影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter11 巨壁破壊作戦』⑥

「畜生畜生畜生畜生畜生ォオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 築かれた陣地の中、あちこちに乱立する医療テントの中でニンゲンドックの絶叫が轟いた。

 

 

「うるせーです! 黙って手を動かすです!」

「うるせーチクショォオオオオ!!!」

 

 

 すぐそばで怪我人を治療していたスズメがニンゲンドックへと苦言を呈すが、自分の世界に入り込んだニンゲンドックの耳には一言たりとも入らない。

 

 

 というのも、ただでさえ怪我人でごった返していたテントの中は、城槌部隊が担ぎ込まれたことによってまさに混沌と化していた。

 

 

 それによってただでさえキャパオーバーしていたニンゲンドックの容量は完全に閾値を超えた。そうして出来上がったのは、半ば発狂しながら手だけは動かす気味の悪い中年である。

 

 

「黙りやがれ!」

「みんな頑張ってんだ、グダグダ抜かすな!」

「死ね!」

 

 

 挙句の果てには他の隊員からも罵詈雑言が飛んできたが、ニンゲンドックは何のその。聞くに堪えない譫言を絶えず垂れ流しながら、目だけを異様にぎらつかせて治療台に横たわる白髪の少女を睨みつけた。

 

 

「すぅー……すぅー……」

 

 

 酷い有り様であった。全身はずたずたに引き裂かれており、出血も酷く、巻き終えたばかりの包帯は早くも黒ずみ始めていた。その隣には千鶴、雉花、鵠の三人が。その隣にはブルドックが窮屈そうに横たわっており、さらに近くには破城槌部隊の生き残りたちが横たわっていた。

 

 

 誰も彼もエミリーと似たり寄ったりの有様である。報告によれば施設の最奥部を守る闇の泥を倒す最後の手段として結界の発生装置を暴走、諸共に施設ごと爆破したという。

 

 

(それでよくもまあ生き延びたもんだぜ!)

 

 

 胸中で吐き捨て、治療を終えたエミリーから目を離して隣のベッドに横たわる者たちへと目を向けた。

 

 

 傷ついた者たち。少なくなったが、それでも生き延びて者達。その半数は戦いが終わったとしてもまともに生きてゆけるかどうか……。

 

 

「何ボーとしてやがりますか! さっさと手を動かしやがれ下さい!」

「……うるせーなぁ。言われなくとも分かって──────」

 

 

 どやしてきたスズメに怒鳴り返したニンゲンドックだが、不意に言葉は千切れた。

 

 

「どうしやがりましたんです? また発作ですか?」

「──────ッ!」

 

 

 取り合わず、ニンゲンドックは反射的に振り向いた。

 

 

 視線の先、怪我人と衛生兵や医者やらがごった返すテントの中で、場違いな黒く不穏な影がさも当然とばかりに立っていた。

 

 

「ひひっ……」

 

 

 張り付けたような笑み。その手には脈動する赤黒い何か。

 

 

 それが高々と掲げる赤黒い物体を地面に叩きつけようとしたその時、不意に動きが止まった。

 

 

「死ね」

 

 

 冷ややかな目で見つめながらニンゲンドックは無慈悲に言い捨て、腕をくいっと手前に引いた。断末魔を上げる間もなく黒い影はバラバラに切断されて床を転がった。不可思議な事に赤黒い物体は空中で静止していた。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 突如として飛んできた赤黒い飛沫に驚いたウグイス頭の衛生兵ががそこではじめてバラバラになった何かに気が付き、悲鳴を上げて尻もちをついた。

 

 

「何だこりゃ!?」

「敵!?」

「ナンデ!?」

「先生ドシタンス!?」

 

 

 ウグイスを皮切りにオウム頭の隊員が、インコ頭が、その他の隊員が続々とバラバラ死体に目を向け、互いに目を見交わしてピーチクパーチクと戦慄いた。

 

 

 

「皆さん無事ですか!?」

 

 

 と、ここで飛び込んできたのは金棒を持つ逆の手で頭が潰れた黒ローブ姿の何某かを掴んだハスキーであった。

 

