影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter10 魔王襲来』③

 黒く黒く、何もかもをも暗黒の淵に沈めながら、闇は底が見えない程の大穴を穿ち抜いた。

 

 

 天地が震え、大気が逃げ惑うように四方に弾けた。

 

 

 遥か彼方でも見つけられるような真っ黒なきのこ雲が立ち昇る。世界を冒涜する闇が()()()()に不浄を振りまき、人の住めないグラウンドゼロへと書き換えてゆく。

 

 

「く、そ、がっ!」

「うひゃあ!?」

「くぅ……」

 

 

 光の幕を張って萌とエミリーを保護し、自身も吹き飛ばされないように踏ん張りながら、暗夜は視界を覆う莫大な土埃やおどろおどろしい瘴気の先にいるであろう者を睨んだ。

 

 

 やがて吹き荒れていた衝撃も止み、辺りは不気味なほどの静寂に包まれた。

 

 

「だりゃ!」

 

 

 暗夜は光の幕を破裂させて周囲の瘴気や土埃を吹き飛ばした。少し離れた地点で同様にしのいでいた績と軌陸も同様の手段で視界を確保した。

 

 

「「……」」

 

 

 全員は無言で屹立するキノコ雲を見上げていた。爆発の規模で言えば、グレンキュウビに到底及ばない小規模なものである。だがそこに籠められた闇の濃さも、濃度も、禍々しさも、グレンキュウビ、その他2人の幹部を遥かに凌駕していた。

 

 

 この闇の性質を持つ者の事を、彼らは知っていた。直接戦ったわけではない。ただ目の前に対峙したというだけ。

 

 

 だがそれだけだったにも拘らず、まるで心臓を直接掴まれたかのような圧迫感を覚えたものだ。

 

 

 いつか対峙する事になると覚悟はしていた。だがこんなにも早い対峙となるとは、さすがに考えていなかった。

 

 

 しかし、彼らにさほど動揺はない。彼らは素人ではない。心構えはとうの昔に叩き込まれている。

 

 

『人生はいつだって自分の都合の悪い方向へ転がっていきます』

 

 

 悪魔の言葉が脳裏を過る。

 

 

『故にいついかなる状況であろうとも一定以上のパフォーマンスが行えるように、自らを最適化する必要があるのです』

 

 

 倒れ伏して動けぬ体に身を寄せ、泥のように流し込まれる、甘い、甘い、毒。

 

 

 暇があるたびに叩きのめされ、流し込められた毒は、じわりじわりと時間をかけて全身へ広がり、ごく普通の日常で過ごしていた少年少女を恐るべき戦士へと作り替えた。もう戻らない。

 

 

 受け継がれた意思(ミーム)は、形を変えて別の誰かへと受け継がれてゆく。遥か遠く、顔も知らない誰かが振り返ってウィンクした。

 

 

 やがて、視界を遮るものが風に吹き流されて消えてゆき、圧力の根源。邪悪の権化がその姿を露にした。

 

 

 全身を覆う真っ黒のフルプレートの鎧には一切の無駄な装飾が無く、ただ戦うためだけにデザインされていた。背中のマントはさながら蝙蝠の羽根の如く形状を変えて背部に大きく広がっており、ただでさえ200センチ近い大きな体躯は身に纏う力の大きさと相まって、一等その姿を大きく見せていた。

 

 

 見てくれだけで言えば、今までに見てきた幹部の中でも地味とすらいえた。

 

 

 だがその力は、その大きさは、今まで対峙してきたどんな者よりも一線を画していた。

 

 

「こうして対峙するのは、これで2度目か?」

 

 

 静かな声だったが、いやに大きく聞こえた。それはきっと、声を発した者の存在の大きさ故だろう。立ち昇る威圧感が目に見えるようであった。

 

 

 ただならぬ圧力につい屈してしまいそうになったが、彼らは堪え、気丈にも睨みつけて見せた。これしきの事で今更膝など折るものか。

 

