仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い 作:縁日 夕
「な、なあアデム」
「ん?」
執務室から出てすぐ、リンファに話しかけられた俺は短い返事とともに彼女の方に顔を向けた。
「その……本当に勇者パーティーに入ってしまうのか……?」
普段は勝気な印象の瞳が、不安に揺れている。もちろん回答は否だ。俺は勇者パーティーに入る、というよりディーと組むつもりはない。
「俺は──」
「いや、すまない、忘れてくれ。僕がとやかく言って邪魔するようなことじゃなかった……」
その旨を伝えようとしたところ、リンファに遮られた。
「いや、だから、」
「リンファ様、私たちにもチャンスはあります! エランツァ様がおっしゃっていた選抜で結果を残せば……!」
「それは……でも勇者パーティーなんて今の僕たちの力でなれるものなのか……?」
「そんなこと、やってみないと分からないですよ! 少なくとも、最初から諦めていてはどうにもなりません! ですよね、アデム様」
「え? あ、あぁ、うん」
こ、ことごとく発言を遮られる……。もういいや、俺のことは一旦置いて、今のリンファとレティーナが勇者パーティーに食い込めるかどうかを考えよう。
当初の状態を思うとふたりとも驚くほどの急成長を果たしている。それぞれが特殊なポテンシャルを持っていたこともあるだろうが、その伸びは驚異的だ。ホムラ達でもここまでの成長速度ではなかった。
では今のふたりなら勇者パーティーに比肩しうるかと問われると、何とも言えない。危険度Bの迷宮でも難なく魔物を蹴散らしている様はそれこそホムラと遜色ない力のように思えるが……。ホムラ達にしてもリンファ達にしても本当の上限値というのを俺は測れていない。先日、暫定危険度Aを踏破したことを考えればA等級相当は確実にあると言えるか。
対して、勇者パーティーの強さはどうか。巷ではそれこそS等級に相当する言われているし、勇者とともに魔王を倒す役目を担う以上はそれぐらいあってしかるべきとは思うが……今の勇者パーティーにはディー以外に冒険者出身のものはいなかったはずだ。つまり実際にS等級と認められているわけではない。
何にせよ、その実力の実際のところというのを俺は知らない。
以上を踏まえて、だ。
「……今のふたりなら可能性はある、と思う」
「アデム様!」
「ほ、本当か……!?」
「あぁ、本当だ。少なくとも既にB等級に収まる枠じゃないのは確実だしな」
嘘ではない。そう思わせられるだけの力を、彼女たちは示して見せている。
俺の言葉に、リンファは俯き気味だった顔を上げると、表情を引き締めて頷いた。
「……僕も頑張ってみるよ」
「その意気です! 一緒に頑張りましょう!」
気を持ち直した様子のリンファに、レティーナも胸元で両拳を握ってやる気を示す。そんなレティーナに俺はふと気になったことを尋ねた。
「そういえば、勇者パーティーって教会から聖女が派遣されてるよな。知り合いだったりするのか?」
「はうっ」
レティーナが妙な鳴き声とともに硬直した。
「……レティーナ?」
「そ、そうでした……! 勇者パーティーにはアムリラお姉様がいるんでした……!」
「へぇ、やっぱり知り合いなのか。……で、なんだその反応は」
愕然とした表情で震えてさえみせるレティーナに俺は怪訝な表情を向ける。
「だ、だってアムリラお姉様がいるってことは聖女の枠を争わなければならないということではないですか……!」
「うぅん……?」
「聖女として、私なんかではアムリラお姉様を超えることは……これでは勇者パーティーに入ることなど絶望的……!?」
「そ、そうか?」
「アデム様はアムリラお姉様を知らないからそんなことが言えるんです! いいですか、アムリラお姉様はですね……」
そうして、アムリラお姉様とかいう聖女の武勇伝を語り出すレティーナ。曰く遺物の暴走で汚染された町を一晩で浄化し切ってみせたとか、数十人の傷病者を纏めて癒してのけたとか。
いや、まあそりゃ聖女に期待されてる役目は本来そういう治療とか補助の分野だろうけども。レティーナは残念ながらそういったことはほぼ出来ない。
が、レティーナは普通の聖女では出来ない接近戦で戦果を上げることが出来る。
「いや、レティーナの武器はその拳だろ?」
厳密には身体全部。全身凶器。
「……!? この拳でアムリラお姉様をボコれと……!?」
「何を言ってるんだお前は」
およそ聖女とは思えない発想が出てきたぞ。身体強化術が脳にまで回ってしまったのだろうか。……まあ選抜の内容次第では本当にボコる必要が出てくるかもしれないが。
「じゃなくてほら、レティーナは前衛で、その……アムリラ? って聖女は後衛職だろう? 競う場が違う」
説明してやると、レティーナはハッとしたような顔をから納得の表情を作った。
「そ、そうです、武闘家枠採用ならあるいは……!」
「……うん、まあそうなんだけどな」
とうとう自分で武闘家枠とか言い出したぞ。俺は気を使って直接的な表現は避けていたのだが、どうやら自覚があったらしい。
深く突っ込むのも何なので、俺はそれ以上の言及は止めた。
「とにかく選抜までに少しでも強くなっておかないとですね……!」
「そのためにも危険度Aでどの程度通用するかは早めに確認しておきたいな……」
B等級でかなり余裕を感じる現状、そう思うのは道理だ。が、A等級に潜るとなるとマリーメアの等級がネックになるな。
その辺りはレティーナとリンファも分かっているらしく、「それだとマリーが……」と呟いて考える素ぶりを見せた。
「一応、あいつ抜きなら潜れるけど……」
「いや、それは流石に可愛そうというか……」
リンファの言うように、マリーメアを一時的にパーティーから外せば条件を満たすこともできるが、あまりにも不憫過ぎる。
それに、何だかんだ司祭であるマリーメアも優れた支援職だ。自己回復が出来るレティーナはともかくとして、リンファや俺としてはマリーメアも一緒に居て貰った方が心強い。
「では、やはりマリーにはB等級になってもらうのが一番ですね」
「そりゃ、出来るならそれが一番だろうけど」
ただでさえ、少し前に登録したばかりで特例的にC等級まで上がったのに、更にBとういうのは中々厳しいものがある。実力自体はB等級ぐらいはいけそうな感じはするが……。
そんなやりとりをしながら、食堂に戻ると、席で待っていたらしいマリーメアとユノがこちらに気付いた。
「あ、やっと戻ってきた。おせーから残りは全部食っちまったぞ、です」
見ればテーブルの上の皿は綺麗に何も残っていなかった。悪びれる様子もなく椅子の背もたれに体重を預けてくつろぐマリーメア。満足そうにお腹などさすっている。
『冷めちゃうともったいないと思って、その……ごめんなさい』
一方、ユノは姿勢を正した状態で若干頬を赤くしながら、謝罪を口にする。対照的な反応なことで。
「構わない。食事中に席を外したのは俺たちだしな」
席を立った時点でさほど残っていたわけではなかったし。
そんな俺たちのやり取りをよそに、レティーナがおもむろにマリーメアの前に立った。
「マリー」
レティーナの神妙な面持ちに、マリーメアは居心地悪そうに身じろぎした。多分、叱られるのではと警戒してるな、これ。
「な、なに、です?」
「B等級になりましょう」
「……ふぇ?」
しかし、実際に出てきたのは寝耳に水な言葉。
マリーメアはお腹をさする手を止めて、間の抜けた声を漏らした。