仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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27.魔素酔い

 とまあ意気込んではみたものの、いつものように魔物を見つけるたび戦うようなことは出来ない。

 

 迷宮がどれ程の広さか分からない以上、なるべく消耗は避けるべきだからだ。

 

 よって、俺たちは極力接敵を避ける立ち回りが求められる。

 

 そのために俺がまずひとりで先行して索敵を行い、安全を確かめたうえで合図を出し後ろの3人が追随するという形式をとっていた。

 

 徘徊する魔物を発見した場合は、その進路を見定めた上でリンファたちに合図を送ってから潜伏、やり過ごす。

 

 その繰り返しによって探索を始めてしばらく、骨蝙蝠のような小さな魔物との戦闘だけで済んでいた。

 

 だが、どうしても戦闘を避けられない瞬間というのはやってくる。長い一本道の先、曲がり角の先にそいつは居た。

 

「……山羊頭」

 

 背後を確認するが隠れられそうな場所はなく、引き返すには距離が長すぎる。俺は皆に合図を送り、接敵に備える。

 

 巨体故のよく響く足音が、その距離を如実に伝えてくれる。三、二、一……今!

 

 俺が出した指のカウントを見届けた瞬間、レティーナが魔弾じみた速度でかっ飛んだ。

 

「!?」

 

 曲がり角を出た瞬間の完全な不意打ち(アンブッシュ)にも関わらず、山羊頭は辛うじてそれに反応して見せた。レティーナの飛び蹴りを咄嗟に腕で防御してみせたのだ。

 

 その勢いまでは殺せず背後の壁に叩きつけられるが、すぐに立ち上がろうとする気配。

 

 並みの魔物なら三度は死んでそうな蹴りだったのだが、やはり手強(てごわ)い!

 

 だが、こちらもみすみす相手に体勢を整えさせる気はない。

 

「【連鎖詠唱:尽く凍て貫け(ラピッドアイス)】!!」

 

「【ホーリーブラスト】!」

 

 後衛組の魔法が容赦なく叩きこまれる。執拗な程の時間撃ち込まれ、土煙が立ち込める。

 

 撃ち止め、煙が晴れる。

 

「……これでも……!?」

 

 リンファの驚愕の声。ここまで苛烈な先制攻撃を受けてなお、まだ山羊頭は斃れていなかった。

 

「ならもう一度……あっ!?」

 

 追撃を行おうとしたレティーナが山羊頭の振るった剛腕に弾き飛ばされる。

 

「レティ姉!?」

 

「ぐぅ……だ、大丈夫です!」

 

 辛くも受け身を取ったレティーナが、マリーメアの悲鳴に返事を返す。

 

 山羊頭がレティーナに対し更なる追撃を行おうとした時、何かに気づいたように振り返り、

 

「――もう遅い」

 

 剣を振り被る俺の姿をその目に映した。

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 その眼窩深くに剣を突きこまれ絶命した山羊頭を見下ろし、俺は軽く息を吐く。

 

 やはり、強い。

 

 レティーナの強襲に加え、リンファとマリーメアの弾幕でも決定打にはならなかった。マリーメアの魔法も冒険者の標準値は優に超える威力だったのにだ。

 

 今回は確実に()れるタイミングを見計らうことでとどめを刺せたが、毎回上手くいくかは微妙なところだ。

 

 一匹でこれなのだから、もし複数体との接敵が避けられないときは……。

 

 間違いなく窮地といっていい現状を再確認したうえで、不謹慎ながら俺は久しく味わっていなかった高揚感を感じていた。

 

 未知なる強敵との戦い。それこそが俺の求める探索に他ならない。

 

「レティ姉! 怪我が!?」

 

「大丈夫です、これくらい……ほら!」

 

「!?」

 

 レティーナの自己治癒に驚くマリーメアを尻目に、突き刺さった剣を引っこ抜くと、にわかに山羊頭の体が光の粒子となって溶け始めた。

 

「還元化が早いな……」

 

 迷宮内で絶命した魔物は時間経過とともに魔素に分解される。この現象を還元化と呼び、周囲の魔素濃度が高ければ高い程、分解速度は上がる。

 

 これだけ早いとなると迷宮内は相当の魔素濃度らしい。魔物も強力になるわけだ。

 

 最後に残るであろう魔晶石も気になるところだが、拾っている余裕はないか……。

 

「他の魔物が寄ってこないうちに先を急ごう」

 

「そう、だな……ぅ……」

 

「リンファ?」

 

 苦し気なリンファの声に、俺は踏み出しかけた足を止める。振り向くとリンファの顔色が悪い。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「ぐ……大、丈夫だ、これくらい……」

 

 そう言うリンファの顔には冷汗まで浮かんでおり、どう見ても尋常な様子ではない。

 

「大丈夫じゃないだろ、ちょっと見せてみろ」

 

「え、あ、ちょ……っ!?」

 

 俺はリンファに近寄り、その額に手を当てる。

 

「……? 何やってんだ、です?」

 

「多分、魔力を見てるのかと」

 

「はあ? 魔力を……見る?」

 

 熱っぽい……が、風邪ではない。接触部を介して、魔力の流れを探る。

 

「……やっぱり魔素酔いか」

 

