仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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38.依頼マラソン

 冒険者ギルドが定める等級というのは単に強さを示すだけのものではない。

 

 依頼の信頼性、安全性、報酬の水準、あらゆる面に関わる“冒険者の信用度”を数値化した、ギルドの管理制度の中核だ。

 

 等級は下から順にF・E・D・C・B・A、そして最上位であるSまで。登録段階では一部例外を除いてFからのスタートとなり、そこからこつこつと上げていくことになる。

 

 ギルドでは冒険者に対しての評価値というものが存在しており、それが一定に達することで昇級、その際にパーティーの活動歴や、他メンバーの等級によっては試験を課される場合もある。

 

 では、その評価値とやらはどうすれば上がるのか。それは言うまでもなくギルドの依頼達成だ。他にも迷宮で得た素材などの資源をギルドで卸すことでも上がるとされている。

 

 他にも特殊な功績や戦果を上げることで、一気に昇格という流れもある。つい最近俺たちのパーティーが対象となったようにだ。もっとも都合よくそういう機会に遭遇できるわけでもないし、必ずしも昇級するとは限らない。というか、ぶっちゃけエランツァの匙加減だ。

 

 まあつまり、だ。マリーメアの等級を上げたいというならコツコツと依頼をこなしていくしかないのだが……。

 

 俺はレティーナの胸元を見やる。邪な気持ちからではない。そこには抱えるようにされた大量の依頼書の束があったからだ。

 

「なるべく同じ迷宮で達成できるもの、迷宮間の距離が近いものごとにピックアップしてもらいました!」

 

 等級について、それら一通りの説明を聞いたレティーナは「依頼をたくさんこなせばいいんですね! 分かりました!」との言葉と共に、ギルドの受付へと走り去った。数分の後、戻ってきて今に至るのだが、ちょっと想定の遥か上を行く依頼書の量に知らず身を引いてしまう。どうするつもりなんだ、それ。

 

「これだけ受ければあっという間に等級も上がりますよね!」

 

 全部受けるつもりらしい。

 

「えーとな……依頼にも一応受けてから達成までの期限があってだな」

 

「頑張っていっぱい達成すればいいわけですね!」

 

「うん、いやそれはそうなんだけどな……」

 

 俺はレティーナから依頼書の束を受け取って、パラパラと捲ってみる。ちょこちょこ街での雑務みたいなものも混じっているが、概ねは迷宮関係のものだ。素材回収や増え過ぎた魔物の間引き、郊外の迷宮から溢れた魔物の討伐など様々だ。

 

 これらを期限内に達成していこうとすると、まあ同じ迷宮で達成できるものや近辺で梯子できそうなものを上手く回るとしても、凄まじくタイトなスケジュールになる。

 

 迷宮によって規模はまちまちだし、依頼内容によっては必ずしも最深部まで行かなくてもいいとはいえ、まず間違いなく迷宮を駆け回るはめになる。走りながら魔物との遭遇戦や罠の対応……どこぞの龍人の鬼畜トレーニングじゃあるまいし。

 

「それこそ遭遇する魔物はワンパンでぶっ飛ばし続けて、罠もうっかり作動しても力づくでぶっ壊すぐらいの、勢い……じゃない、と……?」

 

 そこまで言って、俺は目の前で小首を傾げる聖女を見た。

 

「出来そうだな」

 

 リンファがボソっと呟く。何なら日頃からほぼやってる。走ってはいないだけで。

 

 となると、あと問題は……。

 

「……むやみやたらに依頼を受けすぎるのはマナー的にちょっと」

 

 こうまで大量の依頼をいちパーティーが一気に持っていくのは一般的にバッドマナー行為だ。というか実際にこれ全部を受けようとしてもギルドから止められると思う。

 

「あ、それなら受付の方がこれくらいなら大丈夫、というか受けてくれた方が助かるとのことで」

 

 レティーナが手で示す方向、受付には業務に勤しむカリネの姿。ちょうどこちらの視線に気づいた彼女はにこやかな笑顔で親指を立てた。

 

「……そうか」

 

