影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter10 魔王襲来』②

「ここが例の潜伏場所って訳ね」

 

 

 廃ビルを見上げながら、暗夜が呟いた。

 

 

「そうだ」

 

 

 軌陸は肯定して頷いた。

 

 

「直近で行方不明者が出たのは今日より4日前の事です。ただ、それ以来行方不明者は出ていないといいます」

 

 

 エミリーが補足した。

 

 

「いずれにせよ、今日ではた迷惑な神隠し事件はお終いにしてもらいましょう」

 

 

 言って、績は廃ビルへと入ってゆく。

 

 

「とんだ猪武者ね。罠があるとか考えて無いのかしら」

「あ、あはは……私たちも入ろっか」

 

 

 萌へと愛想笑いを向けつつみみ子は小走りで績の背を追った。萌は面倒くさそうに頭を掻き、背部のタコちゃんマークⅪを起動させた。それからゆっくりと歩き出した。暗夜たちも続いて廃ビルの中へと入ってゆく。

 

 

 無人のエントランスを抜け、朽ちかけた階段を上り、もぬけの殻の部屋の中を虱潰しに探し、何かしらの痕跡や手掛かりを探してゆく。

 

 

 6階建てのビルではあるがそれ程部屋は多くなく、5()()で探せばそれほど長い時間かからずに部屋を全て回り切れた。

 

 

「無い!」

 

 

 どっかりと階段に腰を下ろした暗夜が叫ぶように言った。

 

 

「おかしいですね。確かに反応がある筈なんですが……」

 

 

 スマホのアプリを開き、反応がある筈の地点を行ったり来たりと往復していた績が立ち止まって小首をかしげた。

 

 

「6階にも何も無しです」

「屋上にも無かったよ」

 

 

 上の階を探索していたみみ子とエミリーが揃って階段を下って来て集っていたメンバーへと報告した。

 

 

「というか萌はどこ行った! さっきから何処にも姿が見えないんだが!?」

 

 

 全く痕跡を見つけられない事に対する焦燥と、未だ姿を見せない萌への苛立ちからか、軌陸はいきり立ってしきりに周囲を見回していた。

 

 

「お呼びかしら?」

 

 

 声のした方向へ、一同は顔を向けた。そこには救いようのない愚か者を見るような目つきで軌陸たちを半目で睨みつける萌がいた。

 

 

「やい萌! お前今までどこで何を―――」

「何って、地下施設の入り口発見したから念のために精査してただけだけど?」

「……」

 

 

 にべもなく言い放つ萌へ、軌陸は拳を振り上げた姿勢で固まった。他の者も似たり寄ったりで、口をぽかんと開けて萌を凝視して固まっていた。

 

 

「少しは頭を使いなさいよ。人攫って目に付くようなところに放置している訳ないでしょ? 探すなら上じゃなくて下よ」

「「……」」

 

 

 一同無言である。萌は目を眇めた。

 

 

「三人寄れば文殊の知恵っていうけど、五人もいて何やってんのよ。あんたら馬鹿なんじゃないの?」

「よーし! それでは早速地下施設へと向かおうではないか!」

「そうだな! 時間は有限だもんな!」

「行きましょう! それ行きましょう!」

「ゴーゴーゴー!」

「……」

 

 

 軌陸は上ずった声で大げさに声を張り上げた。愚か者たちも続いて大声を発して萌の二の句をかき消し、競うように萌の横を駆け抜けていった。

 

 

「……」

 

 

 萌は残ったエミリーを睨みつけた。エミリーは顔を背けた。その耳は真っ赤に染まっていた。

 

 

「あんたがいてあの様じゃ、卒業した後はさぞ楽しい事になりそうね」

「……行きましょう」

 

 

 エミリーは小走りで暗夜たちの後を追った。

 

 

 萌はこめかみを引くつかせ、それはそれは大きな舌打ちを一つこぼした。タコちゃんは呆れた様に機械触手を脱力させていた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 電源が壊れているのか、地下へと降りる階段は真っ暗であった。滑り落ちないように壁伝いにゆっくりと降り、途中で光ればいいじゃないかという発想に思い至り、光を持つ者たちは各々を発光させて視界を確保していた。

 

 

「眩しいです……」

 

 

 片目を発光させたエミリーがもう片方の目を細めて辟易したように言った。

 

 

「だったらあのいけ好かない神様に懇願して光でも貰ったら? 多分二つ返事でくれるでしょ。あんた気に入られてるみたいだし」

「そんな簡単にくれるものかなぁ?」

 

 

 口を挟んできたみみ子に苛立った萌はタコちゃんの機械触手で脳天を小突いた。

 

 

「あいたぁ!?」

「……考えておきます」

「お、着いたぞ」

 

 

 頭頂部を発光させた暗夜が最後の段を下りながら後方のメンバーへと知らせた。

 

 

 地下施設は階段と同じように電源が死んでいた。真っ暗な道中を道なりに進む。途中で小部屋を見つけたので、中を検めるべく室内へと入ってゆく。

 

