人類大好き吸血鬼、TSしてポストアポカリプス世界に再生する。   作:赤彦

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4 真祖、拾われる。

 ――素晴らしい。

 現れた男たちは、実に我好みの人類であった。

 生活の中で鍛え上げられた戦士の体つき。

 一歩も退くことを知らぬ強き瞳。

 それでありながら、奴らは恐怖を押し隠している。

 

 生きている証だ。

 生きようとしている、人類の輝きだ。

 

 実に、素晴らしい。

 

 ああ、この者たちと我はどのような関係になるのだろうなぁ。

 敵対するのも、いい。

 生死を賭けた闘争の末、お互いの全てを奪い合うほどの仇敵となるのもいいだろう。

 友好関係を築くのも、いい。

 我が吸血鬼である以上、かつてはそうも行かなかったが。

 今ならば、我の存在も普通に受け入れられるやもしれぬ。

 それでも、構わない。

 我は人類と敵対し、人類の壁となるのも好きだが、間近で人類を愛でるのも嫌いではないのだ。

 

 そして男たちに名を問われ、我は答えながら現れた。

 

「我が名は、ドラグウェル・アリス・マグナ。――真祖である」

 

 霧となって周囲に霧散していた我が、形を取り戻す。

 血を得たことにより、吸血鬼としての業が使えるようになった。

 これも、その一つだ。

 

 対する男たちは――手にした銃のような武器を我に構える。

 銃にしては不可思議な形状だが、アレは一体何なのだ?

 

 もっと言えば、奴らが騎乗しているあの空飛ぶ何か。

 一体全体なんだというのだ?

 アレが今の時代の騎馬だというのか?

 人類は、ついに物言わぬ騎馬で空を飛ぶことすらできるようになったのか。

 

 まぁ、そう考えれば。

 愛おしいなぁ。

 実に、()い。

 空への憧れが、人を空へ羽ばたかせたのだろうなぁ。

 これこそが、人の人たる所以だろう。

 

「――この鉄甲蟲は、君がやったのか」

 

 そうしていると、先頭に立つ集団の長らしき男が口を開いた。

 武器を向けながらも、こちらに呼びかけるような。

 交渉の余地がある声音だ。

 なんとも、我を見て恐れぬどころか、交渉を持ちかけるとは。

 

「これは、鉄甲蟲というのか。……ああ、そうだ。我がその脳天を蹴り砕き、殺した」

「蹴り……!? そうか、ならやはり君は――」

 

 そして男は、我の正体を察したかのように一瞬考え込み、顔を上げる。

 なるほど、やはりこの時代も吸血鬼というのは人類の脅威であるようだ。

 ただ、人類は明らかに発展している。

 なら今の人類は、吸血鬼相手に交渉を持ちかけられるほどの武力を有しているのだろうなぁ。

 

 と、思ったのだが。

 

 

「君は――ミュータントなのだな?」

 

 

 ――――うん?

 みゅうたんと……?

 なんだ、それは。

 

 

 ✞

 

 

 ミュータント。

 この世界における”モンスター”、”メカニクス”にならぶ人類の脅威。

 鉄甲蟲のようなモンスターが、自然の荒廃と人類の改造によって発生した突然変異の動物とするなら。

 メカニクスは、自律する機械生命体。

 そしてミュータントは、改造された人類である。

 ()()と呼ばれる特殊な薬を投与され、人を止めた人類のことだ。

 

 今、眼の前で浮遊している少女のように。

 通常なら、鍛えられた戦士数人で倒すような鉄甲蟲を一撃で蹴り殺す膂力。

 それ以外にも、何もない場所に突然出現したり、翼もないのに空を飛ぶ異能。

 それがミュータントの特徴である。

 少女は、紛れもなくミュータントである。

 そうでなければ、説明がつかない。

 だというのに――

 

「……なんだ、それは?」

 

 少女は、本当に理解できないと言った様子で首をかしげた。

 

 ――美しい少女である。

 この世のものとは思えない、人外じみた美貌。

 幼い少女に欲情することなどありえないと思っている首長ですら、思わず見惚れてしまうほどの。

 ただ、それは同時に危うい美しさであると気がつく。

 少女の美しさは、余りにも人間離れしているのだ。

 

 ミュータントは、その能力こそ血清によってもたらされる。

 だが、その素体はあくまで人間、中には容姿すらも愛玩のために操作されるミュータントもいるという。

 そのたぐいだと、首長は思ったのだが。

 

「我は真祖である、聞こえていなかったのか? それとも、真祖という言の葉の意味すら理解できぬか」

「……ああ、その。すまないその通りだ」

 

 呆れた様子の少女には、どこか人間臭さが感じられた。

 ミュータントらしくない、とは思う。

 だが同時に、その人間臭さすらどこか超然としているようにも思えた。

 

