仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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3.すぐそういうことする

 少年に近寄った俺は声をかける。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「……」

 

「んなとこでへたり込んでたらそのうち蹴っ飛ばされちまうぞ」

 

「……」

 

「取り合えず立てって……」

 

「……ッ!!」

 

 俺がもう強引に立ち上がらせようと腕を掴むと、少年はようやく反応を示し、手を振り払ってきた。

 

「放っておいてくれ!」

 

「あのなぁ……せめて別のとこでやろうぜ。迷惑だろ」

 

 俺の言葉に少年はギリ、と歯を軋らせる。意地になっているのか、なおも立つ気配はない。

 

 子どもかよ……。いや実際まだ子どもか。体格的にも、声音(こわね)的にも。

 

 こうして反応はしたのだし、俺が立ち去ればいずれ彼も立ち上がるのかもしれないが、もうなんだか面倒臭くなってきてしまった。

 

「ぅわっ……! お、おい、なにする……!?」

 

 俺は少年の首根っこを掴んで持ち上げた。当然ジタバタと抵抗されるがお構いなしだ。

 

「こらこら暴れんな」

 

 そのままギルド内に併設された食堂に連れていき、手近なソファーに放って、俺自身も隣に座った。

 

「きゃっ……お前ッ、何のつもりだ!?」

 

「あ、おーい、注文お願い!」

 

「お、おい聞いてるのか!?」

 

「これとこれと……あとこれ。お前は何食う?」

 

「いらない! 人の話を!」

 

「あ、じゃあ同じのふたつずつで」

 

 聞いておきながら、その返答は無視して勝手にさっさと注文を済ませてしまう。

 

 注文を終えた俺は隣に座る少年に顔を向けた。

 

「お前、名前は?」

 

 先ほど名前らしきものを呼ばれていたのは聞いていたが、一応尋ねておくことにする。

 

「ッ……バカバカしい!」

 

 だん、と音を立てて席を立とうとする少年。俺はその肩をがしりとホールドして無理やり着席させた。

 

「ぐえっ!? な、何なんださっきから……!?」

 

「あぁ、悪い。先に名乗るのが礼儀か。俺はアデムだ」

 

「そういうことじゃない! ふざけるな!」

 

「まあそう言うなよ。同じ日にパーティーメンバーを失ったもん同士仲良くしようぜ、仲良く」

 

「……何?」

 

 おっ、食いついた。

 

「俺もさっき顔出したら今朝解散されたって聞いてな。驚いたよ」

 

 嘘は言っていない。解散しようと言ったのは俺だが、手続きをしたのはあいつらだし、今朝既に解散されたと聞いて驚いたのも本当だ。何なら理由も俺の力不足だから、うん、嘘ではないな。

 

「……そうかい。それで、そのパーティーを追い出されたヤツが僕に何の用だい?」

 

 言葉にはいささか毒があるが、語調は幾分落ち着いたように思える。少なくとも会話をしてくれる気にはなったらしい。

 

「いや何、すごい偶然だと思ってな。何というかこう……縁を感じないか?」

 

「…………」

 

 目の前の少年が俺を見る目は何とも胡散臭げだ。そんなんで縁感じたくねーよって? 確かに。

 

「そういうわけでってのも何だが、名前ぐらい聞かせてくれないか?」

 

 再度名前を尋ねるが、少年は眉根に皺を寄せて押し黙ってしまう。ううむ中々手強い。

 

 俺が次はどうアプローチしたものかと考えているうちに、注文していた料理がやってきた。俺と少年の前にそれぞれ皿が並べられる。冷ましてしまうのももったいないので、早速いただこうかな。

 

 おっとその前に。

 

「それは奢りだから好きに食ってくれ。あ、もちろん嫌いなもんとかだったら無理に食う必要もないからな? 俺が勝手に頼んじまったもんだし」

 

 それだけ言ってから、俺は料理を食べ始める。やや大味だが、濃いめの味付けでボリュームがあって美味い。

 

 ぐうぅ。

 

 黙々と食べ進めていると、そんな音が隣から聞こえてきた。

 

 手を止めて視線を上げると、少年が顔を赤くしてプルプルと震えていた。

 

「…………ァだ」

 

「ん?」

 

「リンファ、僕の名前だっ」

 

 言って、少年改めリンファはおずおずと食事に手を付け始めた。

 

「おう、よろしくなリンファ」

 

「…………」

 

「ところでリンファはこれからどうするか決めてるか?」

 

「…………」

 

「他のパーティーに加入するか、あるいは募集をかけるか」

 

「…………」

 

「もし特に当てがないようなら、しばらく俺とパーティーを組まないか?」

 

「…………なに?」

 

 それまで返事をせず目すら合わせようとしなかったリンファが、ピクリと反応を示した。

 

「さっきも言ったが、これも何かの縁じゃないかってな。ちょうど良くないか?」

 

「馬鹿なのか、お前?」

 

 努めて明るい感じで言ったのだが、逆に癇に障ってしまったらしい。リンファが不愉快気に吐き捨てる。

 

「どうしてわざわざパーティーを追い出されたようなやつと組まなきゃならないんだ!」

 

「それはまあ……確かに?」

 

 言われてみたらそれもそうだな。しまったな。打ち解けるために言ったことが仇になってしまった。

 

「でもほら、次のパーティーもすぐに決まるとは限らないだろ? 何ならそれまでの期間だけでも」

 