 魔王の影響でタンデム中の迷宮が活性している情勢で、ギルドへの依頼も大幅に増加している。どうやらその増加量は俺が思っているより多かったらしい。なまじ多くの依頼があると、比較的条件の良くない依頼はどうしても残りがちになる。恐らくそういった依頼を中心に見繕った、ということか。

 

「その……ダメ、でしょうか?」

 

「よく分かんねーけど、マリーはレティ姉の案に賛成、です!」

 

「いや、お前の等級の話だぞ。……僕はアデムに任せるよ」

 

「そうだな……」

 

 普通に探索する分には余裕だったわけだし、いっそこれくらい依頼を詰めれば俺も暇せずに済むか。

 

「分かった、試しにやってみるか」

 

 

 

 

「てやーっ!」

 

 迷宮内を走りながら、気合の入った声を反響させるレティーナ。直後、豚のような頭にがっしりとした肉体を持った魔物、血牙猪人(ブラッド・オーク)が盛大に弾き飛ばされて背後で鈍い落下音を響かせる。

 

 その結果にレティーナは足を止めることなく、その様を見届けることもなく走り去る。後ろに続く形になっている俺たちも同様だ。

 

 あの後、とりあえず今日の午後で回れそうな分の依頼を受けた俺たちはすぐに対象の迷宮にやってきていた。

 

 陣形としてはレティーナを先頭にし、その後ろを俺、リンファ、マリーメアが追従。俺は罠の探知に集中し、致命的なものがあれば制止、リンファとマリーメアは必要に応じて術でレティーナを援護という形で……まあ普段とあまり変わらない。

 

 違うところはただ一点。ひたすら走り続けているというところだ。

 

 目当ての魔物、資源以外は一切無視。進路を邪魔する魔物は問答無用でぶっ飛ばして進む……。

 

 レティーナの圧倒的格闘能力と持久力によって、今のところそれは問題なく完遂されていた。

 

 再び前方に魔物の姿。今度は一匹ではなく数匹の群れだ。

 

「どきなさーい!!」

 

「グモオ……ゴッ!?」

 

「ゴギャッ」

 

「ギッ!?」

 

 こちらに気づいた魔物たちは当然、唸り声を上げながら臨戦態勢を取るのだが、暴走聖女のタックルに跳ね飛ばされ敢え無く散っていく。

 

 特に助走で勢いのついた一撃目を貰った個体に至っては壁に刺さっていた。地走竜に轢かれてもこうはなるまい……。

 

 運よく進路から外れていたおかげで難を逃れた魔物も恐れ慄いてか、追ってくる気配はない。まあ仮に追ってきたところで今度はリンファかマリーメアの術で一掃されるのがオチだが。

 

 そんな感じで魔物を轢殺することしばらく。

 

「ぜ……はぁ……!」

 

『お姉ちゃん、頑張って……!』

 

 流石に精霊術士であるリンファには、この持久走はそこそこ堪えてきたらしい。息を切らし始めている。同じく後衛職であるマリーメアはというと、獣人の血からかまだ余力を残している。

 

「……大丈夫か?」

 

「大、丈夫……!」

 

「ひ弱なやつ、です」

 

「はっ、はぁ……うる、さい……!」

 

『もう、マリーちゃん!』

 

 今、前方に見えてる魔物を倒したら、一度休憩を挟むか。……ん?

 

「あ、レティーナ! 待て! ストップ!」

 

「え!? ……あぁっ!」

 

「あっ」

 

 俺の制止は一歩、あるいはそれ以上に遅かったらしい。レティーナは咄嗟に止まれずに目の前の魔物、赫棘蜥蜴(スパイク・リザード)の横腹を蹴り上げた。

 

 いっそ爽快感すらもたらすダイナミックなフォームの蹴りをクリーンヒットさせられた赫棘蜥蜴は、悲鳴すら上げられずに背後の魔物を巻き込みながら吹っ飛んでいき、突き当りの壁に衝突して動かなくなる。

 

「あー……」

 

