仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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19.This is 聖女

「おし、全員グラス持ったかぁ? そんじゃ、乾杯!」

 

 あちこちから一斉に、カチンという涼しげな音が響き渡る。

 

 街の大衆食堂をほぼ貸切状態にしたそれは、開拓地で伐採に携わる者たちの慰労会だった。

 

 そんな宴に、今俺たち3人も参加させてもらっている。

 

 責任者の男こと、トニオを始め、作業を共にした面々からも是非にと言われ、御相伴に預かることになったのだ。

 

「いやぁ、本当あんたらのおかげで随分仕事が捗ったぜ! 毎回あんたらみたいなのが来てくれたらいいのにな!」

 

 言って、上機嫌に笑いながら豪快に酒を呷るトニオ。

 

「本当すげぇよなぁ。魔術師の嬢ちゃんなんか魔法でスパスパ切っちまうし」

 

「精霊術士だ」

 

「おうそれそれ」

 

「武闘家の嬢も負けてねぇぞ! 何たって素手で木ぃぶっ倒した挙句、一度に何本も抱えて持ってっちまうんだから!」

 

「ぶ、武闘家ではないです……」

 

 他の労働者たちも口々にリンファとレティーナを褒め称える。

 

 貢献度が飛びぬけているのは勿論だが、ふたりともはっきり言って容姿が良い。

 

 見目の麗しい少女らが、本業の男を歯牙にかけぬ活躍ぶりだったのだから、この人気も然もありなんといったところだろう。

 

「それに兄ちゃんも……あー、兄ちゃんは……あれだな、あれ……」

 

「おう、あれだよな……ほら、あれ……」

 

 俺のことにも触れようとして、途端に語彙力が消滅する男たち。言うこと思いついてから喋りだせよ。そんで思いつかないんなら無理に何か言おうとしなくていいよ。

 

「こう……斧を振るフォームが……美しい、よな?」

 

「お、おう! そうだぜ! あんなに綺麗な斧振り、そうは見れねぇよ!」

 

「…………」

 

 絞り出されたフォローは大分苦しかった。悪気はないだろうし、気のいい連中ではあるのだが……もう、そっとしておいて欲しかった。

 

 気を遣って褒めてくれたのだから、一応礼を言って、俺は未だチヤホヤされるふたり……特にレティーナに視線をやった。

 

 屈強な男どもから誉め殺しにされて、レティーナは少しだけ困ったような照れ笑いを浮かべている。その表情はとても生き生きとして、楽しげだ。

 

 この時点で、俺の当初の狙いは(おおむ)ね達せられていると言って良かった。

 

 レティーナを冒険者として活躍させるというやつだ。

 

 彼女は自身が聖女であるということへの強い責任感から、聖女として人々の助け、救いとなることに固執してしまっているように思えた。

 

 しかし、別に聖女だから治癒魔法で人を救わなければならないわけではない。聖女だから聖属性で魔を祓わなければならないわけでもない。

 

 それは冒険者でも同じことだ。何も迷宮を攻略したり、魔物を討伐することだけが人の助けになることではないということを、俺はレティーナに伝えたかった。

 

 聖女で在る前に、彼女(レティーナ)自分(レティーナ)らしく在ればいいのだと。

 

 魔王誕生の騒動で力になるために来たレティーナに、その旨を伝えても、もしかしたら納得は出来ないかもしれない。故に、俺はこの取り組みの詳細は敢えて伝えなかった。その上で、レティーナは文句も言わずにこれまで付いてきたのだ。

 

 結果、レティーナは今こうやって多くの人から感謝されている。目論見は叶ったのだ。

 

 ただまぁ、誤算があるとすれば……。

 

「嬢ちゃん、あれやってくれよ! あれ!」

 

 そう言ってレティーナの前にいくつかの酒瓶を並べるトニオ。どれもコルクは抜かれていない。

 

 ひとまとめに置かれた瓶に向かってレティーナがゆっくりと掌を掲げ、深呼吸する。

 

 皆がレティーナの動向に注目し、あれ程騒がしかった筈の酒の席が途端に静まり返る。静寂の中、誰かの息を飲む音が聞こえた。

 

「……えいっ」

 

 一閃。

 

 残像すらも残さぬ勢いの手刀が瓶の上辺(うわべ)を撫でる。

 

 ズルり。

 

 全ての瓶の口が落ちて、からころと音を立てた。

 

「う、お……」

 

 ——うおおおおおお!!

 

 一拍遅れて、溢れんばかりの歓声が耳朶を打つ。

 

 俺は目の前の光景に頬を引き攣らせた。

 

 

 唯一の誤算とはそう、彼女が……ちょっと強くなり過ぎてしまったということだ。

 

 

 ここしばらく、何も俺たちは依頼だけをこなし続けていたという訳ではない。肉体労働などとは縁遠かったレティーナがちゃんと働けるように、俺はある術式を教えていた。

 

 それは前衛職の冒険者なら誰しもが習得することになる身体強化術式だ。レティーナは魔力の放出に欠陥を抱えている。ならば内側で循環、消費する術式なら問題なく使えるはずという発想だ。

 

 ただし、基本的に後衛に分類される職に就いているとその手の術式とは相性が悪くなり、行使してみても効果が薄いということも多い。同様に後衛に分類される筈の聖女であるレティーナが、どれだけ使いこなせるかは未知数なところがあった。

 

 それでもやらないよりはということで、依頼の前後、時間さえあればレティーナに身体強化に関する術式をあれこれと伝授し、その効果を見るために格闘技の手解きなんかも行った。

 

 結果としてそれらの試みは功を成した。それはもう覿面過ぎるぐらいに。

 

 元々聖女という職に適性があるのか、はたまたレティーナの持つ莫大な魔力量故か、術式はしっかり作用した。

 

 それどころか、レティーナは信じられない程の早さで術式の練度を高め、あっという間に前衛職も顔負けの身体能力を得るに至って見せたのだ。

 

 放出に難があるだけで、体内での魔力操作に関してはむしろ非常に優れていたが故だ。恐らく、上手く発動できない魔法を何とかするためにこれまで努力をしてきた結果なのだろう。

 

「武闘家ってすげぇんだなぁ……」

 

「だから武闘家じゃないですよぉ! 私これでも聖女なんですからぁ!」

 

「ぶはは! 聖女様ときたか! いや、でも俺らにとっては救いの聖女と言ってもいいか!」

 

「おうよ、レティーナちゃんは俺たちにとっての聖女様に違いねえぜ!」

 

「聖女! 聖女!」

 

『聖女! 聖女! 聖女!』

 

 響く聖女コール。

 

 彼女が思い描いていたものとは少し違うかもしれないが、その努力と献身が実って、今こうして彼女は多くの人に囲まれ、感謝されている。これも、ひとつの聖女としての在り方と言っていいのかもしれない。

 

 そう思いながら眺める彼女は、手刀で封を切ったボトルから酒をラッパ飲みし始め、観客達(オーディエンス)を更に沸かせていた。

 

「んぐっんぐっんぐ……ぷはぁ!」

 

「レティーナちゃん飲みっぷりまですげぇとかどんだけだよ!?」

 

「俺らも負けてらんねえぞ! おい、もっと酒持ってきてくれ! おい嬢ちゃん、勝負しようぜ!」

 

「望むところです! 負けませんよぉ~!」

 

  言って、次から次へと瓶に手刀をかましてはラッパ飲みするレティーナ。

 

 …………。

 

 いややっぱこれ聖女は無理あるだろ。

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