仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い 作:縁日 夕
目を離したのはほんの一瞬。にも拘わらず完全に見失ってしまった。気配を探ってみても、一切その存在を感じ取れない。接近に気づけなかったのもそうだが、かなり高度な
あれだけの芸当が出来るとなるとかなり高位の冒険者だと思うのだが、生憎俺の知る中で心当たりはない。
それに気になるのは最後の言葉。聞き間違いでなければ黒騎士がどうのと言っていた筈だが……。
「無視! すんな! です!!」
思考の海に沈みかけた俺を現実に引き戻したのは、そんな叫びとともに背後から迫る殺気だった。直感に従ってサイドステップを踏む。
直後、真横を通り過ぎていくマリーメアの飛び蹴り。
「避けんな! です!」
「何するんだ」
「お前がレティ姉無視するからだろ! です!」
どうやら俺が考え事をしている間に話しかけられていたらしい。気づかなかった。
「レティ姉に謝れ! です!」
「いや、無視したわけじゃなくて……!?」
弁明しようとしながらレティーナを見た俺は、思わず声を途切れさせた。
レティーナはすっかり意気消沈した様子で、小刻みに震えている。
「いいんです、マリー……。私が悪いのです……」
「れ、レティーナ?」
「あんなに罠について教えて貰ったのに、またもやまんまと引っかかって……仲間を危ない目に合わせて……呆れられて、当然です……」
じわり、と目に大粒の涙が浮かぶ。ちょ……な、泣く……!?
「レティ姉!? レティ姉は悪くねー、です! この! 早く! 謝れッ!」
「す、すまんレティーナ! ただ考え事してて気づかなかっただけで……!」
マリーメアにげしげしと蹴られながら、俺は慌てて誤解を解きにかかる。
「いつもそうです……やることなすこと空回りって……いつまでたってもポンコツ聖女で……! このままじゃ、み、見捨てられて……!?」
「いや別に見捨てたりは……」
何やら妙なトラウマが刺激されてしまったらしい。ネガティブスパイラルに陥り始めたレティーナをどうにか宥めようと言葉を選ぶ。
「……助けには来てくれなかったけどな」
「り、リンファ?」
ボソッと呟いたのはリンファだった。思わず彼女の方を見るが、そっぽを向いたまま目を合わせてくれなかった。
「や、やっぱり見捨てられて……!? 見捨てないでくださいぃ!」
「うお……! だから見捨てないって!」
リンファの一言がとどめとなったか、足元にがばりと縋りついてくる。とんでもない絵面だった。
なんとか引きはがそうとするが、レティーナのイカれた膂力は俺如きではビクともしない。俺の足が軋む音が聞こえる気がする。
「落ち着けレティーナ……! リンファ、手伝ってくれっ」
「……知らない」
「リンファ!?」
俺の呼びかけに、ちらりとだけこちらを見たリンファだったが、むくれた表情でそれだけ言って再びそっぽを向かれてしまった。
後ろから俺を蹴り続けるマリーメア、前から万力の如き力でしがみつくレティーナ、リンファは目も合わせてくれない。追い詰められた(?)俺は、残された最後の希望に目を向けた。
「ゆ、ユノ!」
『
「何がッ、何でッ」
にべもなかった。
『お姉ちゃんが危ない目に遭ってたのに、この場から動いてもいないなんて罪です』
罪名が長い。
「待ってくれ、理由があるんだ」
『聞くだけ聞きましょう』
俺は急に現れた少女のことを皆に話した。
『ふむふむ、急に同業者から背後を取られて……』
「あぁ」
『そのままアデムさんのファンだという女の子と楽しくお喋りに興じていたと』
「いや、別に楽しくは……」
『
「なんでだよっ!」
結局、この混沌の極致のような状況から抜け出すまでに数分を要し、その間で俺の足はボロボロになった。助けてホムラ。
「す、すみませんっ。取り乱してしまいました……」
「うん、まあ……落ち着いてくれて良かった」
しゅんとした様子で頭を下げるレティーナ。今後もし同じような場面に出会ったら、脇目も振らず駆け付けるべきかもしれない。
「それにしても……アデムにファン、か」
「そんな感じのことを言ってたな。……誰かと勘違いしてないかとも思ったんだが」
「勘違い、ですか?」
「あぁ。だって他にいくらでもいるだろう。A等級やS等級で話題になるような冒険者は」
何をどうしたらわざわざ俺なんかのファンになるというのか。
「いや……君だってA等級だろうに」
「それは……」
俺は口ごもった。さっき仲間の昇格に触れたが、かくいう俺も先日とうとうA等級への昇格を果たしたのだ。
「なんでそんな微妙そうな表情になるんだ」
「だってなぁ……」
本来なら誇っていいことなのだろうが、素直に喜べない理由がある。まず、俺は割と長い間B等級で足踏みしていたのだが、それは俺自身の実力がそれ相応でしかなかったからだ。
それがエルシャ達とのパーティー活動を経て、俺自身の成長に
確かに最終的に仕留めたのは俺だったが、あれは遺物の効果ありきの結果であって正しく俺の実力ではない。それもでもリンファ達の奮闘がなければ得られなかった勝利だ。
エランツァにもその旨は伝えたのだが、そういう運も含めて冒険者の素養などと言われ、あれよあれよとA等級に認定されてしまった。
「割と話題になってると思うぞ。ギルドで君のことを話している奴らもいたし」