 

「ふむ、中々強いな」

 

 

 幼い身でありながら魔王という巨大な力に屈するどころか睨み、得物を構えるなど、記憶の中から洗いだしてもそうはいなかった。

 

 

「ならば褒美として、改めて名乗るとしよう」

「「……!」」

 

 

 放たれる圧力が増した。重力が何十倍にもなったかのような威圧感に押しつぶされそうだった。だが、それでも。彼らは踏ん張った。教えを胸に、恐怖と共に、ほんの一欠けらの勇気をもって、この世で最も恐ろしいものの一つを見据え、震える切っ先を突きつける。

 

 

「はははっ……」

 

 

 魔王は虚無的に笑い、それから無感情に言った。

 

 

「私は僭越ながらも我が神に各部隊を取りまとめる軍団長を任されている者だ。『魔王』と言った方が分かりやすいか? どうだ?」

「なっ──────」

 

 

 いつの間にかすぐ目の前に立っていた魔王。暗夜の肉体は精神が魔王を認識するよりも前に無意識の内に聖剣を振っていた。その無意識化の行動が、暗夜の命を救った。

 

 

 無造作とすら言えるような長剣の一振りは常時体を覆っていた光の守りをあっさりと割った。そのまま肉体を割るか割らないかというギリギリのタイミングで、暗夜の聖剣が割込んだ。

 

 

「良い反応だ」

「ぐわ──────」

 

 

 魔王はガードの上から長剣を振り抜いた。暗夜は砲弾の如き勢いで吹き飛んでいった。

 

 

「──────績!!!」

 

 

 軌陸が叫ぶときには、績はすでに両手を広げ、魔王に向けて光の束を放出していた。

 

 

「これが今代の聖女の光か」

 

 

 魔王は避けもせず、長剣を握る反対側の手で光の束を受け止めにかかる。凄まじい勢いで魔王に掌に突き刺さった光は、さながら大岩を前に避けてゆく鉄砲水のようにまるで効いてはいなかった。

 

 

 だが時間は稼げた。受け止められている間に軌陸は光の翼を羽ばたかせて空へ。萌はタコちゃんの機械触手の先端から高出力レーザーを浴びせかけていた。エミリーも眼鏡をはずして魔眼から怪光線を撃ち放っち、少しでもダメージの足しにせんと出力を跳ね上げた。

 

 

 みみ子はスマホのアプリを起動してありとあらゆる味方勢力へと連絡して増援を要請する。

 

 

「良い連携だ。誰もが迅速かつ的確な行動が出来ている。幼いなりに、慣れておるな。危機への対処に。うむ」

 

 

 魔王は一人一人へとゆっくりと目を向け、感心したかのように頷いた。それから、まるで蠅を払うようなごく自然な仕草で集中的に放たれていた光を、レーザーを、怪光線を払いのけた。

 

 

 各員、効かない事は分っていた。これはいわばこちらへと釘付けにするための囮の様な物。本命は──―。

 

 

「はあああああ!!!」

「であろうな」

 

 

 背後から急降下急襲刺突を長剣の一撃で跳ね逸らしながら、魔王は離れてゆく軌陸へと目を向ける。

 

 

「いい奇襲だ。殺す事への躊躇いもまるでない。いい殺意だったぞ。お前」

「ッ!?」

 

 

 軌陸は急いで方向転換しようと身を捻るが、魔王が〝翼〟を打ち付けてくる速度は軌陸の反応速度をなおも上回った。

 

 

「~~~~~~っ!?」

 

 

 流星めいて地面に叩きつけられた軌陸に目も向けず、萌は両手の機関砲を、背部のタコちゃんの火器を一斉発射した。狂ったように空薬莢が辺りに散らばる。

 

 

「素晴らしい威力だな。唯人の作る武器の中でも相当に完成度が高いぞ。お前、良い腕をしているな」

「ッこの!」

 

