仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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36.真意

「そ、それはどういう……?」

 

 リンファの当惑したような声。何しろ突拍子のない発言だったから無理もない。俺もまだその意図をはかりかねている。

 

「そのままの意味じゃ。要はアデムと離れたくないのじゃろう? ならばお主らも勇者パーティーに入ればよい。挑戦の機会を作ろうではないか」

 

「え、えぇ……!?」

 

 とんでもない理論……というか暴論に近かった。リンファも言葉の意味は分かっても理解は不能といった反応だ。

 

「お主らもどうじゃ?」

 

「え、わ、私たちですかっ?」

 

 話を振られたホムラたちが顔を見合わせる。

 

「この際じゃ、いっそのことギルド全体でそういった場を設けるのも一興と思わんか?」

 

「え、えぇと……」

 

 ひとりで話を広げて盛り上がりだしたエランツァに、ホムラは困り顔だ。

 

 そしてそんな話に反発する者が当然ひとり。

 

「待て、更に他の冒険者をパーティーに、だと……?」

 

「無論、無条件ではないぞ? アデム同様その力を試して……」

 

「冒険者如きの? 馬鹿馬鹿しい……何の意味がある」

 

「意味、のう……カカっ」

 

「……何が可笑しい?」

 

 くつくつと笑い声を漏らすエランツァに、レオネスが眉根を寄せた。

 

「いんや、可笑しくはないさ。で、意味じゃったか? それは当然、勇者パーティーの増強に繋がる可能性があるからじゃ」

 

「……増強だと? そんなもの、必要は……」

 

「ないと言い切れるか?」

 

 レオネスが言葉に詰まる。

 

「各地での魔王討伐の報告書は妾も目を通している。なるほど目覚ましい活躍ぶりじゃな。お主らはその戦力、功績ともに他の勇者パーティーと比しても頭一つ抜きんでたものがある」

 

 紛れもない称賛の言葉。しかし、レオネスの表情には苦みが走った。その理由はエランツァによって即座に明らかになる。

 

「そしてその功績のほとんどは当代最強と名高い勇者、ディー単独によるもの、と」

 

 その言葉に室内の視線がディーに集まる。

 

 俺も思わずディーの顔を見れば、ディーと目が合った。特に誇る様子もなく、いつもの眠たげな無表情を保っていた彼女は、小首を傾げてみせる。そもそも話を聞いているかすら怪しい。

 

 当代最強の勇者。どこかぼんやりとした雰囲気の彼女を見てそのイメージと結びつく者がどれほどいるだろうか。一方で冒険者時代の彼女を知る俺としては納得感がある。それほどまでにディーという幼馴染は当時より規格外の存在だった。

 

「今後もディーだけでなんとかなる魔王だけじゃといいのう?」

 

 エランツァの皮肉に、レオネスは苦々しい表情で口を開く。

 

「確かに……現状の我々はディー様に並び立てているとは言い難い……!」

 

 その言葉には深い慙愧(ざんき)の念が滲んでいるように感じた。

 

「だが! 例え相手がS等級としても、冒険者などに遅れは取らん。ましてやこのような……」

 

 そこで一度言葉を止めたレオネスは俺たちを一瞥して、鼻で笑う。蔑むような態度にエルシャは眉を顰め、ゲルドはいきり立ってレオネスに反論する。

 

「さっきから聞いてれば如きだの何だのと……! 冒険者の何がそんなに気に食わないっすか!?」 

 

「馬鹿め。いいか? 勇者とは希望なのだ。魔王という脅威を討ち、国を、民を守護する存在! そこに冒険者などという私利私欲の為に力を振るっているような輩は相応しくないと言っているのだ!」

 

 私利私欲、か。

 

 レオネスの言はある一面で見れば正しい部分はある。確かに俺たち冒険者は自らの欲の為にその力を使い、迷宮すらも利用している。ただし、あくまでも一面だ。迷宮の資源は街を豊かにするし、有事の際には多くの力ある冒険者が街を守るための戦力として駆り出されることになる。

 

 そもそも迷宮の専門家と言える冒険者ギルドと勇者パーティーは実質的に協力関係……というか半分ギルド所属みたいなものなのに、そこまで敵愾心を剥き出しにするのが解せない。

 

 あと、当の勇者であるディーは冒険者出身なのだが、その辺りどういう認識なんだろうか。純粋に気になる。

 

「よって貴様らのような有象無象を試すなど、時間の無駄でしかない!」

 

