仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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34.悔恨と乖離

 ディー・ラトアイル。

 

 縁あって幼少期を共に過ごした、いわゆる幼馴染。同時にかつて冒険者として活動を共にした仲間でもある。色々あって暫く疎遠というか、実質的に絶縁状態だったのだが……。

 

 そんな彼女に俺は今、ギルドの食堂で馬乗りされていた。

 

「な……は……!?」

 

 馬乗りされた体勢で間近に寄せられるディーの顔。元来、表情変化に乏しい彼女は今、瞳を潤ませながら薄く微笑んでいる。想定外の反応に、俺は何を言うべきなのか分からず言葉に詰まる。

 

「な、何やってるんですか、あなた!?」

 

 代わりにホムラが上ずった声で問いかけるが、ディーはホムラに一瞥すら寄越そうとしない。

 

「アデムさんもっ! いつまでそうしてるんですかぁっ!」

 

「い、いや、俺も立ち上がりたいんだが……!」

 

 上手いこと重心を押さえられていて藻掻くことすら許されない。どこぞの龍人仕込みの技能だ。理屈は俺も理解しているし、極まる前なら対処も出来るのだが……こうなってしまっては、ひとりではもうどうにもならない。

 

 そうこうしていると、ディーはおもむろに俺に抱き着くようにして首元に顔を(うず)めてきた。

 

「うお、ちょ!?」

 

「わああぁぁ!? こんなところでっな、なななぁっ!?」

 

 ホムラが絶叫染みた声を上げた。

 

 俺の上に乗っかるディーを引きはがそうとディーの腕を掴む。が、ディーはびくともしない。

 

「アデムさんからっどいてくださいぃっ!」

 

 ホムラの体が斜めに傾くほど体重をかけても微動だにしていなかった。

 

「うぐううぅぅ……! ゲルド君っ、手伝ってください!!」

 

「よっしゃ任せるっす!」

 

 ホムラの指名に張りきった様子で力こぶを作って見せるゲルド。魔法職の割に鍛えられている、引き締まった筋肉だ。

 

 やむを得ずゲルドはこちらにやってきて、ディーの腕を引っ張り始める。

 

「とうとう日々の鍛錬の成果を見せる時が来たっすね……!」

 

「いいから早く!」

 

「ウィッス。ふんぬうぅぅ……! ほ、本当に動かないっす!」

 

「ゲルド君! 本気出してください!!」

 

「本気っすよぉ! あ、(あね)さんも手伝って欲しいっす!」

 

「応援してるわ。頑張りなさい」

 

「えー!」

 

 席に座ったまま、残りの料理を摘まむエルシャ。茶番に付き合うつもりはないらしい。

 

 食堂でわちゃわちゃする俺たちに、周囲の奇異の視線が集まる。これって、ひょっとしなくても恥ずかしい状況なのでは……?

 

「……レティーナなら引っぺがせるんじゃないか?」

 

「え? ど、どうでしょうか」

 

「レティ姉なら余裕に決まってる、です!」

 

『レティーナさんならいけます! 自分を信じて!』

 

「え、えーっと……それでは……」

 

「!? 待て待て! 大丈夫だから!」

 

 リンファたちがレティーナをけし掛けようとしだしたため、俺は大声で制止する。レティーナのパワーをこんなところで発揮されたらどうなるか分かったもんじゃない。

 

 俺は目を閉じて深呼吸をひとつ。意を決して、目を開く。

 

「…………ディー?」

 

「……!」

 

 その名を口にするのはいつぶりか。おずおずと呼びかけると、それまで微動だにせず体勢を保っていたディーがピクリと反応を示した。

 

「その……放してくれると助かる」

 

「……ん」

 

 俺の要求に短く答えたディーはあっさり戒めを解いて立ち上がった。

 

「わ、わわっ……!?」

 

「おっととっ……!」

 

 ディーが急に立ち上がったことで、体重をかけて引っ張っていたホムラとゲルドのふたりが尻もちをついた。

 

「……?」

 

 そんなふたりにディーは一瞬だけ不思議そうな表情で視線を向ける。まさか無視してたんじゃなくて認識してなかったのだろうか……。

 

 ディーは仰向けの俺に手を差し伸べてきた。俺は逡巡した後、その手を取って助け起こされるように立ち上がる。

 

「あ、アデムさん……! その方は誰なんですか……!?」

 

「あー、こいつはディーって言って、まあ……幼馴染というか」

 

「お、幼馴染……!?」

 

 ホムラが何やら目を見開いて、愕然とした表情になる。

 

「ディー……? それって……」

 

 エルシャはディーの名前を聞いて思案顔になった。

 

 俺はディーと改めて対面し直す。

 

「久し、ぶり」

 

「……あ、あぁ……その、久しぶり、だな」

 

 ディーの短いながら違い万感の想いが込められているような言葉。対して、俺から出たのはひどく歯切れの悪い返事だった。そうさせるのは罪悪感のような、バツの悪いような何か。

 

 何年も会っていなかった幼馴染との再会。それだけ聞けばディーの反応が自然に思えるだろう。それが真っ当な別れを経ているならば。

 

 そう、あの時の別れ方を思い返せば思い返すほどに今目の前にいるディーの態度が解せない。恨まれ、嫌われて当然の言動を俺は……。

 

