影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter11 巨壁破壊作戦』②

『姉さん! こっちも突入するぞ!』

『分かっている!』

『フェザント、敵勢力と交戦中! 想定よりも数が多いよ~!』

「……」

 

 

 ところ変わって、教団本部入り口を守る障壁を維持している4つの施設のうちの一つにエミリーはいた。

 

 

 通信からは破城槌部隊の作戦開始の合図や、早くも交戦を始めているフェザント隊からの戦闘音、そして表で戦っている混成部隊の怒声や轟音がひっきりなしに聞こえてくる。

 

 

()()()()()()、こちらも突入します」

 

 

 胸に沸き立つ緊張や高揚感をいつものように無表情の裏に覆い隠し、エミリーは振り返り、班員に向けて突入開始の合図を送った。

 

 

「了解、これより突入する!」

 

 

 副班長を務めるペットショップ警備部門星3警備員ブルドックが頷き返し、他の班員へと目配せした。

 

 

「重点!」

「突入重点!」

 

 

 白い者、一般騎士、がブルドックの後に続き、続々と突入を開始する。

 

 

「行きましょう」

「はい」

 

 

 若い白い者へ頷き返し、エミリーも施設の中へと入ってゆく。

 

 

「「ア゛ァ゛ア゛ア゛ー!」」

 

 

 早速わらわらと集まってきたのは、遅れていた研究がついに完成した『正式型レギオン』が、棍棒の様な両腕を振り回して突入班へと殺到した。

 

 

「撃て!」

 

 

 ブルドックの掛け声とともに各員の銃火器や異能が火を噴いた。

 

 

 火球が、稲妻が、氷柱が、重力球が、そして光による祝福が為された純銀製強化9mm弾が壁の如く迫るレギオンに突き刺さり、あっという間にミンチと化してゆく。

 

 

 しかし第一陣を超え、第二陣が間髪入れずに現れた。その数は第一陣よりもさらに多い。しかも一般兵士や黒い者まで加わり始めた。闇が混じった異能があちこちから飛来した。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 白い者の一人が、頭上から急襲を受けてひっくり返るように倒れ込んだ。

 

 

「ギィ゛ー!」

 

 

 まるで人の耳を想起させる醜悪な翼を羽ばたかせた飛行型レギオンが、倒れた白い者を食い千切りに、裂けんばかりに大口を開けて急降下突撃で迫る。

 

 

「させません」

「ギャッ」

 

 

 しかし寸前でエミリーの放った怪光線が飛行型レギオンを撃ち抜いて撃墜した。

 

 

「うへぇ!?」

 

 

 白い者のすぐ横を絶命したレギオンが勢い良く転がっていった。

 

 

「立てますか?」

「すんません……」

 

 

 エミリーはレトリバー謹製の改造アサルトライフルを乱射してレギオンや洗脳兵士を撃破しながら、白い者へと手を貸して立ち上がらせる。

 

 

『糞ったれ! さっさとくたばりやがれ!』

『敵増援接近! 数200!』

『足! 俺の足が!』

『ギャアッ!』

『怯むな! 押し返せ!』

『オォオオオ―ン……』

『クソカスがぁああああ!!!』

『ちょっと!? あんまり突っ込みすぎないで!』

『H、I、ポメラニアンを援護しろ!』

『『はい、マスター!』』

 

 

 ひっきりなしに通信から飛び込んでくる敵味方の悲鳴。

 

 

「ギャッ」

「おのれ汚らわしい地上人共が!」

「何をこの穴倉原人が!」

「敵の挑発に乗るな!」

「代わり弾丸を叩き込め!」

「「ギギギィイイイイイ!!!」」

 

 

 ひっきりなしに飛び込んで来る敵、敵、敵。すでに床は足の踏み場が無い程に屍が積み上がっていた。銃声や砲火、憎しみの唸り声が途絶えることはない。

 

 

 と、前方より、これまでの雑兵とは一線を画す邪悪な気配が。

 

 

『前方より増援を引き連れた闇の者接近! 数50!』

「聞いての通りです。各員、備えてください」

「「了解!」」

 

 

