影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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性懲りもなく初投稿です


序:カオス・スペース0『イミテーション・ビギニング』
プロローグ 『ある登場人物の憂鬱』


 それはあまりにも突然の出来事だった。

 

 

 母親に手を繋がれ、横断歩道の赤信号を恨みがましく睨みつけている時に、不意に、電撃に撃たれたかのようなショックに見舞われた。

 

 

 訝った母の言葉を曖昧に受け流しながら、僕、いや『俺』は、あまりに突然に自我に芽生えた。というか思い出した。

 

 

 切っ掛けは何もなく、何の説明も無しに、かつて自分が別の世界で20数年の時を生きた成人男性であったことを思い出したのだ。

 

 

 信号が青になり、母に引っ張られる形で歩き進む中で、俺の頭の中は大混乱の嵐に吹き飛ばされそうになっていた。

 

 

 何故?何で?俺は転生したのか?じゃあ前の俺はどうなったのか?ここにいるという事は、つまり()()()()()()()()

 

 

 様々な疑問が、もがき苦しみながら水底へ沈みゆく入水自殺者の吐き出す気泡のように浮かび上がっては消えてゆく。

 

 

 小さな体の小さい歩幅の俺に会わせてゆっくりと、しかし確実に、母は俺を引率しながら目的地へと進んでゆく。行き先は近所の商店街にある服屋だ。

 

 

 今日は日曜日。前から予定していた、俺の服を買いに行く日だった。記憶にはそうあった。知ってはいるが、知らない記憶だ。

 

 

 端的に言えば、気味が悪かった。だっていきなり知らない数年分の記憶が頭の中に、それも違和感なく居座っているのだから。

 

 

((まったく、健ちゃんは男の子なのに女の子みたいなかわいい服が着たいのね?))

 

 

 駄々をこねた俺に、苦笑いを浮かべた母の顔が脳裏に浮かんでは消えた。知っているが、知らない記憶。

 

 

 気付かれないように、母の顔を見上げる。

 

 

 綺麗な顔立ちだった。目鼻はすっと立ち、美しい青空の様に透き通るような水色の髪は、陽光を受けて輝いていた。

 

 

 …はてこの顔…どっかで見覚えがあるな?

 

 

 既視感と、言いようのない不安を感じた。海原のど真ん中で、空の彼方に黒雲を見つけたような、そんな不安だ。

 

 

 頭の奥底で不安の正体が出かかっている。何か手掛かりさえあれば、一瞬で答えは出るだろう。だが、その手掛かりがどうしても掴めなかった。

 

 

 例えるなら、決壊間近のダムの水のような物だ。後ほんの数グラムそこらの力が加われば、一気に決壊して疑問を押し流してくれるはずだ。

 

 

 考えろ。考え続けるんだ!神が気まぐれに微笑むのは、最後まであきらめなかった者だけである。

 

 

 もどかしさにうんうん唸っていると、いつの間にか目的地である商店街に足を踏み入れていた。

 

 

 夢中になって考えている内に、それなりの時間が経過していたようだった。

 

 

 母親が立ち止まり、何やらバックの中をあさりだした。母が足を止めた事により、必然的に俺の足も止まる。先に行く訳にもいかないので、母の探し物が終わるまで俺は自分の世界に埋没した。

 

 

 だがやはり答えは出ず、諦めが胸中に満ち始めた。

 

 

 ため息を吐き、何とはなしに横を向いた。世界が凍り付いた。

 

 

 振り向いた先には、目的の服屋のショーウィンドーがあった。ピカピカに磨かれたガラスに映る己の姿に、俺は釘付けとなった。

 

 

 母と同じ水色の髪を伸ばし、母譲りの整った顔立ちは強張っており、父譲りの深い青色の瞳は驚愕に見開かれていた。

 

 

 そして、感じていた不安の正体がついに突き止められた。疑念のダムが決壊し、凄まじいまでの情報の濁流が押し寄せてきた!

 

 

((まさか、そんな…!))

