仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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13.エンカウント

 ギルドを出た後、俺たちは食後の腹ごなしも兼ねて普段より遠い、郊外にある危険度Cの迷宮を訪れていた。ご飯食べて急に激しく動いたらお腹痛くなるからな。ちょっと歩かないと。

 

「シッ」

 

 絞るような呼気と共に振り抜いた刃が、バカでかい蝙蝠のような魔物の羽を切り落とす。

 

 この手の飛んでいる魔物は剣士である俺にとって、あまり相性がよくない。何せ相手は上空に居て、こちらから仕掛けることが難しいから……なのだが世の中にはおかしなやつもいて、剣士に属する(ジョブ)の癖に易々と空の敵を叩き落としたりする。斬撃を飛ばしたり空中戦を始めたり、やりたい放題である。

 

 無論俺にそんなことは出来ない。いや、厳密には出来ないこともないのだが、そんなことやってたら魔力欠乏でぶっ倒れるだけなのは目に見えている。

 

 そのため俺がその(たぐい)を相手取る時は、後衛の傍で護衛しつつカウンターを狙う形をとることが多い。

 

 次々飛んでくる敵を迎撃するのはそれなりにいい鍛錬になるが、正直今日はそこまで負荷をかけられてない。

 

 何故か。

 

「【連鎖詠唱:尽く撃ち焦がせ(ラピッドファイア)】!」

 

 視界に広がる無数の炎弾、それらが間断なく敵に撃ち込まれ続ける。一発一発の威力は下級精霊術の【撃ち焦がせ(ファイアバレット)】と変わらないが、これだけの数を、しかも連射されれば如何(いか)な危険度Cの魔物でもひとたまりもない。

 

 稀に撃ち漏らした個体が一矢報いようと飛び込んでくるので、俺はそれを迎撃するのみになる。

 

 ……リンファの成長が著しい。

 

 確かに俺はリンファが強くなれるようにと色々教えはしたが、ちょっと想定以上の伸びだ。

 

 今猛威を振るっている【連鎖詠唱:尽く撃ち焦がせ(ラピッドファイア)】にしても、実はリンファとユノの魔力交換を手解きしている最中、勝手に応用して生み出した、謂わばオリジナルの術式だったりする。名付けて連鎖詠唱。

 

 お披露目の際には「あの訓練法にはこんな狙いもあったんだな……!」等と言われたのだが、当然そんな狙いはない。俺としては何それ知らん……怖……という感じだ。

 

 その旨を伝えてみても「そういうことにしておくよ」などと言って、信じていない様子だった。解せぬ……。

 

 ともあれ、この調子ならリンファがC等級(ランク)に上がるのは時間の問題で、何なら上がってすぐに危険度Bの迷宮に挑戦しても問題ないかもしれない。

 

 そんなこんなで遭遇する魔物を殲滅し続けてきたのだが、ひとつ気になる点があった。

 

「思ったより魔物が少ないな」

 

「そうか? それなりの数はいたような気がするけど……」

 

「まあ普通よりは多いかもしれんが、魔王発生の影響やここが郊外の迷宮ってことを考慮するとちょっと少ない。最近他のパーティーが探索したのかもな」

 

 言いながら迷宮を進んでいる時だった。

 

「…… 聞こえたか?」

 

「あぁ」

 

 人の声、それも悲鳴らしきものが聞こえたのだ。響き方からして、そう遠くはない。

 

「こっちか」

 

「あ、おいアデム……ちょ、速っ!?」

 

 限界ぎりぎりまで脚部を強化し、悲鳴の元まで全速力で駆け抜ける。

 

 じきに、大量の魔物と、それらに追い詰められた壁際でへたり込む少女が視界に入った。

 

 まだ若干距離があり、少女は今にも襲い掛かかられんという場面。……多少は無茶をしないと間に合わんなこれ。

 

 俺は剣に魔力を纏わせる。イメージは極限まで薄く、鋭く。極限まで無駄を削いで練り上げたそれを剣を渾身の一振りと共に弾き飛ばす。

 

 果たして、その斬撃は軌道上の魔物を切り裂き進み、今まさに少女の首筋を食いちぎらんとする狼型の魔物の首を落とした。

 

 飛ぶ斬撃——【波刃(ウェイブスラッシュ)】によって生まれた包囲網の隙間を縫うように駆け抜けた俺は、少女と魔物の間に立ちはだかり、剣を構える。

 

「……っ!?」

 

 少女の息を飲む気配。

 

 俺は彼女を安心させるべく、一瞥して口角を上げて見せた。

 

 

 ……とまあ意気込んで飛び込んだは良いが、実のところ魔物の群に飛び込んだ段階で俺の魔力は枯渇寸前。ぶっちゃけ立ってるだけでもしんどかった。

 

 ここまで辿りつくのに使った分もそうだが、斬撃を飛ばしたのが効いてる。あれでほとんど持っていかれた。己の貧弱魔力量が恨めしい……。

 

 当然のことだが魔物は俺のそんな事情を考慮などしてくれない。むしろ突然の乱入者に大層ご興奮なさっておられる……。

 

