影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter10 魔王襲来』⑤

 武装警備員派遣会社ペットショップにて、それは唐突に起こった。社員全員のスマホがけたたましいアラームを発したのだ。

 

 

「これって……」

 

 

 ブルドックはハスキーと目を見交わし、代表して画面に表示されてある文字を読み上げる。

 

 

「武装警備員派遣会社ペットショップ代表取締役社長『調教師(ブリーダー)』による最優先指令……社長からの戦力の要請だ! それもこの前の比じゃないぞ!」

「「──────ッ!」」

 

 

 ブルドックの言葉に周囲の社員は浮足立った。ブルドックは続ける。

 

 

「盟友〝保健所〟より戦力の要請あり。社員はあらゆる作業、仕事を中断して指定されたポイントへ急行せよ。これはあらゆる命令権の最上位に位置するものである……」

 

 

 ブルドックは画面から顔を上げた。猟犬たちは目を血走らせて各々の得物を既に取り出していた。ブルドックはハスキーを見た。後悔した。顔を逸らし、召喚が付与されてあるドローンを付近に展開。それから異能を発動させて放送システムに同調し、建物内にいるすべての者へ命令を下す。

 

 

『みんな、スマホ間確認したね? 畜生(ペット)諸君、これより現場へと急行せよ!』

「「ワオオオオー!!!」」

 

 

 それまで受付で仕事をしていた者、食堂で憩っていた者、清掃員すらもが武器を取り、獣染みた雄たけびを上げながら建物から飛び出していった。

 

 

「僕たちも行こう」

「そうだね。行こっか☆」

 

 

 蕩けた笑みを浮かべ、頬を上気させたハスキーが熱に浮かされた様な声で返す。

 

 

「……」

 

 

 極力ハスキーが視界に映らないようにしながら、ブルドックも走り出した。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

『イミテーション! 作戦領域にペットショップの連中が湧いて来て交戦を始めてる! さてはお前なんかやったな!』

「えぇ、ちょっと向こうの社長に掛け合って戦力の提供を」

 

 

 町のあちこちで10メートル越えの異形のヒトガタを相手に奮闘している犬どもや騎士共の後方から、続々と集結するペットショップの畜生を確認しながら、イミテーションはトサケンへと返した。

 

 

『こちらペットショップ! 社長からの命令によりこの戦いに参戦する!』

『……友軍扱いで良いんだな?』

『勿論ですー☆一緒にやっつけましょう!』

『あぁ? もう何でも構わねーからこのデカブツを何とかしやがれ!』

『三本槍! もうそろそろ作戦領域に到着する!』

『えい! やあ! たあ!』

 

 

 途端に騒がしくなった通信に、イミテーションは満足するように頷くと、背を向けてクラウチングスタートの体勢を取る。

 

 

『ボス、行ってください!』

『ここはあたしらが!』

『全部やっつけちゃいます!』

「えぇ」

 

 

 犬たちの声に、飼い主は短く返す。

 

 

『俺はお嬢ちゃんたちを見とく。お前はやるべきことをやれ』

「……些事は任せます」

『『了解!』』

 

 

 イミテーションは戦場から離脱した。より悍ましく、より苦痛に満ちた戦場へと向かうために。

 

 

 脱力し、踏み込んだ瞬間に加速、強弱、破壊、闇、光を瞬間開放し、限りなく光に近い速度で、駆けだす。探知で最短最速のルートを割り出し、駆け抜ける。

 

 

 ありとあらゆるものを置き去りにして、悪魔は右腕を矢の如く引き絞る。何十キロも離れていた距離を瞬時に潰し、眼前で悠々と介錯を施そうとする邪悪なる気配に向けて、悪魔は右腕を真っすぐに突き出した。

 

 

 そして接触の瞬間に、ほんの刹那の時間に黒炎と白炎が二重螺旋染みて巻き付いた。その瞳は黒く白かった。鷲の嘴は魔王のクロス腕のど真ん中に突き刺さった。イミテーションは目を見開く。

 

 

((くそ! やはりそううまくはいかんか!))

 

 

 後方へと跳び退り、反動を体外へと排出しながらイミテーションは歯噛みする。

 

 

『〝雀の涙〟、只今到着しました! あの、これ本当に私たち大丈夫なんです!?』

『私は私の仕事をやります。貴方方は貴方方の仕事をお願いします』

『チクショー! これ終わったら絶対やめてやるー!』

 

 

 イミテーションの頭上を、複数の影が通過した。スズメやインコ、その他様々な鳥や飛行系の異能を持った白い者が怪我人に群がり、その場で治療を開始した。

 

 

「悪魔、本当に忌々しい奴!」

 

 

 魔王は怒りに語気を荒げた。そこに暗夜たちをあしらっていた時の余裕は無い。今の魔王は魔に属する者に相応しい尋常ならざる憤怒に燃えていた。あるいはこちらがこの男の素なのかもしれない。激しやすく、留まるところを知らぬ憤怒よ。

 

 

((相変わらずやる事が陰湿な奴……))

 

 

 ゲームであったらイミテーションが元居た地点の町で暗夜を暴走させていたはずなのだが、この世界では光を抽出していた町での戦闘となっていたようだった。更に魔王はどういう訳か暗夜へと闇と光を注入していないようだ。もしくは寸前だったのか? 