 赫棘蜥蜴はその名の通り、背にいくつかの赤い棘を生やした四足歩行の蜥蜴のような魔物だ。非常に鋭利で(やじり)や投擲武器などの材料として一定の需要がある。そんでもって、今回俺たちが受けた依頼目標のひとつだ。

 

 背から尾にかけて生えた棘はよく切れる半面、衝撃にはさほど強くないため採取を目的とするなら迅速かつ最小限の攻撃で仕留めることが推奨とされる、のだが……。

 

「わー! も、申し訳ありません!」

 

「いや、問題ない。他の魔物が緩衝材になったらしい」

 

 生き残っている魔物がいないことを確認しつつ、赫棘蜥蜴の状態を見ると棘はそこまで砕けていない。他の魔物に刺さったりしたことで損傷を免れたらしい。

 

 とりあえず手早く棘を剥ぎ取って、遺物の収納袋に放り込んでいく。パッと見はただのポーチだが、中の空間が歪んでおり、見た目よりかなり物が入る優れものだ。ちなみに世の中にはほぼ際限なく物が入れられるようなものも存在するが、そうそう市場には出回らないし、出たとて手が出るような値段ではない。

 

 目ぼしいものを剝ぎ取り終わったところで俺は仲間の様子を振り返った。

 

「レティーナ、少しペースを落とそう。リンファが限界近い」

 

「い、いや、僕はまだいける……はぁ、はぁ、ただ少しだけ息を整えさせてくれ……!」

 

「無理しないでください、リンファ様! すみません、私気づかなくて……」

 

「貧弱! よわよわ! です」

 

「ぐ……」

 

『もー! マリーちゃん!?』

 

「にゃああぁ!? 目がぁ!?」

 

「何やってるんだ……」

 

 ユノの抗議の発光を眼前で食らったマリーメアが、目を押さえて悶える。猫の性質で、なまじ暗闇に強いのが祟ったらしい。

 

 そんなやりとりを尻目に、リンファは悔し気に呻く。

 

「く……まさかこんなことで足を引っ張るなんて……!」

 

「あんまり気にするな。リンファは後衛職だし」

 

 迷宮でこんなにずっと走り続けることとかないし、むしろ頑張った方だろう。

 

『そうだ、お姉ちゃん! アデムさんに背負って貰うのはどう?』

 

「はぁっ!?」

 

 ユノの提案に、リンファが素っ頓狂な声を上げる。

 

 ふむ、俺がリンファを背負って移動か……。

 

「い、いやそんなの、流石に……」

 

「そうするか?」

 

「うぇ!? い、いいのか……?」

 

「あぁ。人ひとりくらいなら多分問題ない」

 

 その昔にはもっと重いものを背負って迷宮を駆けずり回らされたこともあるからな。

 

「え、えっと、でも、その……」

 

「リンファが嫌とかなら無理には」

 

「い、嫌とかではないっ! ……その、じゃあ、頼む……!」

 

「お、おう」

 

 俺がリンファに背を向けて屈むと、数秒の間をおいておずおずと俺の首に腕を回し、ゆっくりと体重を預けてきた。

 

「よっと……」

 

「お、重くないか……?」

 

「軽い」

 

「そ、そうか……」

 

 すぐ後ろから、ほっとしたような気配。それはそうと掴まる力が弱いし、重心がだいぶ後ろだな。これだと走ってる時危ない。

 

「もう少ししっかり掴まった方がいい」

 

「え、あ、そうだよな……走るもんな、うん、仕方ない……!」

 

 何か自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟いたリンファは、ぎゅっと力を込めて身を寄せてきた。今度はしっかり掴まりすぎかもしれない。

 

「あー……何かあったときはすぐに離れられるくらいの方が……」

 

「~っ! もう、どっちだっ!」

 

 何故か怒られてしまったが、結果的にちょうどいいくらいの力加減になった。さて、探索を再開するか。

 

「……あ、あの、私も後で背負ってもらったり……」

 

「……うん?」

 

「い、いえ、すみません、なんでもないです! 行きましょう!」

 

 駆け出すレティーナの背を見ながら俺は首を傾げた。

 

『うーん、にぶちん……』

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