ソードアート・オンライン 英雄達のレクイエム 作:オトマトペ
やっと・・・やっと見つけた。その姿を見るだけで俺は気が昂る。何せ半月だ。俺とミトは会ってから長期間離れたことはなかった。俺の大切はしっかりと今も存在している。しかし、その瞬間ミトは崩れ落ちた。
「おい・・・ミト・・・ミト!」
まさか・・・・やめてくれ!ここで深澄が死ぬのだけは・・・ミトに近づき呼びかけるがミトは返事をしない。すぐに彼女のHPを確認するがHPはレッドではあるが残っている。
「生きてるな。・・・このまま移動させるのは危険だしここに安静にさせとくか」
何も枕になるものも持ってないし、ここは膝枕にして寝かせた。ミトはかなりの疲労が蓄積していたのか魘されている。それもそうか、ミト・・・深澄は責任感が強い女だ。ここまでビギナーを連れて攻略するのはやっぱり精神に普段がかかったのだろう。俺はお前みたいな強さが欲しい。これは俺の変わらない憧れでもあり焦がれているのだろう。
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私は最低だ。始まりの街に留まっておけばアスナは安全な所に留めることができたのに。茅場がデス・ゲームの開始の宣言をした時に思ったことは雅樹のことだった。雅樹は夜ログインするとは言っていたがこんな状況では雅樹はログインなどしてこないだろう。つまり、私は雅樹と別離する形になってしまった。嫌だ・・・私は雅樹ともっと一緒にいたい。現実に帰りたい。その思いが・・・エゴが仮想の体を動かした。次の街にアスナを連れて走っている時に目の前に《ダイアーウルフ》が現れた。一体はすぐに撃破するが、もう一体はアスナの首元に噛み付く。
「イヤ!ヤダ!イヤイヤァアアアアアア!!」
私は2匹目のダイアーウルフを再び倒すが、アスナは思わずその場にヘタレ混んでしまった。このままじゃアスナが危ないからすぐに移動しようと思った瞬間だった。
「なんなのこれ・・・ぜんぜんわからない・・・ゲームから出られないなんて、そんなことがあり得るの・・・? もうすぐ受験なのに!」
悲痛に満ちたアスナの弱々しい声を絞り出す。それを見て私は我に帰ったと即座に悟る。アスナがダイアーウルフに噛まれて出した悲鳴は耳から離れなくなってしまった。
「い、今はそんなこと言ってる場合じゃ「私はこのゲームのことなんかなにも知らないの!先に進みたいなんて言えるのは、ミトがゲーム上手いからでしょ!私は違うの!もう放っておいてよ!」
「・・・あ、あ・・・・・・あ」
恐怖で錯乱したアスナの口から飛び出した拒絶の言葉に私は惨めな声を漏らすだけだった。そうだ。今アスナが死んじゃいそうになったのは私のせいだ。私がこのゲームから抜け出すために勝手に連れてきたのだから。
そして、思い出してしまった。雅樹と出会う前に友達に今の言葉と同じものをかけられ、身も心もバラバラになりそうなほど悲しいことだった。その後に雅樹と出会い一緒にゲームすることが楽しみになっていた。でも、SAOに囚われ雅樹とは強制的に別れてしまったことを。それじゃあ、もしアスナが居なくなってしまったら?
「お願いだから、そんなこと言わないで・・・。ソードアート・オンラインのことは、私が全部教えるわ。だから・・・一緒にクリアを目指そう・・・・そして、一緒に帰ろう?」
私はまた自分のことが嫌いになった。一人になることが嫌だからって理由でアスナをまた危険な場所に誘ったのだから。せめて、
「私のゲームの腕前、知ってるでしょ? 絶対にアスナを守るから」
アスナを守って雅樹と会う。ただ、それだけだった。なのに・・・私は見捨ててしまった。大切な親友を・・・・私は・・・・私は!!・・・・
私は真っ暗な空間に立っていた。周りには何もない。ただ視界に暗闇が見えるのみ。その時闇の中から雅樹・・・タキのアバターが現れる。その顔は無表情であった。
「タ・・・キ・・・」
そのときタキの後ろに一人の少女が現れた。その少女は髪は栗色で腰まで伸びていた。その顔は無表情であるが私は少女の正体を悟った。
「アスナ・・・」
アスナに近づき手を伸ばす。言いたいこと、謝りたいことがたくさんあった。しかし、アスナは
バチィィイン!!