 

「おいどうなってんだ! 何で攻め込まれてんだよ!」

「これは……この反応は……ぬらりひょんに酷似しています! 敵は虚部隊虚の虚無僧兵! 敵は虚部隊の生き残りです!」

 

 

 探知系の異能持ちの隊員からの報告に、現場にいる者は浮足立った。

 

 

「あ! あ! あ! 数は少ないですけどまだ来ます!」

「数を言え数をこの馬鹿!」

「えっ!?」

 

 

 かたつむりを模したフルフェイスヘルムを被るペットショップの警備員(ペット)に、ニンゲンドックは怒鳴りつけた。

 

 

「あ!? え~と、数は4! 4です! あ、でも!」

 

 

 ナメクジ(スラッグ)が言うよりも早く、バツンと音を立ててそれはバラバラ死体の真横に膝立ちの姿勢で現れた。

 

 

「えいっ☆」

「ぷぎゅっ」

 

 

 間髪入れずにハスキーが異能で強化された金棒を振り下ろし、黒い者を地面の染みに変えた。

 

 

「くそ! あいつらにワープされちゃどこにいても同じだな! おいてめーらはそのまま作業を続けろ! 俺が出る!」

 

 

 言うだけ言うと、ニンゲンドックは両手を重ね合わせ、放した。彼の両手の間にはさながらこんがらがったあやとりめいて糸がびっしりと巻き付いていた。異能で生成した糸である。

 

 

「おいハスキー! デカいのはそのタッパと胸だけか! とっとと動きやがれ!」

「……セクハラで社長に訴えちゃいますよ~☆」

 

 

 ジト目を送るハスキーの横を走り抜け、ニンゲンドックはテントの外へと出て行った。

 

 

「クソクソクソ! こんな所にまで湧いてきやがって!」

「地獄に落ちろ豚共が!」

「ちっ、案の定かくそったれめ!」

 

 

 予想していた通り、目の前では決死の防衛戦が繰り広げられていた。わらわらと押し寄せるレギオンや一般兵士たちを火器や異能で必死に倒しながら、護衛達が口々に罵倒を吐き捨てていた。

 

 

『こちらスラッグ! どうやらさっき言っていた3つの反応が敵を送り込んでいるようです! そいつらを潰さなくちゃこの波は止まりません!』

「だとよ糞ったれ! 聞いてたな! 俺とハスキーが二体! 最後の一つはお前らがどうにかしろ!」

『『了解!』』

 

 

 返答も待たず、何人かの隊員を引き連れて反応の一つに向けて前進を開始した。

 

 

「「ギィイイイイ!」」

 

 

 立ち塞がるは無数のレギオンたち。が、突撃してきたかと思えばその体は無数の肉片となって四散した。

 

 

進め(ムーブ)進め(ムーブ)進め(ムーブ)!」

 

 

 ニンゲンドックは血走った目で前方を睨んだ。こんなふざけた状況にしやがった教団に。こんなふざけた状況に巻き込んだどこぞの誰かを。

 

 

「畜生ォオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 男、源蔵、ここにきて人生で最も大きな声を出した。それは、憎悪と憤怒の合わさった魂の咆哮であった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

((は? は? は? 巨人!? 魔王が襲撃してきた時に全部刈り取ったんじゃないの!? え? 生き残りがいた? あれだけ徹底的に洗ったのに? そんな馬鹿な(ホワット・ザ・ファック)!))

 

 

 イミテーションは出現した黒い巨人に目を見開いて硬直していた。脳が理解を拒んでいた。ここにきてこんなどんでん返しがあるなどと。

 

 

『大入道、再起動します! 周囲には恐らく大入道の肉片を取り込んだと思わしき『巨人』がいます!』

 

 

((あぁ、成程。そういうカラクリね。ナルホド……))

 

 

 みみ子からの報告に得心がいき、イミテーションは一人頷いた。それが致命的な隙となった。背後で揺らめく邪悪な気配に、気が付くのが遅れた。

 

 

「──────ッ」

 

 

 気が付き、振り向きながらの裏拳を叩き込んだが、それはたやすく抑え込んだ。

 

 

「ぬっ!?」

 

 

 片方の手で拳を防ぎ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 もう片方! 

