仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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31.エピローグ/リートニアにて

「……ん……」

 

 目覚めてまず感じたのは差し込むような眩しさ。朝日だろうか。

 

 この流れは分かるぞ。目を開くとお馴染み、ギルド医務室の天井――

 

「あ」

 

「え」

 

 ではなく超至近距離の虚ろな目をしたホムラと目があった。

 

 次の瞬間、昏い瞳が揺れたかと思うとぶわ、と涙が溢れ出した。

 

「あでむざあぁんっ……! よがっだぁ……!」

 

「ちょ、かかってるかかってる……」

 

 滂沱の涙が全部俺の顔面に直撃してきてる。滝行かな?

 

 いや、何だ、どういう状況? というか眩しいな!? どんだけ明るいんだよこの部屋!?

 

「あ、アデムの声!? 目が覚めたのか!? ……ぐぅ、何も見えない!」

 

「リンファか? これはどういう……!?」

 

 リンファは手で目元を覆いながら、こちらを見ようと頑張っていた。……。あー、これは……。

 

「それが、急に倒れた君をここまで連れ帰ったんだが、外傷もないのにどうしても起きなくて……そこでそこの……ホムラさんが、来て……」

 

「あー、うん大体わかった。あれか、これまた俺光ってるわけね」

 

 目覚めない俺に対して、いつぞやのように治癒魔法をかけまくった、と……いや、にしても光り過ぎじゃないか。前の比じゃないぞこの眩しさは。

 

「……どれくらいかけ続けてたんだ」

 

「多分、2時間くらい……?」

 

 2時間!? そんなにかけ続けて魔力持つもん!? というか流石に止めろよ!

 

「あ、アデムさん、目覚めたっすか!? 良かったっす!」

 

「本当、よかったわ、いろんな意味で……ほら、ホムラ。もう障壁を解きなさい?」

 

「し、障壁?」

 

 ちょっと衝撃のワードに俺は未だ涙を流し続けるホムラを見る。

 

「だって、みんなが邪魔しようとするから……」

 

 障壁に阻まれて誰も止められなかったのか……。いや、2時間障壁も維持してたってことか? 嘘だろ? 俺は自分の頬が引きつるのを感じた。

 

「ま、まああれだ。おかげ……で? 目が覚めたよ、多分、うん……ありがとうなホムラ……」

 

 言いつつ、俺は何の気なしに自身の状態を確認しようと魔力を操作して――

 

「ぁがッ……!? ああぁあぁ……!?」

 

「あ、あでむさん!?」

 

 唐突にその身を苛んだ激痛に身を跳ねさせた。例えるなら筋肉痛等級(ランク)S……! 体の内側から針で滅多刺しにでもされてるような……!? 遺物の副作用か……!?

 

 しかし、実のところそんなことはどうでも良かった。いや、どうでもよくなる事実に気が付いてしまった。それは。

 

 魔力量が、戻ってる。

 

 あの時は満ち満ちていた魔力の総量が、無情にも元の量に戻っていた。

 

 俺は呆然として、ベッドの上でぐったりとする。

 

「ちょ、どうなったんだ!? アデム、大丈夫なのか!?」

 

「いや、いやああぁぁ! あでむさん! 死んじゃいやですぅ!!【アークヒール】【アークヒール】【アークヒール】うぅぅ!!」

 

「ちょ、ホムラ、落ち着きなさいってば……! アデムさんも、大丈夫!?」

 

「眩しいっす!」

 

「あ、あの、色々持ってきたんですけど、これはどういう状況で……!?」

 

「うわっ、何か悪化してやがる、です!」

 

 レティーナやマリーメアもやってきたらしく、いよいよ医務室は混沌を極め出した。

 

 そんな喧騒の中で、俺は再びクソ雑魚魔力の逆戻りの失意に飲まれて脱力する。

 

 ふて寝でもしてやろうかと思ったが、この騒がしさと眩しさではそれも厳しい。

 

 騒がしくしている仲間たちを眺めながら、まあ皆無事で帰れたんだしそれでいいか、なんて考えて。

 

「ほら、ホムラ……俺は大丈夫だから……」

 

 まずは医務室の静けさを取り戻すべく、奮闘することにした。

 

 

 

 

 ――リートニア王都冒険者ギルド。

 

 その長を務める男、バーンハルド・ニーマンは片眉を上げながら口を開いた。

 

「祝勝会には出ない、だぁ?」

 

 執務室にはバーンハルドの他に女がひとり。

 

 常人より遥かに高い上背に良く鍛えられた筋肉質な肉体。彫の深い顔は厳めしく、例え当人にその気がなくとも相対する人間に威圧感を与えるだろう。

 

 しかし、バーンハルドの前に立つ女はその例からは外れていた。

 

 短く揃えられた青銀の髪に眠たげな眼。あどけなさの残る容貌は、やや小柄な体躯も相まって女を少女のようにも見せる。

 

