仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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5.再湧出

「お、来たか。おはよう」

 

「……おはよう」

 

 リンファとのパーティーを組んで毎日迷宮に潜ることはや3日。今日も今日とて、迷宮に潜るべく俺はギルドにてリンファと落ち合っていた。

 

「よし、早速だが今日潜る迷宮は……」

 

「待て、今日は僕が決めさせてもらう!」

 

「どうした急に」

 

「君と組んでからというもの、ここ数日低レベルな迷宮ばかり、もう我慢の限界だ! 僕らはパーティーを組んだが、君がリーダーという訳じゃあない。僕にも選ぶ権利があるはずだっ」

 

「まあ、それはそうだが……一応聞くけど何処に行くつもりなんだ?」

 

「【魔晶洞】」

 

「【魔晶洞】って……危険度Cか。うーん……でも、リンファってまだD等級(ランク)だろ?」

 

「僕は危険度Cでも通用するっ! それともD等級は危険度Cの迷宮に潜ってはいけない規定でもあるのか?」

 

「ないけど……」

 

 ひとつ上までなら挑戦できてしまう規定となっている。

 

 俺は考える。

 

 ギルドが定める迷宮の危険度においてCランクというのはちょうど中堅程度。潜れる冒険者はベテランとまでは言わないが、一人前として扱われる等級だ。当然、相応の危険が伴う。

 

 リンファの個人等級はDだが、昨日の術の冴えを見る分には確かにCでも通用するかもしれない。俺に関しても腐ってもB等級だし問題はない。……筈。前のパーティーでは最終的に俺はほとんどの戦う機会を失い、迷宮おさんぽマンと化してしまっていた為、今現在の自分がどこまでやれるのかが未知数なのだ。

 

 俺が戦いに参加できていた頃は危険度Bでもそれなりにやれてた気がするのだが、今となっては遠い日の思い出である。鈍ってなければいいのだが。

 

 初日にわざわざ低ランク迷宮を選んだのはそれを確認する為でもあったりするし、その後も段階的に迷宮の危険度を上げてきた。無闇に危険度の高い迷宮に潜って、前衛としてリンファを守り切れないなんていう状況は避けたかったしな。

 

 しかし、リンファにとってはそれがじれったく感じられたらしい。

 

「これからもあんな迷宮に潜るつもりならこのパーティーを続ける意味はない!」

 

「おいおい……」

 

 一体何をそんなに焦っているのか。リンファの頑なさに俺は呆れよりも困惑が勝っていた。

 

 リンファの気質はこの3日間でそれなりに分かってきたつもりだ。もとより割と強引に組んだパーティーなのもあって、辞めると言ったら本当に辞めてしまうだろうことは想像に難くない。

 

 ぶっちゃけ、そうなったとして俺に何か不都合があるというわけでもないのだが、リンファの今後を考えると後味は良くない。

 

「はぁ……分かった、【魔晶洞】に行こう」

 

 結局、説得の余地なしと俺が折れる形でその日の【魔晶洞】行きが決定した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 【魔晶洞】はその名の通り、内部を数多の水晶のようなもので覆われた迷宮だ。一抱えほども大きい水晶がそこらにごろごろと生えている。初見だと水晶取り放題じゃんなんてテンションが上がる光景なのだが、現実はそう上手くいかないものらしく、【魔晶洞】の水晶は不思議なことに掘ったり折ったりして迷宮から離れると塵となって消えてしまう。

 

 また、この水晶は常に淡い光を放っており、無数の水晶がそれらを反射し合うことで迷宮内を美しく照らしている。

 

 そんな一見幻想的な迷宮の中で、俺たちは大量の蟹に囲まれていた。身体全体が水晶のようなもので出来た蟹は上背が俺の腰ほどもあり、バカでかい挟みで挟まれようもんなら人間の体など真っぷたつだろう。

 

