仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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10.魂契

「契約できないって……それはどういう」

 

 困惑した俺の問いに答える前に、リンファの肩辺りに淡い光の球のようなものが浮かんだ。

 

「……この子はユノ。僕の契約精霊だ」

 

 リンファの紹介を受けた光の球、改めユノは挨拶をするように俺の周りをくるくると回った。

 

「ユノは、僕との契約によって下位精霊になった……」

 

「下位精霊に()()()……? まさか魂契(エーテル・リンク)か」

 

 俺が心当たりを口にすると、リンファが僅かに目を見開いた。

 

「もしかしたら知っているかもしれないとは思ったけれど、本当に知っているんだね」

 

 魂契(エーテル・リンク)とは精霊との契約形態の一種で、同時に最も強力なものだ。術者と精霊を魂の領域で深く結びつける秘奥。結んだが最後、絶対に破棄することは出来ず、他の精霊と契約を結ぶことも出来なくなる代わりに、術者はより強力な力を手にすることが出来る。

 

 その性質上、魂契を結んでいる精霊術士の契約精霊は上位精霊であることがほとんどだ。しかし、リンファが魂契を結んでいるのは下位精霊。意味もなくそんなことをするわけがない。魂契にはもうひとつ、禁忌とされる使い方があった。

 

「死者の精霊化、か」

 

「……ああ。ユノは僕の……妹なんだ」

 

 魂契を死者の魂に作用させることで、精霊化させて現世に繋ぎとめることが出来るのだ。

 

 疑似的な死者蘇生ともいえるこの術は知れば多くの者が望むかもしれないが、実態はそう都合のいいものではない。そもそもの成功率が非常に低い上に、失敗すれば逆に自身の魂を道連れにされて命を落とすことになるのだ。

 

 よしんば成功してもその魂は十中八九下位精霊となり、他の精霊と契約が出来なくなるため、精霊術士としての大成は望めなくなってしまう。

 

 そういった事情から知識として知っていたアデムも実例を見たのは初めてだった。

 

「僕の家は代々優秀な精霊術士を輩出してきた貴族でね、僕は家督を継ぐものとして期待されていた」

 

 日々課される厳しい訓練と教育。厳格で多忙な父とはほとんど親子としてのコミュニケ―ションはなく、母も幼い頃に亡くなったリンファにとって、唯一心の支えになっていたのは妹の存在だったのだという。

 

「ユノは生まれつき病弱だったけど、とても優しくて強い子だった。……常に病に臥せって自分が一番辛い筈なのに、いつも僕の心配ばかりをして……。いつか病気がよくなったらふたりで色んな所に行こうって、そんな話をしてた」

 

 そしてリンファが12歳を迎えたことで晴れて精霊術士の(ジョブ)を得て、父の用意した上位精霊との契約を控えていた頃、ユノの病状が急変。

 

「日を追うごと、どんどん衰弱していくユノを見ていることしか出来なかった。そうしてユノが息を引き取った時に僕は決めたんだ」

 

 ——ユノと魂契(エーテル・リンク)を結ぶことを。

 

「失敗して、それで死んだとしても構わなかった。それはそれでユノをひとりで行かせずに済むから」

 

 結果は幸か不幸か。魂契による精霊化は成功し、妹は精霊となって現世に留まった。

 

「でも、父はこのことを知って怒り狂った。跡継ぎとして目を掛けて育てた僕が、上位精霊と契約することが出来なくなったことに、ね。あの男は言ったんだ、『そんなことのために』と。娘の、ユノの死を、そんなことと……!」

 

 リンファの拳に力が入る。

 

「最終的に僕は家を勘当された。……追い出されなくったって、あんな家こっちから願い下げだったけれどね。それからは各地を転々として、最終的にタンデムで冒険者を始めた。そこで精霊術士として成功して、あの男の鼻を明かすんだって意気込んでね」

 

 言ってから、リンファが自嘲気味に笑う。

 

「でも、上手くいかなかった。珍しい精霊術士だからって最初はちやほやされたけど、僕が下級精霊術しか使えないって分かると手の平を返す。それに僕も反発して……結局パーティーから追い出される」

 

 ……なるほど、それが理由で半年に5回もパーティーから追い出されることになったのか。

 

「皆、命をかけて冒険者をやっている。そこに僕みたいなのがいたら、いずれいらない危険を背負うことになる……。今回君が死にかけて、理解した。僕みたいなのは人と組んじゃいけないって。だから——」