 

 全く避けるそぶりも見せずにゆっくりと降下してくる魔王から距離を取りつつ、萌は銃身が焼き付くほどに撃ち続ける。

 

 

 効かない。撃つ。効果なし。撃つ。脅威はどんどん迫る。攻撃は無意味である。そんな事は分り切っている。

 

 

「私は〝保健所〟のレトリバーよ!」

「だから舐めない。ここで刈り取る」

 

 

 間近まで迫った魔王は容赦なく長剣を振るい、萌の首を切り落としにかかった。

 

 

「あちゃー!」

「むっ」

 

 

 その寸前にみみ子が投げ放ったトリモチグレネードが炸裂し、魔王の体を拘束した。間一髪、萌は魔王のリーチから離脱する事に成功した。

 

 

「これは!」

 

 

 ここで初めて魔王は余裕な態度を崩し、心底驚いたとばかりに目を見張った。

 

 

 グレネードの拘束力もそうだが、そこに籠められた『拘束』の付与の力強さに、魔王は大層驚いた。

 

 

「なんと。かような時代にこれ程の付与術師がいるとは。なるほど。保健所が強い理由がやっと分かった。要はお前達か」

 

 

 息を荒げる萌と、慌てて駆け寄っていったみみ子を視界に収め、魔王はついに()()()()()()()

 

 

「本番前の戯れのつもりだったが、興が乗った。特にお前たちはこの場で消してしまった方が都合が良さそうだ」

「やっば私たち完全に目をつけられちゃってるよ!?」

「うるさい! 〝保健所〟が窮地程度でごたごた抜かすな!」

 

 

 魔王の体から莫大な闇が柱の如く立ち昇る。ゆっくりと向かって来る魔王から目を逸らさずに服の裾を引っ張るみみ子に、萌は怒鳴りつけ、攻撃を継続。半泣きになりながらもみみ子はやるべきことをやった。

 

 

「やはりな」

 

 

 放たれる銃弾の威力が倍以上にまで跳ね上がった。ダメージこそないが、壁の如き弾幕で多少仰け反る程度のストッピングパワーがあった。

 

 

「お前達、特にそこの()()()は絶対にこの場で殺す」

「誰がもやしだコラー!」

 

 

 怒るみみ子だが、現状彼女にできる事は萌の攻撃に付与し続けることだけ。逃げ道など無い事は百も承知。効果が薄いことなど言われなくとも分かっている。

 

 

 それでもやらなければならないからやるのだ。他ならぬ〝保健所〟に身を置く犬のはしくれだからこそ。

 

 

「ていうかいいの? 私たちにばかりかまけていて」

「……」

 

 

 魔王は煩わし気に振り返った。その瞬間、復帰してきた暗夜の光が炸裂した。

 

 

「クソが食らっとけや!」

「できない相談だ」

 

 

 莫大な光を纏った聖剣と、同じく莫大な闇を纏った長剣がつばぜり合い、黒と白の火花を散らす。

 

 

「ぐ、ぐぎぎ……!」

「むん」

 

 

 だが拮抗は長くは続かなかった。暗夜は両手で、尚且つ渾身の力で聖剣を押し込むが、魔王は片手かつ碌に力を入れていない。その状態でようやく拮抗していたのだ。そこで魔王が力を入れ始めれば、暗夜はまるで抵抗できずに押し込まれていった。

 

 

「止めておけ未熟な勇者。お前では私には勝てん」

「知るかクソが―! やんなきゃいけないからやるんだよー!」

 

 

 暗夜は渾身を超えた渾身の力を捻りだし、押し込まれていた体勢から徐々に押し戻してゆく。

 

 

「面妖な……」

 

 

 魔王の言葉は途中で途切れた。全く予想外の方向から飛んできた莫大な『破壊』の奔流に、()()()()呑み込まれたからだ。

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