「魔素……酔い……?」

 

「あぁ。魔素を魔力に変換する時、魔塵という残り(かす)が生じるんだが……それが短時間に大量に出ると体調を崩すんだ」

 

 そうそう起こることではないんだが、大量の魔力を消費したことに加えて高濃度の魔素に晒されたことで発症してしまったらしい。

 

「お前、結構前から調子悪かったろ」

 

「……そんな、ことは」

 

「今度から具合が悪くなったりしたら無理せず早く言え」

 

「……分、かった」

 

「とりあえず治療するからじっとしてろ」

 

「できる、のか……? 頼、む……」

 

 俺は頷きを返し、リンファの中を流れる魔力を制御することで魔塵を排出させていく。

 

「ん……ふあ……」

 

 リンファが妙に艶めかしく、熱のこもった吐息を漏らす。

 

 時間にして一分ほど経って、大分リンファの顔色も良くなってきた。何ならちょっと赤いくらいだ。

 

「どうだ? ……おーい、リンファ?」

 

「……んう……え? あ、あぁ、良くなった! ……ありがとう」

 

 とろんとした瞳で、少しの間ぼうっとしていたリンファがハッとしたように背筋を伸ばす。その後「……す、すごかった……」などとぶつぶつ呟いていたが、触れないことにする。

 

「なら良かった……しかし、そうか魔素酔いか」

 

 俺はマリーメアに視線を移す。

 

「な、なんだよ……です」

 

「……お前もそれなりに魔力を使っただろう。初期症状があるはずだ」

 

 リンファ程ではないにせよマリーメアも魔法を行使していた。よくよく見れば血色もやや悪い。早めに対応しておいた方がいいだろう。

 

「ひ、必要ない! です! 近寄るんなッ!です!!」

 

「いや、でもな……」

 

「いら! ない! マリーはあんな醜態晒したくねー! です!」

 

「んな!? 醜態!?」

 

 リンファが心外だ、というような顔で叫ぶ。

 

 後ずさりしながら、ふしゃーっと威嚇してくるマリーメア。

 

 戦闘中になって本格的に魔素酔いを発症したら命に関わるし、良かれと思って言ったんだが、こうまで嫌がられるとちょっと傷つくな……。

 

 どうしようかと思っていると、マリーメアの背後に近寄る影。

 

 それはマリーメアの肩をがっしりとホールドし……。

 

「!? れ、レティ姉!?」

 

「もう、マリー。我儘言っちゃいけませんよ! アデム様が困ってるじゃないですか」

 

「わ、わがままじゃ……ちょ、力強っ……!?」

 

「さ、アデム様今のうちに」

 

 満面の笑みでそう促すレティーナ。

 

「あー……悪いなマリーメア。ちょっと辛抱してくれ」

 

 絵面的に、一瞬躊躇してしまう自分が居たが、必要なことだと割り切る。

 

「ま、マリーのそばに近寄るなああーッ! です! ……ふにゃあぁっ……!?」

 

 案の定、魔素酔いの兆候ありだった。当初はじたばたと抵抗しようとして尽くレティーナに抑え込まれていたが、施術を進めてすぐに脱力して大人しくなる。心なしか頭に被ったヴェールもいつもよりぐったりと垂れている気がした。

 

  どうにもこの治療は妙な気分になるらしく、これまで施した相手も例外なくこんな反応を示していた。()()()は気持ちいいなんて言っていたっけな……。

 

 

 なお、俺はというと、多量の魔塵が生成される程の魔力総量がないので、魔力酔いとは生まれてこの方無縁である。数少ない俺の体質のメリットだな!

 

 …………。

 

 はあ……。

 

 施術後、マリーメアはぐったりしてしまっていた。

 

「うにゃぁ……マリーは汚されちまった、です……!」

 

「人聞きが悪い!」

 

 歴とした治療行為なのにひどい言われようだった。

 

「あ、あの……アデム様」

 

「ん? どうかしたのか、レティーナ?」

 

 とにかく、これで先に進めると思った矢先、レティーナに話しかけられた。何やらもじもじとしている。

 

「そ、その……私も魔素酔い? ではないかな、と……」

 

「本当か? ちょっと失礼」

 

「あっ……」

 

 リンファらにしたように、レティーナの額に手を置き、魔力を探ってみる。

 

 …………いや、至って健康体だな。魔塵もほぼ感じ取れない。内部完結した術式故か、あるいは聖女の特性か……?

 

「ど、どうでしょうっ?」

 

「え? あー……いや」

 

 なにやらわくわくしたような気配のレティーナに首を傾げつつ。

 

「問題ないな。今のところ、魔力酔いの心配はない」

 

「……え」

 

 固まるレティーナ。なんだその反応は。

 

「……そ、そんな……! で、でも一応治療を……!」

 

「いや、そもそも魔塵がほとんどないから治療も何も……」

 

「私だけ仲間外れは嫌ですぅ!」

 

「仲間外れって……」

 

 別にならなくていいだろ、魔素酔いの仲間なんて……。むしろ喜ぶべきだと思うのだが、レティーナが何に嘆いているのかが理解できない。

 

 謎にぐずるレティーナを宥めつつ、俺たちはその場を後にした。

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