 静かだが、よく通る声でエミリーは、〝ドーベルマン〟は部隊員へと呼びかけた。銃声や爆音に負けじと声を張り上げて隊員たちは応じた。

 

 

『来るぞドーベルマン! 備えろ!』

 

 

 〝保健所〟の大老、トサケンが吠えるように言った。

 

 

「来ます。各員、前方へ火力集中!」

「「おぉおおお!!!」」

 

 

 視界に黒いローブを被った大柄な影とそれが付き従える異形の群れが映った瞬間にドーベルマンは声を張り上げた。彼女の号令と共に数多の異能が、火器が一斉に放たれた。

 

 

「むぉおおおお!?」

 

 

 それが作戦領域に入り込んだと同時に圧倒的な面制圧火力が襲い掛かった。爆音、爆音、爆音。悲鳴すらもかき消すほどの圧倒的火力集中は丸々30秒も続いた。

 

 

「撃ち方止め」

「「……!」」

 

 

 ブルドックの周囲に散っていたドローンが最後の空薬莢を排出した。カランカランという音がやけに大きく響いた。いつの間にか物音が消えていた。屍の山があちこちに形成され、床は流れ落ちた血が泉の如く広がっていた。

 

 

 周囲には硝煙と死臭が交じり合った恐ろしい悪臭が立ち込めていた。隊員たちはその臭いに何ら反応せず、各員の得物を向けたまま、動かない。

 

 

 やがて、視界を覆っていた煙が晴れると、そこには炭化し、もはや誰のものか分からない程に四散した肉片が転がるばかりであった。若い隊員が思わず安堵の息を吐く。その頭に何かが垂れた。

 

 

「……?」

 

 

 手で触れる。ぬるりとした感触。手についたものを見た。真っ黒な墨汁のような何かが付着していた。

 

 

「え?」

 

 

 若い隊員は目をしばたいた。

 

 

『こいつは……まだだボウズ共! 敵性反応!』

「「……ッ!」」

 

 

 何人かの光の者、そしてブルドックとドーベルマンは同時に頭上を見た。

 

 

「いひひー……」

 

 

 裂けた腹から名状しがたい闇を零しながら、闇の泥が子供のように無垢な笑みを浮かべていた。

 

 

「うぎゃあ!?」

 

 

 悲鳴を上げたのは先ほど闇の泥の闇を頭にかぶった隊員であった。闇が触れた箇所が煙を上げて融解していた。

 

 

「ひぃ!」

 

 

 パニックになりながらもヘルメットをむしり取り、グローブと共に遠くへと放り投げた。ヘルメットとグローブが地面につく頃にはそのほとんどが侵食されており、落ちた瞬間にぐしゃりと潰れた。

 

 

「闇の泥……」

『どうする、退くか?』

 

 

 トサケンからの、挑発的な声。

 

 

「冗談を。このまま撃破し、先へ進みます」

『そうこなくちゃな!』

「各員、射撃開始!」

「イヒー!」

 

 

 ブルドックの号令と共に火器が放たれるのと、闇の泥が天井を蹴ったのはほぼ同時であった。

 

 

 第二ラウンドの開始である。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 かつ、かつ、かつ、と、静寂に満ちた暗い回廊に、足音が響く。

 

 

 ここは教団本部作られた秘密の地下通路である。用途は脱出用。あるいはのこのこやって来た愚か者の撃滅用である。

 

 

 四方に散った結界維持施設。本部を守る大入道、その前に広がる広大な広場。この通路は広場よりやや離れた地点へと通じている。

 

 

 魔王は混戦によって乱れている戦場へ赴き、中心地点で力を解き放ち、大入道諸共に全てを闇に沈めるつもりでいた。今の教団にどれだけ雑兵が群れていようが無意味である。闇の神と自分、それを守る大入道さえ健在であれば良い。そういう考えだった。

 

 

『漬けこみは終わりだ。後は好きにせよ』

 

 

 まるで野良犬を払うように闇の神は手を振った。あの冷たい目を、声を。魔王は決して忘れはしない。

 

 

「……」

 

 

