影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter11 巨壁破壊作戦』③

 ズズン……ドドン……。

 

 

 戦場から響く音が、振動が、熱が、遠く離れた地点にある鳳凰院コーポレーション支社ビルの中にすらも届いていた。

 

 

『撃て撃て撃て!』

『急げ! 連中を殲滅しろ!』

『カーッ愚かなる聖光教の走狗どもが―ッ!』

『我らの千年王国のための礎となるが良い!』

『戯言に耳を貸すな! 殺せ!』

『アバーッ!?』

『ウギャーッ』

 

 

「「……」」

 

 

 ひっきりなしに飛び込んでくる両陣営の通信の中で待機していた暗夜、績、軌陸は、その熱に当てられてそわそわと身を動かしたり、互いに見つめ合ってはまた目を逸らしらりと、とにかく落ち着かないようであった。

 

 

 その傍らで光の神は漫画を読み、千歳に至ってはソファーの上でメイドの膝を枕にして眠っていた。

 

 

 重ぐるしい沈黙の中、音の濁流に交じって光の神が漫画のページをめくる音と、千歳の規則正しい寝息の音だけが聞こえていた。

 

 

「良くこの状況で眠ってられるな、あいつ」

 

 

 と、軌陸が呆れ気味に、半ば尊敬の念すら抱いて呟いた。

 

 

「羨ましい限りです」

 

 

 そうは言うが、千歳を見つめる績の瞳は冷ややかであり、内心で良く思っていないのは見え見えだった。

 

 

「……」

 

 

 暗夜は会話に参加せず、緊張した面持ちで聖剣を手に取って眺めたり、素振りして使い心地を確かめたりしていた。

 

 

 生まれ変わった聖剣は驚くほどでに馴染んだ。使い勝手は元よりもさらに跳ね上がっており、じゃじゃ馬度もそれ相応に上がっていた。実際イミテーションとの戦闘訓練の際に使用したときなど、ただの一振りで富士の樹海の一角が吹き飛んでしまった。

 

 

『おや、流石に手に取ったばかりではそんな物でしょうか? 結構です。ならば馴染むまで何度でも殺して(付き合って)あげましょう』

 

 

 短期の集中訓練でイミテーションに幾度も叩きのめされながら、時間が許す限り聖剣を振るい続けた。今ではもうそのような愚は犯さない。力は掌握し、手足の延長線のように扱えた。

 

 

 だが実戦ではどうだろうか? 新しい聖剣を用いた実戦はこれがはじめての事であり、暗夜はただ不安であった。自分の積み重ねは、本当に意味がある事だったのか? 

 

 

「オニィチャンよ、今更焦ったって仕方ねぇぜ? 後は今までの積み重ねがモノを言う実戦よ! どーんと胸ぇはりゃあえぇ!」

 

 

 漫画から顔を上げた光の神は暗夜へと顔を向け、薄い胸を張ってにやりと笑った。

 

 

「そういうもんすか?」

「そういうもんじゃよ」

「そっか……」

 

 

 暗夜は聖剣を見た。応えるように灰色の光を明滅させた。

 

 

「それもそうだな」

 

 

 得心し、頷いた。

 

 

 そのときピピピっと一つの通信が入ってきた。それは途切れることなく垂れ流される戦場の通信と比べれば静かなものであったが、それらを押しのけて耳の中へと入り込んでくるほどの力を持っていた。

 

 

『こちらイミテーション。目標を確認しました。作戦を開始します』

「「──────ッ」」

 

 

 彼らははっと息を飲んだ。直後に聞こえるのは、さながら巨大な質量同士が衝突したが如き轟音であった。

 

 

「始まったか……! 畜生、間近で見たかったなぁ!」

 

 

 戦場の声をかき消すほどの戦闘音を聞きながら、光の神は悔し気に眉を寄せ、拳を固く握りこんだ。

 

 

「「……」」

 

 

 暗夜たちは呆れ顔で光の神を見た。気にせず光の神はひっくり返り、駄々をこねるように手足をばたつかせて喚いていた。

 

 

「……ふん」

 

 

 アイマスクを傾け片目で通信機を見つめながら、千歳は鼻を鳴らした。

 

 

「……」

 

 

 それからごろりと寝返りを打って仰向けになると、天井に点く明かりに向けて手を伸ばす。

 

 

 光。あれほど羨み、手を伸ばした光。自分は今、その中にいる。かつての自分が今の自分を見たら、果たして何を思うだろうか? 

 

 

「……下らん」

 

 

 吐き捨てる様に言い、目を閉じる。視界一杯に闇が広がる。あれほど忌み嫌っていた黒。今では少し、心地良い。

 

 

 もうすぐ彼らは駆り出される事だろう。凄惨な戦いへと。自らの足で向かう事となるだろう。

 

 

 それで、彼らは決して止まる事はないはずだ。何せ、彼らは悪魔に鍛えられたのだ。であれば、いまさら何が起ころうが、だから何だというのか。

 

 

 勇者たちは時が来るその時まで、憩いの中にいるのであった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「オォ!」

 

 

 魔王の斬撃を思い切り仰け反る事でかわし、イミテーションはそのまま足を振り上げて黒炎を纏うハイキックを放つ! 

 

 

「ぬうっ」

 

 

 蹴り上げられながら魔王はイミテーションに片手を向け、巨大な闇の球体を撃ち放った。しかしイミテーションはすでにその場を離れており、闇は空しく虚空を通過していった。

 

 

「ッ!」

 

 

 魔王は闇を放った反動で一回転、背後から急襲してきたゴスペルの突きに長剣を嚙み合わせて弾いた! 

