影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや! 作:三流二式
時はしばし遡り、施設の破壊が完了し、教団本部の入り口を守る4つの結界が消えたという報告が齎された時、光の神に促されて邪神討伐隊はすでにビルから飛び出していた。
彼らはいまだ健在の大入道の根元にある教団本部の入り口に向けて、光の神を先頭に戦場のど真ん中を突っ走っていた。
『──────。──────』
「分かった分かった! そう何度も言うな鬱陶しい!」
「なんすか!? 何か聞こえたんすか!?」
先頭で走りながらこめかみを叩く光の神に向け、息を切らせて追いすがる暗夜が叫ぶように言った。周囲では地獄の様な乱戦が繰り広げられていた。ひっきりなしに飛び交う罵声や砲声に、耳が馬鹿になりそうだ。
「あんちきしょうからの鬼電がさっきから止まらねぇんだ! いい加減待たせるな、さっさと来いってなぁ!」
「大将自らのご指名ですか!」
「だったら行かないわけにはいかないな!」
目敏くこちらを見つけ、我先に飛びかかって来るレギオンや黒い者を蹴散らしながら、績と軌陸はそう言った。
「なるほど、あのいけ好かない神気取りもとうとう傍観の体を止めたようだな」
それまでずっと沈黙を保っていた千歳が吐き捨てるように言った。その表情は険しく、収まり切らない憎しみが表情に滲み出ていた。
「やめときなお嬢ちゃん。そいつはあいつにとっちゃ
「……私に指図するな」
光の神を睨む千歳の瞳に、不穏な黒い光が宿った。しかし、それ以上何かが起こる訳ではなかった。ただ憎んだ。ただ恨んだ。それだけだ。
年寄り共のくだらない因縁には興味は無かった。ただ、許せなかった。
「
「……」
千歳は胸に手を当てた。光の神は無言で耳を傾ける。破壊と死と嘆きがひしめく混沌空間の中で、その鈴の音を思わせる声は不思議とよく通った。その他の面々も無言で耳をそばだてた。
「もうあいつの物ではない。あんな点滴だらけの要介護老人に奪われてたまるか!」
「へっ!」
千歳の啖呵に光の神は小さく笑った。
「何が可笑しい!」
「へっへへへ!」
憤慨する千歳に、光の神は構わずに笑いこけた。他のメンバーも釣られて笑った。
「そうか、そうだよな」
軌陸は目の端に生じた涙を払い、得心したように頷く。その頭上からは飛行型レギオンが急降下して迫り来ていた。
「あの
「はあっ!?」
つい漏らした績の一言に、千歳は激昂した。呼応して放たれた闇の波動は空から迫り来た飛行型レギオンの体を瞬く間に侵食し、体の端の方から徐々に崩壊し、やがては根こそぎに崩れ去った。
「だ、誰が兄だと!? ふざけるな! あんな胡散臭くて頼りない奴が私の兄な訳あるか! 闇の神より先にお前の首を取ってやろうか!」
「わはは! そうやって意固地になってるのを見るとますます妹って感じだな!」
調子に乗った暗夜が要らぬ一言を付け加えた。千歳はキレた。
「貴様―ッ!」
「グワーッ!?」
雉も鳴かずば撃たれまい。千歳はけらけらと笑う績と軌陸を追い越して、握り締めていた黒龍を剣のように振るって暗夜の脳天をしたたかに打った。
「し、視界が揺れる~……」
「おい、そろそろ見えてきたぞ!」
取り合わずに光の神は前方を指さした。彼女が指さす方向の先では、無茶苦茶に暴れ狂う巨大な肉塊めいた大男の上半身と、縦横無尽に空を駆ける13名の小さな巨兵達が未だ死闘を繰り広げていた。
「オォオオオ―ン……」
巨人から放たれる雲霞の如き闇の礫が空を染め上げんばかりに撃ちあがる。
『『おぉおおおおおおおお!!!』』
