仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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18.働け聖女ちゃん!

「耳痛っ……何だよ急に!?」

 

「何だよはこっちのセリフなんじゃが!? 何やっとるんじゃ!?」

 

「だから窓拭きだって。依頼だ依頼!」

 

「依頼ぃ……?」

 

 エランツァが仮面の奥で訝しげに目を細める。

 

「そうだ。……知らないのか? ほら、新人救済の……」

 

「……あー……そういえばそんなんもあったの……基本誰も受けんし忘れとったわ」

 

 冒険者の収入源は大きくふたつ。迷宮を探索することで見つけた遺物や、倒した魔物から得た魔晶石を売却する。あるいはギルドに持ち込まれる様々な依頼を受注し、その依頼を達成し報酬を貰うか、だ。

 

 ある程度慣れた冒険者であれば日銭程度ならどうとでも稼げるようになるのだが、まだ冒険者となって日の浅い新人はそうもいかない場合がある。

 

 危険度の低い迷宮であっても新人にとっては常に命がけの探索になる。少しでも安全に探索するためには相応の装備を整えて挑む必要があるし、そのためには金もかかる。

 

 そうして予算をかけて挑んだ迷宮で成果を出せればいいが、必ずしも黒字に出来るとは限らない。魔物との戦闘で怪我をすればポーションを消費するし、武器が傷めばメンテナンスに出さなければならない。

 

 依頼も同様だし、何なら失敗に終われば丸損ということもありえる。

 

 そういったことが続いて、資金繰りが詰んでしまい、探索も出来ない、依頼も受けられない……といった冒険者への救済措置のひとつとしてギルドの清掃が存在するのだ。

 

 無論、報酬額は大したものではなく駄賃程度だが、他の援助も合わせればその日を繋ぐことぐらいは出来るようになっており、しばらく続ければ探索や通常の依頼も受けられるようにもなる。

 

 ただ、現実としてこの依頼が受けられることはほぼ皆無に等しく、半ば形骸化している。

 

 依頼の中には、街での力仕事や単純作業などの迷宮や魔物に関わらないものも数多く存在するからだ。

 

 それらの依頼は基本的に命の危険もなく、己が身ひとつでこなせてギルド清掃よりは大概報酬も多い。

 

 ただし、間が悪いとそうした依頼が全くないこともあるかもしれないので、一応常設されたままとなっている。

 

 ちなみに別に切羽詰まってるとかの事情がなくとも受注自体は可能だったりする。低賃金故に誰も好んで受けたりはしないが。

 

「そういうわけだ。もういいか? 俺も暇じゃないんだ」

 

「え、すまん……っていやいや、待て待て。妾の質問への答えになっとらんて。何で聖女様に窓拭きなんぞやらせとるんって訊いてるんじゃが? あと暇じゃないって、お主見とるだけじゃん!」

 

 もーうるさいな……。

 

 どう言いくるめたものか、そう考えたところで、レティーナが窓を拭く手を止めてエランツァに向き直った。

 

「エランツァ様、これは修行なのです」

 

「何……?」

 

「私が聖女としての責務を果たし、冒険者としても皆様のお役に立つために必要なことなのです……」

 

「窓拭きが……?」

 

 澄んだ瞳で断言するレティーナにエランツァは困惑の呻きを漏らした。

 

「アデム、向こうの方は拭き終わったぞ」。

 

 そんな中、廊下側の窓拭きを任せていたリンファが両手にバケツを持って戻ってきた。

 

「お主まで一緒になって……なんかこう、疑問とか覚えんのか……?」

 

「え……まあアデムの言うことなんだし、何か考えがあるんだろう、と」

 

「いかん、すっかり毒されておる……」

 

 エランツァは仮面を手で覆った。

 

 毒とはなんだ、失敬な。

 

「……実際考えはあるんじゃろうが……妾としてもギルドが綺麗になる分にはいいんじゃがのぉ……」

 

 まだ釈然としなさそうながら、自分を納得させるように呟くエランツァ。

 

「アデム様、どうでしょうか!」

 

 そんなやり取りを横目に、レティーナが拭きあげた窓の出来栄えを聞いてくる。

 

 俺の指導のもと、磨き上げられた窓の数々は一点のくすみもなく、陽光を受けてキラキラと輝いていた。

 

「……よし! 及第点だ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「これで及第点止まりなのか……」

 

 ともあれ、これでギルド中の窓をあらかた拭き終えたことになる。

 

「よし、じゃあ一旦清掃はこの辺にしようか。他の箇所は帰ってきたらで」

 

「なんじゃ、探索か?」

 

「いや、依頼だ。ちょっと木切ってくる」

 

 言いながら、俺たちはそそくさとギルドを後にした。

 

 

「ほう、木を………………木? 木ってなんじゃ!?」

 

 

 

 

 

 

 そんなわけでやってきたのは、タンデム東部の開墾地だ。鬱蒼とした木々が立ち並ぶ森林が現在進行形で切り拓かれており、筋骨隆々としたおやっさんから、まだ体の出来上がっていない若者まで、多くの野郎どもがせっせと木を切ったり運んだりしている。

 

 ひとまず、その場を取り仕切っている男に俺は声をかけた。よく鍛えられた肉体は健康的な小麦色で、白い歯とのコントラストが生えるナイスミドルだった。

 

「お疲れ様です。冒険者ギルドから依頼を受けて来た者です」

 