 壁を背にし、俺が押しとどめている限りは後衛が攻撃を受ける事はないため、リンファには援護に徹してもらう。

 

「こいつら次から次へと! 【凍て貫け(アイスバレット)】!」

 

 リンファの精霊術が射出され、水晶蟹を打ち据える。蟹は見た目相応には固く、ボディには氷の飛礫も効きが悪い。

 

 俺はというと、リンファの術に蟹共が気を取られている隙を突き、蟹の足関節を狙って剣を叩きこむ。蟹共は水晶で出来ているだけあって剣などの刃物は通りが悪い。スパッと一刀両断にすることも出来なくはないが、この量相手にそれをするには俺の魔力ではじり貧だろう。

 

「ふッ」

 

 故に俺は比較的脆く、尚且つ機動力を奪える足を集中的に破壊して回っていた。まともに動けなくさえすれば倒したも同然であり、とどめは後でのんびり刺せばいい。省エネ省エネ。

 

「リンファ、足を狙え!」

 

「……っ、【凍て貫け(アイスバレット)】! 【凍て貫け(アイスバレット)】! 【凍て貫け(アイスバレット)】!!」

 

 矢継ぎ早に射出された精霊術。そのいくつかが蟹の動きを鈍らせることに成功する。

 

 必死に術を使い続けるリンファをしり目に、俺はひしめく蟹どもを黙々と処理し続ける。

 

 大分数も減らして蟹も残り数匹、余裕が出たのを見計らい俺はリンファに話しかける。

 

「リンファ、ちょっといいか?」

 

「……? なんだ、まだ蟹は残ってるぞ」

 

「あぁ、残してるからな」

 

「なに?」

 

「術を展開する時はいつも自分の周りに広げるようにするだろう? でもこいつら相手には、それより一点に連ねるようにして展開した方が効果的だ」

 

「一点に……? こ、こうか……?」

 

 言いながら発動した【凍て貫け(アイスバレット)】は前後に整列していた。

 

「硬い相手は同じ場所を続けて攻撃するのが定石だ。そんでその方が同じ部位を狙い易い。撃って見ろ」

 

「なるほど……」

 

 連続して放たれた氷の飛礫はガガガガ、と小気味のいい音と共に蟹の脚部に命中し、その脚部を完全に破壊せしめた。発想自体は言われてみればそりゃそうだとなるようなものだが、これが意外と効果的なのだ。

 

「や、やった!」

 

「一発か。やっぱ要領いいなお前」

 

「えへへ……あ、いや……ふん、これくらい余裕だともっ」

 

「その調子で残りも倒してみろ」

 

「言われずとも!」

 

 珍しく嬉しそうなリンファの、いつも通り素直じゃない言葉に思わず笑みがこぼれる。

 

 程なくして全ての蟹にとどめを刺し終わり、周囲に他の魔物がいないことを確認したところで一息つくことにした。

 

 蟹の屍に腰かけて携帯食を取り出す。青紫色をした蛸足を干物にしたようなそれは、パッと見は大変不気味だが、噛めば噛む程旨味が出て中々いけるのだ。初めて露店で見かけた時は物珍しさと怖いもの見たさで購入したのだが、今ではお気に入りの一品になっていた。ちなみに具体的にこの物体が何なのかは未だに知らないし、露店のおじさんも教えてくれない。

 

 おやつがてらタコ足(?)を頬張っていると、リンファがおずおずと近寄ってきた。

 

「ん、ふぉーふぃは(どーした)?」

 

「……その、だな」

 

 何やら言いよどむように言葉を区切るリンファ。しばらく黙ったまま、微妙な雰囲気が場を包む。

 

「……? えっと……お前も食うか?」

 

「え、いらない……何だそのキモいの」

 

 なんとも言えない気まずさに耐えかねて差し出したタコ足(?)はにべもなく拒絶された。キモい……まあキモいけどさ。

 