 

「そんなことはない」

 

「っ」

 

 それまで黙って話を聞いていた俺は、リンファの言葉を遮るように口を挟んだ。

 

「己の力不足で仲間を危険に晒すかもって? だったら仲間を守れるぐらい強くなりゃいい」

 

 まあ組む相手を選ぶ必要はあるのだが。少なくとも俺はリンファに見込みがないとは全く思わない。

 

 少なくとも今まで俺がそう感じた者達は皆成長を果たしてきた。ちょっと、いや大分果たし過ぎなくらいに。

 

「で、でも僕たちは……!」

 

「なれる」

 

 故に断言する。

 

「任せろ。絶対にお前を強くしてやる。……親父さんを見返してやろうぜ」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 後日、俺とリンファはギルドに併設されている修練用の広場に来ていた。

 

「じゃあ早速精霊を成長させる方法について説明するぞ」

 

「本当にそんなのあるのか……?」

 

「あるぞ。しかも単純。とにかく魔力を消費しまくるんだ」

 

「そ、それで……?」

 

「ん? いやそれだけ」

 

「……は?」

 

 リンファの目が訝し気に細められる。

 

 まあそんな反応にもなるか。

 

「精霊ってようは魔素の塊みたいなもんだからな。魔力を使って、吸収してってサイクルで実はちょっとずつ成長するんだ」

 

「そ、そうなのか? 僕もそれなりに精霊について勉強していたつもりだが、聞いたことないぞ……?」

 

「まあ普通にしてたら本当に微々たるもんだしな。中位以上の精霊だったらまず気づかんだろうぐらいの。下位ならもしかしたら実感することもあるかもしれないが、そもそも基本的に契約しないしな」

 

「なるほど……」

 

「ただ、普通に精霊術撃ってたんじゃ流石に時間がかかり過ぎるからな。効率いい術式を教える」

 

 そういって、俺はふたつの術式をリンファにレクチャーし始めた。

 

 ひとつは精霊と自分の間で魔力をキャッチボールし続ける術式。これによって魔力消費を抑えつつ高速で、疑似的に精霊側の消費吸収サイクルがなされるという仕組みだ。

 

 もうひとつは周囲の魔素を効率よく魔力に変換する術式。いつも俺が使っているやつだな。

 

「——とまあ以上を無意識でも常に使えるようにしてもらう」

 

「え、常にっ!?」

 

「ああ、常に。そんぐらいしないといつまで経っても成果がでないんだ。魔力消費が途切れると成長が止まるどころか若干後退するからな。絶えず実行することでそのロスを無くす」

 

 3歩進んで2歩下がるというやつだ。これも精霊の成長に中々気づかない大きな要因のひとつだと思われる。

 

 ちなみに人間にも若干ではあるが同様の効果が得られるようで、まさに一石二鳥の訓練方法だ。なお俺が実践した時は元々の魔力がカス過ぎて効果がないに等しかった模様。世の中クソである。

 

「とまあ御託はこの辺にして……教えるからやってみろ」

 

「あぁ、分かった……」

 

 そうしてしばらく、例によって俺が魔力の流れをアシストしつつ術式を回してみるが、中々上手くいかない。

 

「……っく、どうして……!」

 

 滝のような汗をかきながらリンファが呻くように言う。

 

「んー……手より心臓に近いとこのが分かりやすいかもな。ちょっと失礼」

 

「……心臓か……え? ち、ちょ、まっ——!」

 

 ムニ。

 

「えっ」

 

 何の気なしに伸ばした手がローブ越しに感じたのはそんな感触。決して大きくはないが確かな存在感を主張するそれは……!?

 

「き、きゃあああぁぁぁっ……!」

 

 悲鳴を上げて蹲るリンファ。更にこの反応、もう間違いなかった。

 

 リンファは。

 

「お、女の子!? い、いやちが、知らなくてっ!」

 

 てんぱってしどろもどろになっていると、リンファから飛び出すように光の球、ユノが現れた。ユノが感情を表すようにチカチカと点滅すると周囲に氷の飛礫が展開される。

 

 あ、これ撃たれるやつだ。

 

 俺は反射的に回避行動を取ろうとする足を意志の力で縫い留めた。

 

 罪人は裁き受けねばならんのである……。

 

「ぐぼあぁッ!!」

 

 直後、容赦なく射出された氷の飛礫により吹っ飛ばされた俺は、再び医務室送りになったのであった。

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