影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter10 魔王襲来』⑦

「ははははは! ザマをみよ!」

 

 

 黒と白の光が互いに食らい合い、反発しあいながら極大の柱の如く聳え立つ。その眼前で、魔王が喝采を上げながら哄笑する。

 

 

「くぅ……」

 

 

 績と千歳は肩を貸し合って呻き声を漏らしながら立ち上がり、立ち昇る黒と白に均等に分かたれた光の柱の中心、そこにいる者たちを思う。

 

 

「暗夜……」

「イミテーション……」

 

 

 2人は互いを助け合いながら、光に向かってよろよろと近寄ってゆく。

 

 

「ははは……あの有様でまだ奴らが生きていると? 勇者の器ならばともかく悪魔の器で耐えきれるものか!」

 

 

 ふらつき、時折膝を付いては呼吸を整え、またぞろ歩み進む績と千歳を視界に収めた魔王は、彼女たちの献身を無駄な努力だと嘲笑った。

 

 

 

「うぅ……ボス……」

 

 

 朦朧とする意識の中、みみ子は譫言めいて呟く。霞んだ視界の中、朧げな気配を確かに感じながら。

 

 

「動きなさいよ……動け……! うごけぇえええ……!」

 

 

 スパークを発し、煙を吐き、火花を散らし、今や一本となった機械触手を萌は叱咤し、這ってでも光の柱へと向かおうとする。

 

 

「あんな卑劣漢の言うことなど知った事か……! 知った……事か……」

 

 

 どうにか意識を取り戻した軌陸は長剣を杖代わりにしてどうにか立ち上がると、上空を旋回するスズメを睨みつけた。

 

 

「ウワーッモウダメダ―!」

 

 

 禍々しい光景を俯瞰していた一羽のウグイスが、大粒の涙をこぼしながら泣き叫んだ。その足にはぐったりと項垂れたまま動かないエミリーが掴まれていた。

 

 

「この世の終わりだー!」

 

 

 光の柱が放つ膨大な光と闇にかき消されそうなリジェネフィールドを懸命に維持しながら、インコが同調してむせび泣く。

 

 

 ウグイスに端を発した嘆きの声は、今や雀の涙隊全体に波及し、始まったのは終末を嘆く大合唱である。

 

 

「あーハイハイ終わり終わり……」

 

 

 鳥たちが織り成すピーチクパーチクの大合唱を聞き流し、死んだ目をしたスズメが魔王に向けて光の槍を乱射しながら、いかにしてゴスペルに辞表を叩きつけてやるか考えを巡らせていた。

 

 

(実際どーすんのよこれ。勇者君もくそったれのイミテーションもあの様だし……私が辞表叩きつける前にマジで死ぬんじゃないの? 勘弁してよもー……)

 

 

 接触するまでも無く雲散する光の槍に眼光を険しくさせるスズメは、胸中で毒づいた。

 

 

 光の柱を中心にして轟々と風が吹く。マントをたなびかせ、魔王はただ只管にその時を待つ。やがて、天を貫いていた柱は徐々に小さくなってゆく。中にいる者たちの姿が見えてくる。

 

 

「ふん、勇者を避雷針にしたのか。抜け目のない奴……だが、到底全てを吸い切れるものではない! 貴様にも相当な光と闇が流れ込んでいる!」

 

 

 白と黒の光が渦を巻く中心地点で、俯いたまま微動だにしないイミテーションの姿が魔王の眼に入ってきた。その両腕と両足は、黒と白の炎が激しく燃え滾っていた。

 

 

 明らかに過剰出力だ。普段のイミテーションならば到底出せるはずの無い大きな力に、魔王はほくそ笑んだ。

 

 

「くくく……さすがのお前でも過剰量の光と闇に晒されればタダでは済まなかったようだな。感じるぞ、お前の中で激しく暴れ狂う光と闇を!」

 

 

 彼が言うようにイミテーションの中ではすさまじい量の光と闇が激しい勢いで中を駆け巡っていた。器に入り切らない量の光と闇が激しく循環する。

 

 

 激しく循環している。

 

 

