影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『虚部隊残党処理』

「そういう訳で、この町に散った虚部隊の残りを片付けるのが、今回の任務となります」

『「「ウィーっす」」』

 

 

 現地での最終ブリーフィングを締めくくる。目の前の犬たちや通信越しから、心底乗り気ではない声が鼓膜を揺らす。どいつもこいつも表情にやる気が感じられない。チワワとポメラニアンに至っては露骨に帰りたそうにしていた。

 

 

 俺だってそうしたいが、これでも組織の長なのだ。体裁だけでも取り繕わなくちゃいけないのが辛いところである。

 

 

 この場にいるのは3姉妹と高齢者二人、そして俺だ。プードルとレトリバーはいない。彼女たちの本業は学ぶことだ。本来の計画が崩れた以上、オペレーターの真似事は高齢者コンビで事足りる。彼女達にはぜひとも本業である学業と物作りに励んでもらいたいものである。

 

 

「つってもほぼほぼ騎士団が根こそぎしちまったから、ウチらがやる事なんてそれこそ残党の残党掃除みたいなもんすよねこれ」

 

 

 ポメラニアンが総括し、心底やってられないとばかりに首を振った。

 

 

「これ本当なら騎士団の下っ端がやる様な事だよな? 何であたしらがやんなきゃなんねーんだ? あいつら絶対あたしらの事舐めてるだろ」

 

 

 チワワは苛立ちを隠しもせずに柵を蹴っ飛ばした。あっさりとひしゃげた柵はぐらぐらと揺れ、やがて重力に従って屋上から落ちていった。

 

 

 事の発端は方々に散った虚部隊が再び集まり、何事か悪だくみをしているという事が判明した。急行した騎士団は街のあちこちを人海戦術で虱潰しに回っていたのだが、同時刻に別の地点で『巨壁部隊』が現れたという。

 

 

 大入道を作る実験の過程で作られた試作兵器、通称『巨人』が複数体現れ、それを援護する一般兵士やレギオン共までもがわらわらと這い出して町中で暴れているらしい。

 

 

 で、現地の騎士だけではとても手が足らず、一番近い此処から半分ほど人員を送る羽目になった。そのため殲滅のための人員が足らなくなり、急遽俺たちにお呼びがかかったという訳だ。

 

 

「あははちょっと落ち着いてよ。ほら、雉花ちゃんからもお詫びメッセージ届いてるよ」

 

 

 シバイヌはスマホの画面にはグループトークに流れてきた雉花からのメッセージがあり、別の事件が発生したために人手が足りなくなったことに関する本作戦の詳細と短い謝罪文が映っていた。

 

 

「「けっ」」

 

 

 チワワとポメラニアンはそろって顔を背け、唾を吐いた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()、今最も我々を舐めているのは間違いなく教団の方です。まずはそちらから片付けましょうか」

「「はい」」

 

 

 俺の言葉に犬たちは不承不承で頷き、次々と屋上から身を投げ出して方々に散っていった。

 

 

『こっちにもデータが来た。じゃ、いつも通りだな?』

「えぇ、よろしく頼みます」

『めんどくせー……』

『またお前はそういう事を―――』

 

 

 未だぶー垂れるニンゲンドックをどやしつけるトサケンの声を聴きながら、俺も屋上から身を乗り出し、無人の5階建て廃ビルより飛び下りた。

 

 

 ごうごうと耳元で風が唸る。ぺちゃくちゃ井戸端会議をする主婦の真横に音も無く着地し、気が付かれる間もなく駆け出す。

 

 

 横切った町は平穏そのものであった。主婦がくっちゃべり、営業マンが死んだ顔で町を徘徊し、ガキ共が闊歩する。市民は営みの影で騎士達と教団の尖兵共が血で血を洗う抗争を繰り広げているなど夢にも思うまい。

 

 

 殲滅戦は粛々と行われている。消化率は7割を過ぎて久しい。だが懸念事項もあり、報告では施設の最奥に複数の民間人や攫われた騎士が用途不明の装置に繋がれ絶命しているのが発見されたという。

 

 

 騎士や民間人の死体を検分したところによると、どうやら宿していた光を吸い上げられていたという。だが光を溜めていたと思わしきシリンダー状のガラスケースの中身はすっからかんであり、中身はとうの昔に持ち出された後だそうだ。

