影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『開戦前夜』②

『皆さんお喋りは済みましたか? では話の続きを始めましょう』

 

 

 前のホワイトボード脇に車いすを転がして移動し、再び全員の注目を集めながら話を再開する。

 

 

『最終目標は教団の拠点の最奥にある〝深淵(アビス)〟への到達ですが、教団の拠点は4枚の防御結界、通称〝羅生門〟と呼ばれるものに守られています』

 

 

 ホワイトボードに映る映像を切り替え、教団の入り口の映像と、四方に存在する結界を維持するための施設の映像を映す。

 

 

『まず我々がやらなければならないのはこの防御結界の突破、そしてそれを守る存在の撃破です』

 

 

 ホワイトボードの映像に新たな障害を付け加える。そいつの危険性を訴えるようにでかでかと。画面の大半を占める程に埋め尽くし、それは皆の視界に映った。

 

 

『教団の最後の幹部の一人、巨壁部隊『最終防衛隔壁(ライン)』対聖騎士極度殲滅用改造人間〝大入道〟』

 

 

 まるで巨大な肉塊を無理やり人の形にしたかの様な醜悪な怪物にポインターを示し、俺は言った。

 

 

『大入道は遥か昔から行われていた、騎士団から拠点を守るための番人を作る研究の集大成と言えるでしょう』

 

 

 映像を切り替え、大入道とそれを生み出すに至った工程や歴史を大まかにまとめた資料を提示してゆく。

 

 

『彼の持つ異能は『巨大化』であり、その異能抜きでも体長は10メートルを優に超えます』

 

 

 大入道の映像にポインターを示し、続ける。

 

 

『さらに改造によって施された再生能力や、半ば入り口と一体化した肉体は、まさに巨大な門。彼の撃破なくして最深部への到達はあり得ません』

 

 

 映像の一つ、入り口に下半身が繋ぎ合わさって蓋をしている大入道を示しながら言う。

 

 

 これは無駄話となるが、基本的に入り口前から動けない大入道は、召集の際には肉体からちぎり取った肉をこねて作った肉人形に意識を投影し、醜い外見に羞恥でも感じているのか、黒いフードで全身を覆った姿で動けない自身の代わりに参加していたりする。

 

 

『結界の消失と大入道の撃破。これが最終決戦前に行う最後の作戦となります』

 

 

 このミッション、大入道撃破と結界消失作戦がchapter11の主な内容である。ここから先はもうずっとイベント戦の様な物で、大入道が死んだ瞬間にチャプター11が終了し、直後に最終chapterであるchapter12が開始される。

 

 

 そこがこの物語のゴール。そしてそこが俺がこの舞台から降りられる最後のチャンスとなる。

 

 

((ちくしょう、結局最終chapterまで付き添う羽目になっちまった……もういい加減にしてくれ! 疲れた! 買ったまま放置されてあるゲームをやらせろ! 取りだめを見させろ! まだ去年の仮面戦士すら見てないのに今じゃもう次の仮面戦士が始まってるんだぞ! 早く終わらせてくれー!))

「あの、大丈夫っすかボス?」

 

 

 俺の苦悶の表情を目敏く見咎めたポメラニアンの声で我に返った俺は、仕切り直す為に一つ咳払いし、頭を振るって余計な思考を締め出し、ホワイトボードへと視線を戻し、話を続ける。

 

 

『本作戦は大入道と四方の結界維持施設への同時襲撃作戦となります』

「なるほど、つまり俺たちは大入道を請け負うんだな?」

『違います』

「え?」

 

 

 馬鹿な事を抜かす暗夜へ否定の言葉をぴしゃりと叩きつける。

 

 

『暗夜さんたちは待機です』

「何故です?」

 

 

 と績が至極真面目な感じで聞いてきた。

 

 

「愚問を。お前らはこの後の闇の神討伐のメンバーの一人だ。その前に消耗させる訳がないだろう」

 

 

 ゴスペルが鼻を鳴らした。

 

 

「あ、そっかあ……」

「私たちが、か。なんだか遠いところまで来てしまったな……」

 

 

 阿保面でゴスペルを見る暗夜の隣の軌陸が遠い目をしてしみじみ呟く。

 

 

『施設の破壊には騎士団に請け負ってもらいます』

「…………了解した」

 

 

 長い沈黙の果て、ゴスペルはゆっくりと頷いた。俺に指図されるのが気に入らないのが見え見えだった。ただ神の手前()()()()()()()喚かないだけの理性は残っているようで、すまし顔の瞳の奥で怒りと憎しみの炎を燃やす程度で留めてくれたようだ。

 

 

 うざい事この上ないので無視して話を続ける。突き刺さる視線の鋭さが増したが、注視する価値も無いので捨て置いた。

 

 

『それから大入道ですが、これはうちの犬たち、エミリーさん、騎士団の精鋭、そしてペットショップに対処してもらいます。ペットショップの方にはすでに話はつけてあります』

「まあ妥当だわな」

「うへ、ついに幹部戦に駆り出されんのか……」

「責任重大だね」

「やって見せます……!」

「いよいよ終わりが見えてきたなぁ……」

「仕事したくねー」

 

 

 チワワ、ポメラニアン、シバイヌ、エミリー、トサケン、ニンゲンドックがそれぞれ呟く。

 

 

『その際に一つ装備を貸し出します。レトリバー、プードル、首尾はいか程ですか?』

「……量産型スクラップ・タイタンの開発は騎士団とペットショップの技術班に急ピッチで進ませてるわ。これが解散し次第すぐに私も行くつもり」

「防護服への付与の消化率はただいま40%ほどです~……」

 

 

 また徹夜かぁ……と死んだ目のプードルを見ながら、暗夜はおずおずと聞いた。

 

