影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『final chapter 異常空間』②

 中はひんやりとしていた。あれだけの熱気が、この空間の中にはまるで届いていなかった。外から聞こえてくる喧騒が、酷く遠い。

 

 

 洞窟か、あるいはトンネルの中の様に音が反響して聞こえる。まだ入り口だというのに、背中には言いようのない寒気がじわじわと広がり始めていた。

 

 

「オラ、ボサッとすんな! ゴーゴーゴー!」

 

 

 光の神に背中を叩かれて我に返り、4人の少年少女たちは怖気を振り切って駈け出した。

 

 

 広い空間だった。天井も、道の先すらもが見通せない。とても見かけからは想像もできない程に教団の本部は広大であった。

 

 

「力で空間を広げているのさ」

 

 

 光に神の示唆に、彼らはそういうものかとすぐに納得した。あまりにも超常に慣れてしまったがゆえに、彼らの理解は速い。

 

 

「「アァ……」」

 

 

 それと同時に、彼らの前方に不定形の影が立ち塞がった。それは両腕が棍棒の歪なヒトガタの姿をしていた。それは黒いフードを目深にかぶったような姿をしていた。それは大きな蛇の姿をしていた。それは──────。

 

 

 何処かで見たことのあるたくさんの影が、彼らを目がけてわらわらと襲い掛かってきた。

 

 

「はっ、眷属から取り込んだ闇の残留思念を混ぜ込んだ影か。下らぬわ! 小僧共! やれい!」

「うす」

「「はい!」」

「うるさい指図するな!」

 

 

 各々の得物を構え、暗夜たちは襲い来る影たちを迎え撃った。

 

 

「おらっ!」

「オォ……」

 

 

 飛びかかってきたレギオン影を暗夜は聖剣で切り裂き、ナイフを持って背後をとってきた黒い者影に回し蹴りを打ち込んで爆散させた。

 

 

「そらそら!」

「シャアアア……」

 

 

 白塗りの刀身をさらに白い光で染め上げ、軌陸は地面を這って足首を噛み千切ろうとしてきた蛇影を貫き、足元から来ていた蛇影に対処している隙に襲い来た二股の大蛇影に向けて切り上げ、真っ二つに切り裂いた。

 

 

「えい! やあ!」

「コーン……」

 

 

 殺到する影軍に向けて飛沫めいて光を爆散させて次々と打ち払い、光の礫を潜り抜けてきた3本尾の狐影の頭に、績は勢いよく純白のメイスを叩きつけて爆散させた。

 

 

「屑虫共が、見苦しいわ!」

「「オォ……」」

 

 

 破壊の波動を解き放ち、千歳は群がる影を次々と破壊し、バツンと音を立てて傍らに出現した虚無僧姿の影に向けて黒龍を振り下ろし、被っている笠ごと股下まで真っ二つに叩き割った。

 

 

「おらおらおら! どんどん来いやぁ~! 今宵のワシは血に飢えとるぞ~!!!」

「「オォオオオ―ン……」」

 

 

 光の神は天の川めいて周囲に光球を展開し、解き放った。放たれた数多の光の玉は宇宙で瞬く星々の光の様に閃き、無尽蔵に湧いて出る影の群れを逆に押し返し、そのほとんどを根こそぎに消滅させてしまった。

 

 

「畜生、影どもいくら潰してもつまんねーよ反応薄いし~……ア゛ァ゛~血が見てェ~よォ~!!!」

「オォ……」

 

 

 辛うじて潜り抜けてきた5つ尾の狐の影の尾を引っ掴み、抵抗も許さずに引き寄せて無造作に頭を踏み砕きながら、光の神は心底不満そうにぼやいた。

 

 

 そんな事を言ったからだろうか。復活して雲霞の如く群がる軍勢の後方から、味方であるはずの影を踏み潰しながら、それは緩慢な動きで彼等の前に姿を現した。

 

 

「ギギィイイイイ!!!」

「あ?」

 

 

 悍ましい咆哮にぼやきを止め、光の神は声の方向へと顔を向けた。暗夜たちも手は止めずに視線だけを向けて確認した。そこには悍ましい肉塊が、何十本と生えた触手やいくつもの関節を持った腕を振り回しながらゆっくりと迫り来ていた。

 

 

「おほ♡お肉ちゃん♡」

 

 

 影ではない。明らかに血肉を備えた生命の熱に、沈んでいた光の神の表情は途端に輝きを帯びた。沸き立つ感情に呼応して、彼女の後頭部には薄っすらと光る光輪が現れた。

 

 

「あの感じ……あれもレギオンか!」

 

 

 影に交じって襲い掛かってきたレギオンを殴り殺しながら、暗夜は顔をしかめた。

 

 

「資料にあった! あれは『レギオン混合型』だ!」

「混ざりに混ざっておぞましさも一入ですね! あんなものにかけている時間もありません。手早く片づけ」

「えぇい消えろ!」

 

 

 績が言い切る前に千歳が叫び、一際大きな破壊球を作り出すと、何の躊躇もなく撃ち放った。

 

