仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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22.襲撃

 理解不能な展開に虚を衝かれた俺は、それでも反射的に体に染みついた動きで対処に当たる。

 

 迫りくるドロップキックを半身になって躱しながら、その襟首と腰当たりを掴んでキャッチ。

 

 そのまま放りだすのも何なので、慣性を逃がすために半回転してからその場に下してやる。

 

「なっ……はぁっ!?」

 

 渾身のドロップキックを難なくいなされた少女は、驚愕の声と共にばばっと飛び退ったかと思うと、髪の毛を逆立てながら「シャーッ!!」とこちらを威嚇した。猫かな?

 

「ま、マリー!? 何してるんですか!?」

 

「レティ姉を取り返しにきた、です!」

 

「と、取り返すって……」

 

 マリー、そう呼ばれた少女がこちらをキッと睨む。

 

「こいつがレティ姉を誑かしたやつ! ぶっ殺してやる! です!」

 

「た、たぶ……!? 誑かされてないですよ!? というかそんな汚い言葉使っちゃいけません! めっ!」

 

「むぐ……じゃ、じゃあ、ぶっ飛ばしてやる! です!」

 

 レティーナに(たしな)められた少女は一瞬たじろいで、言葉を訂正する。

 

「よし!」

 

 よくはなくない?

 

「覚悟! です!」

 

 俺の困惑を他所に、再び飛び掛かかろうとする少女。それに対して、しばし呆気にとられていたリンファが割って入ってきた。

 

「何だお前、急に何のつもりだ!?」

 

「お前もこいつの仲間か!? 邪魔すんな! です!」

 

「嫌だ、と言ったら?」

 

「まとめてぶっ飛ばす! です!」

 

「上等だ! かかってこい!」

 

 途端、リンファの怒気に呼応したように赤く明滅する光球、ユノが飛び出し臨戦態勢とばかりに魔力を渦巻かせる。いやいや、こんな所で精霊術ぶっ放すのは流石に不味いって。

 

 俺は慌ててリンファを宥めにかかる。

 

「落ち着けリンファ、俺なら問題ない」

 

「む、しかし……!」

 

「これなら何回やっても捌ける」

 

「なぁッ……! 舐めやがって……! です!」

 

 俺の言葉に顔を真っ赤にして激昂する少女。しまった、ちょっと言葉のチョイスを誤ったか。

 

 しかし、リンファとしては彼女の様子に幾分溜飲が下がったらしく、小さく鼻を鳴らしながら魔力を霧散させて下がる。

 

 直後、殴りかかってきた少女の拳を掴み取り、受け流す。そのまま止めようかとも思ったのだが、さっきから見た目に反して中々の威力が籠っているため、出来るだけ威力を逃がすように立ち回っている。ただ力が強いというよりは、瞬発力による勢い故かな。

 

 等と呑気に分析していると、今度はレティーナが間に入ってきた。 

 

「ちょ、ちょっとマリー、やめなさいっ!」

 

「レティ姉、どいて! そいつ、倒せねー! です!」

 

「倒しちゃダメですよ!?」

 

 何とかサイドから襲い掛かろうとじりじり移動する少女と、それに合わせて守備位置を調整するレティーナ。結果的にふたりして俺を中心に周りをぐるぐると回る。何なんだよこの絵面は。

 

 周囲では騒ぎに気が付いた冒険者たちが遠巻きにこちらを見ており、「痴話喧嘩か」「修羅場……?」「サイテー」などとひそひそ話しているのが聞こえる。謂れのない冤罪が誕生した瞬間だった。勘弁して欲しい。

 

 ぐるぐる回り続けるふたりはちょっと面白いからもうちょっと見ていたい気もするんだが、このままでは身に覚えのない風評被害によって俺の評判が落ちそうなので、いい加減真面目に対処に当たることにする。

 

「なあ、何で俺は襲われてるんだ?」

 

「しらばっくれんな、です! お前がレティ姉を迷宮なんかに連れまわしてるやつだってのは分かってる! です!」

 

「連れまわされてなんかいませんよ! 私は自分で望んで迷宮に行ったんです!」

 

「むぐっ……」

 

 レティーナの強い語気に、若干怯む様子を見せた少女。動きを止めてレティーナと俺を交互に見やる。

 

「無理やりじゃねー、です?」

 

「違います」

 

「本当に?」

 

「本当です!」

 

「………………むぅ」

 

 ようやく落ち着いてくれたのか、少女が構えを解いた。

 

「もう……ほら、アデムさんにごめんなさいしましょう?」

 

「………………………………」

 

「マリー……?」

 

「う……ごめんなさい、です……」

 

 レティーナの悲しげな問いかけに、少女はびくりと肩を震わせると、不承不承といった様子で謝罪の言葉を口にした。

 

「申し訳ありませんアデム様。私からも謝罪いたしますので、どうかお許しを……」

 

「別に怒ってないから、頭を上げてくれ」

 

 突然の襲撃には驚いたものの、内容としては子供にじゃれつかれたようなもので実害もない。別段腹を立てるような道理もなかった。

 

 俺は未だこちらを恨めし気に睨む少女を一瞥する。

 

「……それでその子は?」

 

 レティ姉という呼称から妹かとも思ったが、見比べてみて似ているところは特にない。

 