 

 

((暗夜たちにつけていた発信機で傍受した会話から大方状況はつかめている。でもなんでこっちで暗夜たちを迎え撃った理由は分らずじまいだ。会話の途中で不意打ち決めたからなぁ……でも待つわけにはいかんし……でも防がれたし……うーむ……))

 

 

 ゲームとやや違うようで、大筋は変わらない展開に辟易しながらイミテーションは一人ごちる。

 

 

((困るんだよこういう中途半端な変化の方が。いっそ何もかも違っていた方がまだとれる手段も決められるというのに))

 

 

 イミテーションは鼻を鳴らした。それを馬鹿にされたと捉えたようで、魔王はますます怒り狂った。

 

 

「なんだ? 部下に丸投げして企みを潰せて満足か? お前如き駆け付けたところで足しにもならん。虫を大勢殺したからか、変な自信をつけたらしい。増上慢も留まるところを知らぬと見える」

「思惑が上手くいかないとみるや、言う事欠いてそれですか。なるほど、弟とそっくりです。そういう負け惜しみをつらつらと重ねるところが特に」

「──────ッ!!!」

 

 

 尋常ならざる速度で振るわれた長剣を屈みこんでかわし、それをバネにジャンプパンチを叩き込みに行く。

 

 

「ふん!」

 

 

 魔王は身を仰け反らせてかわし、剣を握る逆の手で殴りつけにいく。イミテーションはそれを瞬時にからめとって投げ飛ばす。

 

 

 魔王は空中で姿勢制御し、何事も無く着地した。しかし眼前には既にイミテーションが。

 

 

「おのれっ!」

 

 

 顔面に二打、腹部に三打。黒と白に燃える拳を叩き込まれた魔王だが、その体、微動だにせず。

 

 

((くそたれ、防御膜の厚さが今までの奴らの比じゃねぇ!))

 

 

 まるで山を殴りつけたかのような感触に、イミテーションは胸中で毒づく。

 

 

「効かぬわ!」

 

 

 受け切った魔王はお返しとばかりに長剣を横薙ぎに振るって胴体切断を狙う。イミテーションは地面すれすれにまで身を屈め、極めて低い下段蹴りを放った。

 

 

 しかし魔王はすでに跳躍しており、イミテーションの蹴り足は空を切った。

 

 

「むん!」

 

 

 間髪入れずに襲い来るのは切っ先に闇を凝縮した落下エネルギーの乗った恐るべき刺突である。当たれば接触箇所が吹き飛ぶ威力。イミテーションは刺突が当たる寸前でころがって回避。直後に長剣が地面に突き刺さり、接触箇所に穴が開いた。

 

 

「ちょこまかと!」

 

 

 体勢を立て直したイミテーションの白と黒に燃える瞳と、魔王の憤怒に燃える黒紫色の視線が交差し、火花を散らす。

 

 

「……」

 

 

 超自然の憎悪を受け流しながら、イミテーションはちらりと横を見る。時間にすればほんの数秒の攻防であったが、消えかけていた命はその僅かな時間で急速に力を取り戻しつつあった。暗夜、績、千歳に至ってはすでに意識を取り戻していた。3つの視線がこちらを覗く。

 

 

「よそ見とは余裕だな」

「……」

 

 

 検める間もなく前蹴りを放つ。白炎に包まれた蹴りを堂々と仁王立ちで受け止めた魔王は蹴り足を掴もうと手を伸ばした。

 

 

 危機を感じ瞬時に足を引き戻したイミテーションは逆の足で回し蹴りを放つ。魔王は腕を掲げて蹴りを防ぎ、長剣で切りつけにいく。

 

 

 イミテーションは思いきり仰け反って長剣をかわし、まるでバレリーナ染みて足を振り上げ魔王の顎を蹴り上げる。

 

 

「良い一撃だ。だが!」

 

 

 兜の奥、魔王はほんの一時嘲笑で表情を歪めると、破滅的威力の前蹴りを放つ。

 

 

「ちっ」

 

 

 イミテーションは舌打ちし、両腕をクロスしてガード。凄まじい衝撃が体に流れるよりも早く後方へジャンプ。弾丸染みた勢いで吹き飛んで行く。

 

 

((痛ってぇ~!))

 

 

 着地し、反動を体外へと排出しながら、イミテーションはずきずきと痛む両腕に僅かに顔を顰める。

 

 

 別に痛いから顔を顰めたのではない。渾身の一撃が悉く効いていない事実に顔を顰めたのだ。

 

 

((くそ、やはり俺では相手になっても殺す事は出来ん! 足止めが精々か!))