 

「何も無いな」

 

 

 空っぽのガラス製シリンダーをコツコツと叩きながら、暗夜は呟いた。

 

 

「人の気配が無い。闇の気配も薄っすらとだがあるが、それだけだな」

「血痕がありますね。この感じは……4日といったものでしょうか?」

「人攫いが無くなった時期と同じですね。偶然、とは言えないでしょう。間違いなく何かがあったと推測します」

 

 

 何かしらの痕跡がないか探りながら、軌陸、績、エミリーは思い思いの所感を口にした。

 

 

「これ、何かしらの抽出装置だよね?」

「あの悪趣味な連中が作ったものよ? 碌でもない用途に決まってるわ」

 

 

 ペタペタと装置を触るみみ子の言葉に、機器の基盤を剥がして中身を弄りながら萌は吐き捨てる様に返した。

 

 

「名残程度ですけど、その装置から光を感じます」

「じゃあ光の抽出装置ね」

「ですが、何のために? 闇ならともかく光は彼らにとっては無用の長物でしょう?」

 

 

 断定した萌に、エミリーは疑問を口にした。

 

 

「あんな連中の考えなんか知る訳ないでしょ。どうせ悪だくみに使うに決まってるわ」

「その悪だくみを知る事が出来れば先手を打てるのだがな……」

「とにかく先に進もうぜ。ここで考えたって答えなんか多分出ないぜ?」

 

 

 暗夜の言葉に一行は同意し、部屋を出て再び歩き出した。時折見つかる小部屋にその都度入って中を調べるが、先程の小部屋とまるで同じ作りで、めぼしいものも何も無かったので、軽く見まわるだけですぐに部屋を出た。

 

 

 そんな風に探索を続けること数十分。廊下の突き当りへとたどり着いた。正面には道中の小部屋よりも一回りほど大きな扉。一同は互いの顔を見交わし、意を決して中へと入っていった。

 

 

 途端に立ち込める刺激臭とむせ返る様な血の匂いに、堪らず咳き込んだ。

 

 

「うげっなんだあ!?」

 

 

 目の端に浮かんだ涙を払いながら、暗夜は部屋の中を見渡した。

 

 

 部屋は地獄のような有様だった。作り自体は道中の小部屋をそのまま大きくした感じなのだが、床の上に数多と転がる人体の各種部位やその切断面から零れ落ちたであろう血でどす黒く汚されていた。

 

 

 何処から湧いたのか。夥しい数の蠅が黒い霧の如く群がっており、羽音が立てる不愉快な音が、静まり返った室内を反響し、その臭いと光景とが合わさって、気が狂いそうになる。

 

 

「この切り口……ただ者じゃないぞ。これは」

 

 

 光を放って蠅の群れを焼き滅ぼし、散っていった蠅を不愉快そうに目の端に捉えながら軌陸は屈みこみ、バラバラ死体の一つを凝視して言った。

 

 

 綺麗な切断面であった。重ね合わせればくっ付いてしまうのではないかと思うほどに、切り口は鮮やかである。

 

 

 それは即ちこれを成した者の技量をそのまま窺い知れる一つの指標であり、もたらされた情報から下手人の腕を把握できた軌陸は胆が冷える思いであった。暗夜も同様に、その顔は険しい。

 

 

「……なんかすげぇショッキングな光景だけど、道中と同じでそこまで重要なものはなさそ──────」

 

 

 言葉は最後まで言い切られなかった。暗夜の主観時間が鈍化し、世界の全ては動きを静止させた。

 

 

(──────は? 何が)

 

 

 思いかけ、止まる。

 

 

 まず初めに感じたのは、天が落ちてきたが如き重圧である。それから遅れて、今まで感じてきたどれよりも大きな、闇。

 

 

 圧倒的な闇。なるで宇宙そのものが迫ってきたかのような莫大な闇が、すぐそこまで迫ってきていた。

 

 

(な、ん、じゃ、こりゃあ!?)

 

 

 どうして? なぜ? このタイミングで? 

 

 

 思う事は多々あれど、されどやらなければならない事だけは完全に理解していた。

 

 

「──────」

 

 

 暗夜は手近の萌とエミリーを引っ掴み、背部からロケットのジェットもかくやというほどの光を放出し、飛んだ。

 

 

「これは!?」

 

 

 一拍子遅れて軌陸もみみ子を米俵めいて抱え上げると、光の翼を展開して暗夜に続く。

 

 

「そんな!? なぜあの怪物がここに!?」

 

 

 焦燥故に叫びながらも績は迅速に動き、2人に続いて光を纏って飛んだ。

 

 

 暗夜が光と闇の対消滅で天井に大穴を空けた。ぽっかりと空いた天井から、曇り空の陰鬱な光が差し込んだ。躊躇わず飛び込む。軌陸と績も後に続いた。

 

 

 その直後に、膨大な闇が廃ビル諸共地下施設を飲み込んだ。

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