仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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21.帰ればまた来られるから

「……ふん、あの狸親父め」

 

 タンデム冒険者ギルド。その執務室にて、ギルドマスターであるエランツァは小さく鼻を鳴らして悪態をついた。手には数枚の書面。

 

 送り主はリートニア冒険者ギルドの長。内容を簡潔に言うと、勇者の帰還をもう少し待ってほしいというものだった。

 

 既に魔王の所在は割れており、迷宮の攻略も大詰めな今、万全を期すためにも()()も討伐に参加して貰いたいということらしい。それだけなら何を勝手な、と突っぱねてやってもいいのだがご丁寧にリートニア国王から直々の書状まで付けており、そうもいかない。

 

 無論、それなりの見返りも提示されており、恐らく同様の書状が王都の宮廷にも送られている。

 

 どのみち、リートニアでの魔王討伐が間近であるというのが本当なら、タンデムとしても焦って勇者を呼び戻す必要もないというのが現実だ。なにしろここは世界有数の迷宮都市、冒険者の頭数には困らず、質にしてみても、“塔”を目当てにS等級すら複数人が常に滞在している。ちょっとやそっと迷宮で魔物が増えたとていささかの痛痒もない。

 

 国としても無碍にはしないだろうし、この要求は十中八九通る。

 

 だが、エランツァからするとそれは非常に面白くない事態だった。故に大きなため息を()いたところで、執務室にノックの音が響いた。

 

「エランツァ様、お客人をお連れいたしました」

 

「む……よいぞ、入れ」

 

 ギルド職員によって恭しく部屋に通されたのは、神官服を着た男と小柄な少女のふたりだった。

 

「やあ、久しいねエランツァ」

 

「……はぁ。何のようじゃ、コルギオス」

 

「ふふ、ひどいな、人の顔を見るなりため息なんて」

 

 コルギオス、そう呼ばれた男は抗議の言葉に反して、その態度はまるで気にした風でもなく薄ら笑いを浮かべている。

 

 嫌味にならない程度に整った顔貌は一見で年齢が窺いにくく、若者のようにも見えるが、その身にまとうどこか泰然とした雰囲気が壮年のようにも映させる。

 

 仕立ての良い神官服には凝った装飾が施されており、見るものが見れば彼が神導教会の枢機卿の位をいただく者であることが分かるだろう。

 

「ただでさえこの忙しい時期に、お前みたいなやつの顔見たらため息も出るわ」

 

 そんな、言わばお偉方の訪問を前にしてもエランツァは平常運転、どころか平時より三割増しの塩対応だった。

 

「うーん、僕の顔そんなにダメかなぁ。これでも信徒たちには結構評判良いみたいなんだけど」

 

「駄目じゃな。胡散臭い若作りって感じじゃ」

 

「若作りって……それ君が言うのかい?」

 

「あ?」

 

「おっと、失敬。何でもないよ。なんだか随分ご機嫌斜めなようだけど、その書状が原因かな?」

 

 S等級冒険者が割と本気の殺意を込めた睨みにも、あくまで飄々と返すコルギオス。

 

「お前には関係ない。さっさと要件を話せ」

 

「つれないなぁ。勇者の帰還が遅れるんだろう? それで繁忙期が伸びるのが君は嫌なわけだ」

 

 コルギオスの見透かしたような言葉にエランツァの頬が引き攣る。大方教会の情報網で諸々把握の上なのだろう。この男のこういうところがエランツァは苦手なのだ。ちょっと話しただけで非常に疲れる。

 

「ええい! いいから要件を言わんか! 用がないなら帰れ! 妾は忙しいのじゃっ!」

 

「ふふ、わかったよ。マリーメア」

 

 一歩引いた位置でソワソワしていた少女が、コルギオスに促されて前に出た。

 

 少女も同様に相当高位の神官服に身を包んでおり、どう見ても10台前半程度にしか見えない彼女にはひどく不釣り合いに見える。

 

「この子はマリーメア、司教の位に就いて貰っている。ちなみに年齢は見た目通りだよ」

 

「……ほう。そのなりで司教とはの」

 

 僅かな感嘆の響き。神導教会で身を尽くしたとしても司教まで辿り着かずに一生を終える者などごまんといる中で、彼女はこの若さでその座に就いたという。並大抵の能力では到底なしえない偉業といえるだろう。

 

「今日用があるのは僕というより主にこの子でね。僕は付き添いみたいなものさ」

 

「ふむ……よい、申してみよ」

 

 エランツァが目の前の少女、マリーメアを見やる。緊張からか、その身は細かに震え、肌は僅かに紅潮していた。

 

 それでも瞳は何か強い意志を湛えたようにエランツァを見据えたままに、口を開き——。

 

 

 

 

 

 

「だ、大丈夫か……!? っ、おい、腕が……!」

 

 駆け寄ってきたリンファがレティーナの安否を問おうとして、彼女の右腕を見て目を見開く。

 

 彼女の腕はあちこちが内出血で青くなっており、拳に至っては折れた骨が飛び出していた。

 

 流石にあの大きさの岩を迎撃するのに無傷とはいかなかったようだ。

 

「酷い怪我じゃないか!?」

 

「あぁ、すぐ処置しよう」

 

「ま、待ってください。大、丈夫です……!」

 

 急ぎポーションを始めとする応急処置用具を取り出そうとしたところを、レティーナに制される。

 

「いや、大丈夫ったって……」

 

 痛みを堪えるように歯を食いしばり、脂汗を流すその様は明らかに大丈夫そうではない。

 

