影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter10 魔王襲来』

 日本の某所、寂れた町の一角にそのビルはポツンと建っていた。かつてはそれなりに住人がいて日々を営んでいたはずなのだが、今ではその名残すらなく、解体の予定も無く、ただ朽ちるその時を待ちわびながら流れゆく時に身を任せていた。

 

 

 ただでさえ寂れた町の端の端。見向きもされない町にあってなお見向きもされない廃ビルは、さながら建物というモノたちを戒めるための墓標のようだ。見れば付近に建物は無く、同胞たちにすらも顔を背けられたが如き有り様である。

 

 

 そんな何の変哲もない朽ちゆくだけの、取るに足らない建物の死骸。その地下に、蠢く邪悪な気配があった。

 

 

 人々は思いもしないだろう。自分たちの町の地下で、恐るべき陰謀が今まさに動き始めようとしているという事実に。

 

 

 廃ビルの地下に広がる研究施設に、その者はいた。

 

 

 うす暗い廊下を、闇色の鎧を身に着けた偉丈夫が一定の歩調で、一切の言葉を発さずに勝手知ったるとばかりにすいすいと進んでゆく。

 

 

 明滅していた電灯に一瞬だけ映るシルエットは見るも悍ましく、まるでこの世の闇を凝縮して人の形に捏ね上げたかのように禍々しい。

 

 

 彼こそは教団において闇の神の右腕にして幹部たちの統率者。魔王その人である。

 

 

 静まり返った施設内を、魔王が立てる足音だけが響き渡る。やがて彼は一つの扉の前に立った。

 

 

 扉を開き、窮屈そうに身を屈めながら中へと入ってゆく。中は廊下と同じく薄暗かった。広い部屋の中には所狭しとガラス製のシリンダーが立ち並んでおり、中身はうっすらと光り輝く何かで満たされていた。

 

 

 そこだけが、邪悪に支配された空間の中を、さながら暗闇に灯された篝火の如く神秘的に照らしていた。

 

 

 だがそれを有り難がる者はこの場にはおらず、ただ粛々と作業は進められた。表の廊下と違い、ここには人の気配に満ちていた。黒いローブを着た幾人もの作業員たちが計器と向き合い、無言で作業を進めていた。

 

 

「首尾はどうだ?」

 

 

 現場主任の前に立った魔王は、ぞっとするような冷たい声で言った。

 

 

「もう間もなくで御座います」

 

 

 主任である闇の者は陰気な声で背後のモニターを示した。そこに映る作業の進捗バーは今や99%を超え、程なくして100%を超えたことを知らせるブザーが鳴った。

 

 

「なるほど」

 

 

 作業の完了を見届けた魔王は主任に向けて頷きかけた。主任も同様に頷き、その拍子に頭がポロリと落ちた。

 

 

「え゛っ?」

 

 

 分かたれた主任の頭は目を剥いて呆け、死んだ。それを見ていた作業員たちは動揺して浮足立ち、程なくして主任と同じように体のあちこちを分かたれて床に転がった。

 

 

「……」

 

 

 魔王は長剣の柄から手を放し、ぐるりと部屋を見回した。

 

 

 今や室内に人の気配は無く、屍が流す血の海を踏み越えて、抽出された光に満たされた大シリンダーの前に立ち、そっと触れながら見上げる。

 

 

 神聖な光を受けても、魔王が放つ禍々しい気配は微塵も揺らぐことがない。彼は真なる邪悪であった。

 

 

「これで、()()()()()()()()()()()

 

 

 静かな物言いであったが、隠し切れない怒気が含まれていた。

 

 

 魔王の脳裏に過るのは、全ての始まりの記憶。そしてたった半年間で全てをかき回していった悪魔の姿。

 

 

 青く、黒い、奈落色の瞳。蕩けるような微笑み。

 

 

((悪魔め……!))