え?・・・・
「気軽に触れないで。私を殺したくせに」
「それは・・・」
その時にやっと理解した。アスナは私の手をはたいたのだと、明確な拒絶を意味していた。
「自分だけの為にレアアイテムを取ろうとしたんでしょ。私は所詮は消耗品だったってことでしょ」
「ち、ちが・・・」
「違わない!」
その時《リトル・ネペント》が地面から現れアスナに牙を立てる。その数は数えきれないほど多い。
「やめて!」
ズブッ・・・
そのとき腹に何かが貫通した。何かと思い腹に視線を移すと・・・
「えっ・・・・」
一本の槍が私を貫いているのがわかった。その瞬間痛みがおくれて到来した。
「ゔ・・・ゔあああああああ!!」
イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!
あまりの痛みに振り返ると
「え・・・・」
そこにはタキが私の体を手にした槍で貫いていた。
「なん・・・・で」
「なんでか?・・・それはもう分かってるんじゃないか?」
私が・・・アスナを見捨てたから。これは報いなのね。
「そうよ。貴方は私を見捨てた。ならその苦しみをそこの彼にたっぷりと刻んでもらいなさい。あなたの咎を感じながらね」
タキが槍を抜くと同時に私は倒れ込んだ。その背をタキは右足で踏みつける。そして槍をもう一度背中に突き刺した。
「あぐっ!?・・・・ァァァァァ」
突き刺された槍をタキは抉るように回す。その痛みは焼いた鉄串を刺し体の中をぐちゃぐちゃにされるようだった。タキは槍を唐突に抜くと私の前に立つ。
「何を・・・」
「簡単なことだ」
ザシュ
「お前はうるせえ。だから、そんな喉いらないだろう」
「ガァ!・・・イ・・・・ガッ・・・・ヒュ・・・」
気づけば私は喉を抉られていた。喉には穴が空きその結果上手く喋れなくなり息苦しくなった。でも、不思議と息苦しくなることはない。私の腰から下を槍で両断していく。当然すぐには切断できなくて、槍を鋸のようにしながら切っていく。その痛みは長く続く。
「も・・・う・・イャ・・・ダ」
もう足は動かず手をばたつかせタキから逃げようとするがタキの力が強すぎて逃げることができない。タキはまるで私を逃がさないかのように離さない。このときもうすでに悲鳴は出なかった。思わずアスナに目を向けようとするが・・・
「なに余所見してんだ」
いやだ・・・・イヤ!!しかし、願いも叶わず上半身と下半身が見事に切断される。残っているのは言葉にできない痛みのみ。涙のみならず顔はもう見るも無惨になっているだろう。
「お前は愛して欲しいってあの日行ったな・・・お前みたいな奴は誰も愛さない。なら一人でじゅうぶんだろ」
タキの明確な拒絶は私の心を折るには十分だった。もうタキは私に愛情を渡すことなどもうないのだろう。それが私にはもう生きる価値などないように思えた。
「そういや、お前はあの女のことを見捨てたんだろ?よく見ろよ。その結末を」
タキは私の髪を掴むと持ち上げアスナに目を向けさせる。アスナは《リトル・ネペント》の大群に噛み千切られて四肢の半分は買われていた。その顔は痛みと恐怖で歪んでいた。
「ヒッ!?イヤッ!助けて!ミト!ヤダァ!ヤダァァァァァ────」
アスナの頭が食われたことで悲鳴が唐突に途切れた。そのアスナの姿に自分の罪の大きさが心に傷をつける。
「ゥ・・・・アズ・・・ナ」
もう何も見たくないよ。もう何も聞きたくない。
「ならその願いを叶えてやるよ」
ズバッ
「イャ・・・ナ・・ンデ・・・・わだ・・・じの・・・・メ・・・・ハ?」
「お前の目?それなら貰ったぞ。にしても目は綺麗だ」
私の目は抉られたの?・・・・遅れて痛みがやって来て音にならない声を上げる。
「ヴアア・・・ガァ・・・ナァ・・・ン・・・・・デ・こ・・・ん・・・な・・・こと」
「なんでだと?そんなことお前は聞かなくても分かるだろ。お前のしでかしたことだ。責任くらい取れよ」
そういうと同時に私の意識は刈り取られた。どうして・・・という疑問を残して。
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「ミト・・・」
ミトが倒れてから数時間が経過していた。その間も魘されて辛そうにしていた。俺もまともな看病をしたかったが彼女を動かす余裕もなく安全地帯でなんとかするしかなかった。そのときミトの目が開いた。
