影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『命あっての物種。あるいは継続する地獄への道』

「──────」

 

 

 魔王は呆然と立ち尽くしていた。目の前の光景がとても現実の光景だと思えなかったからだ。

 

 

 どんな策を練ろうが確実に葬れる策を取ったはずだった。

 

 

 速すぎる故にほぼ映ってはいないが、短期間であまりにも多くの支部を襲撃したがゆえに存在する膨大なイミテーションとの戦闘ログ。そして直近の幹部2名、マガツノオロチとグレンキュウビとの戦闘映像より、幹部との一対一ならば確実に葬れるはずだった。

 

 

 実際マガツノオロチ然りグレンキュウビ然り。どちらも完全態になる前に強襲を仕掛けることで万全とは言い難いパフォーマンス下での戦闘ばかりであった。

 

 

 それは畢竟、自らの力の無さを証明しているも同然であった。

 

 

()()()()()()()()()()()()。故に強襲。故に不意打ちで殺し切ろうとする。

 

 

 結局あの悪魔はそれでもなおオロチもキュウビも殺し切る事は叶わず、無様にあしらわれ、死に体を晒す始末。

 

 

 であるのならば。万全の状態で、尚且つ不意打ちも出来ぬ一対一での勝負ならば、あの悪魔はぬらりひょんを殺し切れず、仮に突破できたとしても真の姿であるのっぺらぼうが、その命を絶つであろう。そういう手はずであった。

 

 

 万が一にという可能性すら潰す為に新たなる闇をつぎ足してぬらりひょんの強化を図り、万全を超えた万全。超万全の状態でぬらりひょんを決闘の場へと送り出した。

 

 

 案の定、悪魔はぬらりひょんを突破し、今まで秘匿されていたのっぺらぼうを白日の場へと引きずり出した。そこまでは想定内であった。

 

 

 悪魔の攻撃能力は実際脅威に値する。映像越しですらも身震いするほどの禍々しき神技、否、それは最早魔技である。あれほどの腕前の持ち主ならば、本来ならば触れる事すらできぬグレンキュウビすらも追い詰めた技であるならば、()()()()()()()ぬらりひょんであれば斃せるであろう。

 

 

 そこまではいい。全ては想定内である。魔王は慌てなかった。そこまでは。だが、実際に悪魔がのっぺらぼうと矛を交えてみれば、彼の思惑は悉く撃ち砕かれることとなった。

 

 

 完全初見であるはずの空間刃をまるで知っているかのように平然とかわし、フィールドを埋め尽くす空間刃すらもかいくぐり、挙句の果てには空中で繰り広げられた信じがたい滞空時間の中での殴り合いである。

 

 

 あれは、さしもの彼とて戦慄を隠せなかった。

 

 

 500有余年の生。軽く思い返してみても血で血を洗う戦いの記憶ばかりである。その時代その時代に現れる人界の最高位階の強者たちとの闘いの記録を振り返ってみても、目の前で繰り広げられた攻防は見た事がない程に狂っていた。

 

 

 どの時代の最高峰の使い手であっても、それは異能を用いた戦法を取っていた。

 

 

 当然である。異能とは神の欠片を宿した人類が発現した魂の力の具現。言うなれば己そのもの。用いて当然。それと共に戦って当たり前なのだ。己の下半身を分離したまま戦うか? 異能の行使とはそういう事だ。

 

 

 だから。だからこそ。異能を補助程度にしか使わず、ほぼ完全なる裸一貫で神の力そのものと化したのっぺらぼうと対峙するあの悪魔は狂っていると言わざるを得ないのだ。それはおそらくあの光の神も同じことを思っているはずだ。

 

 

 自分よりも永い時を生き、原初の異能持ちをその目で見ている光の神である。きっと自分以上に恐れ戦いている事であろう。

 

 

 あの悪魔は(わし)の力をまるで信用してなどいない。(わし)の事など欠片も敬ってなどいない。あの悪魔は(わし)を必要としていない。ただの道具としか思っていない。雑多な、大量生産された拳銃の如く、ただの手札の一つでしかない。

 

 

 それですら驚愕すべき事なのに、最後の攻防で告げられたのっぺらぼうの真名とその出身とのっぺらぼうの根源(オリジン)についてである。

 

 

 ぬらりひょんについての情報は教団にとっても最上位機密事項であり、情報の管理は徹底的なまでに厳重に行われている。

 

 

