影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『chapter11 巨壁破壊作戦』⑧

「ムウンッ」

 

 

 魔王の長剣の薙ぎを屈みこんでかわし、背後のゴスペルが弾き逸らして作ったコンマ000.1秒以下の隙に、イミテーションは踏み込んで黒と白に燃える拳を瞬間的な脱力と共に解き放ち、72の打撃をほぼ同時に叩き込んだ! 

 

 

「小癪!」

「ハアッ!」

 

 

 たたらを踏んで怯んだ魔王目がけて間髪入れずにゴスペルが大剣を振るい、その首を切り落としにかかる! 

 

 

「フンッ」

 

 

 魔王は片手に闇の球体を生成して大剣に向けて投げつけ、炸裂の衝撃でほんの少しだけ生じたラグに長剣を走らせて弾き逸らした。

 

 

「あまい──────チィ」

 

 

 カウンターの前蹴り叩き込もうと足を振り上げた魔王だが、急遽取りやめ回し蹴りを背後に叩き込んだ! 

 

 

「ちっ」

 

 

 背後から抜き手を放ち背骨を引きずり出そうと目論んでいたイミテーションは、この一撃を嫌い、舌打ちを残して後方へと跳び退いた。

 

 

「甘いのはどちらだ!?」

 

 

 その隙を見逃すゴスペルではない。大剣に光を纏わせ、がら空きの無防備背中に振り下ろした。

 

 

「ハハハ……」

 

 

 対する魔王はこの一撃を前に虚無的に笑った。ゴスペルは訝ったが、直後に目を見開く。魔王の背後を守るマントが意思を持つかのようひとりでに動き、ゴスペルの大剣の一撃を絡めとってしまったのだ。

 

 

 只の布だったのならばそのまま引き裂けたであろう。力ある布だったとしてもゴスペルからすれば大差はない。だが魔王のマントは布ではない。力を受けて揺らめくそれは、その実闇で構成された物であり、状況に応じて姿形を自在に変える。

 

 

「愚か!」

「ぐわっ!?」

 

 

 魔王は一喝し、背部より莫大な闇を放出した! ゴスペルは咄嗟に6枚の翼で身を守ったものの、後方に大きく吹き飛ばされてしまった。

 

 

 そのまま追撃を撃ち込めれば、勝敗は決まったも同然であったであろう。しかしそれ以上の行動は許されなかった。魔王は瞬時にその場を跳ねた。ほんの0.000001秒後に黒と白に燃える水面蹴りが通過した。

 

 

 殆ど地面と一体化したかのような極めて低い下段蹴りであった。あのままゴスペルへ追撃を行っていれば、この蹴りが魔王の足首から下を薙ぎ、何か致命的な打撃が襲い来たであろう。

 

 

 イミテーションは技が外れたとみるや即座に立ち上がり、未だ空中にある魔王の体目がけて拳銃を発砲した! 

 

 

 放たれたと同時に加速と強弱をかけてプラズマ化したエネルギーは魔王の頭部、腹、下腹部を目がけてまっしぐらに突撃した! 

 

 

「効かぬわ!」

 

 

 しかし魔王が纏う闇の衣は小細工を弄した悪魔の一撃をたやすく跳ねのけた。

 

 

「それでいいのですよ」

「何を────―ぐわっ!?」

 

 

 一笑に付す魔王へ向けて悪魔は鼻で笑った。訝る間もなく着弾するのは夥しい光の弾幕! 

 

 

「こっちを見ろォオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 闇に跳ばされたゴスペルはそのまま6枚の翼を羽ばたかせて飛翔。悪魔と魔王とのやり取りで付け入る隙を上空より血眼で窺っていたのだ。

 

 

「くそっ」

「むん」

「ぐほっ!?」

 

 

 注意が僅かにゴスペルの方へ向いた事を察したイミテーションは踏み込むと、鮮やかとしか言いようのない不意打ちを魔王の顔面に叩き込んだ! 

 

 

 吹き飛ぶ魔王へ向けてイミテーションは跳躍! 落下エネルギーが乗った恐るべき瓦割り染みた落下打撃を魔王の頭部目がけて振り下ろす! 