「「いっ!?」」

 

 

 彼らは直ちに身を伏せた。光の神は腹を抱えて笑った。

 

 

「ギギ──────」

 

 

 断末魔を上げる間もなくレギオン混合型は膨れ上がった破壊球に飲まれ、次の瞬間盛大な音を立てて爆発四散した。

 

 

「ヒーッヒッヒッヒ!」

「「……」」

 

 

 四散した血肉を見てゲラゲラと腹を抱えて笑いこける光の神へ、暗夜たちはジト目を送ったが、彼女は気にせずゲラゲラと笑った。

 

 

 あれだけひしめいていた影はいつの間にか消えていた。どうやらあの影たちはレギオン混合型をポイントに湧いていたようだ。それが消えた事で、影の供給が止まったのだ。

 

 

「「ギギィ!!!」」

 

 

 とはいえ、影が消えたところでレギオンの供給は止まらず、彼らは殺到するレギオンたちを打ち倒しながら先へと進んだ。

 

 

 現れる地獄の軍勢と戦いながら道なりに進んでゆくと、大きな扉が目の前に現れた。扉の真ん中には蛇の刻印が施されていた。彼らは顔を見合わせた。

 

 

「なあこれって」

 

 

 暗夜が言い切る前に、扉は軋み音を立てながらひとりでに開いた。

 

 

「おし! 入ろうぜぇ!」

「あ、待ってください!」

 

 

 績の静止も遅く、うきうきとした足取りで光の神は先行した。

 

 

「もう!」

「俺たちも入ろう!」

「ガキかあのババアは」

「一昔前のお前もあんなんだったぞ!」

「何だとこら!」

 

 

 言い争いながらも暗夜たちは扉を潜り抜け、部屋へと入っていった。

 

 

「は?」

 

 

 部屋に入るなり、暗夜は目を丸くした。それもそのはず。彼らは廃墟のど真ん中に立っていた。目をしばたいて背後を見ると、潜り抜けてきた扉はいつの間にか消えていた。

 

 

「面妖な……」

 

 

 千歳は眉を顰めた。あまりにも見覚えがある光景だった。千歳でそれだ。当事者である暗夜と績は互いに顔を見合わせた。

 

 

 

「なあこれどう見てもあれだよな?」

「えぇ、記憶が確かであるならば、そうですね」

「なあ酷く嫌な予感がするんだが……」

 

 

 軌陸がそう呟いたのと同時に、彼女たちの頭上に影が差した。

 

 

『『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』』

 

 

 水中の中の様な、あるいはガラス越しの様にくぐもった声が、8つの大質量と共に降り注いだ。

 

 

「「──────」」

 

 

 凄まじい既視感と共に去来するのは、かつての苦いの記憶。あの時は降りかかる途方もない現実に振り回されるばかりであった。

 

 

 だが今は違う。

 

 

「績!」

「はい!」

 

 

 千歳と績は同時に手を上げて闇と光を放った。放たれた相反する属性球は絶妙なタイミングでぶつかり合い対消滅。莫大な衝撃波が放たれ、8つの質量を逆に弾き返した。

 

 

『『■■■■■■■■■■■!?』』

 

 

 

 8つの影は狼狽えるように叫び、悶え、急速に後方へと引っ込んでゆく。

 

 

「軌陸!」

「任せろ!」

 

 

 暗夜に頷きかけ、軌陸は光の翼を生やして高速飛翔。引っ込んでゆく影に瞬く間に追いつき、それどころか追い抜き、8つの長大な長虫を慌てて引っ込める影に向かって軌陸は白鳩を振り下ろした。

 

 

『■■■■■!?』

 

 

 辛うじてかわしたものの、片腕を切断された影は墨汁めいた影を噴出し、後退った。

 

 

「■■■■!」

 

 

 後ずさりながらも影は夥しい数の〝蛇〟を解き放ったが、出がかりを灰色の光が撫で、その全てを根こそぎに刈り取った。

 

 

「残念、ゲームオーバーだ!」

 

 

 勇者はにんまりと笑うと、影が次の手を繰り出すよりも早く聖剣でその首を刎ねた。

 

 

『──────』

 

 

 首を失った影は震え、膝を付き、うつ伏せで倒れ、程なくして地面に染み込むように消えた。

 

 

 そして消失した地点には入れ替わるように扉が現れ、先程と同様にひとりでに開いた。

 

 

「あ、終わった? じゃあ行くぜ!」

「おいおい……」

 

 

 いつの間にか合流していた光の神がしれっと言い、勝手知ったるとばかりにひょいひょいと扉を潜り抜けていった。軌陸が苦言を呈すが、光の神は柳に風で受け流した。

 

 

「行くか?」

「行きましょう」

 

 

 話にもならんとばかりに首を振った績に、千歳は舌打ちを一つ。暗夜はため息を吐き、代表して先へと入ってゆく。後から績たちが続いた。

 

 

 扉を潜り抜ければ、今度は色彩が抜けた廃墟に彼らは立っていた。廃墟は先ほどと違い黒い炎が燃えており、これから来る者が誰か、すぐに予想はついた。

 