 にも拘らず、あの悪魔は如何様な手段を用いてか知り得ており、教団ですらも把握していなかった原因すらも知り得ていた。

 

 

 侮っていた。とは言えない。警戒は万全であった。万が一にも破られた形跡は無かった。ただ、悪魔が、()()()()()()()()()()()を持っていただけである。

 

 

「……おのれイミテーション!」

 

 

 兜の奥で、魔王は奥歯を噛みしめた。不穏な気配がその身より立ち昇った。

 

 

「──────」

 

 

 一方そんな事は露知らず、イミテーションはのっぺらぼうが消え去った事を見届けたのち、ふらつき、咳き込み、血を吐いて頽れた。

 

 

「おおっと!」

 

 

 寸前で駆け付けたトサケンが受け止めた。

 

 

「はっ。疲れたか?」

「えぇ、流石にこれは……少々荷が重いタスクでした」

 

 

 力無く微笑むイミテーションへ肩を貸しながら、トサケンは笑いかけた。

 

 

「そうかよ。なら休め。お前はよくやったよ」

「そうですか?」

「そうとも」

「そうですか」

 

 

 ならば、少し休みます。消え入りそうな小さな声でそう言うと、満身創痍のイミテーションは気絶するように意識を失った。

 

 

「──────」

 

 

 それを狙っていたかのように魔王の気配が膨れ上がった。長剣の柄に手を伸ばして地を蹴り、弾丸染みた勢いで背後より襲い掛かる! 

 

 

「ッ貴様!」

 

 

 だが、寸前でその間に割り込んだ白い影あり。

 

 

「……神の御前であるぞ。弁えよ!」

 

 

 ゴスペルは白く光る瞳で睨みながら六枚の翼を展開し、魔王を牽制する。すぐ目の前に光の槍が3本突き立った。見れば空中には夥しい数の光の者が光の翼を生やして待機していた。その中に、光の槍を手に持って掲げる3人の戦士あり。

 

 

「……」

 

 

 ゴスペルの後方、若き勇者や聖女、それに付き従う天使、保健所の面々も武装を展開し、いつでも魔王に切り掛かれる構えを取る。

 

 

「大人しく引け。それで手打ちにしてやる」

 

 

 半目になった光の神が無造作に歩み寄りながら魔王へと言った。近づいてくる敵勢力の総大将に、残された虚部隊が浮足立つ。

 

 

「で、どうするよ。ん?」

 

 

 覗き込むように魔王を見上げながら、光の神は再度問いかけた。その顔は真顔である。魔王は押し黙った。

 

 

「……この借りは必ず返す。精々首を洗って待っておれ」

「へっ、抜かしやがる」

 

 

 魔王の返答に、光の神は凄惨な表情で肩をゆすって笑った。

 

 

「引くのか? ふん、腰抜けめ」

「約束を反故にしてまであの悪魔を殺す事のリスクを天平にかけたまで。その判断すらつかぬからお前はいつまでたっても駄目なのだ」

「―――ッ!!!」

 

 

 瞬時に激昂したゴスペルに取り合わず、魔王は踵を返す。背を向ける直前、魔王はちらりと悪魔へと目を向ける。

 

 

 配下の一人の老人にもたれ掛かったまま、ピクリとも動かない。今ならばたやすく葬れるというのに、何と歯痒いことか。

 

 

「イミテーション……!」

 

 

 小さな呟きは、凍えるような木枯らしが吹き抜けて巻き取り、彼方へと連れ去っていって消えた。

 

 

 風を受けてマントがバタバタとはためき、捩じれ、グルグルと体を巻き取り、やがて消えた。

 

 

 後を追うように、虚部隊の面々も撤退を開始。程なくして消え去った。

 

 

「終わった、のか?」

「……えぇ、その様ですね」

「だな」

 

 

 暗夜たちは互いに顔を見交わし、それから同時に息を吐き、緊張が解けて脱力するに身を任せてうつ伏せに倒れ込んだ。エミリーも、保健所の面々も同様に倒れ込んだ。

 

 

「ふん、冷や冷やさせやがって……」

 

 

 後に立っているのは光の神とゴスペル、イミテーションを抱えたトサケンとと千歳のみである。

 

 

「まあ、及第点はくれてやるよ」

 

 

 ぎこちない足取りで近寄ってくるトサケンに引きずられたイミテーションを一瞥し、千歳はぐしぐしと目元を払った。

 

 

 決闘が開始されてから58秒後の一幕であった。

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