仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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28.会敵

「せッ……あぁッ!!」

 

 もう十数度目かになる接敵。俺が作った隙を突いて放たれた、レティーナの踵落としが山羊頭の頭部に炸裂。頭をかち割られた山羊頭が地面に沈む。

 

 まず一匹。

 

「【連鎖詠唱:尽く凍て貫け(ラピッドアイス)】!」

 

 すっかり得意技となったリンファの連鎖術式がもう一匹の山羊頭に殺到する。それらは時間稼ぎ――に留まらず、防御の上からじわじわと山羊頭の体表を削り取っていく。

 

「【ホーリーバースト】!」

 

『――――ッ!!』

 

 追い打ちとばかりに山羊頭の足元から光の柱が立ち上がり、その身を激しく焼き尽くす。

 

「【二重詠唱:氷塊よ打ち砕け(アイスストライク)】!」

 

 ダメ押しとばかりに放たれた氷塊が決め手となり、もう一匹の山羊頭も地に伏せた。

 

「ふう……こっちは片付いた! そっちは?」

 

「こちらも終わりました!」

 

「よし……アデム、治療を頼めるか?」

 

「あ、あぁ……」

 

 あの後から徐々に避けられない戦闘が増えてきたが、俺たちは誰一人かけることなく探索を続けられていた。不幸中の幸いというべきか、高い魔素濃度のおかげで魔力切れの心配も今のところない。都度、魔素酔いの治療が必要にはなってしまうのだが……。

 

 俺は促されるままに魔素酔いの治療にあたる。

 

「んん……はぁ……!」

 

 相変わらず妙に艶っぽい声を漏らすリンファにやや気まずい気持ちを抱きながら、俺は努めて冷静に施術を完遂する。隣を浮遊するユノまで何だか赤っぽく光ってゆらゆらしていた。

 

「……終わったぞ」

 

「……ふぅ……あぁ、ありがとう」

 

 リンファの治療が終わるや否や、次はマリーメアが頭を突き出してくる。

 

「ん!」

 

「はいはい……」

 

 最初はあれだけ嫌がって見せたマリーメアだが、段々慣れてきたのか、こうして自発的に治療を受けるようになった。

 

「うにゃぁ~……」

 

 こっちもこっちで理性が溶けたような何とも言えない声を出して脱力しているが、リンファと違って動物でも撫でてるような気分だ。

 

「アデム様! 今度こそ! 私も!」

 

「えぇ……? まあいいが……うん、正常だぞ」

 

「どうしてですか!? あ、あんなに魔力を使ってるのにー!」

 

 ちなみにレティーナも懲りずに毎回確認を要求してくるのだが、何度やっても結果は同じであり、毎度何故か悔しがってみせている。何なのか。

 

 それはそうとして。

 

 なんか……強くなってないか?

 

 ここ数戦、山羊頭を含めた複数体の魔物との戦闘が続いているのだが、それら尽くをこうして打ち破ることに成功している。

 

 慣れもあるかもしれないが、それ以上に明らかに面々の火力が向上している。リンファとマリーメアの術は致命打を与えられるようになっているし、レティーナもゴリ押しで山羊頭の防御を突破出来るようになってしまった。

 

 高濃度の魔素に晒されながら魔法を使い続けてる影響か……?

 

 特に精霊のユノは恩恵が顕著なのか、普段の5割増しぐらいで煌めいてる気がする。

 

 対して俺は普段との変化は感じられず、平常そのものだ。解せぬ……。

 

 仲間が頼もしいのは喜ばしいことではあるのだが……。

 

 俺が上手く消化出来ないモヤモヤを抱えていると、何かを手に持ったリンファが近寄ってくる。

 

「アデム、これ……!」

 

 それは腕輪だった。手の凝った装飾が施され、細かな文字のようなものが至る所に彫られている。

 

「遺物……!? どうしたんだ、これ」

 

「今倒した魔物が持ってたみたいだ」

 

 顎をしゃくって背後の遺骸を示しながら、リンファが腕輪を手渡してくる。

 

 俺は腕輪をまじまじと見つめる。遺物にはほぼ確実に特殊な機能が備わっているが、それがどのようなものか知るには鑑定の技能が必要であり、拾ったその場ですぐ活用できるというようなものでもない。

 

 だが、ものによってはその機能を推測することが出来る場合もある。

 

 俺は腕輪を剣の柄と強めにぶつけてみる。

 

「何を――うわっ?」

 

 瞬間、腕輪は強い光を放つ。どうやら思った通りの代物だったらしい。

 

「な、なんですか今の光?」

 

 突然の発光に、レティーナが不思議そうな顔で尋ねてくる。

 

「この遺物の機能だな」

 

「遺物の……?」

 

「あぁ。衝撃を与えると発光するらしい」

 

「……他には?」

 

「他? いや、多分それだけだが」

 

「な、なんだそれ……なんで分かるんだ?」

 

「文字みたいなのが彫られているだろう? ある程度の法則性があるんだ。まずここの文字が……」

 

 簡単に説明してやる。リンファが分かったような分かってないような曖昧な頷きを返す。

 

「なるほど……? 詳しいな」

 

「まあ、それなりにな」

 

 何しろ遺物は俺の体質を改善できるかもしれない希望のひとつ。そうでなくとも冒険者とは切って離せない存在なのだから、詳しく調べないはずもない。

 

