人類大好き吸血鬼、TSしてポストアポカリプス世界に再生する。   作:赤彦

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3 真祖、邂逅する。

 我にとって、蹂躙というのはなかなか無い経験だ。

 無論、力なき人間を力のままに踏みにじることはできる。

 だが、それは人類の敵がすることとして美しくない。

 何より人は、絶望の淵から這い上がるのが美しいのだ。

 死んでしまっては、元も子もない。

 

 故に我が他者を蹂躙する機会など、我を打倒するべく徒党を組んで吸血鬼が襲ってきた時くらい。

 それも、長い生の中で数えられる程度のものだった。

 

 しかし、今は違う。

 この荒れ果てた世界で、あの巨大な銀虫のような生物が地上を闊歩しているなら。

 我はいくらでもそれを蹂躙する機会があるだろう。

 単純に、人の集落を襲うよりも血液を補給する効率が良すぎる。

 何より――

 

「存外、楽しいものだなぁ! 蹂躙というのは!」

 

 ――これだ。

 力に酔うというのは、下等な吸血鬼のすることだ。

 しかし、多くの吸血鬼が力と血に溺れ、夜の貴族たる矜持を忘れ淫蕩にふけるのも無理はない。

 これほどまでに、力を振るうというのは快感なのだ。

 

 無数の銀虫を、蹴り一つでかち割っていく。

 襲いかかる虫の群れが、まとめて我の”業”によって薙ぎ払われる。

 その光景は、見ていて中々心躍るものがある。

 

 かくして、最初の頃は百を越えるほどいた虫を、我は瞬く間に平らげた。

 血液も、ほぼほぼ最大まで補充できた。

 これならば、数年は血を吸わずとも力を振るえるだろう。

 まぁ、こういった怪物が地上を闊歩しているなら、自ずとそれらを蹂躙する機会も増えるだろうし。

 その都度吸血を行うことになるだろうが。

 

 そして――

 

「…………ほう」

 

 我は、回復しきった力を十全に振るって、知覚する。

 気配だ。

 何者かが、こちらに近づいてくる気配がする。

 見逃すはずもない、何せそれは――

 

「人の、気配だ」

 

 ようやく、この荒涼とした世界を生き抜く人類と邂逅することができる。

 何とも、胸が踊る。

 ああ、とても……とても、楽しみだ。

 

 ところで連中、どう考えても人では出せない速度でこちらに近づいているのだが。

 馬にでも乗っているのか?

 

 

 ✞

 

 

 ――男たちは、決死の覚悟で荒野を進んでいた。

 燃費の入ったボロボロのホバーバイクで、迫りくる嵐をゴーグルとマスクだけで振り払いつつ進む。

 死相の荒野。

 そう呼ばれるこの砂漠を、男たちは明日を捨てるつもりで進んでいるのだ。

 

 鉄甲蟲の群れが確認されたのが、今から数時間前。

 それが、男たちの集落へ向かっているというのだからとんでもない話だ。

 全長数メートルを誇る鉄甲蟲は、光線銃を装備した戦士が数人で対処することでようやく一匹を安全になんとかできるような存在。

 それが百を超える数、群れを為しているとなれば。

 男たちは、総勢十名の部隊である。

 目的は、集落の人々の逃げる時間を一秒でも稼ぐこと。

 勝利することでは、決してなかった。

 

 ――――クソ、クソクソ、どうしてこんなことに!

 

 集団の戦闘を行く男は、荒野の砂に視界を取られながら、不条理に対する怒りで眉をしかめていた。

 先に進むにつれ、自分が死に近づいているという自覚から生まれる恐怖を、必死に押さえつけるため。

 そして何より、我が子に別れを告げることすらできなかったことへの怒りのため。

 

 男には、妻がいた。

 妻は子を身ごもっていて、いずれ男は父親になるはずだったのだ。

 だが、それはもはや叶わぬ夢となった。

 男はここで死ぬ、それが事実だった。

 

 ――オルギさんさえ、いてくれれば。

 

 思わず考えてしまう。

 男たちの集落を守り抜いてきた、かの英雄の存在を。

 オルギ・クロスは男たちの暮らしてきた村を、常に守り抜いてきた傑物だ。

 その戦闘能力は尋常ではなく、単独で鉄甲蟲を数十匹殲滅してのける実力を誇る。

 加えて指揮能力も高く、彼が先頭に立てば百を越える鉄甲蟲など恐るるに足らず。

 それほどの男だ。

 

 だが、そんな男も荒野に散った。

 年々悪化する食糧問題を解決するため、かつての人類が暮らしていた遺跡を調査するべく旅立ち、戻らなかったのだ。

 

 故に男はその事を悔やむ。

 いっそ、恨んでもいた。

 確かに食糧問題は解決する必要のある問題だ。

 けど、今である必要はなかっただろう。

 今はまだ、余裕があった。

 現状維持という選択肢も、取れたはずなのに。

 

 そう、考えて。

 

 

 ――いいや、それは違う。

 

 

 男は、心の中だけで否定する。

 今だからこそ、オルギは旅立ったのだ。

 現状維持とは逃げに過ぎない。

 たとえその結果が、オルギを失い、こうして集落を放棄する結果になったとしても。

 挑戦することに、意味はあったのだ。

 

 世界が終末戦争によって滅び、人類は窮地に立たされている。

 その中で、少しでも生活を良くするために、現状維持は赦されない。

 だからこそ、こうして命を捨てることに意味はある。

 集落の人々が生き延びるために、生き延びた先で彼らがより良い生活を送るために。

 

 ――頼んだぞ、アンヌ!