 激しく、されど決して器が破壊されないように、渦を巻く。川を流れる流水の様にごく自然に。魔王の笑みが凍り付いた。

 

 

「なん……だと……」

 

 

 魔王が動揺している間にも、変化は止まらない。別々に激しく循環する光と闇は、次第にその境目を曖昧にし、やがて一つの流れとなって体内をめぐっていた。分かたれていた川の流れが一つになるように。はじめからそうであったかのように違和感なく。

 

 

 決してこの世にあってはならないものが、あまりにも当たり前のようにそこにはあった。悪魔は顔を上げた。黒でも白でもない色の炎が、その瞳には燃えていた。

 

 

「馬鹿な──────」

 

 

 言葉は続かなかった。悪魔はすでに眼前にいた。魔王がそれを把握するよりも早く、彼は吹き飛ばされていた。

 

 

 顔面に走る衝撃により、魔王は辛うじて事態を把握した。悪魔の拳が顔面を打ち抜いたのだ。打ち抜かれてようやく気が付いた。

 

 

「ぐぬっ……!」

 

 

 空中で姿勢制御し、どうにか無様に叩きつけられる事を防いだ魔王は顔を押さえて呻いた。

 

 

「ぬっ!? こ、この威力……!」

 

 

 魔王の兜からぱきんという音が聞こえた。あれほど堅牢を誇っていた魔王の防御を貫通し、兜には亀裂が生じていた。

 

 

 混沌。文字通り全てを歪める力。されどイミテーションの器ではさしたる力は行使できない。精々が何かをほんのわずかな時間だけ無効化する程度だ。それで構わなかった。一瞬。攻撃の瞬間。その瞬間だけ歪みが生じればよい。

 

 

 いつもと変わらない。何も問題はない。

 

 

 今までは攻撃能力が低かったがために帳尻が取れていた速度。しかし混沌を得た事により、イミテーションはどんな格であろうとも、何者であろうとも同様に攻撃を通す事が可能となった。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事だった。魔王は目を見開いた。

 

 

「……」

 

 

 驚愕により硬直する魔王を目尻に、イミテーションは右腕を掲げ、そこに轟々と燃える混沌の炎を一瞥し、うんざりしたように舌打ちをした。そして、憤怒に燃える魔王の前に立ち塞がる。

 

 

 彼の背後、未だ周囲に吹きすさぶ嵐の如き光と闇が、うつ伏せに倒れ伏す暗夜の背中に吸い込まれてゆく。

 

 

「ぐ、うぅ……」

「千歳……!」

「うるっさい、言われずとも、分かっている……!」

 

 

 肩を貸し合って牛歩の如く歩いていた千歳と績が暗夜の下へと辿り着いた。二人は暗夜を挟んで膝を付き、まるでろくろを回すように手を動かした。

 

 

 それに伴って無作為に吹き荒れていた光と闇が指向性を得て規則正しく暗夜の中へと吸い込まれてゆく。循環が始まった。

 

 

「させるかっ!」

 

 

 魔王は暗夜へと闇を放って循環を阻害しようと目論んだ。しかし眼前にはすでに悪魔が拳を振りかぶっていた。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 魔王は瞬時に判断して暗夜への妨害を取りやめると、イミテーションへと長剣で切りつけにいく。しかし、悪魔は拳を空振りさせ、その場で回転していた。

 

 

「──────ッ!」

 

 

 ありえない速度で振り抜かれた灰色の炎が燃える悪魔のフックは空を切った。長剣は悪魔の薄皮一枚を切り裂くのみで、目標の前を空しく通過していった。直後に猛烈な加速を得て放たれた混沌に燃える回し蹴りが長剣の持ち手を打った。

 

 

「チィイッ!」

 

 

 弾き飛ばされた長剣を拾う間もなく放たれた悪魔の上段回し蹴りをダッキングで潜り抜け、魔王は闇色の粒子を纏った拳を突き出した! 

 

 

 掌で逸らし、イミテーションは魔王の顔面に向けて拳を突き出してクロスカウンターを狙う! 

