影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『幕間』⑬

 1『聖光教 大型兵器開発工房』

 

 

 

「もっとゆっくり運んで! そう、そのままゆっくり……ゆっくりよ。焦らないで……」

 

 

 所狭しと器材が置かれ、ツナギを着た作業員たちがひっきりなしに行き交う工房の中、音頭を取っていた萌がクレーンを操作する作業員へ指示を出しながら、険しい顔で、クレーンに吊られている物を凝視していた。

 

 

 クレーンに吊られている物、それは巨大な機械の腕である。サイズの程は二メートル前後。向かう先は5メートルほどのこれまた大きな人型機械である。

 

 

 萌が指示を出す傍らでは作業員たちが手を止め、固唾を飲んで一部始終を見守っている。

 

 

「……ッ」

 

 

 クレーンの運転手は額から汗を垂らしながら繊細な操作でクレーンを操り、みごと腕と人型機械へと繋ぐことに成功した。

 

 

 ガゴン、という音と共に腕が嵌り、プシューッと圧縮空気を排出し、大型の人型の機械、『量産型スクラップ・タイタン』が組み合わさった。

 

 

 周囲の者たちは息を吐いた。それから各々は方々に散り、作業を再開していった。

 

 

「やっと10体目ね……」

 

 

 新しく組み上がったスクラップ・タイタンから顔を逸らし、その横に雄々しく立ち並ぶ機械の巨兵達を見つめながら、萌は眉間に皺を寄せた。

 

 

()()

 

 

 と、作業員の一人が萌へと声をかけてきた。ジャケットの背中にはペットショップの文字が描かれていた。腕にはスカーフを巻いており、サワガニと明朝体で書かれてあった。

 

 

「なにサワガニ? 要件なら手短にしてもらいたいんだけど」

「ただ報告というだけです」

「なら許すわ。話しなさい」

「ウス」

 

 

 サワガニは姿勢を正し、報告した。

 

 

「武器製造班から報告です。部品を積んだトラックが教団の工作部隊に襲われて納品が滞っているため、製造に10%ほど遅れが出てるとのことです」

「……教団の工作部隊の方は?」

ペットショップ(うち)従業員(ペット)と光の者がついてたので殲滅自体はスムーズに終わったみたいです。ただ最後っ屁で車輪をやられちまったみたいで……」

「相変わらずやる事が陰湿ね」

「全くです」

 

 

 二人してため息を吐き、それからぐるりと周囲を見回し、エンジニアたちを、工房の中で微睡む機械の巨兵達を一つ一つ視界に収めてゆく。

 

 

「壮観っすね」

「さあね」

 

 

 目を細めてしみじみ呟くサワガニと対照的に、萌はそっけなく返す。

 

 

「あいつに作ったのに比べて性能は大分落としてあるから、常人でもある程度は操作できるようになってるわ」

「……常人向けって言ってますけど、まともな人間は10Gもかかったら死ぬと思うんですけど」

「何馬鹿なこと言ってんのあんた」

 

 

 萌は目を眇めた。

 

 

「その程度も克服出来ないような奴が幹部と戦えると思ってんの? あんまり舐めたこと言ってると最前線に放り込むわよ?」

「作業に戻りまーす!」

 

 

 逃げ去るサワガニの背を睨みつけ、萌はもう一度溜息をついた。

 

 

 それから聖光教の作業員たちに指示を出し、萌は攻防の隅にある小部屋、特別工房へと入ってゆく。

 

 

 ドアを開けた瞬間、目も眩むような光が視界を覆った。

 

 

「~~~~~~……」

 

 

 堪らずに目を瞑り、手探りで頭につけていたゴーグルをかけ、ゆっくりと目を開ける。

 

 

 室内は表の工房と同様に機材や工具で溢れており、その最奥、刀鍛冶場の脇に置かれたテーブルの前に、老人と小柄な少女が立っており、揃って両手をテーブル上に乗っている何かに翳しながら目を閉じて集中していた。額には滝のような汗。呼吸は荒く、相当な無理をしていることが分かる。