 

 人々をまとめる役割を頼んだ、一人の少女の名を呼んで。

 男はホバーバイクの速度を上げる。

 もうすぐ、鉄甲蟲と接敵するだろう。

 その時に、少しでも自身を奮い立たせるため。

 

 

 しかし、男たちを待ち受けていたのは、無数の鉄甲蟲――ではなかった。

 

 

 その、死骸だ。

 

「な……んだ、これは」

 

 先頭に立つ男が声を上げる。

 周囲を見渡し、それから仲間の方を見た。

 鉄甲蟲が死んでいる。

 百近い数が、全滅しているのだ。

 

「誰の手で、こんなことを……?」

「まさか、オルギさん?」

「……いや、違うだろう」

 

 仲間たちの言葉を否定する。

 オルギは尋常ならざる身体能力を誇っていたが――

 

「……流石に、鉄甲蟲の装甲を正面から叩き割れるほどではない」

 

 ――鉄甲蟲は、異様な死に方をしていた。

 普通、鉄甲蟲を倒すときは目を狙う。

 光線銃で目を焼いて、動けなくなったところを攻撃するのだ。

 オルギの場合、この目を狙う行為が異様なほど上手かった。

 最小限の労力で、最大限の効果をもたらすことに長けていたのだ。

 こんな、あまりにも大雑把な方法で鉄甲蟲を殺すことはできない。

 

 気になる点はもう一つある。

 鉄甲蟲は一撃で仕留められている。

 しかし、その死因となる一撃とは別に、何故か体の一部を穿たれているのだ。

 そこは血管が集中しているだろう部分で、しかし異様なほど血が流れていない。

 明らかに異常である。

 

 とはいえ……

 

「なあ、首長」

「……ああ」

「俺達は……死ななくてもいいのか?」

 

 仲間たちからは、どことなく困惑と安堵の感情が伝わってくる。

 流石に、コレ以上の数、鉄甲蟲がいるとは思えない。

 ならば仲間の言う通り――

 

 ――俺達は、生き残ったのだ。

 

 首長と呼ばれた男は、それを肯定しようとした。

 心のなかで納得し、仲間たちに笑みを浮かべて、

 しかし、それよりも先に。

 

「……いや、まて」

 

 ふと、ある事に気づいた。

 気づいてしまった。

 今この瞬間、この場に自分たち以外の誰かの気配がある。

 この場の誰よりも――けれどもオルギには及ばない――首長たる男の感覚がそう告げていたのだ。

 

「何かが、いる」

 

 故に、それを皆に伝える。

 その瞬間、安堵に寄って弛緩していた空気が、一瞬で変質した。

 

「……何者だ?」

「わからない、人かどうかも……だが、襲ってこないということはモンスターではない。こちらを、観察しているように思える」

「首長、それってまさか……」

 

 仲間たちの言葉に、首長は一瞬その言葉を想起する。

 もし仮に、この鉄甲蟲の死骸が“それ”の手によるものならば。

 自分たちは今、百を越える鉄甲蟲の群れよりも、更に厄介なものの前にいるかもしれないのだ。

 その事に対する恐怖が、男たちを支配した瞬間。

 

 

「――――よく、気付いたものだ」

 

 

 声が、した。

 女の声だ。

 甲高い、おそらくは少女のもの。

 しかし、首長にはそれがとても恐ろしいものに思えてならない。

 

 その少女が、普通であるはずがないからだ。

 

「誰だ! どこにいる!」

 

 それでも、首長は声を張り上げる。

 周囲に視線を向けて、光線銃を構えた。

 そして、それは現れる。

 

 霧が、人の形を為していった。

 

 現れたのは、人形細工を思わせる細身の少女。

 透き通るような白い肌に、赤の目。

 銀髪の少女が、深い笑みを浮かべて立っている。

 

 ――空中に、立っていた。

 

「問われたからには、答えよう」

 

 その身は、貧相なボロ布を身にまとうのみ。

 しかしだというのに、それすらも少女の美を引き立てていると思えてしまうほど、美しかった。

 

 

「我が名は、ドラグウェル・アリス・マグナ。――真祖である」

 

 

 ドラグウェル・アリス・マグナ。

 そう名乗った少女の口には、獣の如く鋭い歯が、生えていた。




カッコつける人外TS主人公も癖です。
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