 

 

 大量の闇の砲弾を放ってきた魔王に向かって、イミテーションは駆けだす。その間に暗夜たち一向に被害が出ないよう回避方向を選んで駆け回り、普段ならば一息で潰せる距離を0.001秒も無駄に消費して魔王の眼前へと至った。

 

 

「むん!」

 

 

 長剣の一閃をダッキングでかわし、返す刀でもう一太刀を放っている間に12の打撃をほぼ同時に胴に撃ち込む。

 

 

「効かぬということが分からんか!」

 

 

 嘲笑いながら魔王は長剣を振り下ろす。イミテーションの瞳がギラリと光った。イミテーションは先んじて左拳を突き出し、長剣の持ち手を打った。

 

 

「むっ?」

 

 

 手首に走る奇妙なしびれに魔王は訝った。

 

 

「はあっ」

 

 

 イミテーションはその隙をつき、大地を踏みしめ、腰のひねりと共に渦を巻くような両手掌底を魔王の胸のど真ん中へ叩き込んだ。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 どうん、と空気が揺れた。魔王の体はそれ以上に揺れた。

 

 

「ぐわっ」

 

 

 魔王は喀血した。

 

 

「こ、これはっ!」

 

 

 兜から垂れ落ちる血を拭い、魔王は目を剥いた。固い鎧。堅牢な防御膜。いかに素早かろうと、それらを抜けられなければ話にもならない。

 

 

 その通りである。しかしだ。堅牢さというものは必ずしも無敵ではない。それが無機物ではなく有機物で構成された生き物であればなおさらだ。

 

 

 堅牢な鎧。堅牢な幕。それ等をまとっている者を直接攻撃すればよい。鎧というものは元々そのようにして攻略するものだ。

 

 

「久々の痛みの味はどうでしょうか? なかなか悪くないものでしょう? 直に慣れますよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「くっ……くくく……」

 

 

 さらなる激昂を期待したイミテーションであったが、怒るどころか笑い始めた魔王に眉を顰める。

 

 

「何が可笑しい」

「くく……いやはや流石というべきか。実際ここまでやるとはな。マガツノオロチやグレンキュウビ。のっぺらぼうが落とされたのも分かる」

「……」

 

 

 イミテーションの瞳が白く黒く明滅した。魔王は顔を上げた。

 

 

「お前をこの場で殺すのは、相当に難しいようだ。認めよう」

「……」

 

 

 悪魔は動かない。魔王は笑った。

 

 

「故に、助力を請う事にしよう」

((やっとかよ……))

 

 

 魔王の言葉と共に空間が波打ち、何かが起きようとしていた。イミテーションは首を巡らせた。

 

 

 顔を向けた先には暗夜を中心とした何か大掛かりな機械や複雑な術式が書かれた黒い魔方陣が敷かれていた。

 

 

「驚きはせんのだな。ふん」

((手を出す理由も無いしな……))

 

 

 機械はすでに作動しているようで、白と黒のスパークを発しながらタンクに溜まった光と闇を放射しようとしていた。

 

 

 イミテーションは動かなかった。本人が言うように手を出す理由が無いのもそうだが、暗夜に向かって駆け出した瞬間にこの卑劣者は躊躇なく背を切りつけてくるだろうから、下手に動けないという理由もあった。

 

 

「どうした? 動かんのか?」

((うぜー……))

 

 

 上機嫌に嘲笑う魔王へイミテーションは呆れた視線を向ける。

 

 

「ならば見るが良い! 勇者()()が破壊者へと変わる瞬間をな!」

((あーハイハイ勇者勇者……()()……?))

 

 

 魔王の言葉を訝った健太郎は改めて目を向ける。そして見た。魔方陣の中心に集められていたその他の面々を。その傍らに立つ虚無僧姿の闇の者の姿を。

 

 

「──────」

 

 

 何か考えるまでも無く体は動き出していた。背中に衝撃が走る。意に返さずに駆ける。

 

 

 背中が燃えるような熱を発していたが、構わずに手を動かす。績、軌陸、エミリー、みみ子、萌を引っ掴み、魔方陣の外へと放り出す。

 

 

「「──────」」

 

 

 意識を取り戻していた績と千歳の視線と目が合う。取り合わずに離脱を試みる。が、腹に衝撃。

 

 

 イミテーションは目を剥いた。虚無僧姿の闇の者が脇差を抜いて突っ込んできたのだ。赤い染みが腹を中心にじわじわと広がってゆく。

 

 

「く……そ……」

 

 

 足元で暗夜が身動ぎする。だが腕を立てて上半身を起こそうにも体に力が入らない。彼はまだ治療が済んでいないのだ。

 

 

 上空で鳥たちがピーチクパーチク叫んでいるのが聞こえる。

 

 

((り、離脱を──────))

 

 

 イミテーションがそう思ったと同時に機構が作動し、闇の者と諸共に光と闇の奔流に飲み込まれた。

 

 

「──────」

 

 

 視界が黒と白に染まる。何も考えられない。

 

 

 意識が遠のき、それからブツンと音を立てて途切れた。魔王は哄笑した。

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