「そうなのか?」
「あぁ。……でもあれだ、そういう上辺だけしか知らない奴は、その……相手にしない方がいいと思う……僕の方が、その……君のこと理解してるし……その」
「うん?」
徐々に声が小さくなっていって途中から聞き取れなくなってしまった。
「っ……! と、とにかく! 急にファンだとか言ってくる奴は警戒しろ! いいな!?」
「お、おう、分かった」
何故かすごい剣幕で警告されたので素直に頷いておく。変な空気になってしまったので俺は話題を変えるために気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、転がってきた岩はどうしたんだ?」
『それなら私とお姉ちゃんで勢いを弱めて……』
「レティーナが押し返して……」
「その辺の横道に捨ててきました」
「止まったと思った岩が坂道を登ってきてびびった、です」
「な、なるほど」
たかが石ころ、レティーナなら押し出せるということか。ちょっと見てみたかったかもしれない。
◆
受注していた依頼を達成して迷宮から出た時、太陽はまだ真上にも達していなかった。空腹も感じ始める頃合い。
若干のアクシデントこそあったものの、出会う魔物は全て鎧袖一触なのだから当然と言えば当然か。
ところで冒険者は本来なら迷宮内で昼食を取ることも多いのだが、俺はこのところほとんど迷宮内では食べてない。理由は言わずもがな……おかげでタンデムのランチに詳しくなりつつある。あまり嬉しくない。
というわけで今日は依頼達成の報告ついでにギルドの食堂で昼食を取ることになった。
昼時とあって、食堂はそれなりに賑わっている。席を探して見回してみると……。
「アデムさーん!」
奥の方の席からこちらに向けて手を振るホムラが目に入った。席の対面にはエルシャとゲルドのふたりもおり、ゲルドが隣の空席を指さしている。
そちらに向かうと、ホムラとゲルドがいそいそと四人掛けのテーブルを動かして自分たちの席と繋げた。
「貴方たちもお昼?」
「あぁ。エルシャ達も今からか?」
「ええ」
「どぞっす!」
「おう、ありがとう」
「アデムさん、こちらへどうぞ!」
「え、あぁ、悪いな……」
機敏な動きで隣の椅子を引くホムラに礼を告げながら、俺はリンファらに頷いて着席を促す。
「失礼いたします」
「あ、レティーナさんはあっちの席へどうぞ」
「えっ……あ、あの」
「どうぞ」
「は、はい……」
俺の隣に座ろうとしたレティーナが何故かホムラからブロックを食らい、謎の圧に屈して斜向かいにすごすごと着席した。その席に何があるというのか。
それを見ていたリンファが恐る恐る俺の隣に腰掛ける。今度は何もなく、リンファはほっと息を吐いた。なおマリーメアはもちろんレティーナの横に座った。
全員が着席すると、リンファの隣、誰も座っていない椅子の上が輝きだした。光は徐々に人の形を取り……。
『ごっはんー!』
そんな声と共に顕現したはユノだ。
日頃から気まぐれに現れたり消えたりしているユノだが、上位精霊となって以降ほぼ必ず姿を見せるタイミングがある。それが今、ようは食事の時間だ。
「ユノ、今日は何を食べたい?」
『お姉ちゃんと同じの!』
「またかい? 他にも好きなものを頼んでいいからね」
『えーっとそれじゃあ、これと……これと……あ、でもこれも……』
「ふふふ」
メニューを見てあれこれ指さすユノをリンファは優しい表情で見守っている。
精霊となったユノとの生活で、食事の楽しみを共有できないというのはリンファにとっての負い目のひとつだったらしい。しかし、ユノが上位精霊への進化を果たしたことで共に食事ができるようになった。
今ではこうして食事の度に姉妹での微笑ましいやり取りが見られるようになった。
まだ彼女たちとの付き合いは浅いが、その生い立ちを聞いていた身としては感慨深いものがあるな。レティーナたちはもちろん、ホムラ達の目も優し気だ。
「あ、そういえば聞いたっすよアデムさん! A等級に上がったとか! 流石っす!」
「おめでとうございます、アデムさん!」
「おめでとう。案の定だけれど先を越されてしまったわね」
「あぁうん、まあ……ありがとう」
明らかに俺よりも強いエルシャ達より俺の方が先にA等級か……。
そのことに何とも言えない居心地の悪さを感じつつ、素直に礼を返す。
それから、運ばれてきた料理に手を付けつつ他愛もない話に興じていると、にわかにギルド内がざわめきだした。
「何だ?」
「喧嘩かなんかっすかね?」
冒険者には血の気の多い奴も多い。ギルド内でいざこざというのも珍しくない。まああまり派手にやると罰則があるし、最悪エランツァにしばかれることになるが。
見ればギルドの出入り口の方に人だかりができている。喧嘩っぽい雰囲気ではなさそうだが。
気になった俺は立ち上がり、人だかりの向こうを覗き──見覚えのある眠たげな瞳と目が合った。
「あ」
「え」
思考の硬直。それは相手も同じだったらしく、普段は重たい瞼が限界近くまで見開かれていた。
何を言うべきか、そもそも何か言うべきなのか? 今更どの面を下げて。
そんな益体もないことを考えている間。ほんの瞬き一回。その一瞬の間に彼女は──
「アデムッ!!」
「うおぉっ!?」
勇者ディーは目の前まで飛んできて。
「ただいま、アデム」
満面の泣き笑いを浮かべながら、俺を床に押し倒した。