 

 

 怒りに呼応して、魔王の輪郭は黒い光を鈍く明滅させた。神性をかき消し、闇で周囲を黒く染めながら、しばしの間、魔王はシリンダーを睨みつけながら宿敵について思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「またか」

「まただ」

 

 

 4限目が終わり、昼食時間となってまばらになった教室の中で、暗夜と軌陸はそろって呆れた顔をしていた。

 

 

「いい加減にして欲しいぜ」

 

 

 背もたれに身を預けながら、暗夜は心底うんざりした様子でおむすびを頬張った。

 

 

「最近多いですね。教団関連の依頼」

 

 

 口の中のサンドイッチを咀嚼し、呑み込んでから績は言った。

 

 

「それだけ彼らも追い詰められてるってことだね。この前なんか」

「やめろ。保健所関連の話題は気が滅入る」

 

 

 みみ子の語り出しは暗夜の一言で黙らされた。納得がいかずみみ子はなおも口を開こうとしたが、暗夜が思い切り睨みつけてきたので、渋々口を閉じ、むっつりと口を閉ざして弁当をかっ込んだ。

 

 

「それで? 今度は一体どんな要件ですか?」

 

 

 むくれるみみ子の頬を突っつきながら、績は軌陸へと水を向ける。

 

 

「あぁ、どうも××区で行方不明者がここ数日で相次いでな。それの調査だ」

「はい」

 

 

 暗夜が手を上げた。

 

 

「何だ?」

「まず200%教団が原因だと思いまーす」

「……」

 

 

 軌陸は無視した。

 

 

「最近は巨壁部隊が現れるようになって騎士団もてんてこまいだ。何より『巨人』は一体倒すのに多大な時間を有する上に被害も馬鹿に出来ん。かかり切りなるのも無理もないことだ」

 

 

 軌陸は巨人の討伐に駆り出された事を思い、忌々しげに言った。

 

 

「爬虫類部隊も焔部隊も壊滅。そして直近の虚部隊もほぼほぼ討伐完了。もう間もなく完全駆逐完了のお触れが出回る事でしょうね」

 

 

 績は水筒から茶をマグに注ぎ、息を吹いて冷ましてから一口すすった。

 

 

「わずか半年で3部隊が消えちゃった。あれだけ長い事脅威だった存在も、消える時はあっという間だなぁ~……」

 

 

 みみ子はしみじみと呟いた。

 

 

「他人事みたいに言ってるけどそうなった原因はお前のとこのボスのせいじゃないか」

 

 

 軌陸はジト目でみみ子を睨む。みみ子はにへらと笑い、お茶を濁した。暗夜はポカリとひっぱたいた。

 

 

「なに笑ってんだ、こら」

「痛い!」

 

 

 ポカスカと殴り合う暗夜とみみ子を目尻に績と軌陸が語り合っていると、教室の扉が開かれ、目を向ければ入ってきたのは千歳とエミリーであった。

 

 

「なかなか面白そうなことを話しているではないか」

 

 

 と千歳は不機嫌そうに眉間にしわを寄せながらずかずかと近づいてきた。いつもの事なので、暗夜たちは特に気にしなかった。

 

 

「補足しますと、潜伏場所と思しき場所は××町××区にある廃ビルですね」

「おう」

 

 

 エミリーに手渡された資料を受け取った軌陸は目を通し、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 

「良くある話と言えば聞こえはいいが、被害にあう方からすればたまったものではないな」

「××区……少し遠いですね」

「でも行かなきゃなんねーんだろ? これ以上被害を出さないためにもよー」

「ふがーっ!」

 

 

 フロントチョークでみみ子を締め上げながら、暗夜は決然と言った。他3人も頷いた。千歳は露骨に嫌そうな顔をした。

 

 

「何だその顔は」

 

 

 軌陸は目を眇める。千歳は目もくれずに購買で買ったパンの包装を開け、むしゃむしゃ食った。

 

 

「下らん虫の下らん試み。野良犬に劣る屑虫など、そのビルごと消し去ってやれば済むことだ。何をそんなに思い悩むことがある?」

「あっ!」

 

 

 もごもごとパンを頬張り、績が持っていたマグをひったくって飲み干した。績が咎めるように睨みつけたが、千歳は無視した。

 

 

「なのなあ、事はそう単純じゃないっつーか教団がそんな程度の悪だくみで満足するわけねーだろーが」

「知るか」

 

 

 千歳はにべもなく言い捨てた。

 

 

「ブレねえなあお前」

「……ッ……ッ」

 

 

 いよいよ顔色が怪しくなってきたみみ子を解放しながら、暗夜は言った。

 

 

 千歳は舌打ちし、しかし何も言わなかった。それで話は終いとばかりに、各々は食事を再開した。

 

 

 11月も間も無く終わりに近づき、各所で雪がちらつき始めた冬の日の一幕。

 

 

 教団との戦いもいよいよ佳境を迎える。そんな予感を胸に、暗夜たちは日々を過ごしていた。

 

 

 悍ましき闇の具現が手ぐすね引いてまっている事など露知らずに。彼らは引き寄せられるように、地獄へと向かってゆっくりを歩を進めていた。

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