人類大好き吸血鬼、TSしてポストアポカリプス世界に再生する。 作:赤彦
最初に言うが、我は彼らの戦いに与するつもりはない。
彼らと争うつもりもないが、あくまで我は一介の客人。
ないしは保護された小娘だ。
小娘として求められた働きはするが、戦闘に介入するのは明らかに逸脱だろう。
何より、我が介入してしまっては人類の輝きが翳ってしまう。
それは我の望むところではない。
故に、我は首長の騎馬の後ろで振り落とされぬようするに留める。
そもそも敵は一体だ。
この戦力なら、問題なく倒せる相手。
介入する意味もない。
「包囲して撹乱する! エネルギーに余裕はある、打ち込めるだけ目に打ち込んで仕留めろ!」
ほう、目を狙うのか。
確かに、鉄甲蟲というのはそれなりに装甲が硬いようだ。
我ならばともかく、人の身でアレをかち割るには聖印が必須。
この場にいる誰も、それは持っていない。
まぁ、素直に光で目を焼くのが無難だな。
男たちは鉄甲蟲を取り囲むと、順々に光の弾丸を放っていく。
光が矢のように鉄甲蟲に突き刺さる光景は、何とも新鮮なものだ。
突き刺さった光は、蟲の装甲を赤く照らす。
熱を伴っているのだろう、アレは我が受けてもそこそこに痛そうだ。
取り囲んだ男たちの戦い方は非常に簡単。
周囲を飛び回りつつ順々にレーザーとやらで目を狙うのだ。
鉄甲蟲は巨体であるがゆえ、動きに小回りがきかない。
そしてレーザーは装甲に当たったとしても不快なようで、攻撃してきた相手を無視できない。
結果、周囲を飛び回る男たちの騎馬を捉えることができず右往左往するしかないのだ。
「手慣れているな」
「流石に、一匹二匹程度なら、見慣れてるから……な!」
そう言って、首長の放った銃が鉄甲蟲の目を的確に焼いた。
狙いとしては大雑把だろうが、当たってしまえばこちらのものといった様子。
途端、目に見えて鉄甲蟲が揺れた。
痛みからか、痙攣するように何度も身悶えしている。
急所にあたったというのがわかりやすいな。
「よし、やったぞ!」
「全員、急所を狙え! このまま押し切る!」
色めき立つ仲間に叱責を飛ばしつつ、率先して首長は鉄甲蟲に近づいて光線銃を放つ。
狙いは継続して目のようだ。
まぁ、そこはどんな時でも弱点なのだから当然である。
やがて、何度もレーザーを叩き込まれて……鉄甲蟲は動かなくなった。
「見事」
「このくらいはできないと、オルギさんに叱られるからな……」
どうやら、そのオルギとやらは相当な使い手のようだ。
もしかしたら、聖印を持っているのかもしれない。
この時代に、聖印の概念は残っていないようだが、自覚していなくても聖印の効力は絶大だからな。
とはいえ、その男もこの様子だとこの世を去っていそうだが。
「そういえば、獣を狩ったというのに肉を剥ぎ取ることはしないのか?」
「鉄甲蟲の肉を? いやいや冗談じゃない、アレは人間が食べたら毒でしかない」
「それは残念なことだ」
なるほど、あのドロドロとしたコクのようなものは毒だったのか。
毒を混ぜると血は不健康な味になる。
覚えておこう。
「まぁ、殻の部分は剥げば使い道はあるけど、今はそれをしている時間がなくてな」
「集落の者が逃げ出そうとしているのだったな」
「すぐに無事を伝えないと行けない、通信は試みているのだが……」
ツウシン? なんだそれは。
またわけの分からぬ単語がでてきたな。
そして話を聞いてみてもさっぱりわからん。
なぜ遠くにいる人間と直接話をすることができるのだ?
我が首を傾げている間に、どうやらそのツウシンとやらが繋がったらしい。
何やら道具にぶつぶつと話しかけているが、一体なんなのだ?
アンヌというのは人の名か?
そうこうしていると、我はあることを感じ取る。
それは、虫にしては何とも狡猾なことに。
別の鉄甲蟲の戦闘で発生する音を、隠れ蓑にしたようだ。
この場にいる全員が、まったく察知できていない――接近。
もう一匹、鉄甲蟲が地面から顔を出そうとしている。
それを感知して、我の思考は急速に回転を始めた。
別に吸血鬼としての業というわけではない、闘争の中で身につけた高速思考能力だ。
最悪なことに、一匹を倒したことで完全に男たちは油断していた。
無理もない、おそらく連中は虫がそこまで狡猾に動くとは思いもしていないのだろう。
我からしても、いささか違和感のある行動だ。
何某かの指揮下にあるか?