 

 

「チィ―ッ!」

 

 

 魔王は闇を放出して急激な方向転換! 辛うじてかわし、反動で跳び離れる。一瞬後に拳が地面を砕いた! 爆薬の炸裂染みて地面が爆ぜた! 

 

 

「オォ!」

 

 

 次いで襲い来るのはゴスペルの急降下強襲刺突であった! 魔王の腹目がけて莫大な質量が叩き込まれる! 

 

 

「グヌッ!」

 

 

 魔王はギリギリの所で長剣で防ぐものの、咄嗟に出した間に合わせのガード程度で狙いすました刺突を防ぎきれるものではない! ガードがこじ開けられた魔王の無防備胴体に、ゴスペルは強烈なサイドキックを叩き込んだ! 

 

 

「グッ──────」

 

 

 めきめきと体が軋む。爆ぜかける胴体を筋肉を強烈に締めることで強引に抑え込んだ魔王は襲い来る黒炎に燃える悪魔の拳を首をかしげてかわし、反撃の長剣刺突で喉笛を狙う! 

 

 

 イミテーションは長剣の切っ先横に拳を打ち込むことで軌道を逸らし、頬を切り裂かれるのに任せ、白炎に燃える逆の拳を魔王の顔面に打ち込んだ! 

 

 

「貴様ッ!」

 

 

 ダメージは無い。しかし注意を逸らすには十分な打撃だった。ゴスペルの大剣が横薙ぎの一閃を放つ! 魔王は上体を仰け反らせて大剣をかわし、性懲りもなく追撃を行うゴスペルに向けて再びマントを放って絡めとらんとする! 

 

 

 だがゴスペルは同じ愚を犯すような男ではない。

 

 

「なにっ」

 

 

 うねりながら迫り来るマントに、ゴスペルは翼の一つを伸ばしてマントに叩きつけた! 闇と光の凝縮物がぶつかり合い対消滅! 反動で両者は大きく弾かれた! 

 

 

「グッ!?」

「──────ッ」

 

 

 体勢が崩れた魔王とは違いゴスペルは衝撃を利用して素早く回転し、魔王に向けて強烈な回し蹴りを叩き込んだ! 

 

 

「グワッ!?」

 

 

 黒ずんだ血を吐き出しながら、魔王はきりもみ回転して吹き飛んだ! その先には悪魔が拳を握りこんで待ち構えており、迫り来た魔王に向けて捩じっていた腰を解放! 遠心力が乗った恐るべきフックを繰り出した! 

 

 

 炸裂の瞬間。ほんの刹那の時間に、その拳に黒炎と白炎が二重螺旋染みて巻き付いた! 

 

 

「──────」

 

 

 逃れようのない死の気配! ありとあらゆる感情を超越した、根源的な恐怖が魔王の全てを支配した! 

 

 

 闇が爆発した! 莫大な闇が大地の全てを染めんばかりに広がった! 吹き荒れる闇は、まさに嵐と称するに他が無く、フィールドの全てが病んだ光と瘴気に満たされた! 

 

 

「グヌッ!?」

 

 

 イミテーションは咄嗟に両腕をクロスさせてガードに努めるが、全方向からくる闇の嵐を防ぎきるすべなど到底ない! このままなすすべなく闇に侵食され、健闘空しくも朽ち果ててしまうのか! 

 

 

「来い!」

 

 

 そうはならなかった。イミテーションと闇の間に割って入ったゴスペルが彼の腕を掴み、遥か上空に向かって投げ飛ばしたのだ。

 

 

「──────はあっ!」

 

 

 まるで何十時間も潜水していたダイバーの如く深く息を吐き、吸ったイミテーションは空中で姿勢制御し、今まさに闇を跳ねのけたゴスペルが魔王に向かって切り込む様を見下ろしながら目を細めた。

 

 

「……」

 

 

 そして拳を握りしめた。彼は確信した。もう間もなくこの茶番は終わると。

 

 

「だあっ!」

 

 

 ゴスペルが振り下ろした大剣をすれすれでかわし、魔王は長剣で突きに行った! 