「お断りだ! 僕は精霊術士だぞ。次のパーティーなんてすぐ見つかる」

 

「! へぇ、精霊術士か」

 

 あれこれ言っているうちに皿を空にしたリンファが懐から財布と思しき巾着を取り出した。

 

「おいおい、奢るって言ったろ」

 

「借りを作りたくない。特にお前みたいな面倒くさいのには」

 

「あ、おい」

 

 力強く置かれる硬貨。俺の呼びかけを無視して、リンファは再び受付に向かっていった。

 

 残された俺は硬貨を手に取ると、小さく嘆息して肩を竦めた。

 

「足りてないじゃん」

 

 

 

 

「……何故付いてくる?」

 

「付いてきたわけじゃないぞ。俺も新しいパーティーを探さないといけないからな」

 

 さっきしばらくひとりでやるって言ってきたばかりなんだけども。ほら、人間誰しも気が変わる時ってあるじゃん?

 

「…………ふん」

 

 顔を顰めつつも、それ以上追求する気はなくなったらしい。リンファは前を向いた。

 

「はい、ありがとうございました。次の方ー……」

 

 カリネはリンファを見て一瞬固まり、すぐ後ろの俺と顔を見合わせる。何度か俺達を交互に見比べたカリネが()()と何かに気づいたように目を見開く。

 

「あ、おふたりでパーティー登録ですね!」

 

「はぁ!? 違うッ!」

 

「あ、あれ違うんですか?」

 

「違うに決まってるだろう! パーティーの斡旋を頼みにきたんだ!」

 

「そ、そうなんですね。失礼しました……では冒険者認識票(ギルドタグ)の提示をお願いします」

 

 差し出された冒険者認識票に【解析(アナライズ)】の魔法がかけられる。

 

 冒険者認識票から情報を読み取ったカリネは眉根に皺を寄せた。

 

「その……申し訳ありませんが現在リンファ様にパーティーの斡旋、並びに募集は出来ません……」

 

「なッ……なんだって!? どうして!」

 

「リンファ様は直近半年での斡旋パーティー解消が5回を超えています。ギルド規定により暫くの間はパーティー斡旋を控えさせて頂くことになります……」

 

 あんぐりと口を開けるリンファ。

 

 なるほど、規定に引っかかったのか。

 

 実際問題、半年もない間に5回の解消というのは、かなり多いと言わざるを得ない。よほど実力が伴わないか、あるいは人格に難ありか。……後者っぽい気がするが果たして。

 

 冒険者は命のかかった職業である。ギルドとしてもパーティー斡旋はその責任を伴う為、問題の見受けられる冒険者にそういったペナルティが課せられるのは致し方ない面もあるだろう。

 

「そ、そんな……!」

 

「一応、ご自分で加入先ないしメンバーを見つけてきた場合は受理可能なのですが……」

 

 そう言ってちらりと俺を見るカリネ。

 

 ギルドの斡旋を介さないパーティー結成自体は別に珍しいことでもない。もともと連れでやってきた新米などはそのまま連れ同士で組むし、ベテランでも知り合い同士で組むことはままあることだ。

 

 だが、逆にそういった例以外となるとパーティーに飛び入りで加入するのは難しい場合が多い。

 

 わざわざギルドからの斡旋を介さずにパーティーを探しているとなると、それなりの訳ありと考えるのが普通だ。まともな神経をしていれば、そんな輩をふたつ返事でパーティーに入れはしないだろう。

 

 なら俺がしようとしたみたいにひとりで活動すればいいのでは、と思うかもしれないが、そう簡単にもいかない。

 

 まず大前提として、ひとりで迷宮に潜るのはリスクが高い。不測の事態に対して自分ひとりで対処できなければ簡単に命を落としかねない。

 

 ましてやリンファはさっき言っていたように精霊術士という魔術師系統の(ジョブ)だ。近接職ならまだしも、純粋な後衛職がひとりで活動するのは余程高位の冒険者でもなければ厳しいものがある。

 

「くっ……」

 

 それはリンファも理解しているのか、悔し気に下唇を噛んで俯く。反応からして、パーティーに入れてくれそうな知り合いもいないのだろう。

 

 冒険者は常に命の危険と隣りあわせだ。戦場での油断、仲間との不和、驕りと蛮勇。そんなもので簡単に命を落とす。ある日から突然顔を見ることがなくなった者もひとりやふたりではない。

 

 別に俺が何かする義理はないし、冒険者たちは皆自分の命に自分で責任を持つものだ。余計なお節介かもしれない。ただ、このまま何もせず見送って、この先ふと彼の顔を見ないことに気付いた時、しばらく夢見が悪くなるだろう。

 

 俺はそれが嫌だった。

 

「あの……どうなさいますか……?」

 

「もういいッ、ならひとりで……っ」

 

 後ろからリンファの肩をつつくと、ビクリと体を揺らして振り返った。

 

「…………」

 

 俺は無言で自分を指さす。

 

「な、なんだよ」

 

「俺、剣士。前衛職」

 

 俺はにっこりと笑みを作って頷いた。

 

「ぐ、ぬぬ……」

 

 しばらくの間、妙な唸り声を上げて懊悩していたリンファは、程なくしてカリネに言った。

 

「こ、こいつと……パーティーを結成する……!」

 

「おう、よろしくなぁ!」

 

 リンファに言いながら、こっそりカリネに親指を立てて見せると彼女は苦笑しながら控えめに親指を立て返してくれたのだった。

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