「そうじゃなくて……その、さっきは助かった! それだけだ!」

 

 絞り出したように早口でそれだけ言うと、リンファはそそくさと少し離れたところに行ってしまった。

 

 絶妙に素直になり切れていないリンファの態度に少し笑って、俺は残りのキモいタコ足(?)を口にした。美味しいんだけどな……。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 あの後、迷宮探索に興が乗った俺たちはそのまま魔物を蹴散らしながら進み続け、最深部の大部屋に到達していた。迷宮の最深部には迷宮核石(ダンジョン・コア)と呼ばれる魔力結晶体が存在し、これによってダンジョンはその存在を維持されている。

 

 未踏破迷宮であればその前に核を守る迷宮守護者(ガーディアン)が冒険者の行く手を阻んでくるのだが、あいにくと【魔晶洞】は踏破済みなため守護者の領域はもぬけの殻だ。

 

「これが危険度Cの迷宮核石……」

 

 リンファが目の前に鎮座する巨大な迷宮核石をしげしげと見つめる。

 

「危険度Cの迷宮核を見るのは初めてか?」

 

「……ああ、悪いか?」

 

「いやそんなこと一言も言ってないって」

 

 相変わらずのトゲトゲ具合に苦笑すると、リンファはほんの少しだけばつの悪そうな顔をした。

 

 ところで、迷宮は出現する魔物の強さや罠の危険性に加えて、その“深さ”も危険度の設定に含まれる。危険度Cともなるとそれなりの深さを誇るのだ。そんな迷宮の最奥まで来てじゃあ、帰りはまた無駄に長い迷宮を魔物をしばき倒しながら引き返すのかというとそんなことはなかったりする。

 

 迷宮核の周りを取り囲むように書かれた魔法陣、その名を帰還陣。攻略済みの迷宮には一瞬で迷宮の入口まで転移出来る便利機能が搭載されているのだ。転移系の魔法は本来超高難易度で魔力も馬鹿食いするため、おいそれと目にすることはないのだが、この帰還陣は迷宮核石と接続することで必要魔力を補い、誰でも発動可能という画期的な代物だ。

 

 そんな文明の利器に内心感謝しながら、帰還陣を起動させる。

 

「……ん?」

 

 起動しない。

 

「おかしいな……」

 

 しゃがみこんで帰還陣を調べてみる。陣自体に問題はないようだが迷宮核石(ダンジョン・コア)からの魔力供給がされていない……?

 

「お、おい、何か様子がおかしくないか?」

 

「あぁ、おかしいな。転移陣が起動しない」

 

「いや、そうじゃなくて! 迷宮核石が……!」

 

「何……?」

 

 言われて、顔を上げ迷宮核石を見やる。

 

 そこには輝きを増し、溢れんばかりの魔力を渦巻かせる迷宮核石。

 

「なッ……!?」

 

 そして光が弾けた。あまりに眩い光の奔流に、思わず目を覆う。

 

 これは、この現象は……!

 

 間もなくして奔流が収まるや否や、俺は背後を振り返る。大部屋の中心、そこでは溢れ出した光——魔力そのものが集合しある形を作り上げられるところだった。

 

 曖昧な光の塊に過ぎなかった筈のそれはやがて、光をひそめ、代わりにはっきりとした像を結ぶ。

 

 この現象に、その存在に、俺は心当たりがある。だが、まさか、そんな。

 

 体高は俺の1.5倍程あるだろうか。眩く輝く紫紺の外殻と巨大な一対の鋏に、腹部から伸びる長い尾の先には鋭利な針。頭部で妖しく光る四対八つの赤い瞳——。

 

 ヒュッという、リンファの息を呑む音。

 

 間違いない。その姿に俺は確信した。

 

 【魔晶洞】守護者・紫晶の魔蠍(アメジスト・スコーピオ)

 

 

 

 守護者の復活、再湧出(リポップ)だ。

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