「ミト無事か?」
声をかけられたミトはこちらを振り向く。だがその顔色は青かった。
「私は・・・」
「いきなり俺の目の前で倒れたんだおまえは。一体何があった?」
起きたことを聞くと途端にミトは顔を歪ませる。
「わた・・・し・・・は・・・・ウッ!?」
ミトは話そうとするが体が震えておりうまく話すことができず、歯がカチカチと鳴り吐きそうになっていた。
「お願い・・・・行かないで・・・一人に・・・・しないで」
「おれはここにいっからいったん冷静になれ」
「ほんとに・・・絶対に?」
「ああ」
ミトの体から力が抜ける。その表情には、さっきまでの恐怖はないことに安堵する。その時ミトの両目からは涙が流れた。
「うっ・・・うわああああああああ!!」
「ゆっくりでいいからな。」
それからミトは落ち着くまで俺の腕の中にいた。まるで子供見たいに泣き始める。俺はその姿を放っておけなかった。
「何があった?」
本当のことを言うと聞きたくはないが事情を聞かねば話にならん。ミトは俺の腕から離れ隣に座っていた。
「私は・・・・人を見捨てたの」
「・・・・」
「その子は私のせいでここに来ちゃったの。私がSAOに誘わなければここには来ることはなかったし。最初に街を飛び出したときにその子は死にかけて、放っておいて、って言われちゃって」
「・・・・」
「なのに私は守る、現実世界に返すって。でも私は結局自分可愛さに逃げた。私は結局自分が大事なのよ。生き残るためには親友も冷酷に切り捨てられるような血も涙もない女。幻滅したよね」
血も涙もないか・・・ミトはそう言うが俺はそう思わねえ。本当に血も涙もないというのならこんなにも苦しい顔なんてしねえ。
「お前ビギナーと一緒にここまで来たんだろ?ほんとに血も涙もねえならビギナーなんざ放り出すだろ?」
「でもその結果アスナは死んでしまった!なら結局同じじゃない」
「・・・だからお前は俺と一緒にいる資格はないと・・・・ふざけるなよ」
自分一人で突っ走るなよ。俺は・・・俺は・・・
「俺と一緒にいる資格だと?そんなの誰が気にするんだよ?」
「じゃあ、貴方は今までと同じ様に私を愛してくれるの!こんな人殺しの手を握ってくれるの!できるわけない!私みたいな存在は人からの好意なんて受け取っていいわけがない!」
「それを決めるのはお前じゃねぇ。お前と関わって来た奴が決めることだ。自分で勝手なら決めて逃げてんじゃねえよ」
「じゃあどうやって償えって言うの!私のやったことは許されない!だから!」
「許されない・・・・俺はそんなに頼りないのかよ。俺はお前が背負った罪なんざ一緒に背負うつもりだ。そのくらいお前と一緒にいたいんだ」
「雅樹に何が分かるのよ!!あんなところで見捨てたらアスナはもう・・・私が殺したようなものよ!こんなんじゃ私は貴方の隣で共に歩むなんてできない!!」
「深澄・・・」
こんなになるまで俺はミトを見つけられなかったのかよ。ミトはただの中学生だ。それをデスゲームのなかに放り出されてその恐怖を見せないように行動していたここまで精神的に折れなかったのは奇跡に近い。だがもし、キリトがミトの友達を助けることができたなら。
ピコン・・・
「っ!?キリトからだ・・・」
「キリ・・・ト・・・?」
「少し待てよ・・・」
ここが分水嶺だ。キリトからのメッセージを開く。
『多分ビギナーと思う娘を保護したんだけどそっちの娘のパーティーメンバーじゃないかな?』
☆¥%
時は少し遡る。
俺はホルンカに来ていた。もう《アニール・ブレイド》のクエストはクリアしていて特に用事と言うものはなかった。だけど・・・あの始まりの日に一緒に組んでクエストをクリアしようとして死んだプレイヤー・・・コペルのことを思い出す。俺があの時墓標がわりにした剣と盾、ネペントの胚珠は既に腐って消えていると思うが俺はまたその場所に出向こうと思っていた。確かにコペルは俺を殺そうとした。だけど、あの日もし止められていれば・・・でも時はもう戻らない。
「ネペントがいない?」
そうなのだ。実付きを割った後のネペント達は割ったプレイヤーがいるパーティーに突撃する。なのにその姿がない。戦闘音がする場所へ向かうとその理由はわかった。
グオウ・・・・グルル!