 

 

「──────はあっ」

 

 

 やがて少女が、みみ子は息を吐き出して目を開け、尻もちをついて息を激しく吸い込んだ。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 隣の老人、みみ蔵も同様にその場に胡坐をかき、首に巻いた手拭いで顔を拭いながら呼吸を整える。

 

 

「首尾はどう?」

 

 

 頃合いを見計らって萌は彼らに話しかけた。

 

 

「おう、まずまずといった所だ」

 

 

 みみ蔵は萌へと顔を向け、難しそうな顔をして言った。

 

 

「元から凄い勢いでこっちのエネルギーを吸ってくるようなじゃじゃ馬だったけど、新しく打ち直されてもっとじゃじゃ馬になっちゃったね」

 

 

 転がってあったボトルまで這って進み、ちびちびと水分を補給しながらテーブル上の物、聖剣へと目を向ける。

 

 

 今や聖剣は暗夜の手に無くとも薄っすらと輝きを放っていた。萌によって新しく打ち直された聖剣はその性能を飛躍的に増して蘇り、稀代の付与術師である萌とみみ蔵によって力を付与され、最早かつての性能すら上回る恐るべき兵器へと進化していた。

 

 

「もう十分そうだけど」

「ダメ。まだまだだよ。もう二度と折られない様に限界ギリギリまで付与を籠めなきゃ」

「あまり根を詰め過ぎないようにしなさい。あんたの仕事それだけじゃないでしょ?」

「分かってるよ」

 

 

 みみ子は瓶底眼鏡を外し、裸眼で萌を見た。透き通るような翡翠の瞳は何処までも真摯であった。

 

 

「──────」

「──────」

 

 

 若者二人のやり取りをやや離れた地点で見ていたみみ蔵は、どこか遠い目をしていた。

 

 

(大きくなったもんだぜ、全くよ……)

 

 

 みみ蔵は一人ごちる。

 

 

(願わくばずっとそばでお前たちの成長を見ていたかった……)

 

 

 唐突に視界が黒く染まり、やがてゆっくりと明滅しながら世界が元に戻る。

 

 

(へっ、諦めて怠惰に浸ったツケがここにきて廻って来やがった……)

 

 

 頭を振るい、自嘲するように笑う。

 

 

(頼むぜ? あと少し、もうちょっとだけ……俺の孫の、あの小僧の行く末を、どうか見届けさせてくれ……)

 

 

 老人は祈りをささげた。心から、ただ一つだけの願いを。消えゆく蝋燭に一際強い炎を灯して。ひたむきに。

 

 

「? おじいちゃん、どうしたの?」

「……気にすんな。ただの立ち眩みだ」

 

 

 顔を向けてきたみみ子に、老人は曖昧に微笑みながら手を振った。軋む体に鞭打って、巣立ってゆく子供たちを誇らしげに見つめながら、老人は立ち上がった。

 

 

(まだまだ。まだまださ……)

 

 

 老人はみみ子と萌の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

 

「「……」」

 

 

 二人は顔を見合わせて何か言いたげにしていたが、結局何も言わずにされるがままに撫でられた。

 

 

「さて、そろそろ再開しようぜ」

「うん!」

「言われなくとも」

 

 

 全てを心の中にそっとしまい、老人は最期の作業へと取り組んだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 2『聖光教 上級騎士専用トレーニングルーム』

 

 

 

 

「ダレッコラー!」

 

 

 口汚い罵り言葉と共に、チワワは高々と掲げたケルベロスを眼前の相撲取りめいた男へと叩きつけにいく。

 

 

「うおっ」

 

 

 相撲取りめいた男、ブルドックは鈍重な見た目からは想像も出来なような機敏な動作で反応し、音速にすらも達する一撃をかわした。

 

 

「おっせーぞ!」

「ぐむっ!?」

 

 

 かわされるとみるや瞬時に地を蹴ったチワワはサイドキックを放ち、ブルドックの脇腹を蹴った。

 

 