 

 

 イミテーションは驚愕に目を剥いた。

 

 

((このやろ! 闇で欠損部位を補ったか!))

 

 

 捕まれて覆われた視界でかろうじて魔王の状態を見て取ったイミテーションは瞬時に事態を把握し、掌握を脱出するために激しく身をよじった。

 

 

 付け根から伸びる黒い腕は悍ましい波動を常に放っており、受け続ければ必ずやよくない影響が出ることであろう。

 

 

((こいつ……!))

 

 

 イミテーションは掴まれていない方の腕で黒い腕を殴りつけたが、まるで微動だにしない。巨木を殴りこんだが如き手応え。

 

 

「ハァアアアア……」

 

 

 間近まで迫った魔王の顔は、死人というに他ならぬ顔をしていた。急激に落ちくぼんだ頬。土気色の肌。ただし目だけが異様な輝きを帯びていた。黒紫色の瞳は今や不穏な光で比喩抜きで輝いており、まるで地獄の炉さながらに憎悪と憤怒に燃えていた。

 

 

「──────ッ」

 

 

 流石にその姿に只ならぬ危機感を覚えたのだろう。ゴスペルは莫大な光を大剣に集め、イミテーション諸共魔王を叩き割ろうと地を蹴った。

 

 

「未熟者は引っ込んでいろ」

 

 

 しかし魔王は瞬間的に津波の如き闇をゴスペル目がけて解き放った。

 

 

「ぐわっ!?」

 

 

 それはゴスペルの大剣に集めた光をはるかに上回っており、集めた光はさながら台風の前の蝋燭の様にたやすくかき消され、吹き荒れる闇がゴスペルの体を遠く遠く吹き飛ばした。

 

 

『撃てぇー! 殺せェ!』

『機体損傷80%!』

『まだまだぁ!』

『いい加減倒れてよぉ!』

『敵巨人、残り3体!』

『スクラップ・F、カバーに入って!』

「……ッ……ッ」

 

 

 耳元で垂れ流される通信を聞き流しながら、イミテーションはただ只管に拳を打ち込み続けた。意に返さず魔王は闇の腕に力を籠めてイミテーションを吊り上げた。

 

 

「掴んでしまえば、あっけないものだな。え?」

 

 

 顔を近づけ、瘴気を孕んだ息を吐きかける魔王に、イミテーションは一切意に返さずにただひたすら拳を打ち込み続ける。

 

 

「お前には本当に手を焼かされた。これで憂いを断つとしよう。とびきりの苦しみを籠めてな」

「……ッ! ……ッ!」

 

 

 顔を掴む力が少しずつ強まってきた。悲鳴を押し殺し、イミテーションはただひたすら拳を打ち込み続ける。

 

 

「どうした? いつものように手品は披露せんのか? それともできないか? はは……」

「ッ! ッ!」

 

 

 めきめきといやな音が頭蓋骨から発せられた。健太郎は無我夢中で拳を打ち込み続ける。数キロ先で光の柱が立ち昇り、凄まじい勢いでこちらに向かって来ていた。しかしイミテーションからすれば、その速度はあまりにも遅い。

 

 

「はっはっは……」

「~~~~~~ッ!」

 

 

 ぱきり。ついに頭蓋骨に罅が入り始めた。悪魔は拳を打ち込む。打ち込む。打ち込む。魔王は虚無的に笑った。熾天使は六枚の羽根を羽ばたかせて空間を切り裂くように飛ぶ。

 

 

 掌握の力は少しずつ増した。死線。憤怒。闇。光……混沌! 

 

 

 悪魔の眼光が死を前に狂おしく明滅した。呼応して両腕を覆う鋼鉄手甲が激しく脈打つように灰色の光を明滅させた。

 

 

『グルルルルル……』

 

 

 二人の耳に、(けだもの)の唸り声が聞こえた。

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