仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い 作:縁日 夕
32.忍び寄る影
“塔”を始めとした数多くの迷宮を有する都市、タンデム。この街で生まれた以上、ほとんどの人間がその身近な英雄譚に憧れ、一度は冒険者としての大成を夢に見る。俺も例に漏れずその手合いだ。
とはいえそれは子どものうちであり、多くの者はその栄光の裏にある過酷な現実を理解して別の道へ進むことを選ぶ。
常に命の危険と隣り合わせであることを認識したもの、己に適性がないことを知ったもの。それぞれの理由でひとり、またひとりと諦めていく。
そんな、言い方を変えれば地に足のついた子どもたちと違い、俺はあくまで冒険者を志し続けた。それはもう、同様に冒険者を目指し続ける同輩たちがちょっと引くぐらい熱心に。
何が俺をそこまで駆り立てたのか。それは英雄譚や伝説に事欠かないこの街で
折れそうになったことだってあった。何せこの身には冒険者の資質として最も重要な魔力が致命的に欠けている。それでも俺は今日まで何とか冒険者を続けている。
未だ踏破されぬ“塔”の最上階、即ち冒険者の
そんな俺は今……。
「る、る……ルビー!」
「ビール」
「る!? る、る……あ! ルール!」
「……留守」
「す……スライム」
「ムニエル」
「むあぁ! るばっかりやめろ! ですッ!!」
迷宮でパーティーメンバーにしりとりの“る”攻めをしてキレられていた。
危険な迷宮で何を呑気なと思われるかもしれないが、これには深いわけがあるので聞いてほしい。
「お前とはもう遊んでやんねー! です!」
「悪かった悪かった」
そっぽを向いて如何にも怒っていますとアピールする少女、マリーメアに微笑ましい気持ちを抱きつつ彼女を宥める。
「ふん、だ! あっち行け! です!」
言いながら、むしろ自分から距離を取ろうとするマリーメア。
「そう怒るなよ……っと」
あることに気づいた俺は、おもむろにマリーメアを抱き寄せた。
「ほわぁァッ!? んなな、何しやが……!?」
驚き、抗議の声を上げようとしたマリーメアのすぐ横、つまりマリーメアが行こうとしていた空間を何かが高速で通過していき、はるか後方で壁の染みになって止まった。
冷や汗を垂らして絶句するマリーメア。
飛んできた物体の正体は魔物だった。つまりは今のは魔物の攻撃……というわけではない。
「【
高らかな詠唱と共に炎の壁が立ち上り、迷宮を赫く照らす。
リンファとユノの精霊術だ。顕現した炎の壁によって魔物たちが打ち上げられて燃え尽きる。その術、進路妨害用であって、そんな直接焼き尽くすような代物じゃないぞ。
「せやぁー! とりゃー!」
そんな炎をバックにして勇ましい(?)
「た、助かった、です……」
「おう」
マリーメアの言葉に短く答えながら、俺は遠い目をする。
俺が迷宮でマリーメアとしりとりなんぞに興じていた理由、それは――
仲間が強すぎてやることがねえ……。
俺はひどい既視感に襲われて、こめかみを押さえた。
以前から兆候はあったのだが、先の転移罠の件を経て一気に顕著化していた。
例の迷宮は後の調査をよってその危険度がAに引き上げられ、その迷宮守護者を討伐したことでリンファはCを飛ばしてB等級までサクッと昇格。マリーメアに至っては最低等級のFからCまでの飛び級。とんでもないスピード出世だった。
そんなわけでここ最近の俺たちは主に危険度Bの迷宮を探索しているのだが、まあ俺の出る幕がない。
レティーナは日々の鍛錬によってますますその格闘能力を上げているし、純粋に強化の出力も上がっている。このタンデムでも純粋な肉弾戦ならトップクラスかもしれない。
だが、その上で特に目覚ましい成長を見せているのはリンファ、より厳密に言うならユノか。
転移先で高濃度の魔素を浴びながら魔力循環を行ったことや、守護者との戦いで窮地に陥ったこと。様々な要因が重なったことで、ユノは上位精霊と遜色ない程までにその位階を上げていた。
魔力の波長を合わせる為にも、精霊術士は契約精霊との絆が重要とされる。その点、リンファとユノは血の繋がった姉妹であり、これ以上ない程の信頼関係が築かれているし、魔力的相性も抜群ときた。
結果は目の前の惨劇を見ての通り。視界に入る魔物という魔物を抵抗も許さず焼き払い続けている。
しれっとパーティーに居座り続けているマリーメアがB等級へ上がり次第、危険度Aに挑戦しても全く問題ないのではと思える強さだった。
……このパーティーにまだ俺は必要なんだろうか。
そんなことを考えるのも最近二度目。人生でなら三度目ぐらいか。どうなってるんだ……。
ひとり悶々としていると、魔物を片付けたレティーナが遠くからこちらに手を振ってきた。
「アデム様ー!」
「どうしたー?」
「罠を見つけましたー! これ、この前教わったやつですよねっ!」
レティーナが指さす先をリンファとユノが覗き込んでいる。俺も目を細めて見ればなるほど、確かに罠らしき床が見える。
以前の失敗を踏まえて、俺は何度かレティーナに罠についてのレクチャーを行っていた。
罠の対処法はざっくり二種類。避けられるなら避ける、無理なら解除。それだけだ。
遠目に見えるそれは、いっそあからさまなくらいにちょうどこの間教えた感知式の罠らしき特徴をしており、それに則るならば迂回で問題ない、のだが……。
「こっちから回れば大丈夫ですね!」
「あ、ちょ」
止める間もなくレティーナは罠を避けて歩みを進め、その先の床をガコン、と沈めさせた。
偽装された罠だった。二段構えである。
「あ、あれ?」
「お、おい床が……!?」
レティーナが間の抜けた声を出すのが早いか、罠は即座に起動する。レティーナたちがいる辺りの床が斜めに傾き、通路を塞ぐような大岩がレティーナたちに転がってきていた。とはいえ今の彼女たちならあの程度の岩、正面から止めるなり壊すなりで対処は容易かろう。
「きゃーっ!?」
「嘘だろうっ……!?」
『お、お姉ちゃん走って走ってっ!』
泡を食ったレティーナたちが走って逃げて行き、通路の角から消えていった。逃げるのか……いやまあ突然あんな岩が転がってきたらテンパるのも無理はない……のか?