 まるで硬いゴム玉を蹴ったかのような感触だった。妙な手ごたえからダメージの有無を悟ったチワワはもう一度切り掛かろうとした。

 

 

「ちっ」

 

 

 その寸前でチワワは舌打ちし、ブルドックの体を蹴ってすぐにその場を離脱した。直後、チワワがいた地点をドローンの一斉射撃が炸裂した。

 

 

「流石に当たらないか!」

 

 

 片目をつぶるブルドックに、ダメージによる痛みは皆無。脂肪が衝撃の殆どを散らせ、打撃によるダメージを全て押さえこんでしまうのだ。

 

 

「当然だぜ!」

 

 

 内心で感心していたチワワだが、それをおくびにも出さずに表情を凄惨な笑みで塗り固めると、再び切り込んでいった。

 

 

「えい!」

 

 

 チワワから場面を移し、こちらはシバイヌとハスキーの攻防である。ハスキーが振るう棘だらけの金棒の一撃を、シバイヌはイヌガミで防ぐばかりか時に受け流し、時に弾き、隙が出来れば瞬時に盾から身を乗り出して打撃を加えていった。

 

 

「ムムッ」

 

 

 シバイヌのラリアットを危うくかわし、連続バック転を打って距離を離したハスキーは、呼吸を整え、それから異能を発動させて飛躍的に身体能力を倍増させて再び突貫していく。

 

 

「うんっ」

 

 

 実際相当な速さであった。瞬く間に距離を潰したハスキーの金棒の一撃はシバイヌのガードの上から体を揺らすほどの威力があった。

 

 

「どう?」

 

 

 挑発的な笑みを浮かべ連撃を仕掛けてくるハスキーに、シバイヌは目を細めた。

 

 

「ダメです!」

「あっ!」

 

 

 シバイヌは言い捨て、金棒の大ぶりな一撃を流麗な仕草で盾を傾け、受け流すばかりかハスキーの体勢を崩すことまでやってのけた。

 

 

「えい!」

「きゃっ」

 

 

 そのままシールドバッシュでハスキーの体を弾き飛ばし、受け身を取ったハスキーに向かって跳躍し、叩き潰しにかかる。

 

 

「うひゃあっ!?」

 

 

 咄嗟に芋虫のように転がって回避。盾は一瞬遅れて床に亀裂を作る勢いで衝突した。

 

 

「もうやめちゃう?」

 

 

 シバイヌの挑発的な笑み。

 

 

「まさか」

 

 

 ハスキーは微笑み、金棒を振り上げた。

 

 

「ダメっコラ―!」

「はあっ!」

 

 

 怖ろしい悪罵を極めた叫びと共に、両爪が閃く。対する鶴子は冷静に光の槍で受け流し、弾き逸らしながら気を窺い続ける。

 

 

「やあっ!」

 

 

 その背後から雉花の急襲刺突が迫る。

 

 

「ッチャレッガオラ―ッ!」

 

 

 炸裂の瞬間に、ポメラニアンは弾かれた反動を利用した回し蹴りを放って急襲刺突を払いのけた。

 

 

「いちいちうるさいぞ!」

 

 

 それを頭上から鵠がインターラプト。頭から股下まで串刺しにする急降下刺突を仕掛ける。

 

 

「ダマラッシェーッ!」

 

 

 回し蹴りの反動でポメラニアンはすでに跳躍していた。迎撃の手刀振り下ろしが鵠を叩き落した。

 

 

「グワーッ!?」

 

 

 悲鳴を上げて撃墜された鵠をカバーするように千鶴が突貫。背後から再び雉花が迫る。挟撃の構え。されどポメラニアンは一歩も引かずに迎え撃った。

 

 

 脇腹を狙う刺突を弾き、背後からの斬撃を回転切りで相殺。反動で跳躍し気を窺っていた鵠の急襲かわす。

 

 

 距離が離れ、仕切り直しである。

 

 

「ヤッテミンゾーッ!」

「「ヤーッ!」」

 

 

 訓練は続く。最終戦争へ向けて、犬や鳥たちは牙を研ぎ澄ませるのであった。

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