 声高に言い切るレオネス。もしこのやり取りを食堂辺りでやっていたら、周囲の冒険者はさぞ殺気立つことだろう。というかゲルドたちは殺気立ってる。ディーですら流石に不機嫌そうに眠たげな(まなこ)を細めている。

 

 では冒険者の長たるエランツァはというと、

 

「時間の無駄、か。果たして本当にそうかのう?」

 

「……何?」

 

 レオネスの発言を気にする様子もなく、何とも意味深な問いかけを投げかけた。

 

「仮に開催する運びになれば、此度の催しはギルド内で大々的に募集するつもりじゃ。何せ勇者絡み、まず間違いなくタンデム中で大きな話題となることじゃろう」

 

「それが何だというんだ」

 

「観客を呼び込むのじゃ」

 

 レオネスが眉間に皺を寄せる。

 

「……まさか勇者を見世物にでもする気か?」

 

 俄かに帯びる剣呑な雰囲気。冷たく尖った刃のようなそれに、肌がひりつくような錯覚を覚える。部屋の誰かが息を呑む音が聞こえた。

 

 そんな威圧を直接受けるエランツァはというと、自然体だ。怯むでもなければ怒るでもない、柳に風とでもいうように話を続ける。

 

「カカっ、活きがいいのう。まあ聞け。お主らの武威を示す良い機会とは思わんか?」

 

「……武威だと?」

 

 レオネスの目が細められる。食いついたとばかりにエランツァは語りを続ける。

 

「お主の言う通り、勇者とは人々にとって希望じゃろう。魔王は人類にとって最大の脅威じゃ。討伐が長く滞るようなことがあれば都市が、ひいては国が滅びかねん。例えタンデムであっても、じゃ」

 

 エランツァの言う通り、S等級冒険者を多く抱えるこの都市でさえ、力を蓄えた魔王が本格的な侵攻を開始すれば危うい。時間が経てば経つほどに魔王という存在は力を増幅させる。魔王本体が強くなるのも問題だが、同時に周辺の迷宮が活性化し魔物の数が極端に増えるのが致命的だ。際限なく増える魔物はやがて閾値を超えて、迷宮から溢れ出す。氾濫(スタンピード)

 

 末期まで至ればそこかしこに新たな迷宮まで発生し、そこからまた魔物が溢れ出して近辺の街は蹂躙される。地上はまさしく地獄と化す。

 

 タンデムは冒険者が多く比較的それらの問題は抑制しやすく、他の土地に比べると時間的な猶予は多いといえる。特に純粋な戦闘力ならばS等級冒険者たちは勇者パーティーにも引けを取らない、あるいは凌駕する可能性だってあるだろう。それでも勇者が必要不可欠な理由は魔王のとびきり厄介な、ある性質にあった。

 

 魔王は不死身だ。

 

 厳密にいえば勇者以外の人間にも魔王を殺すこと自体は不可能ではない。早期にその根城を突き止められたのなら、S等級とまでいかずとも優れたA等級パーティーでも倒せるかもしれない。

 

 だが、それで魔王を殺しても滅びはしない。どうなるか?

 

 蘇るのだ。おまけにより強力になって。

 

 その蘇生を唯一防げるのが勇者という存在だ。勇者の(ジョブ)、あるいはその加護を授かった者、つまり勇者パーティーのみが魔王の息の根を完全に止められる。

 

 勇者とは正しく人類の希望であり、救世主に違いない。

 

「今はまだ明確な被害は出ていない段階じゃが、いつまでその状態が持つかは分からん。民衆とて不安はあるじゃろう」

 

 話が読めてきたのだろうレオネスが、顎に手を当て考える素振りを見せる。

 

「お主らの勇姿を実際に目にすれば、さぞ安心するじゃろうて。お主の言う木っ端冒険者とて、街では力の象徴でもあるしな」

 

 その中に番狂わせを起こす冒険者が居ればそれもまた一興、そう付け足すエランツァ。レオネスはそのまましばし考える素振りを見せた後に何故か俺を見た。

 

「この者との決闘も?」

 

「その場で行えばよい」

 

「……いいだろう、内容によっては協力してやらんでもない」

 

「ディーもよいか?」

 

「アデムさえ加入するなら、後は何でも、いい」

 

 まるで俺が加入するのは確定かのような物言いだが、当の俺は勇者パーティーへ入るつもりはない。仮に入る気があっても、剣聖であるレオネスに勝つことを条件にされている時点で不可能に近いと思われるが。

 

 よってリンファやレティーナの心配は杞憂であり、この話自体が茶番みたいなものなのだが……その辺り、今さら言いづらい雰囲気なので黙っておくことにする。

 

