仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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35.思い付きで行動しがち

 そう広いわけでもないギルド内を足早に駆け抜けた俺たちは、エランツァがいるであろう執務室へ突入した。そのままの勢いで無論ノックもなし、仮に鍵が掛かっていてもぶち破ってる勢いだ。

 

「ぬおぉぉ!? なんじゃカチコミか!? 妾は真面目に仕事しておるぞ!?」

 

 執務室に備え付けられた上等な椅子の上で、エランツァは体を仰け反らせた。

 

 執務室に必ずいるという保証はなかったが、どうやら今日はサボらずに仕事をしていたらしい。乱暴な闖入者(ちんにゅうしゃ)にびびり散らかしたエアランツァは、こちらの存在を認めると仮面の奥の瞳を見開いた。

 

「……おぉ! お主、ディーか!? 帰ってきておったのか? それに……ふむ?」

 

 次いで、ディーに腕を掴まれたままの俺を見たエランツァが意外そうな声を出したかと思うと、ニマニマと目元を緩ませ始めた。

 

「ほーん、ふーん……?」

 

「……なんだよ」

 

「いや、別にぃ? いつぞやは如何にも気にしてないみたいな雰囲気を出しとったのに、とか思っておらんから安心せい」

 

「…………さっき偶然、食堂で会ったんだよ」

 

「カカっ、まあそういうことにしておこう」

 

 しておこうも何も、事実そういうことでしかない。言っても無駄そうだから何も言わんが。

 

「しかし思ったより早い帰りじゃのう」

 

「さっき、着いた」

 

「そうかそうか。タンデムに戻るのは何年ぶりじゃ?」

 

「さあ……? 三年、くらい……?」

 

「そんなに経ったか。リートニアでの魔王討伐、ご苦労じゃったな。折角戻ったのだからゆっくり……というわけにもいかんか」

 

 今回ディーが帰還したのは余暇ではなく、あくまでタンデムに発生した魔王討伐のための招集によるものだ。焦る必要もないとはいえ、ゆっくりするのも変な話だ。

 

「それで、妾に何の用件じゃ? わざわざ挨拶のためだけに来たわけではなかろう」

 

「え?」

 

「む?」

 

 一瞬の沈黙。

 

「……妾に用があるのではないのか?」

 

「エランツァには、別に……」

 

「いや、何しに来たんじゃお主ら!?」

 

「用があるのは、この部屋。アデムと話すには向こうは騒がしいし、邪魔が、入る」

 

「談話室扱い!? ここ妾の執務室なんじゃが!?」

 

 そんな奴ら初めてじゃわ!? という耐えかねたようなエランツァのツッコミにもディーは無表情を崩さない。エランツァはそれからディーと俺の顔を交互に見て、ため息をひとつ。

 

「ま、まあよい……。妾は仕事を続けてるから好きにせい……」

 

「えーっと……何だ、その……悪いな」

 

 何の問題がと言わんばかりのディーに代わって、俺は謝罪を口にする。幼馴染の暴挙を止められなかった俺にも過失はあるだろう。

 

 エランツァは手を払うように振り返して、机に積まれた書類との睨めっこを再開した。

 

「それで、俺に話っていうのは?」

 

「うん、アデム、その……」

 

 再度その無表情に浮かぶ微かな緊張。

 

 やがて、ディーは意を決したように口を開いた。

 

「……私とまたパーティーを、組んで、欲しい」

 

「………………は?」

 

 何でもないことのように告げられたその言葉に俺の思考は停止する。それこそ、最初の反応以上に想像もしていなかった言葉だ。俺とまた、パーティーを……?

 

「……いや……お前、それは……」

 

 ディーとのパーティー。それはつまり勇者パーティーの一員として魔王との戦いに身を投じるということだ。魔王は強大な敵だ。直接対決ももちろんだが、その居城に辿り着くまでの道も険しく危険なものになる。

 

 故に原則として勇者の仲間は、その困難を乗り越えられるだけの力を持つものが選ばれる。それは例えば剣を極めし剣聖であったり、教会から遣わされた聖女であったり、だ。

 

 それこそS等級か、それに比する程の実力が求められてしかるべきもの。

 

 魔力量という欠陥を抱えた俺のようなものには、到底相応しくないのだ。

 

 ……それを俺は七年前に嫌というほど実感させられた。だから。

 

 

 だからあの日、俺はディーを拒絶した。

 

 

「……アデム?」

 

 ディーが不安げな、それでいて心配げに俺の顔を窺う。無意識の内に余程、険しい表情をしてしまっていたらしい。

 

 何にせよ答えは決まっている。考えるまでもない。あらゆる面で俺が今更勇者の、ディーの仲間になる資格などありはしないのだ。

 

「ディー、俺は──」

 

「──なりませんッ!!」

 

 俺が断りの言葉を口にしようとした時、大声と共に執務室の扉が勢いよく開かれた。

 

 部屋に入り、大股な歩みでこちらに近づいてきたのは先の勇者パーティーの男、レオネスだった。どうやら部屋の外で話を聞いていたらしい。

 

「ディー様は何をお考えなのですか! 幼馴染だか何だか知りませんが、我らが勇者パーティーにこのような木っ端冒険者を加えようなどと……! 断じて反対です!」

 