 

 

 あまりの衝撃に一歩二歩と後退る。ガラスの中の俺も同じように後退った。

 

 

「マジかよ…」

 

 

 思わず口をついて出た言葉にはっとなって口元を隠し、恐る恐る母親を見るが、母は探し物に躍起になってこちらの様子に気づいてもいない。

 

 

 浅くなってゆく呼吸を悟られぬように口に手を置いたまま、もう一度ガラスに映る己を見る。間違いであってくれと願いながら。しかし願いも空しく、そこには無慈悲なまでに先程と同じ、女の子のような男の子が映っていた。

 

 

((俺もしかして…影武者くんちゃんになってる!?))

 

 

 俺の前世で、『カオス・スペース』というゲームがあった。

 

 

 全三部作。番外編がいくつか出ている人気アクションゲームだ。

 

 

『カオス・スペース』の世界観は異能と呼ばれる能力を誰しもが持っている異能社会だ。異能というのはかつて光と闇の神(という名の異星から流れついた生物)が人々に与えた力の名残という設定がある。

 

 

 光と闇の神は元は火星に住んでいた力ある者たちの最後の生き残りで(実は混沌の神というのが生き残っているが、それは『カオス・スペース2』の出来事なので省略)、争いながら宇宙を駆け巡っている内に地球へ不時着。地球の原住民である人間を巻き込んで、戦争を始めた。

 

 

 光の神は希望や優しさと言った善の力を、闇の神は怒り憎しみといった負の力をそれぞれ糧とし、光の神の眷属は聖者や勇者と呼ばれ、闇の神の眷属は魔物や魔王と呼ばれた。

 

 

 両者は激しく争い、最終的に勇者が魔王を打ち取り、光の神のバックアップを受けた聖者が見事闇の神を封印し、闇の軍勢は散り散りとなり、勇者たちは数千年の平和を勝ち取った。

 

 

 だが今言ったように、闇の神の軍勢は散り散りになった。散り散りになっただけ。そう、全て滅んではいないのだ。生き残りは光の神の眷属たちの目をかいくぐり、『教団』と名を変え、虎視眈々と闇の神の復活のために暗躍していたのだ。数千年の時をかけて。

 

 

 第一作『カオス・スペース』のストーリーは、何故か異能を持たずして生まれた主人公『光黒暗夜(ひかりぐろあんや)』が、聖者の子孫である『光績(ひかりつむぐ)』と時に衝突し合い、時に笑い合いながら己の血筋を知り、闇の軍勢たちと戦い抜くというのが第一作の概要である。

 

 

 さてそんな無印カオス・スペースには様々なキャラクターが登場するわけなのだが、その中に、『鳳凰院千歳(ほうおういんちとせ)』というキャラクターがいる。

 

 

 千歳は暗夜と同じく物語の舞台となる『神代学園』の同級生として登場する()()()()()()()()。彼女は鳳凰院コーポレーションという大企業の一人娘にして、その正体は一番初めに相対する教団の幹部なのだ。

 

 

 というのも、教団はあちこちで闇を抱えた人間を唆して秘密裏に勢力を伸ばしており、鳳凰院コポレーションもその毒牙にかかってしまったのだ。

 

 

 野心溢れる鳳凰院社長は教団の力が金になる事を一早く察し、声がかかるや否や様々な物資を、金を、()()惜しみなく差し出した。

 

 

 彼からすれば、自分以外の全ては金を生み出すための装置にすぎず、娘も例外ではなかった。

 

 

 鳳凰院社長は娘が地獄に送られるその見返りとして、優秀な護衛の手配や取引の際の()()()()()()()()()()()といった恩恵を受けたのだ。

 

 

 千歳は地獄のような苦しみを受けているにも拘らず手を差し伸べないどころか、更に苦しめと言わんばかりに責め苦をつぎ足す父に、憎しみは募り、愛を与えられない事に悲しみ、その精神は歪みに歪んだ。

 

 

 彼女は『破壊』という異能を持っている。この異能はかつて魔王と呼ばれた闇の神の軍勢の頭領の力の一部が異能という形で発現したもので、同じく勇者の力そのものを受け継いだ暗夜を本能的に嫌っている。