 次から次へと飛び掛かってくる魔物の猛攻を、死ぬ思いで何とか凌ぎ続ける。長くはもたないが、問題はない。あと少し時間を稼ぐだけで勝利条件は満たせる。何故なら——

 

「【連鎖詠唱:尽く撃ち焦がせ(ラピッドファイア)】!!」

 

 詠唱の言葉と共に無数の炎弾が降り注ぎ、魔物達を焼き尽くす。

 

「はあ……はあ……! すまない、遅れた……!」

 

「いや、助かった。ナイスだリンファ」

 

「あ、あの……!」

 

 肩で息をするリンファに労いの言葉をかけていると、助けた少女がおずおずと話しかけてきた。

 

「おう、無事か?」

 

「は、はい、おかげ様で……本当にありがとうございます……!」

 

 そう言って深々とお辞儀をする少女を改めて見る。

 

 純白のローブに魔杖。装備を見るにまず間違いなく魔術師か僧侶系統の(ジョブ)だ。明らかに後衛職に見える彼女が何故こんなところにひとりで……?

 

「その、パーティーの方々とはぐれてしまって……」

 

「はぐれた……? 何か(トラップ)でも踏んだとかか?」

 

「いえ、そういうわけではないのですが……」

 

 なにやら歯切れが悪いが、なんにせよ早いとこはぐれたパーティーと合流させてやらんとな。さぞ心配していることだろう。

 

「俺は剣士のアデム、こっちは……」

 

「精霊術士のリンファだ」

 

「あっ、申し遅れました。私はレティーナといいます」

 

 手早く自己紹介を済ませた俺たちは、レティーナがパーティーと合流出来るまでひとまず行動をともにすることになった。

 

 早速行こうと歩き出した段階で、レティーナが何かに気づいたように足を止めた。

 

「アデム様、お怪我を……!?」

 

 視線の先、俺の脇腹部分に裂かれたような傷が出来ていた。先ほどの戦闘中に魔物の爪か何かが掠っていたらしい。血こそ流れていたが、そこまでの深手でもない。実際今指摘されるまで気づかなかったくらいだ。

 

「いや、まあ大したことは……」

 

「いけません! 診せてください!」

 

 言うが早いか、レティーナが俺の服をがばりと捲った。

 

「うお、ちょっ」

 

「【ヒール】」

 

 いきなりのことに若干狼狽える俺をよそに、レティーナが治癒魔法をかけてきた。傷へ添えられた手に淡い光が灯る。どうやら僧侶系統の(ジョブ)だったらしい。

 

「……」

 

 じんわりと熱を持った患部から流れる血が止まり、ゆっくりと少しづつ傷口が閉じていく。

 

「…………」

 

「………………」

 

 徐々に、しかし着実に。

 

 …………。

 

 これさ……。

 

「何か……遅くないか?」

 

 たまらずといった様子のリンファの言葉。同じことを思っていたらしい。

 

 そう、レティーナのヒールは何か異様に遅かった。【ヒール】は初級の治癒魔法ではあるが、俺の傷自体がそもそも軽傷の部類だ。こんな完治に何十秒もかかるもんだったかな……。何かの冗談だったりするのか……?

 

「……………………」

 

 ちら、と窺い見たレティーナの表情は至って真剣そのもの、うっすら汗すら浮かんでおり、集中しているのかリンファの呟きは聞こえていない様子だった。冗談とかではないようだった。

 

 ま、まあ。ようはちゃんと治れば問題はないのだ。むしろちょっとした傷にいちいち【アークヒール】みたいな大技を使われるよりよっぽど精神衛生上いいかもしれない。

 

 その後たっぷり数分をかけて治療が終わると、レティーナは俺の脇腹から手を放す。その表情にはどこか憂いのようなものが見て取れた。

 

「その……申し訳ありません、時間がかかってしまって……」

 

「いや、問題ない。ありがとなレティーナ」

 

 伏し目がちにそんなことを言うレティーナに俺が素直に感謝の意を伝えると、彼女は僅かに目を見開き、固まってしまった。

 

「……どうかしたか?」

 

「あ……い、いえ、なんでもありません、はい……」

 

「……? まあ怪我も治してもらったことだし、さっさとレティーナのパーティーを探そうか」

 

 この数分で俺の魔力も多少は回復したし、ちょうどよかったと言える。そう思った時だった。

 

「——レティーナ様!」

 

 そんな大声とともに、走り寄る数人の人影が見えた。間違いなく彼女のパーティーだろう。どうやら探す手間は省けたらしい。

 

「皆様!」

 

「ご無事で良かった……!」

 

 心底ほっとしたといった表情で、先頭に立つ青年が俺に向き直る。

 

「あなたが助けてくださったんですね。ありがとうございます……! 聖女様にもしものことがあったらどうしようかと……!」

 

「……ん? 聖女?」

 

 聞き捨てならない単語に、俺は思わずレティーナの顔を見た。

 

 レティーナは気まずげな笑みと共に目を逸らした。

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