 そんな彼女は柳に風、まるで動じる様子もなく頷きを返す。

 

「早く帰らないと、いけない。……もう行って、いい?」

 

「待て待て、せっかちな奴だな……こっちの都合で最後まで付き合わせておいてなんだが、あのタンデムだぞ? そんなに急いで帰る必要あるか?」

 

「……必要は、ある」

 

 使命感のような、揺るがぬ信念のようなものを感じさせる声音。

 

「いや、でもなぁ……国を挙げての祝勝会に主役の()()が不在ってのはよ……」

 

「……? 別に、私が居なくても、リートニアの勇者が出れば問題、ない」

 

 その言葉にバーンハルドは眉間を揉むと、厳めしい顔で八の字眉を作った。

 

「いや、その勇者君は魔王討伐はお前さんの手柄っつってんだ。ディー・ラトアイルこそが最大にしてほぼ唯一の功労者……ってな」

 

 唯一の功労者、言い換えるならばそれは即ち実質単独にて魔王を滅ぼしたという意に他ならない。討伐に同行した、それも同じ勇者をしてそう言わせしめんが程の圧倒的な武。

 

 当代最強と称され、歴代最強をも噂される存在。

 

 それこそが目の前で爆速帰宅しようとしいてる女、勇者ディー・ラトアイルだった。

 

「あいつはあの通り真面目ちゃんだからな。お前さんを差し置いてパレードの主役にってのは嫌がるだろうよ」

 

「知らない。帰る」

 

 にべもない返答とともに、とうとう踵を返すディー。

 

「あ、おいちょっと!」

 

「……まだ、何か?」

 

 振り向いたディーから発せられる不機嫌そうな声。その外見からは想像できない程の圧力を感じて、思わずバーンハルドはたじろぐ。

 

「あぁ、いや……あれだ、帰ったらエランツァによろしく伝えといてくれ……」

 

「……ん」

 

 短くそれだけ返して、今度こそ部屋を去っていった。

 

 残されたバーンハルドはガシガシと頭を掻きながら深いため息をひとつ。

 

「まーたお偉いさんの小言聞かなきゃなんねえのか……」

 

 そうぽつりと零した。

 

 

 

 

 話を終えたディーがギルドから出ると、人影がみっつほど、表でディーを待っていた。

 

「あ、ディー。どうでしたか? 一応、馬車は手配しておきましたが……」

 

 そう言ってすぐそこに停留する馬車を手で示すのは勇者パーティーのひとりにして聖女のアムリラだった。

 

「帰るって伝えて、きた。馬車、ありがと」

 

 アムリラに感謝を述べるなり、馬車に乗り込んでいくディー。

 

「ちぇー、折角お城で美味しいもの食べられると思ったのにさー。ディーはちょっと仕事人間過ぎるよ。そう思わない?」

 

 口を尖らせながらディーへの文句を垂れる少年は同じく勇者パーティーの一員で賢者のバイロン。そんな彼から愚痴を振られたのは勇者パーティー最後のひとり、剣聖レオネスだった。

 

「思わん。故郷の危機に一刻も早く駆け付けんがため、祝の場すら辞退する……ディー様こそ正に勇者の鑑だ。我々も見習わねばならん」

 

「うわ、ここにも頭仕事人がひとり!」

 

「……そんなに帰りたくないなら貴様はひとりで残ったらどうだ?」

 

「あー! そんないじわる言っちゃうんだ! ディー! 聞いてよー!」

 

「あ、こら、待て貴様ッ!」

 

 レオネスの発言をディーに告げ口しようと馬車へ駆け込むバイロンに、それを追うレオネス。

 

 それを見て苦笑するアムリアが馬車に乗り込むと、馬車はタンデムへ向けて走り出した。

 

「ディー! レオネスがぁ!」

 

「このガキ……いい加減に……!」

 

「もう、ふたりとも馬車の中で騒がないでください……ディーからも言ってください」

 

「……静かに、して」

 

「っ……失礼しました」

 

「ぶー、だってレオネスがー」

 

「このっ……まだ言うか……!?」

 

 なおも小声で争うバイロンとレオネスを一瞥して、ディーは窓の外に顔を出す。

 

 見つめる先は故郷であり魔王が待ち受ける地でもあるタンデム。

 

 確かに魔王を倒すのは勇者に課された使命だ。討伐は早ければ早い程良いのは間違いない。だが、先ほどバーンハルドが言った通り、ことタンデムにおいて現状そこまでの緊急性がないこともまた事実。

 

 仮に他の地で魔王が現れて、そこに向かう必要が出てもディーは国からの誘いを断ってまで急行することはなかっただろう。

 

 ディーがここまで帰路を急ぐのには理由がある。それは──

 

「……アデム……」

 

 ディーの小さな呟きは誰に届くこともなく、風に乗るように溶けて消えていった。




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