 

 

 そういう裏設定もあり、本編に登場する鳳凰院千歳はそれはもう目に余る傍若無人ぶりを披露してくれる。

 

 

 初登場時で暗夜君の能力無しを嘲り、挑みかかってきたのをボコボコにするという衝撃的なイベントを筆頭に、ヒロインである績が誰からも愛されるのに嫉妬して罵詈雑言を浴びせかけ、行く先々で場を引っ掻き回してはキーキー負け惜しみを言いながら去ってゆく。

 

 

 最期は与えられた闇の神の一部を心臓ごと抉り取られて死亡。そして今まではチラ見せでしか出てこなかった幹部たちと本格的な戦闘を行う後半戦へと突入する。

 

 

 まあつまり序盤のカマセである。くくく…あいつは四天王の中で最弱!枠である。

 

 

 さて鳳凰院千歳の事はこれで十分語っただろう。ここからが本題だ。

 

 

 設定集に載っている千歳が闇の神に差し出され、闇の神の一部を与えられた際のイラストに、彼女の背後にはある従者がいた。

 

 

 同じ体格、同じ顔、同じ髪形の、千歳の生き写しのような子供だった。

 

 

『彼』の名は『イミテーション(模造品)』

 

 

 そう、彼だ。男だ。男の娘だ。つまり俺だ。

 

 

 設定資料には容姿というのは呪術的には極めて重要で、全く差異の無い容姿ならばそれを本人と誤認させることができる、という理由で、闇の神の力を二人で共有させて負の力の吸収効率を引き上げているらしい。

 

 

 イミテーションくんちゃんの出番は前半の最後で千歳本人と戦い、撃破したかと思ったら、高笑いと共に唐突に本体が登場。

 

 

 彼の能力は能力のコピーであり、それを使って自分を千歳と偽って暗夜たちと戦っていたのである。

 

 

 敗北し、息も絶え絶えに縋りつくイミテーションくんちゃんを千歳は鼻で笑いながら蹴飛ばし、あろうことか使えない奴と罵りながら共有していた力を全て奪い去ったのだ。

 

 

 信じていた主に捨てられ、力すら奪われたイミテーションくんちゃんは絶望の後に死亡。

 

 

 千歳も奪った力でパワーアップしたものの、そんな光景を見せられた暗夜たちは怒りでパワーアップしており全く勝負にもならずに敗北。

 

 

 這う這うの体で逃げ帰っても、お前はもう用済みと言い捨てられ心臓に宿った闇の神の欠片を抉り抜かれ、縋っていたものに裏切られた彼女もまた絶望の後に死亡。

 

 

 はい。

 

 

 …。

 

 

 ……。

 

 

 い、嫌だー!オラそんな風に死にたくないだー!

 

 

 さ、幸いまだ俺は千歳のちの字どころか闇の神の勢力の影すら踏んだことが無い!父も母も馬鹿な弟も愚かな妹もそんな連中とは無縁の善良な一市民だ。

 

 

 だ、だったらこのまま連中の事なんかに関わらずひっそりと生きていれば、原作勢とは関わり合いになるなんてことは無いはずだ!

 

 

 カオス・スペース3まで結構な時間が流れるし、何処に居ても危険が付きまとうけど、3作ともトロコンまでやっており、内容もどこで何が起こるかは知っているから死ぬことは無いはずだ!

 

 

 お、そう考えるとなんだか何とかなる気がしてきたぞ!

 

 

 やれる、やれるんだ俺は!

 

 

 決意を胸に、顔を上げる。ガラスの向こう側の俺も同じく顔を上げ、その決意に満ちた目で見つめ返していた。

 

 

 俺たちは頷き、それから母に顔を向けた。丁度探し物を終えたみたいで、待たせてごめんねと頭を撫でてきた。

 

 

 気にしてない風にかつ子供らしく返答すると、にっこりと笑ってまた手をつなごうと手を伸ばしてきた。

 

 

 俺も手を伸ばした。

 

 

 その時!