 ディーは何を言うでもなくただこちらを見つめている。

 

「……えぇっと……ディーはなんでまたここに」

 

 ディーがきょとんとした表情で首を傾げた。

 

「? タンデムに、魔王が出た、って」

 

「あ、あぁ、そうだよな。そうだった……」

 

 ディーが勇者であると知っているなら出てくる筈のない質問だった。阿呆か俺は。聞くべきは……そして言うべきはそんなことじゃない。

 

「その……ディーの活躍は耳にしてる。頑張ってる……んだよな」

 

「うん」

 

 そう思ってなお、俺は中身のない薄っぺらい会話を続けてしまう。

 

「元気そうでよかった……」

 

「うん、アデムも」

 

「……本当、こうして会うのは何年ぶりだろうな」

 

「七年三か月と、十六日」

 

「そうか、もうそんな……うん?」

 

 今、何かやけに具体的な数字が聞こえたような。

 

「アデムと会うのは、七年三か月と、十六日、ぶり」

 

「…………」

 

 聞き間違いではなかったらしい。

 

 あまり冗談とか言うタイプではなかったと思うんだが……。いや、この七年と……三か月? の間に冗談ぐらい覚えていてもおかしくはないか。

 

「………………そ、そうか」

 

 そう考えた俺の絞り出したような返答に小さく頷くディー。冗談かどうか判別できない。

 

 傍で成り行きを見守っていた面々も心なしか引いている。

 

「わ、私もアデムさんと出会った日は覚えていますよっ?」

 

「え? あ、あぁ……」

 

 何を張り合ってるんだ。

 

「……アデム」

 

「ん?」

 

「…………」

 

「……ディー?」

 

 何か話そうとして、その口を閉じるディー。一見しただけでは無表情にしか思えない顔に、明らかな緊張の強張りが窺えた。

 

「私と、また──」

 

「……ディー様!」

 

 ディーが何か言いかけたとき、何者かが彼女の名を呼びながら近づいてきた。

 

 現れたのは長い金髪を後ろで纏めた男だった。歩く様から見て取れる優れた体幹、身に纏う良質な武具から只者ではないことが窺える。

 

 男はディーの傍まで来ると、周囲を見回し露骨に顔を顰めた。

 

「ギルドマスターと話をしているものと思いましたが……何故このようなところに」

 

 その言葉からは、どことなく俺たちを侮蔑というか、見下したような雰囲気を感じる。

 

「……知り合いか?」

 

「……パーティーの人」

 

「パーティーの人って……」

 

 ようは仲間だろうに、その表現はどうなんだ……勇者の仲間か。そりゃ只者じゃないわけだ。

 

「それで、アデム。話の続き……」

 

「え? いや……いいのか?」

 

「……? 何が?」

 

「いや、だって」

 

 男を無視して話の続きをしようとするディーにそう言って、俺は男の方に視線をやる。

 

「……貴様、冒険者風情がさっきからディー様に馴れ馴れしいぞ」

 

「えぇ?」

 

 すると男はディーではなく俺に突っかかってきた。俺が困惑していると、ディーの目がスッと細められる。

 

「レオネス」

 

 ディーの平坦ながら咎めるような語調に男がたじろいだ様子を見せる。どうやらレオネスというのが男の名前らしい。

 

「……ディー様、あなたは勇者なのですよ? 冒険者などという低俗な輩とは……」

 

 余程ディーが冒険者と接していることが気に食わないのか、なおも食い下がるレオネス。

 

「ゆ、勇者!? 今勇者って言ったっすか!?」

 

 勇者というワードの反応したゲルドが素っ頓狂な声を上げる。

 

「え、じゃあアデムさんって勇者と幼馴染だったってことっすか!? 聞いてないっすよそんなこと!?」

 

「いや、まあ言ったことないしな」

 

「なんでっすか!」

 

「なんでって……」

 

 勇者と幼馴染だからって何ということもないだろ。俺が勇者なわけでもあるまいし。それにその話をしたところで俺の無様な過去の話にしかならない。

 

「すげー……! やっぱ流石アデムさんっす……!」

 

「勇者の……幼馴染……!?」

 

 謎にテンションを高めているゲルド。ホムラやレティーナ、リンファ達も驚いたような顔をしている。

 

「ディーって名前、やっぱりそうだったのね……」

 

 エルシャだけは名前で薄々感づいていたらしく、納得したように頷いていた。あとマリーメアもどうでも良さげだ。

 

「……とにかく! ディー様はこのような輩の為に時間を使ってやってはなりません!」

 

「……はあ……エランツァと話して、くる」

 

「分かって頂けましたか」

 

 ディーの言葉に満足気なレオネス。

 

「じゃあ、アデム」

 

「ん、あぁ。それじゃあ……は?」

 

 流れ的にてっきり別れの挨拶かと思ったら、ディーに腕を掴まれた。そのままぐい、と引っ張られる。そのまま走り出すディー。

 

「お、おい!?」

 

「行こ」

 

「な!? 待て、貴様!?」

 

「あ、アデム!?」

 

「アデム様!?」

 

 レオネスの怒声やリンファ達の声を背にしながら、俺はとにかくディーに引きずられないよう必死に足を動かした。

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