「おぉ、冒険者か! 助か、る……ぜ……?」

 

 俺を見て顔を綻ばせた男は、背後のリンファとレティーナに気づくと語尾を萎ませた。

 

「おいおい、えらい細っこい嬢ちゃんたちだな……あんたらも作業するのかい?」

 

「もちろん」

 

「頑張りますっ!」

 

「そ、そうかい……じゃあまあ、早速木を切ってもらおうか。ほれ、斧はこれを使ってくれ」

 

「いや、僕は必要ない」

 

「何?」

 

「…………【二重詠唱:氷刃よ迸れ(アイスエッジ)】!」

 

 瞬間、氷の刃が飛び出し、目の前の木を一撃のもと切り倒す。

 

「おお!? そうか、あんた魔術師か!」

 

「精霊術士だ」

 

「なるほどなぁ」

 

 男はリンファの精霊術に痛く感心したように頷く。どうやら魔術師の類がこの依頼を受けるのは珍しいらしい。

 

 この手の依頼を受けるのは大体駆け出しで、ほとんどが近接職だろうしな。よしんば魔術師系の職でも、木を効率よく切るだけの威力もないだろうし、何本かは切れても魔力が持たないのだろう。

 

「ということは嬢ちゃんも……」

 

「あ、斧お借りしますね!」

 

「……んん?」

 

 ひょい、と男の手から斧を取るレティーナ。

 

「嬢ちゃんは魔法で切らないのか?」

 

「斧で頑張ります!!」

 

「…………」

 

 レティーナのやる気に満ち満ちた返事とは対照的に、男は微妙そうな顔をした。

 

「本当に大丈夫かぁ……?」

 

「えっと……精一杯頑張らせて頂くつもりなのですが……その、ご迷惑でしょうか……?」

 

 不安げなレティーナの問いに、男はたじろいだ。

 

「いやいや! そういうわけじゃ! ……まぁ、なんだ、あんまり無茶せんようにな?」

 

 その後、俺たちが担当するエリアと切った木の運搬について簡単な打ち合わせを行い、本格的に作業が始まった。

 

 魔法で景気良く木を切って回ってるリンファは放っておいて問題ないとして、俺はまずレティーナに斧の扱いをレクチャーする。

 

「持ち方はこうで……そうそう。そんで構えはこう……そうじゃなくて、もっと半身で……よし、振ってみろ」

 

「えいっ!」

 

 ややぎこちないながらも、勢いよく放たれた斧はガッという気持ちいい音と共に深く幹に突き立った。

 

「おお!?」

 

 側で様子を伺っていた男が、その細腕からは想像できない威力に目を剥く。

 

「すげーな嬢ちゃん! そんな(なり)して何処にそんなパワーが……!?」

 

「そ、そうですか? 私、お役に立てそうですか……!?」

 

「おう、これなら文句なしだ! さっきは悪かったな、疑うようなこと言って!」

 

 これなら任せて問題なさそうだ、と男は他のエリアを見るために去っていった。

 

「よかったな」

 

「はい!」

 

「よし、この調子でどんどん切っていくぞ」

 

「分かりました!」

 

 慣れない作業ながらも着実に動きをものにし、徐々に切るスピードも上がっていく。リンファに至っては最近成長著しいこともあって、かなりサクサク伐採しているため、俺はもっぱら切った木の枝葉を除去して運ぶ役にまわっていた。

 

 切っては運び、運んでは切る……。

 

 そんなサイクルを繰り返して日が暮れる頃、俺たちの担当エリアは予想を大幅に超える進捗をもって、その日の作業は終了した。 

 

 

 それからというもの、俺たちは毎朝日課の如くギルドを清掃してから、街へ繰り出し時に木を切り、時に土木作業を手伝って過ごした。

 

 色々と手を打っているとはいえ、どれも決して楽な作業ではない。専業でやっている職人でも、時には嫌になることだってあるだろう。

 

 しかし、聖女としてそんな仕事とは無縁で過ごして来たはずのレティーナは泣き言のひとつも吐かず、毎日の作業や、俺の指導に真摯に向き合い続けた。

 

 あと、リンファも文句も言わず同行し、「結構いい鍛錬になるな」とか言いながら精霊術を行使し続けた。本当かよ。俺は訝しんだ。

 

 そんな日々を1週間程続けたある日。

 

「アデム様、私、ようやく気付けました」

 

 レティーナは()が中程で折れた斧を見つめながら語り始めた。傍には斧の刃だけが刺さった木。叩きつけた衝撃で折れたらしい。

 

「道具に頼っているうちは、聖女なんて務まらないんだって」

 

「??」

 

「見ていて下さい。これが私が見つけた……答えです!」

 

 言うや否や、鋭い呼気とともにレティーナが木に向かって蹴りを放った。

 

 振り抜かれた脚は、霞むような残像だけを残し音もなく地に帰る。

 

 空振り——ではない。

 

 一瞬の遅れを待ち、木はまるで思い出したかのようにその幹を横たえた。響く鈍い振動。

 

 その断面はまるで鋭利な刃に切り裂かれたかのように真っ平だった。

 

「アデム様……私、これで本当の聖女になれたでしょうか?」

 

 儚げな……それでいて何処か自信に溢れたその表情はなるほど、聖女に相応しく、見るものを魅了する微笑みだ。

 

 そんな表情を目の当たりにして、俺は思った。

 

 

 ……聖女とは?

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