仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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9.魔王と勇者

 エランツァによってギルド内にある応接室へ連行された俺とリンファはソファーに座らされた。ちなみに俺の体から溢れていた光はエランツァに「鬱陶しい」の一言と共に消してもらえた。

 

「紅茶とコーヒー、どちらがよい?」

 

「コーヒーで」

 

「…………」

 

「お主は?」

 

「っは、はいっ! あ、こ、コーヒーで!」

 

 緊張でガチガチになったリンファがびくりと体を跳ねさせて答える。

 

「カカっ、相分かった」

 

 リンファの様子にエランツァはクツクツと笑い、応接室のドリッパーに予め挽いてあった豆を投入して、手ずからコーヒーを淹れ始めた。豆の香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。

 

「な、何か手伝った方が……!」

 

「よいよい、座って待っておれ」

 

「そうだぞ、客は大人しく待っとけばいい」

 

「なんでそんな余裕そうなんだ……!?」

 

 何でと言われても、ねえ? 俺としてはこいつ相手に緊張とか精神の無駄遣いとしか思えないというか……。

 

 少しして、俺たちの前に湯気を立てるカップが運ばれた。

 

「というわけで話なんじゃが、まずお主らが守護者の再湧出(リポップ)に遭遇したことについてじゃ」

 

「だろうな」

 

「といってももう裏付けはほぼ取れているがな。ほれ、忘れものじゃ」

 

「うおっとと」

 

 そういって投げ渡されたのは俺の剣だった。守護者にぶん投げてそのままだったものを回収してくれたらしい。

 

「加えてこいつ……間違いなく守護者級のものじゃな」

 

 続いて取り出されたのは掌に余る大きさをした球状の真っ赤な結晶体、魔晶石だった。

 

 魔晶石は通常大気中に漂い形を持たない魔素が魔物の体内にて結晶化することで生成されるもので、一般的により強力な魔物から取れるもの程高純度とされ市場価値も高い。

 

 さらにこの大きさとなると守護者級でなければまず採れない。現場にそれが落ちていたということが再湧出の証拠となるわけだ。

 

(わらわ)自ら出向いて拾って来たのじゃ。感謝するがよいぞ?」

 

「そりゃどうも」

 

「うむ、それでな——」

 

 俺の些か適当な感謝にも特に気にする様子はなく話を続けるエランツァ。

 

 再湧出はとある条件によって連鎖的に起こる現象であり、それそのものは副次的なものに過ぎない。再湧出自体は問題の本質ではないのだ。

 

「——まあとにかく、再湧出が確認された以上我々は()()発生に対して対策を取らねばならんわけだ」

 

 再湧出の条件。

 

 即ちそれは周辺での魔王と呼ばれる存在の誕生を意味していた。

 

 魔王。忌まわしき邪神の尖兵にして人類の最たる宿敵であり迷宮の支配者。やつらは迷宮にて突発的に生まれ、潜伏しながら人類を滅ぼすための力を蓄える。

 

 魔王の存在は周辺の迷宮内の魔物を活発にさせる。もし放置し続ければやがて迷宮は魔物の氾濫(スタンピード)を起こし、近辺の街や村を滅ぼし始め、更に十分な力を付けた魔王が自ら動き始めれば最悪国が亡ぶこととなるのだ。

 

 数百年の昔には実際にとある国が滅ぼされ、魔王率いる魔物達と人類での総力戦にまで発展したこともあるらしい。

 

 魔王は新たな迷宮と共に生まれることもあれば、既存の迷宮に発生した新しいエリアに生まれることもあるため、まずはそれを探さなければならない。

 

 よしんば見つけたとしても、魔王が潜伏する迷宮は非常に危険であり、魔王自身も恐ろしく強いとくる。

 

 これらの要素だけでも十分すぎる程厄介なのだが、もうひとつ、最大の難点がある。それは——

 

「リートニアにはすでに伝令を送った。じきに()()が帰還する」

 

 魔王は勇者でなければ滅ぼせない、ということだ。

 

 勇者とは人類の中でほんの僅か、選ばれしもののみが神託によって授かることの出来る(ジョブ)

 

 その職の加護を持つもののみが魔王に致命的なダメージを与え、その命を絶つことが出来るのだ。

 

 タンデムを拠点とする勇者はひとり存在し、現在は友好国であるリートニアに発生した魔王討伐の応援として派遣されている。

 

 このタンデムで魔王が発生した以上、それを呼び戻すことになるのは当然の帰結だった。

 

「……そうか」

 

「なんじゃ反応が薄いのう」

 

「魔王が出たんだから、当たり前のことだろ」

 

「かーっ、薄情なやつじゃの!」

 

 そう言って仮面の額あたりを手の平でぺちんと叩くエランツァ。

 

「……話は以上か? だったらもう——」

 