「れ、レティ姉ー!?」
一連の流れにあっけに取られている俺を置いて、マリーメアが一目散に後を追っていった。
無論、放っておくわけにはいかないので、俺も追いかけるしかない。
「何だか退屈そうじゃーん?」
「──ッ!」
俺は瞬時に引き抜いた剣を背後の
「わあぁっ、ちょちょタンマタンマ!」
そこにいたのはひとりの少女だった。歳の頃はレティーナと同じぐらいだろうか。暗がりに溶け込むような黒い衣装に、これまた黒い髪を頭の左右でふたつ結びにしている。
ごく至近距離、話しかけられる瞬間まで気づかずに接近を許した。その事実に冷や汗が流れる。
「……なんだお前」
両手を上げて、首を振る少女。俺はその首元に添えた剣を下すことなく問う。
「な、何って……ただの同業者って感じ?」
「……なんで気配を消して近づいた?」
「それは、えーっと……職業柄、的な? 驚かすつもりはなかったんだって、ほんと! メンゴ!」
そう言う彼女からは確かに敵意などは感じられない。職業柄というと、斥候職ということだろうか。確かにそういった連中には常より隠密行動を癖づけている輩もいる。
そも、彼女が俺を害するつもりだったなら声など掛けず襲えばいいだけだ。
俺はゆっくりと息を吐いてから、剣を下した。
「……他ではもうやらない方がいい。うっかり殺されかねんぞ」
「だねー……マジ反省!」
言いながら、たはーと笑う少女。本当に反省しているんだろうか……。
「それで、何か用でもあるのか?」
「え、用?」
きょとんとした顔で首を傾げる少女。まさか用もなしに気配を消して近寄って急に声かけてきたのかこいつ。
「あ、あー用ね、あるあるめっちゃある!」
本当かよ。
「あーしさ……」
俺は訝しみつつも彼女の言葉を待つ。
「実はアデぴ推しなんよね」
「アデ……何?」
「もうマジ、推し超えて激推しっていうの? だから生アデぴ見て超アガっちゃってさー!」
「いや、いやいや……」
正直使ってる言葉が独特過ぎてあんまり理解できてないが、どうやら俺のファンらしいというのは伝わった。そんなことある?
これがS等級冒険者だったり、話題のA等級冒険者である“銀閃”とかなら分かるが、俺にファン……?
「誰かと間違ってないか? そんな大層な冒険者じゃないぞ、俺は」
「またまたー、最近大活躍で話題になってっしょ! 守護者討伐とか!」
確かに、ここのところレティーナ絡みだったり迷宮守護者の撃破によるパーティーメンバーの飛び級やらで若干悪目立ちしてた感はあるかもしれないが……。
「話題ねえ……」
「そ! 話題! 転移先の魔物の巣切り抜けて、そのまま迷宮も踏破してってヤバすぎテンアゲ!」
「魔物の巣って……そんな話まで広まってるのか?」
一体誰からどういう風に発信されてるのか謎だった。
「あーでも、黒騎士は……」
「アデムー!」
少女がまだ何事か続けようとした時、俺を呼ぶ声が耳に届いた。そちらを見れば通路の角から顔を出すリンファ達の姿が見える。どうやら岩は無事なんとかなったらしい。
「最後が呆気なさ過ぎてぴえんだったかな~」
「――今なんて、」
問いに答えはなく。振り返った先には、まるで闇に溶け込んだように少女の姿は影も形も残ってはいなかった。
ギャル語エミュの学習元が透けて見えるのはご愛嬌……