 

 

 ここからそう遠くない場所で、ずんっと腹に響く轟音が轟き、その音に何事かと目を向けた先で爆炎が立ち昇った!

 

 

 え!?なんぞこれ!?

 

 

「ひゃーっはっはっは!!!俺は無敵だぁ~!」

 

 

 と高らかに宣言しながら現れたのは、掌に黒い炎を生じさせた、見るからに危険な男であった。

 

 

 言った傍から教団の接触者とエンカウントするってどういうことなのー!?

 

 

 こいつは教団と接触し、闇の神の欠片を与えられて自我に異常をきたした『黒い者』あるいは『黒き者』と呼ばれる序盤、中盤の雑魚または中ボスを担う敵キャラだ。

 

 

 ゲーム本編での記念すべき初登場は入学式を終えた暗夜が下校している際に現れ、このゲームのチュートリアルを兼ねた戦闘が始まるのだ。

 

 

「怖れよ黒炎を!」

 

 

 黒き者はぎらついたおかしな目つきで怯える市民を睥睨し、やおら黒炎を近くの建物に投げ放った。

 

 

 放たれた黒炎は放物線を描いて建物に着弾し爆発!黒炎をまき散らしながら爆炎を噴き上げ、建物は瞬く間に炎に包まれた!

 

 

 平和だった商店街はたちまち大パニックに陥った。怯えた人々は黒き者から一歩でも離れようと方々に散っていった。

 

 

 当然人はこっちにも流れてきて、俺と母はあっという間にヌーの群れめいた人の流れの中に飲み込まれた。

 

 

「健ちゃん、手を放しちゃダメよ!手を放さないで!手を―――」

 

 

 母は痛いくらいに俺の手を握りしめて励ましていてくれたが、無慈悲なまでの人の流れは密度を増し、流れはなお留まるところを知らず、ついに母の声すら聞こえなくなり、いつの間にか手の中にあったはずの母の温もりは、その名残を残すばかりで跡形もなく消えていた。

 

 

「やべ、はぐれちまった!は、はやく探さなくちゃ!てか逃げなきゃヤバイ!」

 

 

 流れが去ったころには周囲に人影はなく、時折聞こえる狂った哄笑とその後に続く破砕音だけが響くばかりで、物音は皆無だった。

 

 

「やべーやべー!?俺ここの土地勘全然無いんだが!?てか逃げなきゃてかどこいけばいーんだよ警察はどーした!?あ、警察にも教団が入り込んでるからすぐ来ないや…」

 

 

 どーすりゃええねん!?闇雲に逃げて余計ろくでもない事になったら嫌だぞ!?本編が始まってないのに死ぬのなんて嫌だー!でもここに留まってても良い事なんてないだろうし、うぅ…とりあえず避難するか。

 

 

 再び聞こえてきた炸裂音にびくつきながら、おっかなびっくり足を動かそうとした。

 

 

 その時である!

 

 

「お嬢様!こんな所にいた!」

「え゛!?」

 

 

 ひょいっと、唐突に俺の体は浮遊感に包まれた。

 

 

「え?え?え?」

「ささ、帰りますよ!もうこんな大変な時に急にいなくならないでください!」

 

 

 首を回して俺を抱え上げる人物を見上げる。

 

 

 黒のダークスーツを着込み、髪を七三分けにパリッと整え、黒いサングラスをかけたいかにも近寄りがたい男であった。

 

 

「え?ちょ、あの!人違い!人違いで―――」

「もうだまされませんよ()()()()!御父上にもご報告いたしますからね!」

 

 

 俺が何を言っても男は聞く耳を持たず、路肩に止めさせていた黒い高級車に俺を乗せると、アクセルを踏み込み、勢いよく車を発進させた。

 

 

 なるほどー。こうやってイミテーションくんちゃんは鳳凰院コープにスカウト(大嘘)されたんすネー。

 

 

 あっという間に小さくなっていく黒煙を立ち昇らせる商店街の街並みを見つめながら、俺は他人事のようにそう思った。

 

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