「…………」

「……どうしたんだ?」

 

 そんな少女が、一瞬目を丸くしている。

 

「いや、そうも素直に謝罪されるとはな。……よい、我の方こそ永き眠りの果てに目覚めたばかり。知識なきはこちらの方だ」

「……ええと?」

「ミュータントについて、説明せよ」

 

 いいながら少女は空中から降りてきて、鉄甲蟲の死骸に腰掛ける。

 話をする態度を見せた、ということだろうか。

 それから首長は、ミュータントについて説明した。

 その話を聞くたびに、少女は興味深そうに頷きながらも最後は首長の勘違いを否定する。

 

「……であれば、我はミュータントとやらではない。その血清とやらは気になるが、そんなものを与えられた覚えはない」

「しかし、その膂力と能力は――」

「ならば、我のどこを見て貴様らは我が()()()()()()と思うのだ?」

「……それは」

 

 少女に指摘されて、首長は押し黙る。

 その通りだった。

 

 ミュータントとは、暴走するものだ。

 血清の副作用だと言われているが、ミュータントは放置しておくと正気を失う。

 投薬によってそれを防ぐことはできるが……少女にその形跡は一切見られなかった。

 

「しかし、血清によって人を鬼のごとく作り変え、薬によってその自由を縛るか。人間も考えることが醜悪極まりないな」

「それは否定しないが……とにかく、君はミュータントではないのだな?」

「そうだ、何度も言わせるな」

 

 くつくつと、人間を醜悪と評しながらも愉しげに笑う少女。

 そんな少女に、首長は改めて確認する。

 そして少女の答えを聞いたうえで――銃をおろした。

 

「なぁ……君、私達と一緒に、集落までこないか?」

 

 その言葉と行動に、目を見開いたのはその場にいる全員だ。

 少女すらも、その言葉に興味深そうにしている。

 

「しゅ、首長!? いくら彼女がミュータントではないと言っても、それは危険だ!」

「理解っている。……だが、彼女は独りだ。俺に、幼い少女を独り置き去りにさせないでくれ」

「……それは」

「責任は、全て俺が取る」

 

 その会話に、目を見開いていた少女の口元が三日月へ歪んだ。

 どこか恐ろしい、けれども喜悦に満ちた笑みである。

 

「自分で言ったことを翻すようだが……もしそれで、仮に我がそのミュータントであったらどうするというのだ?」

「……どうも、しない」

「つまり、その薬とやらを見つけて延命を図りながら、道具として利用する……と?」

「違う! ミュータントはメカニクスやモンスターと違って、被害者だ。あくまで、俺達と同じ人間なんだ!」

 

 首長は力強く否定した。

 首長が言葉を重ねるたびに、少女の笑みは深くなっていく。

 

「……俺には、娘がいるんだ。……産まれる、というのが正しいが」

「ほう」

「だから、君のような少女は見捨てられない」

 

 その言葉で、少女は首長の仲間が押し黙った理由を理解したようだ。

 やがて、笑みを浮かべた少女は、天へと顔を向ける。

 

「く、ははは……ははははははは!」

 

 狂ったように、笑う。

 少女は、呵っていた。

 余りにも、愉しげに。

 高らかに、祝福するように。

 

「――我を、小娘として同情するか」

 

 そして、視線だけを首長に向ける。

 その瞬間、喉元に何か、見えない刃が突きつけられたかのような感覚を首長は感じた。

 心臓を、掴まれたかのような。

 そんな、感覚。

 

「ミュータントとしての戦力など期待せず、ただ小娘として里に招き入れるか」

 

 朗々と、少女は語る。

 

「自分の娘に我を重ねて、一方的な憐憫を向けるか」

 

 どこか、嘲るように。

 

「貴様は、そう言いたいのだな?」

 

 対する、首長は。

 

「……そうだ」

 

 迷わなかった。

 少女の、揚げ足をとるような物言いも構わず。

 その言葉が、自分の本音を突き刺していると理解していても構わず。

 迷うことなく、頷いた。

 

「……ふ」

 

 そして、少女は、

 

 

「――――素晴らしい!!」

 

 

 高らかに、手を上げた。

 

「実に、実に人間臭い! 余りにも愚か! 余りにも純粋! ああ、ああ! これこそが、我の求めていた人類だ!」

「……君、は」

「――ドラグウェル・アリス・マグナ。そう告げたはずだ」

「……! なら、マグナ! 君は俺達と一緒に――」

 

 マグナ。

 おそらく姓であろう部分を首長は呼んで。

 

「……いいだろう、今は貴様らについていってやる」

 

 ――真祖ドラグウェルは、その呼びかけに同意した。

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