「はい、この子はマリー……マリーメアといって、なんと神導教会の司教なんですよ!」

 

「司教? この子が?」

 

 俺はまじまじと少女、マリーメアを眺める。司教というと、神導教会でも上から数えた方が早い役職だ。高めに見積もってもせいぜい13歳かそこらにしか見えない彼女には、非常に似つかわしくないと言える。仮にこれが自己申告であったのなら、子供の戯言(たわごと)として一笑に付していたかもしれない。

 

 仕立てのよい神官服と頭を覆うベールはそれぞれ手の凝った装飾が施されており、聖女であるレティーナの証言も合わせて彼女が司教位であるのは事実なのだろう。

 

「……なんか文句あるのかよ、です」

 

「いや別に」

 

 大変不愉快そうなマリーメア。無遠慮に見すぎたかと反省し、彼女から視線を逸らす。

 

「さっきからレティ姉って呼ばれてるけど、妹ってわけでは……?」

 

「あぁ、いえ、血の繋がりなどはないですよ。妹のようには思っていますが」

 

 レティーナの妹のよう、という言葉に反応してマリーメアが顔を輝かせる。ん? 何かベールが動いてる……?

 

「あの、それでマリー、私を迎えに来たというのは……?」

 

 ひとまず場が落ち着いたことで、レティーナがおずおずと疑問を口にした。

 

「マリーが任務に行ってる間にレティ姉が冒険者ギルドなんかに行ったって聞いた、です。中々帰ってこねーから迎えに来た、です」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「だから早く一緒に帰るぞ、です」

 

「その、マリー……私はまだここでやるべきことがあるので帰れません」

 

「……!?」

 

 レティーナの言葉に驚愕したように目を剥く。

 

「な、なんで!? です!?」

 

「私は魔王発生による民の被害を少しでも減らすためにここを訪れました。少なくとも魔王討伐までは活動を続けるつもりです」

 

「そんなのレティ姉がやる必要ねーだろ!? です!」

 

「……私はこれまで聖女としての責務を碌に果たせずにいました。ですが、今度こそは私なんかでもお役に立てそうなのです」

 

「それでもっ、レティ姉は冒険者なんて野蛮な奴らとかかわっちゃいけねー……です!」

 

「マリー……」

 

 聞き分けのない子どものように、頑なにレティーナが冒険者として活動するのを拒むマリーメア。

 

 一方で、その言葉は間違いなく自分を(おもんぱか)っていることが分かるからこそ、レティーナは彼女をどう説得するべきか迷う。

 

 まだ情緒の幼げなマリーメアと、それを優しく諭そうとするレティーナ。本当の姉妹でないにせよ、そこには確かに姉の威厳のようなものが感じられた。

 

「マリー、あのね——」

 

 やや時間をかけて選んだ言葉を口にしようとして、

 

「あとレティ姉弱っちいもん、です」

 

「——よ、よわっ!?」

 

 マリーメアの辛辣な発言に激しく狼狽えた。おっと……?

 

「よわよわなレティ姉が迷宮なんて行ったら命がいくつあっても足りねー、です! 危ないことするな! です!」

 

「よわよわっ!? も、もう弱っちくないですよっ!」

 

「レティ姉、自分でいつも言ってるだろ、です。嘘はよくないって」

 

「嘘じゃないですー!」

 

 どうしよう、目の前で子供の喧嘩みたいなのが始まったぞ。いや少なくとも片方は子供に違いないんだが……レティーナが同レベルなのは……。姉の威厳は気のせいだったらしい。

 

「じゃあ分かりました! マリーも一緒に迷宮へ行きましょう! 私がよわよわでは無く、つよつよということを証明します!」

 

「行くわけねー、です。ほら、もうさっさと帰ろう、です」

 

「なんでですかー!」

 

 マリーメアの返答はにべもない。まあ危ないからレティーナに迷宮に行って欲しくないって言ってるんだから、そりゃ一緒に行くわけもないわな。ともあれ話は平行線かと思われた時だった。

 

「怖いのか? 迷宮が」

 

 投げかけられる多分に嘲りを含んだ言葉。リンファだった。

 

「……あ?」

 

「素直に言えば良いじゃないか。迷宮が怖いから行けませんってさ」

 

「誰がそんなこと言ったよ!? です!!」

 

「無理しなくてもいいぞ。仕方のないことだ。お子ちゃまに迷宮はまだ早いもんな」

 

「お、おいリンファ……」

 

 とんでもない煽りようだった。マリーメアはもはや言葉をなくして口をパクパクしている。あんまり頭にくると言葉でない時あるよね。

 

「……てやる」

 

「え……?」

 

 怒りでぷるぷると震えるマリーメアが、何事かを口にする。レティーナが聞き返すと、マリーメアはカッ、と目を見開いた。

 

「行ってやろーじゃねえーかッ! ですッ!! 迷宮でもなんでもよォ!」

 

「! ほ、本当ですかっ?」

 

「その代わり、レティ姉がつよつよだと証明出来なかったら素直に帰るぞ、です」

 

「いいでしょう! そうと決まれば善は急げです! 行きましょう、アデム様! リンファ様!」

 

「ああ」

 

「……え、あ、うん……」

 

 流れで俺も頷きを返してしまう。

 

 ……え、今から行くの?

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