 

 

 鎧で覆われた腕で逸らし、火花を散らして通過する今まさに命を奪い取ろうとしていた長剣に一瞥をくれる間もなくゴスペルは掲げていた腕を突き出して魔王の顔面を突いた! 

 

 

「うぶっ」

 

 

 殴られながらも魔王は拳を突き出し、切りつけに来たゴスペルの大剣の握り手を打った! 

 

 

「くぅ……!」

 

 

 取り落とした大剣に目もくれずにゴスペルは殴り返す! 長剣を弾かれた魔王は吹き飛んで行く長剣に一瞥をくれることなく拳を突き出す! 

 

 

 振るわれた拳は同時に炸裂! 衝撃が頬を波打たせ、端正な顔が苦悶に染まる! 

 

 

 しかし意に返さず両者は無我夢中で打ち合った! 拳を突き出す! 同時命中! 強烈な衝撃で大地に亀裂が生まれ、膨大な衝撃波が放射状に吹き荒れた。噴き出した血が宙空をゆっくりと漂った。

 

 

 闇と光が両者を中心に渦を巻いた。それはさながら光と闇で構成されたリングのようだ。リングの中心で、二人の戦士は拳闘士染みてただ只管に泥臭く殴り合った。

 

 

 魔王の拳がゴスペルの腹を打ち、ゴスペルの拳が魔王の胸を打った。咳き込み、血を吐き、そして再び向き合えば両者はノーガードで打ち合った。それでまた苦悶し、にらみ合い、打ち合った。

 

 

 打ち合う。炸裂。苦悶。血を吐き、咳き込む。にらみ合い、打ち合う。炸裂。苦悶。血を吐き、咳き込む。にらみ合い、打ち合う。炸裂。苦悶。血を吐き、咳き込む。にらみ合い、打ち合う。炸裂。苦悶。血を吐き、咳き込む。にらみ合い、打ち合う。炸裂。苦悶。血を吐き、咳き込む。にらみ合い、打ち合う。

 

 

 打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。打ち合う。

 

 

 打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ。

 

 

「「──────」」

 

 

 打ち合いの最中、両者の胸に万感が去来した。

 

 

 〝黒玉様〟を信仰する村の村長家に生まれ、何不自由のない幸せだった少年時代。幸せだった。許嫁の少女と将来について語り合う日々。まさに夢のよう。

 

 

 しかし夢は夢。異教徒として摘発され、蹂躙され、何もかも失くした青年時代。一転して地獄のような日々。その果てに二人は引き裂かれ、次に対峙した時は闇の尖兵と光の走狗。

 

 

 〝どうしてこうなった? 〟

 

 

 奇しくも兄弟はこの時同じことを考えていた。

 

 

 何でこうなった? どうして僕/俺は最愛の片割れとこうして死合の真似事なぞしているのか? 

 

 

 憎悪が、怒りが、悲しみが、幸せの残滓が結びつき、どうしようもない現実と混ざり合って、最早自分たちが何を感じているのすらもが分からない。

 

 

 分からないまま、打ち合う。分からないまま殺し合う。

 

 

 〝何だこれは? 〟

 

 

 二人は愕然とした。

 

 

 〝この地獄は何だ? この有様は何だ? 〟

 

 

 兄弟は殴り合った。駄々をこねる幼子のように。行く末を憂い、大人になる事を恐れる子供のように。

 

 

 永劫とも思われる殴り合いは、しかし必ずや終わりが来る。

 

 

「──────」

 

 

 アベルの顔面にカインの拳が突き刺さった。

 

 

「あ……」

 

 

 アベルはよろよろと後退り、縋るよう眼差しをカインへと向けると、宙を引っかくように腕を振り、仰向けにばったりと倒れ伏した。

 

 

「──────」

 

 

 カインは血泡を吹いて痙攣する弟を見下ろし、何かを言った。

 

 

 そして微かな衝撃がして、視線を下に向けた。その胸からは灰色に燃える腕が生えていた。

 

 

「──────え?」

 

 

 それだけ言って、魔王は死んだ。

 

 

 呼応するように、黒より黒い柱が、比喩も誇張も無く天を貫いた。

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