どちらにせよ、統率の取れた動きだ。
そして――
これを我が無視すれば、この中のひとりが死ぬ。
その後、立て直した男たちは鉄甲蟲に勝利するだろうが……歴戦の兵士を一人でも失うのは彼らにとってはあまりに痛手だろう。
ただでさえ、この者たちはずいぶんと今の生活に危機感を覚えている様子だと言うのに。
何とも、不憫な話だ。
とはいえ、
――それを、我が助ける理由はあるか?
基本的には、ない。
我はこの者たちの生活に干渉はしない。
どころか、そもそも我はすでにこの者たちが返しきれないほどの恩を与えている。
本来、男たちは全滅しているはずだったのだ。
それを我がすくった。
なら、どうしてこんな後の面倒まで見なくてはならない?
――しかし、その恩に対する報酬は、すでに得ているのではないか?
と、そこで我の中に否定が産まれる。
我はすでに、この男たちに与えた恩を返されている。
そうだろう、と我の中の我が告げる。
その通りだ――我は頷いた。
――あの問答、我を怪物であると判断しながら、人間として集落に誘った。その行為は、我を大いに楽しませた。
起きてそうそう、これほど我好みな人類に出会えたのは望外の幸運。
その幸運こそが、鉄甲蟲の群れを排除した報酬ではないか?
――だが、それでもここで我が男たちを助けるには報酬が足らぬ。
たしかにそうだ。
我の幸運と、群れの排除は我の中で当価値。
故に我は男たちを救う理由がない。
であれば――我は、
急速に回転した思考は、一つの結論を出した。
「礼を言っておこう、人類」
「ん……?」
「この世界のたどった足跡を、教えてくれた礼だ」
「え、あ……は!?」
直後、我はホバーバイクの後部座席から飛び降りた。
驚愕する首長をよそに、我は地面へと落下していく。
それと同時に、地面からもう一体の鉄甲蟲が顔を出す。
「マグナ――!」
叫ぶ首長の声が遠ざかっていく。
我は空中で自身に回転を加え――
「頭を垂れよ!」
鉄甲蟲の顔面に、ケリを叩きつけた。
「な、あっ」
地面が激しく揺れる。
男たちがホバーバイクの制御に気を取られる中、我だけは笑みを浮かべて鉄甲蟲を見下ろしていた。
✞
「マグナは……強かった……んだな」
「我をミュータントと判断したのは貴様らだろうに」
「いや、それでも……これほど理性的なミュータントは見たことがない、少し、疑っていた」
「まぁ、そも我はミュータントではなく真祖だがな」
結局、我は首長達の与えてくれた情報に対する礼として、鉄甲蟲を排除することとした。
首長たちは、接近に気がついていなかった鉄甲蟲を我が討伐したことで、驚愕している様子だ。
まぁ確かに、我が鉄甲蟲を排除したところを小奴らは見ていない。
驚くのも無理はない。
「だが……助かった、君がいなかったら仲間が一人は欠けていただろう。冷静さを失っていれば……もっと欠けていたかもしれない」
「前者はともかく、後者は心配する必要もないと思うがな」
男たちは優秀な戦士だ。
何より、死を覚悟して百の鉄甲蟲に挑もうとした者たちだ。
それは集落の人間を守るために必要な死である。
死を選ぶべき時に選べる人間は、強い。
我はそれをよく知っていた。
その時である。
気配が、さらにもう一つ接近してきた。
またか、と思うかもしれないが今度は人間の気配である。
音からして、首長達と同じ騎馬……ホバーバイクに乗っている。
そして敵意や悪意のようなものは感じられないのなら……おそらく、首長達の同郷か。
なら、放っておいていいだろう。
お互い、移動しながら近づいている。
数分もしないうちに邂逅するはずだ。
「……首長、向こうからホバーバイクが」
「ああ、見えている。どういうことだ、何があった?」
首長達も気付いたようで、そういった話をしている。
やがて向こうからやってきたホバーバイクと、首長達が合流した。
「――アンヌ!? どうしてここに!?」
叫ぶ首長。
現れたのは、一人の少女だ。
年の頃は十五程度か、金の髪を一つにまとめたあどけないながらも芯のある表情をした少女。
良い目をしていると同時に――我は少しばかり、その顔立ちに既視感を覚えた。
はて、この時代の人間に覚えなどないはずだが。
アンヌ、というのは先程首長が呼んでいた名前と同じだが。
「大変、大変なの! あのね、こっちも問題が発生したの!」
問題?
少女は我に気がついていない様子で、首長達と話を進める。
「
そして、少女――アンヌの口から、おもしろそうな単語が飛び出した。