人類大好き吸血鬼、TSしてポストアポカリプス世界に再生する。 作:赤彦
いや、実に有意義な問答であった。
この男――どうやら集落の首長であるようだ、我もそれに倣うとしよう――首長は底抜けの善人のようだ。
そしてそんな男が首長を務めて集団がまとまる程度には、その集落も善良であると。
実に善い。
我は人間の善悪などどちらでもよいが、中途半端はつまらない。
悪に寄った醜悪な集団か、善に寄った高潔な集団であるほうが望ましい。
まぁ、どちらが良いかといえば個人的には後者のほうが好ましいがな。
少なくとも、前者であれば首長の誘いにも乗らないだろう。
さて、現在我は首長達の騎馬――ホバーバイクなるものに乗せられて荒野を走っている。
我が乗っているのは後部座席なるものだ、荷馬車の幌の中のようなものか。
移動の最中、我はこの世界の歴史について問うこととした。
我が寝ている間何が会ったのか、どれほど寝ていたのかは今もっとも気になるところだ。
「手始めに問いたい。今は神暦何年だ?」
「……んん? すまない、神暦というのはなんだ?」
「む……? 神暦は神暦だろう、大陸が違えば暦も違うだろうが……この辺りは以前我がいた場所とそう変わらないはず」
「……いや、聞いたことがあるな」
一度は聞いたことがないと答えた首長だが、すぐに思い出したのだろう。
訂正して続ける。
「神暦とは、今の暦が使われる前の暦だったはずだ」
「ほう、暦の名を変えたか。であれば、今の名は?」
我の問いに、首長は何気なく答える。
しかし我にとって、それは余りにも衝撃的な返答だった。
「――
――――――人類、暦。
神暦とは、「教会」が定めた神がこの世を創造した年から始まる暦だ。
それを、人は。
「今は人類歴3101年。たしか神暦ってのは、それ以前の暦だな。2500年を目処に、今の人類歴になったんだ」
踏みにじったのか。
寄りにも寄って、神を。
自分たちがすがった偶像を。
「く、ははは……ははははははは! そうか、そうかそうか! ははははははは!」
「……そんなに面白いことだろうか」
「面白いさ! 我の生において最も面白い冗句だ! はははははははは!」
しかも、そうか。
蘇るまでに、四千年も経っていたのか。
それはまた、世界も姿を変えるというものだ。
首長はただただ笑い転げる我に、嫌な顔をするでもなく、同調するでもなく続ける。
「まぁ、そんなだから人類も神に見放されるんだろうけどな」
「この惨憺たる状況のことか」
「そうだ。君も想像がついているだろうが、この世界は一度滅んでいるんだ」
現在、我は自身が吸血鬼であるということを首長に伝えている。
だが首長たちにはそもそも吸血鬼という概念そのものがないようだ。
それは我がミュータントなる存在を理解できないのと同様で。
お互いに、理解はしていないが踏み込むことでもないのなら……とスルーしている。
彼らが理解しているのは、我が古い時代の存在であるということくらいだろう。
コールドスリープがどうとか言っていたな。
「最終戦争、そう呼ばれる戦争が今から百年ほど前……人類歴2999年におきた」
「ほほう、全てを終わらせるほどの戦争……教会の言う
「ええと……多分そんな感じだ。その戦争は星を荒廃させ、人類の殆どが死滅してしまった」
生き残った人々は、滅びた世界で先程の銀虫――鉄甲蟲のようなモンスター、改造された人間であるミュータント等を恐れつつ、ひっそりと暮らしているらしい。
「その状況で、百年もよく生き延びれたものだな、人類は」
「まぁ、人類の技術も発展しているからな。この光線銃なんかがそうだ」
そう言って首長は
「ほう、銃か。しかし……どういう構造なのだ? 火薬の匂いがせんぞ」
「これはレーザー……ええと、光のようなものを発射して敵を焼くんだ。実弾の銃よりも高威力で扱いやすい」
「光を!? ええい、我にそれを向けるなよ。光……太陽光だけはダメなのだ」
「そ、そうなのか?」
「耐えられないわけではないがな」
我は真祖だ、そこらの吸血鬼と違って日中でも外を歩けなくはない。
だが、歩く理由はない。
実力を大幅に制限されるからな。
まぁ、この時代にそれを意識する必要はなさそうだが。
「ただ……それも、長く続くものではないと思う」
「ほう?」
「袋小路なんだ。結局この銃もホバーバイクも、百年前の遺産を使い潰しているにすぎない」
つまり、いずれ限界はくる、と。
とはいえ、それにしてはそこまで首長は悲壮感を感じていないな。
「危機感はある、ただまぁ……今は死地から帰還したことで気が抜けているのは否めない」
「なるほど、解決を諦めてはいないのだな。良い事だ」
「そんな大層なものじゃないけどな」
どうやら、あの鉄甲蟲どもは男たちからすれば死地に向かうような出来事だったようだ。
それを我が一方的に蹂躙した、と。
男たちは覚悟こそ素晴らしいが、その実力は教会の精鋭ほどではないということだな。
まぁ、アレは聖印あってこその強さではあるが。
ともあれ。
「何にせよ、人類は究極的な滅びを経験してもなお、生き延びている。素晴らしい生命力だ」
「生き汚いだけだ。俺達はそれなりに善良な生活を送っているかもしれないが、中にはそういった連中を狙って襲う連中もいる」
「賊もいるのか、それはそうだろうな。
つまり、今この世界は荒廃していて、モンスターのような人類の脅威が闊歩している。
どころか、人類の中でも人類を襲い、食い物にしようとする連中がいる、と。
「人の多いところでは、それなりにいい生活もできているらしいけど」
「まぁ、要塞の中に引きこもる連中もいるか」
「……そういう場所は、聖域と呼ばれている」
「ほう」
聖域、聖域と来たか。
「そこには、最終戦争以前の自然が満ちていて、人々は幸福に暮らしているんだそうだ」
「く、っくくく。何とも聞こえのいい謳い文句だ」
「俺もそう思うよ」
胡散臭そうに、首長は言う。
その聖域とやらが実在するのなら、世界はこんな風になっていないとでも言いたげだ。
まったくもって同意である。
だが、同時にそういった夢があるのは人間らしいとも思う。
そういった夢を追い求めて、死にに行くバカがいてもいい。
その果てに、聖域の真実を暴くことができるなら最高だ。
「さて、今の世界に関する話はこれで終いか?」
「ああっと、他にはメカニクスっていう連中がいるんだが――」
「……いや、いい。今はな」
なんともピンと来ない名前だが、我は一度首長の話を遮る。
首長達の騎馬がやかましく、何より我自身意識していなかったから今まで気づかなかったが。
それは、もうすぐ近くまで迫っている。
死地から抜けて油断している彼らは、おそらく気付けないだろう。
話を聞かせてくれた礼だ、少しくらいは彼らを助けることとした。
「足元に、鉄甲蟲が迫っているぞ」
「――!?」
その言葉に、首長と周囲の男たちが驚愕すると同時。
地面が揺れ始めた。
あの蟲が、飛び出してくる前兆だ。
それを見れば、首長たちも我の言葉を疑う余地はない。
「さ、散開!」
首長の言葉に、全ての騎馬が飛び退いて――その中央に、鉄甲蟲が現れた。
我はそれを眺めているだけだ。
ならば、彼らも対処が可能なはずだ。
我は手出し無用。
「ま、マグナ! しっかり捕まっているんだ!」
首長もこう言っている。
であるなら、我は高みの見物と洒落込ませてもらおう。