 

 

((となると、いよいよ暗夜が〝混沌〟に目覚める訳か……今だって火力過多なのに、これ以上火力が盛られるんだもんなぁ。ほんと持つ者はとことん持つのがこの世の中な事だなぁ))

 

 

 俺は持ち出された光が何に使われるのか知っている。その先の末路に何が起きるのかも把握している。あくまでその通りに進むのであれば、という注釈が付くが。

 

 

((まあまず間違いなく一悶着があるな。めんどくせぇ……))

 

 

 持ち去られた光は魔王の下へと届けられる。その用途は暗夜の持つ光、そして闇を過剰に活性させて暴走させるための起爆剤として用いるためだ。

 

 

 chapter9のボスはこれまでの流れから大入道が担うと考えるだろうが、その予想は外れ、何と魔王自ら出向いて来て暗夜へと襲撃を仕掛けてくるのだ。

 

 

 散々計画を邪魔し、その上幹部を三人も撃破した暗夜たちは無視できぬ障害であり、いよいよ魔王も本腰を入れて暗夜たちを排除すべく行動を開始した。

 

 

 依頼を受け、事件の元凶であった闇の者を撃破した暗夜の下へ、魔王は唐突に現れた。

 

 

 で、当然歯が立たない暗夜一行。果敢に切りかかるも聖剣は折られ、策は悉く通用せず、赤子と大人ほどの戦力差に溜まらず吹き飛ばされてしまう。

 

 

 膝を付いて息を荒げる暗夜へ、魔王が用意してあった転送装置で指向性を持たせた光と闇を一気に送り込む。

 

 

 過剰な光と闇に晒された暗夜は暴走し、それを見届けた魔王は高笑いを上げながら去ってゆく。

 

 

 魔王が消えた後、暴走した暗夜は膨大な光と闇をまき散らしながら無茶苦茶に暴れ回る。プレイヤーは残された績と軌陸を操作し、わらわら現れた兵士や闇の者を蹴散らしながら暴走する暗夜の下へと駆け付けるのだ。

 

 

 そう、このchapter9のボスは何と暗夜なのだ。

 

 

 績と軌陸、そして駆け付けたみみ子と萌の説得、そして父と母の残留思念が何の因果か暗夜の脳裏に閃き、暗夜は正気を取り戻す事に成功する。

 

 

 奇跡はそれだけに止まらず、本来は相容れないはずの光と闇が混ざり合い、〝混沌〟となった。

 

 

 これにより魔王の持つ膨大な闇から齎される無意識化の闇の幕を突破する術を得た暗夜は、折られた聖剣を萌とみみ子が新しく打ち直す間に〝混沌〟の制御方法を学び、いよいよ物語は最終決戦に突入するのだ。

 

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 だが今までの経験上から、俺も無関係ではいられないだろう。その予感があった。ぬらりひょんのご指名が暗夜では無く俺だったことから、まず間違いなく魔王は俺の方にもちょっかいをかけてくる。

 

 

((図体がデカいくせにやる事がみみっちい事この上ない。そんなんだから婚約者にも先に逝かれちまうんだよ))

 

 

 マーカーが付けられたポイントへ向けて駆けながら、おそらく謀に勤しんでいるであろう魔王に向けて失笑を漏らす。

 

 

((ま、弟も弟で辛気臭ぇ上に馬鹿みたいに粘着質かつ神経質だから、お似合いの兄弟だよな。そのまま対消滅して消えてくれないかな。両方うざいし。ついでに闇の神も連鎖爆発してくれないか? ていうかもう登場人物全員死ね。2の主人公の辛気臭いガキ共も糞うぜえサバト気取りの糞カルト共も3の連中も何もかも))

 

 

 目的の建物へと至り、ダクトの通風口を引っぺがして入り口に手をかけたところで、俺はしばしのあいだ物思いにふける。

 

 

((所詮は願望。叶うはずも無し。我ながら馬鹿みたいなこと考えたものだぜ))

 

 

 が、頭を振るい、早々に余計な思考を振り落とした。

 

 

 どれだけ何かを願い、どれだけの妄執を積み重ねたところで、現実は変えられず、願望は叶わず。いいとこ無い物ねだりの乞食の真似事。無意味の極み。

 

 

 だったら定めた目標に向けてがむしゃらに突き進んだ方が、よほどマシというものだ。それ以外に何がある? どうせ叶いっこ無いのに。定めた目標に漕ぎ着けるのすらも定かではないのに、願うために足を止める? お祈りをする? 

