに――回復した力が我に訴えている。
この怪物が、群れをなして移動している。
ここから少し進んだところに、十や二十では足りない数の虫がいる。
それは――いい。
実にいい。
「さて、久方ぶりの狩りだ。我を存分に楽しませてくれよ……!」
言葉とともに、我はコレまで以上の速度で駆け出した。
血を得たことで復活した、吸血鬼としての
ポスアポっぽい怪物を蹂躙する最強系TSロリ、癖です。