「よし、そうと決まれば日程やらを調整せんとな……ディー、今から他の仲間とも話がしたいんじゃが、集められるか?」

 

「分かった」

 

 他の仲間、つまり今この場に居ない残りの勇者パーティーメンバー。勇者パーティー全体を巻き込む以上、その者たちにも話を通すのは当然だろう。

 

「じゃあ、アデム、また」

 

「あ、あぁ……」

 

 去り際、小さく手を振るディー。レオネスは俺を一瞥すると、忌々し気に鼻を鳴らした。

 

「……せいぜい今から吠え面の練習でもしておくんだな、冒険者」

 

 それだけ言い残して、ディーに続いて執務室を後にするレオネス。

 

「……何ですかっ、あの人!」

 

「感じ悪すぎっす!」

 

「不愉快ね」

 

 レオネスの冒険者に対しての態度が腹に据えかねたらしいホムラたちが、口々に怒りを言葉にする。直接食って掛かられた俺より怒ってそうだ。

 

「でもあんな態度も今のうちだけっす! 当日に吠え面をかくのはどちらか、楽しみっすね!」

 

「アデムさん! 応援してますね!」

 

「えぇ? あ、あぁ……まぁ、ありがとう?」

 

 ふたりから寄せられる期待と信頼の目に、俺はどう返すか迷った挙句、曖昧な返事を返す。

 

 俺は今回のレオネスとの試合に勝ちを求めていない。いや、やるからには全力を尽くすつもりではあるが、元より勇者パーティーに入るつもりがない俺にとって勝敗は全くもって重要ではない。

 

 では何故わざわざこの話に乗ったのかといえば、それは単純に剣聖との戦いに価値を見出したからだ。

 

 剣を扱う者の中でも最高峰に位置する職である剣聖。それと手合わせする機会など、望んでもそう得られるものじゃない。

 

 よって俺は己の力試しと、新たな学びのためにこの話を受けたわけなのだが……。

 

「アデムさんが勇者パーティー入り、か。なら私も目指してみようかしら。……私たちも参加できるんですよね?」

 

「うむ。まぁ諸々の詳しい要項は決まり次第ギルドで周知するから、それまで待っておれ」

 

「お、姐さんやる気っすね。もちろん俺もチャレンジするっすよ! うまく行けばアデムさんとまた組めて、しかも魔王退治! 燃えるっす……!」

 

「わ、私も……!」

 

「いや、あの、俺はだな……」

 

 あたかも俺の勇者パーティー加入は前提かのように話を盛り上げる三人。

 

「そうと決まれば、こうしちゃいられないっす! それまでに少しでも強くなっとかなくちゃっすね!」

 

「そうね。そろそろ行きましょうか。アデムさん、それじゃあ」

 

「アデムさん、また今度! あ、ギルドマスターもその、お仕事中にお邪魔しました……!」

 

 結局訂正は叶わず。挨拶もそこそこに、エルシャたちも部屋を出て行ってしまった。

 

「ふう、ようやっと静かになったのう」

 

 静けさを取り戻した執務室の中、やれやれとばかりに伸びをするエランツァ。

 

「……ずいぶん話を大袈裟にしたな。勇者パーティーのメンバー選抜なんて出来るもんなのか?」

 

 メンバーを変えるような行為もそうだが、魔王討伐の為に帰ってきた勇者たちをそんなことに駆り出すのはいかがなものなのか。

 

「カカっ、妾を誰だと思っておる。()()()()のお主らの我がままが通ったのは誰のおかげか忘れたか?」

 

 エランツァは享楽主義者のサボり魔だが、無能ではない。ギルドマスターという立場は、こと迷宮都市においては他所よりも大きな力を持つし、肝心の実務も何だかんだ必要に駆られれば難なくこなして見せる。加えてS等級冒険者という戦力としても最高峰の肩書を持つ。

 

 そんなエランツァが本気で根回しすれば、大抵の無茶は通せるだろう。

 

「ま、今回に関しては丁度いい話じゃからな。あっさり通るじゃろ」

 

「……どういうことだ?」

 

「総督殿から要請があっての。特に思いつかなんだら誰ぞにでも投げて、茶を濁そうかと思っていたが……」

 

 エランツァは机の上から一枚の書面を取り上げて、ひらひらと揺らして見せた。俺は訝しみながら書面を覗き込んでみる。何々……勇者パーティー帰還に伴う催事の企画……。

 

「中々、愉快な催しになると思わんか? 騒がしくされた甲斐もあったというものよ」

 

 そんな言葉とともに、くつくつと笑うエランツァ。転んでもただでは起きないというか、抜け目のないやつだ……。

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