 

 

 いい加減目を覚ませ。願望を叶える神などこの世には存在しない。奇跡など起こらない。神様はアホな人間に愛想をつかしてとっくの昔に回れ右してどっか行っちまった。なぜそれに気が付かず馬鹿の一つ覚えで祈る手を止めないのか? 人はいつになったら神の不在に気が付く事が出来るのか? 

 

 

 思うに、それこそが夢をかなえる第一歩なのではないか。祈った所で何も起きず、全てが徒労に終わる事に気が付き、諦めて自分で行動し始める。そうすれば、いつか夢が()()()()()()()()

 

 

 皮肉なものだ。夢を諦めることが夢が叶う切っ掛けになるなどと。

 

 

 とはいえ、それで夢が実際に叶うかどうかは誰にも分からない。結局本人がどれだけの積み重ねをしたところで、社会や需要がかみ合わなければあっけなく夢への道は閉ざされる。

 

 

 素質。時の運。そして才能の有無。

 

 

 やってられるか。

 

 

 夢を見る奴が年々減ってくのも、これを見ればわかるだろ? 

 

 

 とっくの昔に人々は自分がどうしようもなくちっぽけな奴だってのに気が付いている。だが、現実がどうしようもない事だと分かっているとして、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 俺たちはこの世界で生活せざるを得ない。ならばせめて夢や願望で自分をごまかさなければ、このどうしようもない現実にたちまちのうちに圧し潰されてしまう。

 

 

 言うなれば夢や願望とは、人が現実という濁流を堰き止める防波堤にして催眠装置の様な物だ。だがそれ無くして、俺たちはこの世界では生きられない。

 

 

 

 それがきっと、夢や願望を見る奴が減りはしても消えない理由だ。

 

 

((難儀なものだよな、お互いによ))

 

 

 ため息を吐き、体を持ち上げて一思いにダクトの中へと侵入する。

 

 

 這って進み、道中の敵を無視し、半ばで通風口をこじ開けて廊下へと降り立つ。

 

 

「あ?」

 

 

 背後で気配を察した黒い者が振り向くより先に頭頂部を掴み、顎に手を回し、一思いに捩じった。

 

 

「──────」

 

 

 ぐったりと頽れた死体を脇に置き、体を脱力させた。そして踏み込み、道中で巡回していた黒い者やレギオンを最小限の数だけ殺し、中枢への扉を蹴破って入り込む。

 

 

「っなにヤ」

 

 

 ツ、と虚無僧姿の闇の者が最後まで言い切る前に踏み込み、雷の速度で闇と光を纏った両腕で32の打撃を叩き込んだ。

 

 

「ツ゛ッッッ──────」

 

 

 闇の者は断末魔を発しながら、すでに役目を終えていた装置に大の字で叩きつけられた。

 

 

 ガラスのシリンダーがポップコーンさながらに音を立てて砕け散る。照明を受けてキラキラと光るガラス片は、まるで光のシャワーのようだった。

 

 

「「──────ッ!?」」

 

 

 唐突に鳴り響くけたたましい破砕音に浮足立った黒い者や一般兵士共は、反射的に音の出所へ顔を向けた。

 

 

 その隙に脱力、踏み込み、鷲の爪で一人一人丁寧に刈り取った。

 

 

 随分とゆっくりやったのだが、時間にすれば0.01秒以下だった。我ながら時間の感覚が狂っていると思わざるを得ない。日常に戻った後、果たして俺はカップ麺の待ち時間をまともに過ごせるだろうか。

 

 

『中枢の制圧は完了しました。報告通り、装置はもぬけの殻っすね』

『こっちも同じだ』

『こちらシバイヌ。何人か生存者がいたから護衛しながら地上を目指します』

『お嬢ちゃん。次のポイントは──────』

『さっさと行け~サボるな~』

「ひひ……」

 

 

 犬たちの声を耳に挟みつつ身をもたげる泥人形を見つめながら、俺はそんな事を考えていたのだった。

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