仲間が強すぎてやることがないので全員追放します。え? パーティーに戻りたいと言われてもまだ早い   作:縁日 夕

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8.偉大な人間は輝いて見えるという風潮

「知ってる天井だ……」

 

 窓から差し込む朝日で目が覚めた俺は、ギルドに備えられた医務室の天井を眺めてそんなことを口走る。

 

 帰還陣の前で倒れた後、俺はどうやらここに運び込まれたらしい。体を見てみると包帯がぐるぐる巻きにされてミイラ男みたいになっていた。ギルドに詰めている治癒魔法使いでは完治させられない程度には重症だったようだ。

 

「いっ……つつ……!」

 

 体を起こそうとして全身に走った激痛に呻き声を漏らす。それにしてもこんなに負傷したのはいつぶりだろうか……。久しぶりの強敵との死闘、それに勝利。体はひどく痛む一方で気分は晴れやかだった。

 

「すー……すー……」

 

「うん?」

 

 なにやら間近で寝息のような音が聞こえる。音のする方を向くと、椅子に座ったまま俺が寝るベッドの枕元で突っ伏すように眠るリンファがいた。

 

 あれからどれくらい経っているか分からないが、まさか俺が寝込んでる間ずっとそこにいたのだろうか。あの戦いでリンファも相当魔力を消耗した筈だし、疲れていたろうに。

 

 起こすかどうか一瞬迷うが、こんな体勢のままここで寝ていても疲れが取れないだろうし、ひとまずは起こしてちゃんと家なり宿なりに帰って休むよう言おう。

 

 俺はリンファの肩を揺すり起こす。

 

「んん……っアデム!?」

 

「うおっと……」

 

 目を開けるやいなや、こちらに身を乗り出すように顔を寄せてきたリンファに仰け反る。

 

「よかった、目を覚ましたんだな……」

 

「おう、悪いな心配かけて。ずっとここに居てくれたのか?」

 

「い、いやっ……ついさっき来てうとうとしてしまっただけだっ」

 

 なんだ、そうなのか。まあそれならそれでも朝早くからわざわざ見舞いに来てくれたということで悪い気はしない。

 

「ところで俺はどれくらい寝てた?」

 

「迷宮から出たのが深夜だったから……一晩ないくらいだ」

 

 そんなもんか。何日も寝込んでいたとかではなく一安心だ。

 

「……その、アデム」

 

「ん?」

 

 リンファが何か言い出そうとした時、医務室の扉が勢いよく開かれた。

 

「アデムさんッ!!!」

 

「ホムラ?」

 

 そのまますごい勢いで部屋に飛び込んできたのはホムラだった。俺と目が合ったホムラは目を見開き、その顔からは血の気が引いていた。

 

「あぁそんな……! すぐに治しますっ……! 【アークヒール】!」

 

「うお」

 

 相も変わらず、こともなげに発動された最上級治癒魔法により俺の体の傷がみるみる治り、痛みが消えていく。凄まじい効果だ……以前はこんな怪我する場面がなかったから、何気に相応しい場面で使われるのは初めてだ。

 

 恐らくギルド職員の誰かに俺のことを聞いたのだろう。わざわざ治療に来てくれたらしい。

 

「ありがとうホムラ、助かっ……」

 

「【アークヒール】」

 

「えっ」

 

「【アークヒール】【アークヒール】【アークヒール】【アークヒール】」

 

「いや、ちょ、ホムラ?」

 

 すでに完治したのにも関わらず、矢継ぎ早に連発される【アークヒール】に顔が引きつる。最初その高度な魔法にただ驚いている様子だったリンファもちょっと怯えだして絶句していた。

 

「【セイクリッドヒール】【アークリジェネレイト】【アブソーブヒーリング】……!」

 

「もう治ってる治ってる! てか何か体が熱……光ってる!? 俺の体光り出してる!!」

 

 過剰回復による副作用なのか、俺の体中から眩い光が溢れ出していた。怖い怖い怖い!

 

「アデムさーん、怪我したって聞いたっすけど……うおっ眩しっ」

 

「アデムさん……! とうとう偉大過ぎて体が輝いて……?」

 

 後光ではない。

 

「ゲルド、エルシャ! ちょうどいいところに! ホムラを止めてくれ!」

 

「え? って、ちょっとホムラ何してるのよ!」

 

「うわあ、めっちゃ治癒魔法撃ってるっす!? やめるっすよ!」

 

 ひたすら治癒魔法を唱え続けるホムラの異常な様子に、ふたりも驚きながら止めにかかった。

 

「もごっ!? むうー!?」

 

 ふたりがかりで口を塞がれたことでホムラの治癒魔法連打がようやく中断される。

 

「むぐっ、ぷはっ! はあ、はあ……」

 