 

 

「甘い!」

 

 

 首をかしげて拳をかわし、魔王は間髪入れずに膝蹴りで腹を抉りにいく。イミテーションは同様に膝蹴りを返し相殺! 反動で両者ともに一歩後退した。

 

 

「「……」」

 

 

 一瞬の間が空いた。黒紫色の眼光と灰色の眼光が交差し、火花を散らす。やがて、どちらともなく踏み込み、拳を交わし合った! 

 

 

「ヌウンッ!」

 

 

 イミテーションの上段突きを逸らし腹を狙った左拳を弾き、顔面を二度打った右拳が放つ三打目をどうにかかわし反撃の拳を叩きつけにいくが、胸を貫通したと思った拳は何の感触も無く虚空を通過した。

 

 

「ッ!」

 

 

 背後より生じた猛烈な死の予感に突き動かされて魔王は前へと跳んだ! ほんの0.000001秒後に鷲の爪が魔王の首があった地点を通過した! 灰色の軌跡が円弧を描く。悪魔の眼光は結晶の如き透き通る殺意で満たされていた。冷たい殺意が瞳を通して乱反射した。

 

 

「ガアッ!」

 

 

 魔王は裏拳を放って接近を拒絶し、すでに眼前にいた悪魔へと胴を狙ったフックを先んじて繰り出していた! 

 

 

 イミテーションはフックをブロックし、逆の手で殴りつけにいく! 魔王は喉を狙った突きをブロックし、逆の手で殴りつけにいく! 

 

 

 防ぎ、突く。防ぎ、打つ。

 

 

「「……!」」

 

 

 殺意が燃える。交差が加速した! 

 

 

 防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ。防ぎ、突く。防ぎ、打つ──────。

 

 

 打つ。掴む。突く。掴む。

 

 

「「──────ッ!」」

 

 

 両者力比べの恰好で静止……否! 

 

 

「なっ!?」

 

 

 魔王は目を剥いた! その体は魔法のように天地逆さで浮き上がっていた! 

 

 

 悪魔の眼光が赤熱した! 両腕の炎がひときわ強く燃え上がる! 死の気配! 魔王は身を守ろうと腕を動かそうとした。

 

 

「無駄なあがきです」

 

 

 声は後方から聞こえた。

 

 

「──────」

 

 

 魔王の体が震えた。反応するよりも早く。稲妻を超え、光ですら置き去りにして。その体に96の打撃が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 混沌による歪み。しかしイミテーションの器ではさしたる強度の歪みは起こせない。だが瞬間ならば。誰もが、世界すらもが認識できないような刹那ならば。

 

 

 脱力、そして力の爆発。それを混沌で行う。そうする事によって彼は超新星爆発に匹敵するような出力を捻り出せる。

 

 

 打撃の瞬間にだけ混沌を行使した結果、打撃を叩きこんでいた一瞬の間。その瞬間の時間を歪め、無かった事にしたのだ。

 

 

 こうして残ったのは、96の打撃が炸裂したという結果だけ。

 

 

「──────」

 

 

 魔王を中心として衝撃が放射状に吹き荒れ、半径数百キロの窓ガラスが粉々に砕け散った。

 

 

「「ウギャーッ!?」」

 

 

 空中でホバリングしていた雀の涙隊が衝撃で煽られて右往左往していた。

 

 

「ひーっ」

 

 

 スズメは目を白黒させて墜落しないように懸命に羽根をばたつかせた。

 

 

「萌ちゃん……」

「えぇ」

 

 

 攻防は全く見えなかったが、それでも確かに感じていた。分かり切っていた事だった。何せ、彼女たちは悪魔の犬なのだから。

 

 

「うっ!」

「ぐぬぬっ」

 

 

 一方績と千歳は軌陸が広げた光の翼の中で吹き荒れる衝撃をどうにか凌いでいた。そして、彼女たちの足元から大きな力が身動ぎする気配があった。

 

 

「──────ッ!」

 

 

 軌陸は翼の中で湧きあがる莫大な力を感じ、反射的に翼を開いた。その瞬間に黒でも白でもない色の何かが弾丸の如き勢いで射出された。

 

 

「グ、おぉ……」

 

 