 

「なあ疲れてるとこ悪いがよ、俺の得物は今どうなってんだ?」

「「……」」

 

 

 プードルとレトリバーは互いに顔を見合わせ、それから声を合わせて言った。

 

 

「「まだ整備中」」

「……ワカリマシタ」

 

 

 これ以上やぶを突きまわせば出てくるのは蛇ですまないと悟った暗夜は、ただちに二人から目を逸らした。萌とみみ子はやってられないとばかりにため息を吐いた。

 

 

『そして、闇の神討伐班のメンバーは暗夜さん、績さん、軌陸さん、千歳様となります』

「おぉ」

「はい」

「うむ」

「ふん」

 

 

 暗夜たちは特に何も言わずに頷いた。何も言えなかったというべきか。あの千歳すらもが表情が強張っていた。

 

 

 視線を向ける。千歳も見つめ返してきた。まあ平気だろ、という意思を視線に籠めてやったらそれだけで十分だったらしく、千歳は嘘のように動揺を収め、しれっと茶菓子をつまみ始めた。

 

 

「まあそんな緊張すんな。何せワシも出るからな! 大船に乗ったつもりでいりゃあいいぜ!」

「「えぇ!?」」

 

 

 一同驚愕。薄い胸を張る光の神を凝視した。取り合わずに話を続ける。続けたくもない話を。

 

 

「それから魔王の対処ですが、こちらは私とゴスペル様が請け負います。そして終わり次第闇の神討伐戦へ参画します。異論はありませんね?」

「……………………よかろう」

 

 

 長い長い、永い永い沈黙の果て、まるで錆びた機械のようにゆっくりと、アベル君は頷いた。その眼光は鋭いが、瞳の内奥には様々な感情が吹き荒れており、動揺しているのがまるわかりだった。

 

 

 ……正直キモイので、極力視界に入れない様に務めながら話を締めにかかる。

 

 

『まもなく決戦は始まります。それまでに、どうか憩ってください。恐らく決戦が始まってしまったら、それ以降の休息はほぼ無いと言っていいでしょう』

「だ、そうだ。始まるまでドンくらいあるか知らねーが、ま、精々ゆっくりしようや」

 

 

 光の神がそう締めくくり、話は終いとなった。各々茶菓子を手に取って話を続けたり、すたこらとどっかへ行ったり、いつの間にかいなくなっていたりと好き勝手に振舞っていた。

 

 

「……」

 

 

 俺はというと特に何をするまでも無く囁かれる話をぼーっと聞いていたり、ぶつぶつと独り言を言っては顔を覆う気持ち悪くて面白い変な奴を眺めていたりした。

 

 

 そして気が付けば、男性陣を除いたうちの犬たち以外誰もいなくなっていた。

 

 

「──────」

 

 

 俺は目をしばたいた。決して目を逸らしていた訳ではない。にも拘わらず、いつの間にか時間が飛んでいた。まるで白昼夢のように。

 

 

 頭を振るい、目を揉んだ。ため息を吐き、立ち上がろうとして、そういえば拘束されていたことに思い至り、心底うんざりとした。

 

 

 どいつもこいつもなんだというのだ。なぜそこまでして俺を一か所に留めたがる? 俺は犬じゃないんだぞ。犬はお前達だろう? 飼い主を縛る犬が何処にいるというのか。

 

 

 うだつの上がらない人生。格好のつかない男。どこへ行っても、何になっても、その本質はきっと変わらない。

 

 

 であらば、ここで犬飼の真似事をしていなくたって、何処へ行ったところで、今の状況と、何も変わらないのかもしれないぞ。

 

 

 ぺちゃくちゃとおしゃべりに夢中になっている犬に背を向け、そっと音を立てないように車いすを転がして出口へと向かおうとした。

 

 

「何やってんのよ。あんたはこっちよ」

 

 

 そうは問屋が許さず、さっと立ち塞がったレトリバーに車いすを掴まれ、俺はつれてかれる家畜のように無様に休憩室へと放り込まれた。

 

 

「今は憩う時、だっけ?」

 

 

 ひょいと抱え上げられ、ベッドへと降ろされた。酷い悪寒が全身を包んだ。思わず萌の顔を見上げる。怪物は舌なめずりしていた。

 

 

((ジーザスファッキンクライスト(おい馬鹿止めろ)!))

 

 

 憩わせろってんだよこの馬鹿! 

 

 

「おいコラこのガキ」

 

 

 後方からの声に煩わし気に萌は振り向いた。そこには一二、綾子、リリー、みみ子がさも当然といったように立っていた。

 

 

「なによ」

 

 

 萌は目を眇めた。俺はほっとした。さすがにこれだけの観衆がいる中で凶行に及ぶほど、萌も馬鹿じゃない。

 

 

 そう思っていた。だがブルータスというものはどこにだって偏在しているという事を、俺は嫌って程知る羽目になった。

 

 

「姉貴分を差し置いて盗み食いたあいい度胸だな」

「──────」

 

 

 俺は目を剥いて綾子を見た。

 

 

「知らないわよ。そんなの」

「まあいいじゃん。それより」

 

 

 獣の視線が降り注ぐ。俺は助けを求めてみみ子を見た。ブルータスは偏在する。どこへ行っても。

 

 

「……へへ」

 

 

 卑しい笑いと共に、懐刀はその牙を剥いて主人に突き立った。

 

 

((ファ……ファ……ファ……))

 

 

 ケダモノがゆっくりとにじり寄ってきた。

 

 

((ファアーックッッッ!!!))

 

 

 むせ返る様な淫臭。燃えるような吐息。地獄とは地表にこそ存在するのだ。

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