「あぁ、待て。最後にひとつ」

 

「なんだよ」

 

「アデムよ、お前もギルドの職員にな「ならない」まだ全部言っとらん!」

 

 エランツァは毎度顔を合わせる度に俺をギルド職員に勧誘してくる。俺にその気は全くないし、毎度断っているのだが一向に諦める気配はなかった。

 

「何度も断ってるだろ。なんで毎回毎回同じこと聞くんだ」

 

「気が変わっとるかもしれんじゃろ」

 

「ない」

 

「えー」

 

 えーじゃないよ。

 

「絶対お主は冒険者よりギルド職員の方が向いとる! 今なら(わらわ)の右腕として好待遇を約束するぞ!」

 

「いらん! 確実に面倒な仕事押し付けられるだけじゃねえか!」

 

「なんという言い草! 師に対して恩を返そうとかそういう気概はないのか!?」

 

「修行にかこつけて俺に仕事処理させてただけじゃねえか!」

 

「ち、ちょっと待て! 師匠!? ギルドマスターがアデムの!?」

 

 黙って俺たちのやり取りを聞いていたリンファがたまらずといった風に声を上げた。

 

「いや、ギリギリ師匠じゃない」

 

「何でそんなこと言うんじゃーっ!?」

 

 よよよ、とわざとらしい泣き声をあげながらソファの上で崩れ落ちるエランツァ。

 

 実際のところ俺は、エランツァに師事していたと言える時期がある。だが、その間にやっていたことと言えばエランツァの使いっ走りのようなことであったり、身の回りの世話、あとはギルド業務の手伝いそのものがほとんどであった。

 

 おかげで俺は今ここで働いているギルド職員のほとんどよりギルドの業務に詳しい自信がある。

 

 一応ちゃんとした修行をつけて貰えたこともあったが、これがまた常軌を逸した過激さで俺は何度も死を覚悟した程だった。何だかんだで得るものは大きかったかもしれないが、正直あまり思い出したくない日々だ。

 

 そんなわけで俺はエランツァに対しては若干の苦手意識があり、あんまり師匠とも認めたくなかった。もっと他に師匠と呼ぶに相応しい人いるし……。

 

「うう、あの頃は素直で可愛らしかったのにのう……」

 

「それにあの仕打ち?」

 

「それはほれ、可愛い子程いじめたくなるというか……」

 

性質(タチ)悪いな!?」

 

 そういうとこだぞ。

 

「あーもう、話がそれだけならもう行くからな。リンファだって疲れてるだろうに、こんなバカみたいな話聞かせるためにいつまでも拘束してたらかわいそうだろ」

 

「え、いや僕は別に」

 

「疲れてるよな!!!」

 

「あ、はい……あっ」

 

 リンファの手を取った俺は立ち上がり、そそくさと退室しようとして、

 

「アデム」

 

 珍しく真剣さを帯びたエランツァの声に足を止めた。

 

「あまり無茶ばかりするなよ。今回のようなのは肝が冷える」

 

「……努力する」

 

「それと気が変わったらいつでも職員に」

 

「くどい!」

 

 俺たちは今度こそ部屋を後にした。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 応接室から出て人気のない廊下を無言で歩くことしばし、リンファが口を開いた。

 

「……アデム」

 

「ん?」

 

「守護者との戦い、僕のせいでお前は死ぬところだった……」

 

「何だ、まだ言ってんのか」

 

「……ッ、なんでお前はいつもそうやって……怒ろうともしないんだ!? 僕は普段からお前のこと邪険にして……あまつさえ今回は命の危険に……!」

 

 今にも泣きだしそうになるリンファ。俺は頬を掻きながら、言葉を選ぶ。

 

「うーん……リンファだって別に俺を死なせようとしてあんなことしたわけじゃないだろう? あん時庇ったのも俺が自分で出来るって判断して勝手にやったことだ。普段の態度も……まあ子どものわがままみたいなもんだろ。可愛いもんさ」

 

「…………」

 

「まだ納得いかないんだったら、そうだな。もう1回ちゃんと謝ってくれればいい。それでこの話は終わりにしよう」

 

 リンファが目を見開いた。少しばかりの静寂の中、リンファが深呼吸をひとつして、その言葉を口に出す。

 

「ごめん、なさい……」

 

「ああ、許すよ」

 

「っ……」

 

「失敗の反省は次に生かすとして、先の話をしようぜ」

 

「……先?」

 

「ああ。そうだな……まずはリンファが契約出来る中位精霊を探しに行かなきゃな」

 

 やはり効率の面でもリンファが成長するためには中位精霊との契約は最優先だろう。そう考えての発言だった。

 

「——出来ない」

 

「……え?」

 

 

「僕は……もう他の精霊とは契約出来ないんだ」

 

 

 ……なんだと?

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