 魔王は手を付き、体を持ち上げ、しかし倒れた。その体は無残なものであった。全身を覆っていた鎧は無残にも砕かれ、刺繡が施された浅黒い肌が露出していた。もはや覆い隠されているのは顔面のみで、それも今まさに砕けようとしている。

 

 

 イミテーションはすさまじい反動に耐え、唇をかみしめて押し殺し、右足を振り上げ、高々と掲げ、踵落としを繰り出して魔王の頭を叩き砕きにいく。

 

 

「舐、め、る、な!!!」

 

 

 脳天に踵落としが炸裂する寸前に魔王は莫大な闇を放出した。暗夜とイミテーションに叩き込んだ闇に勝るとも劣らぬ勢い! 堪らずイミテーションは後方へと大きく跳んだ。

 

 

 イミテーションは攻めなかった。構えを解き、魔王を見つめながら息を吐いた。その横を灰色の光が物凄い勢いで通過した。

 

 

「オォオオオオオオオオ!!!」

「貴様は!」

 

 

 混沌の勇者は闇を切り裂き、今まさに魔王の眼前へといたり、拳を振り上げていた。魔王は反撃しようとした。しかし体に残るダメージは深刻であり、反応が遅れた。

 

 

 ガードは間に合わず、魔王の顔面に混沌の光が渦巻く拳が叩きつけられた! 

 

 

「──────ガハッ」

 

 

 バキン、と音を立てて兜が割れた。中から現れたのは白髪を伸ばした端正な顔である。しかし、その頬は牙めいて裂けており、今では苦し気に歪んでいた。

 

 

「くそたれ」

 

 

 暗夜が毒づき、何かを言おうとした。それを遮るかのようなタイミングで空が白に染まった。

 

 

「あ?」

 

 

 暗夜は目をしばたいて空を見た。天を覆っていた雲が吹き飛び、何か大きな力が鉄槌の如く迫り来ていた。

 

 

「カインンンンンンンンンン!!!」

 

 

 ゴスペルが莫大な光を発しながら魔王目がけて急降下してきた。

 

 

「アベル……! 相変わらずふざけたタイミングで……!」

 

 

 魔王は降り注ぐ光の礫を忌々し気に睨みつける。その傍らに闇が生じ、虚無僧姿の闇の者が現れた。だが現れた瞬間に胸から腕が生えた。

 

 

「ア゛ッ──────」

「小僧手品にはいい加減うんざりです」

 

 

 イミテーションは摘出した心臓を無慈悲に握り潰した。飛沫が魔王の顔にかかり、血で汚れた端正な顔をさらに汚した。

 

 

「イミテーション……!」

「頼みの綱が潰されてどんな気分ですか? 私は最悪な気分です」

「貴様ぁ!!!」

 

 

 魔王の眼光が黒紫色の殺意を放った。悪魔は鼻を鳴らした。

 

 

「お、おいこれヤバいんじゃない?」

 

 

 魔王と迫り来る光の壁を交互に見ながら暗夜は焦っていた。ひたすら焦っていた。力の目覚めによる高揚はすでに失せていた。ただ焦りだけがあった。

 

 

「ちっ」

 

 

 イミテーションは魔王とゴスペルを一瞥し、逡巡し、暗夜を引っ掴んで脱力、踏み込んだ。一瞬後に莫大な光が地表を舐め上げた。

 

 

「「ギエーッ!」」

「チクショー!」

 

 

 ゴスペルの姿を確認した瞬間に怪我人を掴んで全速力で離脱していた鳥たちが、力の余波を受けて七転八倒した。

 

 

 光は瞬く間に広がり、残っていた建物を飲み込み、全てを蒸発させた。

 

 

 この日、××区は消滅した。

 

 

 怒り狂ったゴスペルが空中で何か喚き散らしているのを鼻で笑い、着弾地点へと目を向ける。底が見えない大穴。消え去った町。そして影も形も無くなった魔王の姿。

 

 

「逃げられましたか」

「──────」

 

 

 呟き、精魂尽き果てて失神した暗夜を米俵めいて担ぎ上げると、踵を返し、未だ犬たちが争っているであろう戦場へと向かっていくのであった。

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