 元よりあの神にとっては全ては替えの利く駒でしかない。マガツノオロチも、グレンキュウビも、のっぺらぼうも、大入道も。そして他ならぬ魔王である自分も。

 

 

 居れば便利に使い潰し、居なければまたどこからか補充すればよい。何も変わらない。この世界は闇に満ちているのだから。

 

 

「……」

 

 

 魔王に言葉は無い。元より自分が特別目をかけられている訳ではない事など理解している。500年前のあの日から。

 

 

『くれて……やる……』

 

 

 たまたま波長が合ったというだけ。たまたま自分は常人よりもはるかに大きな器を有していたというだけ。たまたま弟も同様に器が大きかったというだけ。たまたま敵対関係にある組織に迎え入れられたというだけ。……たまたまどちらかが死ぬというだけ。

 

 

 光が見える。求めて止まなかった光。目を閉じる。感傷は消えた。

 

 

「──────やはり、か」

 

 

 回廊を抜けた先、開けた空き地に、白く大きな影があった。

 

 

「……」

 

 

 大剣を地面に突き刺し、柄頭の上に両掌を乗せたゴスペルが仁王立ちの姿勢で待ち構えていた。その輪郭は白く明滅していた。超自然の風に、マントがバタバタとはためいた。

 

 

「──────」

 

 

 魔王はゴスペルより3メートルほど離れた地点で足を止め、白い凝視を前に何かを懐かしむように目を細めた。

 

 

 幾度となく対峙してきた。その中で、これほど静かに対峙したことなど、果たしてあっただろうか。振り捨てた感慨が、再び胸中を満たす。

 

 

「「オォオオオオオオオオ……」」

 

 

 地鳴りのような鬨の声が、遠く離れたこの場所にすらも良く届いた。

 

 

 戦。懐かしや。最後に大きな戦争に身を投じたのは果たしていつだったか。

 

 

 両陣営から途切れることなく轟き吠える時の声。ひっきりなしに響き渡る砲火の音。消えゆく数多の命。消してきた命。戦火。高揚。そして、どうしようもない空虚感。

 

 

 だがやはり、数多の記憶の最後に現れるのは、白く細身な優男の顔。

 

 

 最初にぶつかり合った記憶は、今でも昨日の事の様に思い出せる。

 

 

(随分と積み重ねた。()も、お前も)

 

 

 兜の奥で、カインは自嘲気味に笑った。

 

 

 たかだか500年ぽっちしか生きていないというのに、まるで永い年月を過ごしたかのように思うのは、果たして烏滸がましいことなのだろうか。

 

 

 月日の重みは人によって違う。であるのならば、数多の命をすすってきた我々の月日は、一体どれだけの重みをもつのだろうか。

 

 

(俺は俺の思う時を生きてきた……アベル、お前はどうだ?)

 

 

 剣を引き抜き、構え、微動だにしない弟を前に、魔王は視線だけで語り掛ける。白に燃える視線は、まるで迷える子供のように揺れていた。

 

 

(──────)

 

 

 その瞬間、感慨も、過去も、神への忠義も、世界への憎悪も何もかもが吹き飛んだ。主観時間が鈍化し、世界の全てが動きを止めた。

 

 

 否。止まった時の中でなお、流星の如く飛び来る黒でも白でもない槍があった。

 

 

「──────ッ!!!」

 

 

 破滅的威力の飛び蹴りが、認識の壁をすり抜けて腹部を穿ち抜いた。魔王の視界が白く明滅する。

 

 

 魔王の体がカタパルト射出の如き勢いで吹き飛んで行く。ゴスペルは動かない。その傍らに、黒く青い影が立つ。

 

 

「くだらないセンチメントは済みましたか?」

 

 

 辛うじて受け身を取り、地面に焦げた跡を残してどうにか勢いを殺した魔王の耳に、鈴の音の様な声が、さながら開け放たれた窓から吹き込んだ微風の如くするりと入り込んだ。

 

 

「では消えていただきましょう。三文芝居はここまでです」

「イィイイイイミィイイイイテェエエエエショオオオオン……!」

 

 

 魔王は呪詛を吐いた。悪魔は微笑んだ。

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