「でもそうか、光るだけか……」

 

 落胆を感じさせる声で呟くリンファ。まあ気持ちは分からんでもない。

 

 遺物もピンキリ。全部が全部、強大な能力を秘めているわけじゃない。何ならこういう冗談みたいなものの方が多い。

 

 だが俺は、そういう冗談みたいな遺物が嫌いではなかった。なんなら好きまである。だから目的を別にして、遺物漁りそのものが趣味になりつつある。

 

「それでも遺物には変わりないし、そこそこの値は付くぞ」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ。どんな効果でも遺物ってだけで貴重だからな。市場とか見に行くともっと意味分からんものもある」

 

「ふぅん……それはちょっと面白そうだな」

 

「お、それなら今度一緒に見に行くか? 手放すつもりなら良い店も紹介するぞ」

 

「うえっ!? そ、それは……!」

 

 何の気なしの一言だったのだが、リンファは妙な声を上げて挙動が不審になる。

 

「あぁいや、別に無理にとは……」

 

「いやっ無理じゃない! !」

 

「お、おう」

 

 食い気味だった。

 

「アデムとお出かけ……ふたりで……!?」

 

 そのまま背を向けたかと思うと、ユノに向かって何事かをぶつぶつと口にするリンファ。

 

「アデム様、私も遺物についてもっと知りたいです」

 

「おう、じゃあレティーナも一緒に来るか?」

 

「はい、ぜひご一緒させてください!」

 

「んなっ!?」

 

 レティーナとのやり取りを聞いたリンファが何故かわなわなと震えだす。

 

「リンファ? どうした……?」

 

「……どうも! しない! さっさと先に進むぞ!」

 

「おい、リンファ!?」

 

 急に不機嫌そうになったかと思うと早足に歩き始めてしまった。

 

 なんなんだ……。

 

 俺は困惑しつつ、リンファを追いかけようとする。

 

『――女心が分かってない……』

 

「え?」

 

 俺は足を止め、周囲を見回す。

 

「どうかされましたか?」

 

「いや……今何か言ったか?」

 

「? いえ、何も言っていませんよ?」

 

 次いでマリーメアを見るが訝し気な表情でこちらを見返すのみだ。

 

 俺が首を傾げていると、その隣を煌めく光――ユノが横切って行った。普段はリンファにピッタリくっついているのだが、珍しく置いて行かれていたらしい。

 

「……いや、まさかな」

 

 後衛であるリンファに最前を歩かせているわけにはいかない。俺は小さく首を振って、リンファの背中を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 遭遇する魔物を手早く倒せるようになった俺たちは、探索のスピードを上げていき、大分精神的にもゆとりを持つことが出来ていた。

 

 転移当初は憔悴していたマリーメアも、出会ったときの元気を取り戻しつつある。後はこのまま出口に辿り着き無事迷宮を出ることが出来れば大団円、というところなのだが。

 

 現実はそう甘くはないらしい。

 

 目の前に聳える巨大な門。その先には円形の大広間が広がり、更に奥には輝く結晶体が見えた。

 

 ――そしてそれら全てを差し置いて、視線を奪う存在感がひとつ。

 

 

 迷宮守護者。

 

 

 そいつは黒い甲冑騎士の姿をしていた。

 

「あれが……迷宮守護者」

 

「あぁ。あれを倒さないと僕らは帰れない」

 

 迷宮守護者を初めて見たであろうレティーナとマリーメアはもちろん、リンファからも緊張が伝わる。

 

「準備はいいか」

 

 心の準備を兼ねたしばしの休息を取った後、最後の確認に皆が頷きを返す。

 

 守護者の間に立ち入ると、背後の門が閉まる。

 

 迷宮守護者は一定の距離に入るか、こちらから攻撃行動をとらない限りは動き出さない。眼前の黒騎士も例外ではない。

 

 彼我の距離が縮むにつれて、黒騎士が思った以上に小さいことに気づく。

 

 俺より頭ひとつ高い程度だろうか。ここまで相手にしてきた山羊頭や、以前戦った紫晶の魔蠍(アメジスト・スコーピオ)に比べればいささか矮小にさえ思える体躯。

 

 それとは対照的な長大な大剣。

 

 肌をざわつく程の存在感、威圧感――!

 

 間違いなく、こいつは強い。

 

 後衛のリンファとマリーメアを背に、俺とレティーナが守護者の元へ歩みを進める。

 

 あと数歩進めば、一息で距離を詰められるというところで、先に動いたのは守護者だった。

 

 ――速いッ。

 

「!?」

 

 一瞬にして距離を塗りつぶし、間合いを侵食される感覚。

 

「ぐうッ!?」

 

 首元への一閃を辛くも防ぐも、間髪入れぬ切り返しから追撃が迫る。

 

「せあぁっ!」

 

 その刃、剣の腹をレティーナが蹴り上げた。がら空きとなった胴に向けて剣を薙ぐが、黒騎士は背後に飛ぶことで難なく躱される。

 

「【連鎖詠唱:尽く凍て貫け(ラピッドアイス)】!」

 

 そこをリンファの精霊術による氷塊の雨が襲うも、それらすべてを黒騎士は斬り払うことで防いで見せた。

 

 束の間の睨み合い。

 

 鮮烈な攻防を以て、迷宮守護者との戦いが幕を開けた。




この度、書籍化が決まりました。これもひとえに応援してくださった読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます!

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