 

 同時に来るは、凄まじい破壊の嵐。爆音が轟き、モノクロの廃墟を吹き飛ばして、それは現れた。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!』

 

 

 耳を聾する咆哮を〝狐〟は放ったが、やはりその声はどこか遠く、くぐもって聞こえた。

 

 

「遊んでいる暇は!」

「無い!」

『■■■■■■■■■■■!!!』

 

 

 先手必勝とばかりに〝狐〟は黒い束を口から吐いたが、千歳と績は分り切っていた不意打ちにたやすく反応し、光と闇を同時に放っていた。

 

 

 放たれた光と闇の束は二重螺旋めいて互いに巻き付き、やがては境界線が無くなり、闇でも光でもなくなった灰色の閃光となって〝狐〟の吐き出した黒を貫き、勢いをまるで落とす事無く〝狐〟すらもを撃ち抜いた。

 

 

『■──────』

 

 

 〝狐〟の体が爆散し、中から現れたのは黒い球体だ。

 

 

「お前のターンはねぇ!」

 

 

 暗夜はすかさず聖剣から混沌光波を飛ばし、黒玉に叩き込んだ。混沌が爆ぜ、黒い球を叩き割り、その中身を強引に露出させた。

 

 

『■■■■■■!」』

 

 

 人と獣を組み合わせたような歪なヒトガタは、何か不明瞭な言葉を発し、慌てて上空へと逃げてゆく。

 

 

 しかし、その胸に白い刃が突き立った。

 

 

「何度も言わせるな。お前に行動権はない」

『──────』

 

 

 伸縮で白鳩の刀身を伸ばした軌陸が、冷たく言い捨てた。そして〝狐〟が何かするよりも早く白鳩を振り抜き、真っ二つに切り裂いた。

 

 

『──────』

 

 

 〝狐〟は断末魔すら上げる間もなく、自らの体を膨れ上がらせ、盛大に爆発四散した。黒い爆炎がさながら花火の如く弾け、モノクロの空に一輪の花を咲かせた。

 

 

「オーよう爆ぜるわ。タマヤ!」

「「……」」

 

 

 のんきに見上げる光の神に、最早彼らに言葉は無い。ただ呆れた視線を投げて寄越すのみだ。

 

 

「あ? 何ボサッとしてるんだ? 行くぞ新兵(ルーキー)たち! 世界中がワシらの吉報を待っておるぞ!」

「「~~~~~~……」」

 

 

 暗夜たちは天を仰いだ。光の神は喚きながら先へと入っていった。うんざりと首を振りながら、彼らも後に続いた。

 

 

 次の世界はまたもや既視感のあるどこかの広場だった。すぐ横には見上げる様な雄々しきビルディングが建つ。だが、ビルの名前が書かれているはずの看板は、黒く塗りつぶされて読む事が出来なかった。千歳は鼻を鳴らした。

 

 

 そして広場の真ん中に、先程に比べればあまりにもちっぽけな影が、ポツンと寂し気に佇んでいた。

 

 

 暗夜たちは身構えたが、戦闘になる事は無かった。

 

 

 というのも。

 

 

「ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛も゛う゛影゛は゛飽゛き゛た゛ぁ゛!!!」

『──────』

 

 

 突如としてキレた光の神が、自らを中心に光の爆発を発生させ、影、というか空間そのものを爆破したからだった。

 

 

 尋常ならざる光があらゆるものを染め上げ、モノクロの空間を、記憶の残滓を、魂の名残を消し飛ばし、空間を侵食し、光に変えた。

 

 

「「──────」」

 

 

 暗夜は即座に混沌でメンバー全員を覆うと自らも腕をクロスしてガードに努めた。誰かが悲鳴を上げたような気がしたが、膨大な光は一切合切を飲み込み、遂には視界が完全に白く染まった。

 

 

 そして気が付けば、彼らは最初の扉の前に立っていた。扉は無残にも焼け焦げ、原形すら留めてはいない。

 

 

「おい見ろよ」

 

 

 と、傍らに立っていた光の神が馴れ馴れしく暗夜の肩を叩き、指をさして注意を促した。そこには黒い扉があった。

 

 

 潜り抜けてきた扉に比べれば、あまりにも小さく簡素な扉だった。しかし、そこから放たれる邪悪は、先程と比較にもならない。

 

 

 どうやら当たりを引き当てたようだ。

 

 

 若き勇者たちはつばを飲んだ。深淵への扉は軋み音を上げてゆっくりと開いた。覗き込むのは、一寸先すらも見通せない闇。

 

 

「……行くか?」

 

 

 勇者はゆっくりと頷いた。

 

 

「行くか」

 

 

 光の神はゆっくりと歩を進めた。彼らも後に続いた。

 

 

 最後尾を歩く千歳が扉を潜り抜けた後、扉はひとりでに締まり、そして消えた。

 

 

 静寂が廊下を支配した。残っているのは数多の死の気配と、むせ返る様な邪悪な悪意だけだった。

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