 

 

「おのれ──────ッ!?」

 

 

 その時にはいつの間にか真横にいたイミテーションが白炎に燃えるサイドキックを放ち、魔王の脇腹を蹴り飛ばしていた。

 

 

「ぐうっ」

 

 

 間髪入れずに振り下ろされる白い鉄槌を転がって回避! 直後に魔王がいた地点が爆発し、柱の如く土砂や土埃が舞い上がった! 

 

 

「今──────チィ!」

 

 

 視界が覆われた瞬間に魔王は立ち上がり、ゴスペルへと仕掛けに行ったのだが、眼前には拳を振り上げた悪魔の姿が! 

 

 

「くそっ!」

 

 

 ただちに攻撃を取りやめて顔面を狙った拳を首をかしげてかろうじてかわすが、タイムラグ無しで放たれた黒炎が燃える12連続ブローが魔王の腹を抉る! 

 

 

「悪魔──────ぐわっ」

 

 

 ダメージは殆ど無い。しかし反動でわずかに後退り、その隙を狙いすました光りの礫が飛来し、魔王の全身を打ち据えた! 

 

 

 仰け反る魔王のがら空きの無防備胴体に、瞬時に踏み込んできた悪魔の黒と白に燃える64の打撃がほぼ同時に叩き込まれた! 

 

 

「くっ」

 

 

 追撃を恐れた魔王は堪らず後退したが、そこには悪魔が鷲の爪を構えて立ち塞がっていた。目の前からは莫大な光を放つゴスペルが迫る! 

 

 

「──────ッ!」

 

 

 魔王は目を剥いた。あまりにもふざけた挟撃であった。とても攻撃を挟む隙間が無い。魔王は鷲の爪を首元に闇を集中させて強引に防ぎ、前方から向かい来るゴスペルの懐へと踏み込み、剣が振り下ろされるよりも早く胸に掌底打ちを叩き込んだ! 

 

 

「ぐっ!?」

「むんっ」

 

 

 怯んだゴスペルの顔面を殴り飛ばして吹き飛ばし、追撃を入れようと手をかざした魔王であるが、ぞっとする死の予感に突き動かされて前に倒れ込んだ。その一瞬後に白炎を纏ったイミテーションの上段回し蹴りが通過した。

 

 

 起き上がり、後方へと回転斬撃を放った僅かな交差の最中、黒と白の視線と目が合った。相も変わらず起伏の無い平坦かつ無機質な殺意を放つ瞳であった。

 

 

「──────ッ!」

 

 

 ぎりぎりと歯軋りする。一発当たればぱんぱんに詰まった水風船の如くたやすく破裂させる事が出来るというのに、その一発がどうしても当たらない。

 

 

 一対一の時ですらそうだったのだ。その上、此度の決戦では世界でも最高位の存在であるゴスペルとタッグを組んで襲い掛かってきているこの状況は、考えられる中でも最低最悪の状況といえた。

 

 

 不用意な手出しはかえって隙を晒し、悪魔は確実にそこから致命打を打ち込んで来るであろう。そうでなくともゴスペルは魔王も認める手練れである。隙を晒してよい相手ではない。

 

 

 これ程の死線は、かつて合っただろうか? 魔王はふと考える。

 

 

 だがそれもすぐに消えた。感情の起伏の揺らぎを感じ取った悪魔が両手に灰色の炎を宿したのを目撃したからだ。

 

 

 魔王の脳裏に瞬間的に蘇るのは、全身を打ち据えた混沌である。あのぞっとするような冷たい衝撃。そう何度も食らいたいものではない。

 

 

「カアッ!」

 

 

 魔王はほぼ反射ともいえる反応で闇を放出して接近を拒絶した。イミテーションは魔王が闇を放つ予兆を感じた瞬間に攻撃を取りやめて跳躍し、ゴスペルの背後へと着地していた。

 

 

「ヌゥ―ン!」

 

 

 ゴスペルは大剣に光を纏わせ、放出された闇に向けて叩きつけた! 相反する属性の力がぶつかり合い、対消滅の莫大なエネルギーが全方位に吹き荒れた! 

 

 

「「チィ!」」

 

 

 両者は衝撃に圧されて後退……否! 莫大な衝撃を切り裂いて、青い閃光が走る! 

 

 

「イミテーション!」

 

 

 眼前に出現したイミテーションに魔王は吠えるように叫ぶ。悪魔の瞳は戦の熱にあおられてもなお、どこまでも冷ややかであった。

 

 

 イミテーションは白炎に燃えるフックを繰り出す! ありえない速度で放たれた拳を、魔王は抗わずに顔面で受け切り、反撃で長剣を一閃させた。

 

 

 神速の反撃は悪魔を切り裂いたかと思えたが、その姿は揺らぎ、霞み、雲散した。その後方から、莫大な光の束がすぐそばまで迫り来ていた。

 

 

「く、そ──────」

 

 

 強化された反射神経は辛うじて反応し、脳が危機を感じたと同時に足はすでに地を蹴っていた。

 

 

 しかし。

 

 

「だめでーす」

「ッ!?」

 

 

 振り返る間もなく魔王の背中に甚大な衝撃が走った。衝撃から察するに、闇と光の同時併用した何かしらの打撃であるという事は分った。

 

 

(そんな事は!)

 

 

 どうでもいい。あまりにも。莫大な光が迫る。逃げられない。逃げた先がこのザマだから。

 

 

「──────」

 

 

 光が視界一杯に広がる。魔王は両腕をクロスさせてガードを試みる。瞬間、視界が白く弾け、音が消え去った。

 

 

 衝撃が、何もかもを飲み込んだ。悪魔は笑った。

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