「……お仲間もこう言っていることだし、俺は――」

 

「ちょっと待ったぁっす!」

 

 俺を指さし、ディーに訴えかけるレオネス。ちょうどいいから彼に同調する形で断ろうとするのを、更なる乱入者が遮った。

 

「木っ端とは聞き捨てならねぇっす! アデムさんをそんじょそこらの冒険者と一緒にしないで欲しいっす!」

 

「そうです! アデムさんは凄いんですからね! 何も知らない癖に失礼なこと言わないでください!!」

 

「な、何だ貴様ら……!?」

 

 ゲルドとホムラだった。ふたりの剣幕にレオネスが鼻白む。援護のつもりなのだろうが、勇者パーティーに入るつもりのない俺からすると背中から刺されている。あとそんじょそこらの冒険者か、何なら以下だぞ俺は。

 

 見れば開け放たれた扉の向こう、額に手を当てて首を振るエルシャに加えてリンファ、レティーナの姿も見える。揃いも揃って盗み聞きとは……。

 

 俺の内心の呆れを他所に、場は更に白熱していく。

 

「……そう、アデムは凄い。だから問題、ない」

 

「問題ないわけないでしょう! 良いですか、ディー様! 勇者とは民の希望たる象徴なのです。付き従う者にも大いなる責務を背負うに相応しい格というのが必要だ。それをこのような庶民の冒険者など……! 大体、凄いというなら等級は何なんだ」

 

「聞いて驚くがいいっす! なんとアデムさんはつい先日A等級に到達したっす!」

 

「いや、あのなゲルド……」

 

「はん、A等級のしかも成り立てだと? 話にならんな」

 

「な……!? アデムさんは機会さえあればすぐにだってS等級になりますっ!」

 

「お、おいホムラ……」

 

 め、滅茶苦茶なことを言い始めた……。

 

 A等級の上がS等級ではあるが、AとSでは等級ひとつ分以上の大きな隔たりがある。それこそ最低等級からA等級までと同じかそれ以上に。

 

 そのA等級ですらうっかり分不相応に昇級してしまったのに、現状ではSなんぞ夢のまた夢である。

 

「ぬあああぁぁッ! さっきから騒がしいぞ小童(こわっぱ)ども!? せっかく妾が珍しく真面目に執務に取り組んでおるというのにぴーちくぱーちくと!!」

 

 なおもあれこれ言いあいを続けるゲルドらに、とうとうエランツァがキレた。

 

「いや、執務にはいつも真面目に取り組めよ」

 

「正論はやめい! ええい、大体さっきから聞いておればまだるっこしいことをいつまでも……そんなにアデムの加入が気に食わんのならば、相応しい実力かどうか試してみればよかろう!」

 

「試す……?」

 

「うむ。ちょうどお主らはどちらも剣士じゃろう? ならば剣で語るが筋というもの」

 

 何の筋だよ。また訳の分からん事を言い出したぞ、このサボり魔若作り龍人は……!?

 

「ほう……剣聖である私と剣で語ると……? 面白い冗談だな、木っ端冒険者」

 

「俺が言ったんじゃないが」

 

 それはそうと、今この男は自らを剣聖と名乗った。

 

 剣聖。数ある(ジョブ)の中でも、こと剣を扱うものの中でも最高峰に位置するものだ。剣の極致に至りしものだけがその資格を得られ、振るう剣はあらゆる難敵を両断する。なるほど、まさに勇者パーティーに相応しい存在と言える。

 

 俺では逆立ちしても勝てない手合いだ。

 

「いいだろう、私が貴様に身の程というものを教えてやる」

 

「いや、だから……」

 

 話を聞かないレオネスにはなから勇者パーティーに入るつもりはないことを説明しようとして、俺はあることに気づいて考えを改めた。これはいい機会でもある、と。

 

「……そうだな、なら剣で語らせてもらおうか」

 

「決まりじゃな。アデムが勝てば勇者パーティー加入じゃ」

 

「ま、待ってくれ! それじゃあ僕たちとのパーティーはどうなるんだ!?」

 

「そ、そうですアデム様がいなくなったら私たちはどうやって活動すれば……!」

 

「む、それは……」

 

 それまで黙って様子を見ていたリンファとレティーナが口を挟んできた。

 

 何故か俺が勝った場合の心配をしているらしい。そんな可能性はほぼないので無意味な心配だ。というか仮に俺が居なくなってもお前らだけで何とでも活動できるぞ、間違いなく。

 

「はっ、何を馬鹿な心配を……この男が私に勝つなど万が一、いや億が一もありはしない」

 

「……そんなのやってみなくちゃ分からないだろ」

 

「そうですよ……!」

 

 俺の気持ちを代弁するようなレオネスの言葉に、リンファとレティーナがむっとした様子で反論した。俺に勝ってほしいのか勝ってほしくないのかどっちなんだ?

 

「良いことを思いついたぞ!」

 

 閃いた! とばかりに掌を打つエランツァ。こういう時、こいつが思いつくことは大体ろくでもない。

 

 反射的に皆の注目が集まった中、エランツァはその閃きを口にした。

 

 

「この際じゃ、お主らも勇者パーティーを目指す気はないか?」

 

「……はい?」

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