それに負けじと放たれるは聖なる33ミリバルカン砲、特殊弾頭ミサイル、プラズマレーザーの雨。
互いにぶつかり合い、爆ぜ、爆炎を突き破って両者はぶつかり合い、また爆ぜた。それが無限に続く。決して途切れはしない。
「今じゃ今じゃ! 連中が頑張ってる間にワシらはあのデカブツの根元に突っ込むぞ!」
「「はい!」」
威勢の良い返事。光の神はにんまりと笑い、それから思い出したかのようにはっとなり、通信に向けて呼びかけた。
「こちら超ビックリムッチャクチャ邪神討伐隊! 羅生門無くなったみたいだからこのまま突っ込むぜ! ちと早いが文句言うな? 何せ大将直々に連絡入れてきてな。早く行かねぇと大量の闇ばら撒くぞって脅しに来やがったからな!」
それから光の神は暗夜たちに目配せした。意図を察した暗夜たちは同様に通信に向けて言った。
「そういう事だからあのデカブツは頼んだぜ皆!」
暗夜は言った。未だ上空で戦っている仲間たちに向けて、全てを終わらせるために。決意を籠めて。
「私たちは行きます!」
績は言った。彼女らしく短く簡潔であった。しかしそれだけで十分に思いは伝わった。通信を聞いていた戦士たちは十分に鼓舞され、底を尽きかけていた気力が再び満たされていく。
「姉さん達、私、やってみせるぞ!」
軌陸は言った。目が覚めた姉達はベッドの上で力強い宣言を確かに耳にしていた。彼女たちは涙ぐみ、しみじみ思う。私達の妹はこんなにも大きくなり、ついに立派に羽ばたいてのけたと。
「行ってらっしゃい、軌陸。貴方の巣立ちに、敬意を」
親友は柔らかく微笑み、かくりと気を失った。それで周囲で傾聴していたスズメの涙隊の面々が騒ぎ立てたのだが、彼女の顔は何処までも柔らかかった。
「四の五の言ってる暇があるならさっさと行くぞ!」
千歳は特に言葉を残さなかった。彼女らしい。聞いていた者たちは苦笑いを浮かべた。だがそれでいいと思った。あの子はそれでいい。ただ伸び伸びと、思うままに、恣にすればいい。彼女にはその権利がある。そう思って。
「……ッ!」
聴いていた父親は弾かれたように立ち上がり、窓を開け、屹立する巨人を、その根元を見た。見えるはずもないのに、どうしてか、小さく、しかしずっと大きくなった背中が見えた気がした。
「──────」
幻影は一瞬。瞬きすれば、視界に映るのは地獄のような戦場である。彼はただ茫然と戦場を凝視していた。見えない娘を。見えない悪魔を。
胸を満たすのは、とても言葉では表せない言葉であった。父親は項垂れ、ふらつき、それからゆっくりと頽れ、声も出さずにさめざめと泣いた。
光の神はまさに光の如く駆け抜けた。暗夜たちもそれに続く。道中は防衛型に改造された拠点防衛型の夥しい数のレギオンが襲い来たが。
「邪魔じゃ虫けらが!」
「「ギッ──────」」
光の神が苛立ちと共に腕を振った。瞬間に放たれるのは尋常ならざる光の波動である。それが、津波の如く襲い掛かってきたレギオンを逆に呑み込み、あっという間に蒸発させた。
「オォオオオ―ンッ!?」
レギオンだけに飽き足らず、光の波動は草原に放たれた炎の如く拡散し、大入道すらも揺らして見せた。光にあぶられた表皮は瞬く間に水ぶくれが生じ、焼けただれた。そこに弾幕が殺到した。
「オォオオオ―ン!!!」
大入道が絶叫を上げた。その口にすかさず弾幕が集中し、巨人はそれでまた悲鳴を上げた。
「行くぞ新兵共!
光の神に急き立てられて、暗夜たちは滝のように降り注ぐ血や肉片、時折飛沫の如く飛んでくる砲弾やミサイルを避けたり撃墜しながら、教団の本部、数多の悲劇の根源が待ち構える地獄の入り口を潜り抜けた。