「っく・・・・」
目を閉じ震えている女の子とそれを甚振るのが楽しいと言うように目を細めるジャイアント・アンスロソーがいたのだ。俺はすぐに片手剣スキル上段突進技《ソニック・リープ》でジャイアント・アンスロソーを引き剥がす。ジャイアント・アンスロソーは左手を振り下ろすがかわしカウンターで片手剣スキル単発技《バーチカル》を入れる。硬直に入るがすぐに回復し《ホリゾンタル》で足を刻む。そこからは俺の一方的な蹂躙だった。ジャイアント・アンスロソーが攻撃をしようとしてもすぐに潰し逆に切り返す。そうしていく内にジャイアント・アンスロソーのHPはレッドになる。ジャイアント・アンスロソーは最後の足掻きとばかりに右手を振り下ろすが、飛び上がってかわし脳天に《バーチカル》をいれて倒す。
「ッフウ・・・大丈夫か?HPはどのくらい残ってる?」
俺は女性プレイヤーの方を見ると思わず固まる。彼女が浮かべている表情には困惑が溢れていた。
「街まで送るよ」
俺は手を伸ばすが彼女はそれでもまだ喋らない。このままじゃ埒も開かないし仕方ないか。俺はメニューを開きポーションを彼女に渡す。
「これだけあれば足りるかな?この量なら街まで帰れるからさ」
「・・・」
それでも彼女は動かない。俺はマップデータを渡そうとウインドウを開くがそこで思い出す。・・・タキにメッセージを送らないとな。俺はメッセージ画面を開くとタキに送るメッセージを作成する。
『多分ビギナーと思う娘を保護したんだけどそっちの娘のパーティーメンバーじゃないかな?』
メッセージを送った後フィールドに立っていた墓標に祈りを捧げる。数時間とは言えどもPKされかけたと言えどもこの世界で二人目に組んだパーティーメンバーに向けて。
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キリトからのメッセを見る。・・・あいつやったんだな。
『そいつの特徴は?』
『赤と白の服に栗色の長い髪のフェンサーだ』
「ミト・・・もしかしてお前のパーティーメンバーって栗色の髪のフェンサーで合ってるか?」
「・・・そうだけど・・・」
「そいつ生きてるぞ」
「・・・・え?」
ミトは思わず愕然とする。ミトはそいつのことを殺したと言っていたから生きてはいないと思ってたんだろうな。ミトは我に帰ると俺に顔を近づけながら聞く。
「生きてるってどういうこと?」
「ここに来るまでに一人のプレイヤーに会ったんだがそいつとここまで来てる途中でミトとビギナーが分断されてたのを見たからな・・・多分上手い具合に保護できたんだろうな」
「よかった・・・・」
ミトは思わずへたり込むと同時に大粒の涙を流す。しばらく泣いていだ泣き止むとミトはある種の決意を決めた顔をしている。
「私アスナに会う資格なんてない」
「そうか」
「生きてたとしても私はアスナを見捨てた・・・だからその責任を取れるようになるまでは・・・」
会わないつもりか・・・これはミトの決めることだしそれについては止めはしない。だが、少なくとも生きて会えるようにするためにも。
『その娘のパーティーを組むか街に送って上げることは出来ないか?無理にとは言わないがほっとくわけには行かない』
『俺でいいのか?俺は誰かに命を預けられる様な奴じゃない』
『何言ってやがる。お前の腕を見込んで頼んでるんだ。それに彼女は今恐らく一人だ。しかも状況を聞いた後だと今会わせるのは修復不可能なほどに二人の関係が終わっちまう』
『そうか・・・わかった。任せてくれ』
『ありがとう』
これでなんとかなるかもしれない。時期を見て会わせるかそれとも彼女等にすぐに会わせるかは分からないが少なくとも今じゃねえ。だからそれまでは黙っておくか。
「タキ・・・こんな私だけど一緒についてきてくれないかな?ついさっき資格がないって言った後に勝手かもだけど。」
「ああ勝手だな」
「・・・ごめん」
「だが、いちいち聞いてんじゃねえよ。さっきも言ったがお前を離すつもりはないぜ・・・ミトがいない世界なんて俺は真っ平ごめんだ。だからこそもう離れるなよ」
「私みたいな人の罪を背負うのなんて貴方くらいよ」
「当たり前だ。俺はミトの恋人だ。なら償いくらい付き合うさ」
ミトは涙を流しつつ答える。俺はあの日から・・・ミトを愛すると決めた日から俺はミトを絶対に守ると決めている。だから・・・ミトは絶対に現実に返す。これは俺の覚悟だ。