「落ち着いた? もう、一体どうしたのよホムラ」

 

「ご、ごめんなさい……こんな怪我してるアデムさん見たことなくて……頭が真っ白になっちゃって……!」

 

「いや大丈夫だ……おかげで怪我は完全に治ったしな」

 

「しっかしアデムさんがそんな怪我するなんてよっぽどっすね……」

 

「うう……私も一緒に戦えてれば……」

 

「アデムさんですらこうなのよ? 私たちなんか居ても足手纏いにしかならないわよ」

 

 お前らがいたらものの数分で消し炭だわ。こいつらの異様な自己評価の低さは一体何なのか。

 

 そんな中、ふと気づいたかのようにエルシャがリンファを見やる。

 

「そういえばその子は?」

 

「あ、それ俺も気になってたっす」

 

「あー……えっとこいつはリンファっていって、今パーティーを組んでる相手だ」

 

「えっ……アデムさんの新しいパーティーメンバー、ですか……?」

 

 ホムラが少しだけ悲し気な表情をして俺を見ようとし、その眩しさに顔を背けた。

 

「……君たちは?」

 

「私たちはアデムさんの……元パーティーメンバーです。ホムラといいます」

 

「ゲルドっす。よろしくっす!」

 

「エルシャよ」

 

「アデムの元パーティーメンバー……」

 

 3人の挨拶を聞いて、何事か考え込む様子のリンファ。

 

「その……リンファさんはどうしてアデムさんとパーティーを?」

 

「それはアデムから誘われるまま……まあ成り行きだ」

 

「ということはアデムさんと一緒に戦ったんですね」

 

「あ、ああ……」

 

「……。その上でアデムさんはこんなに怪我を……? リンファさんはほぼ無傷に見えるのに……?」

 

「ッ……そ、れは……」

 

 ホムラの底冷えするような声に、部屋の気温が下がった気がした。ホムラの仄暗い目がリンファを見つめる。

 

 不穏な気配を感じ取った俺は口を挟んだ。

 

「ホムラ、この怪我は俺の不注意が招いた結果なんだ。あまり責めないでやってくれ」

 

 実際、あの時俺がもっと早くリンファを制止出来ていれば負うことのなかった怪我だ。

 

「っ、で、でもっ」

 

「リンファが居なきゃ勝てなかったし……結果的にこうして生きて帰って来れてるわけだしな」

 

 結果オーライというか、終わりよければすべて良し的な感じである。今回は何とかなったし、あとは反省して次に活かせばいいのだ。

 

「……ホムラ?」

 

 俺のリンファへのフォローを聞いて、何故か呆然としたような顔をするホムラ。そのまま数歩後退したと思うと踵を返してふらふらと出て行ってしまった。

 

「もっと……もっと強くならないと……もっと……」

 

「ち、ちょっとホムラ!」

 

「あちゃー……、アデムさん俺達も失礼するっす」

 

「お、おう」

 

 ホムラを追いかけてエルシャとゲルドのふたりも退室していき、部屋には浮かない表情のリンファと七色に光る俺だけが残された。

 

 朝から、しかも医務室で騒がしいことこの上ない。医務室に他の人が居なくてよかったなどと考えていると、ノックの音が響いた。また来客か。

 

「どうぞ」

 

「失礼しま……何の光!? あ、アデムさん、どうしたんですかそれ!?」

 

 入ってきたのは受付嬢のカリネだった。

 

「あーいや、ちょっと色々あって……怪我が治った代わりにこんなことに」

 

「そ、そうなんですか。それはその……大変ですね?」

 

「それで何か用か?」

 

「あ、はい。ギルドマスターが話をしたいとのことで……」

 

「俺は危篤状態だと伝えてくれ」

 

「えぇ!? いやそういうわけには……」

 

「じゃあ重病で面会謝絶ってことで。身体もこんなに光ってる……」

 

「いや光ってますけども……」

 

「随分元気な重病患者もいたものよのぉ」

 

「げ」

 

 そんな言葉とともに部屋に入ってきたのはひとりの女性だった。

 

 すらりとした高めの上背で均整の取れたプロポーション。艶やかな黒髪にそれを飾るように側頭部より生えた一対の角に加え、どこか異国情緒を感じさせる衣服の後ろからは龍の尾のようなものが揺れて見えた。

 

 何より目を引くのは、その顔を覆う龍の頭を模した仮面。

 

 一度見たら忘れられないインパクト抜群のビジュアルだ。

 

「げ、とはご挨拶じゃな、アデム? カカっ」

 

 言葉とは裏腹に愉快そうな笑いを零すそいつは、今現在、王国内に10人しかいないS等級(ランク)到達者にしてタンデム冒険者ギルドの長を務める龍人。

 

 エランツァ・ドラクゥリアその人だった。

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