 例えばホムラならこのくらいの手傷でも瞬時に治して見せるだろうが、生憎とレティーナは治癒魔法をほぼ使えない。命に係わる類の怪我ではないにせよ大怪我には違いないし、迅速に処置するべきなのだが……。

 

「これ、くらいなら……っ」

 

 俺の困惑を他所(よそ)にして、レティーナが呟くと腕が淡い光を帯びだした。

 

 まさかと思ったのもつかの間、みるみるうちにレティーナの腕から青みが引いて健康的な肌の色に戻っていく。そればかりか、拳から飛び出した骨がまるで逆戻りするかのように体内に収まり、傷も塞がっていった。

 

「なっ、治癒魔法……!? 使えるようになったのか!?」

 

 リンファの驚きの声に、レティーナはやや残念そうな表情を作って首を振る。

 

「残念ながら、通常の治癒魔法とは違っていまして……」

 

 言いつつ、レティーナは俺の方を見て何やら意味深に頷いてきた。

 

「…………?」

 

 よくわからないので曖昧に頷きを返す。

 

「身体強化術式を応用したもので、あくまで自分しか治せません。アデム様に教わった術のひとつです」

 

「??」

 

 そんなもん教えた覚えないが。

 

 ……いや、なんとなく原理は分かるし、ちょっと身に覚えはあるのだが、少なくともこんな効果があると思って教えていない。

 

 俺が教えたのはあくまで筋繊維の修復を早めるだけのもので、ようは筋トレ用の補助術式みたいなものでしかない。内部組織にしか作用せず、断じて外傷を、それも骨が飛び出るような怪我を治せるような代物ではないのだ。

 

 ならば何故彼女のそれはここまで強力な効果を得たのか……可能性としては魔力だろう。

 

 魔力スカスカ雑魚の俺と違い、レティーナには類稀ともいえるだけの魔力量がある。その差が身体強化術式と同様にこのような結果を産んだ、と……。

 

 自らの術式の有用性が証明されて喜ぶべきなのか、はたまたそれを使いこなせない(おの)が魔力の乏しさを嘆くべきなのか。

 

「さあ、先に進みましょう!」

 

「…………いや、今日はこの辺で引き揚げよう」

 

「え」

 

「リンファ、いいか?」

 

「あぁ。僕は構わない」

 

 リンファが頷くのを見て、俺は来た道を引き返そうとする。

 

「ま、まだ早いのでは。私はこの通り大丈夫ですよっ?」

 

 言いながら右手を掲げたり、その場で正拳突きを放って見せたりするレティーナ。ヴォンヴォンと不吉な風切り音を立てている。拳でそんな音鳴ることある?

 

 大丈夫アピールを続けるレティーナに俺は努めて優しい声音になるように語り掛けた。

 

「……怖かったろ」

 

「っ……」

 

 気丈に振舞っているが、レティーナの体や声は僅かに震えていた。明確な死の恐怖、ともすればかつて魔物に囲まれた時以上だったかもしれない。

 

 結果的に何とかしてしまったものの、冒険者として活動し始めて日の浅い彼女にとってそれは多大な精神的負荷だった筈だ。

 

 そんな状態では余計な事故を招く危険も高くなるし、無理して探索を続ける必要のある局面でもない。帰還はあくまで合理的な判断だ。

 

「ち、違うんです。これは、その……何というか、あれです、武者震いみたいな……だ、だから……!」

 

 それでも自分は大丈夫であると言い張るレティーナ。何が彼女をそうさせるのか。

 

 元々、聖女としての権能をまともに使えなかったレティーナの教会での扱いがどのようなものであったか、俺は想像で推し量ることしかできないが、少なくともよいものではなかっただろう。

 

 どこかに自分の居場所を求めて、冒険者ギルドまでやってきた。そうして今日、ようやく活躍の場を得られたと思った矢先に、自分のせいで探索が中断されると思っている。

 

 彼女は足手まといとなることを酷く恐れているのだ。

 

「すまなかった」

 

「ど、どうしてアデム様が謝るのですか……!?」

 

「罠の警戒を怠ったせいでお前を危険に晒してしまった。……リーダー失格だな」

 

「そんなっ……あれは私が迂闊に動いたからで……!」

 

 レティーナの言葉に俺は首を振る。

 

「このパーティーで罠の対処ができるのは俺だけだ。責任は俺にある……だからお前が気に病むようなことは何もない」

 

 きっぱり言い切ってやると、レティーナは目を見開いてから顔を俯かせた。

 

「……私、お邪魔じゃないですか……?」

 

「邪魔じゃない」

 

「……お役に、立てますか?」

 

「あぁ、これからが楽しみなくらいな」

 

「一緒にいても、いいですか……?」

 

「もちろんだ。……さあ、今日はもう帰ろう。次の探索に備えてさ」

 

 小さく響く鼻をすする音。レティーナは目元を両手で擦って、顔を上げて。

 

「……はい!」

 

 少し赤くなった目でにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

「どうした?」

 

 ギルドに入ってすぐ、レティーナがそんな声を上げて立ち止まる。視線の先を見ると、こちらを驚いた表情で凝視する少女がひとり。

 

「知り合いか?」

 

「は、はい。ええと……」

 

 レティーナの説明を待たず、少女が駆け寄ってくる。その表情は驚きから何とも言えない形相に変わっていく。……何か凄い怒ってない?

 

 間近までやってきた少女は全く勢いを殺そうとせず、そのまま踏み込むと俺に向かってドロップキックを放ってきた――!?

 

 

「レティ姉を返しやがれ、です!!」

 

 

 ……いや何の話だ!?

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