影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『final chapter 異常空間』⑦

「……」

 

 

 視界の先で、黒い巨塔が変異して行く様を、イミテーションはじっと見つめていた。

 

 

「兄さん……兄さん……?」

 

 

 後方では頽れた兄の亡骸の傍らに膝を付き、弟が無意味に呼びかけ続けていた。

 

 

((道筋は違うが、結局使い物にならなくなる所は同じか……これが運命という奴なのか、それとも偶々か……ふん))

 

 

 首を巡らせて背後を見ながら、イミテーションは鼻を鳴らした。

 

 

((元よりこれ以降の戦力にあいつは加算しちゃいない。どの道ここからは怪獣大決戦だ。俺やあいつが参加したところで精々が()()()()にしかならない))

 

 

 イミテーションは視線を戻し、遂に変異を終えてこの地上に降臨した 〝闇の神〟が咆哮する様を見た。

 

 

「あぁ──────」

 

 

 〝闇の神〟を目にしたとき、イミテーションの胸に湧き上がった感情は、恐怖(フィアー) ではなかった。畏怖(フライト)でも無かった。ましてや怒り(ラース)ですらなかった。

 

 

 安らぎ(イース)

 

 

 世界を覆う暗黒も、地を覆い尽くそうとする瘴気も、悍ましき邪神ですらも、彼の心にはいささかの影響も与えることは無かった。

 

 

((無意味な時間だった))

 

 

 〝闇の神〟に背を向け、イミテーションは歩き始めた。

 

 

((無意味な事を積み重ねた))

 

 

「兄さん……兄さん……」

 

 

 終わりに縋りつき、なおも求めようと繰り返する愚か者の横を何の感慨も無く通り過ぎ、迷い無き足取りで、歩く。

 

 

((艱難辛苦は望むところではあったが、それにしたって、()()()()()()()))

 

 

 健太郎は苦笑いを浮かべた。背後では邪悪が猛り狂い、沢山の命が露の如く消え去り、嘆きと怨嗟の声が途絶えることが無い。

 

 

((ま、人生とは山あり谷あり、落とし穴ありだ。どん底まで落ちている身からすれば、今更落ちたところで、穴倉には変わりはない))

 

 

 教団の秘密の通路の入り口からやや逸れたところに、それはあった。イミテーションは覆いを掴み、剥がし取った。

 

 

((だったら今更落ちたところで、だから何だというのか))

 

 

 現れたのは赤茶けたコンテナだった。イミテーションはコンテナに腕を突き入れ、濡れ紙の如くごく自然にコンテナの壁を剥がし取り、その中身を見上げた。

 

 

((随分下まで転がり落ちたが、お生憎様。俺は上に上がるための秘密のエレベーターの存在を知っているのさ))

 

 

 全高5メートル。重量2.5トン。各種武装は狂った大艦巨砲主義者の妄想の如し。

 

 

 対巨大異能存在撃滅最終決戦兵器『スクラップ・タイタン』

 

 

 黒塗りの一切の無駄が配された鋼鉄の外骨格が、使われるその時をただ静かに待っていた。

 

 

((千歳の時のような綱渡りじゃない。タイミングは一瞬しかないが、本当に離脱できるという絶対な確信))

 

 

 近づくと、鋼鉄の巨兵は花開くようにその胸を開け、主の事を迎え入れた。イミテーションは乗り込み、手足が、下半身が鋼鉄に包まれてゆく感触を感じながら、一時感傷に耽った。

 

 

((あまりにもふざけた、死のゲーム))

 

 

 ジェネレーターに火が吹き込まれ、大型の肉食獣の如く唸りを上げる。ロケットの半分をそのまま取り付けたかのような武骨なブースターから甲高い音が鳴り、どんどん高まってゆく。

 

 

((あまりにもふざけた、犬飼の真似事))

 

 

 唯一剥き出しの上半身で吹き荒れる風を肌で受け、健太郎は眼前を睨む。邪神の前に立ち昇る柱を。その中にいる4つの小さくも力強い命の脈動を。強く強く睨む。

 

 

((これで、本当に終われる))

 

 

 安堵が、胸に満ちる。

 

 

((とはいえ、終わりを前にして気を緩めるとどうなるかはあの糞たれ共が身をもって教えてくれた))

 

 

 もう一度視線を兄弟へと向ける。彼らは変わらずそこにあった。きっと、世界が終わったとしても、彼らはあそこから動くとこは無いだろう。

 

 

((命を賭して俺にその事を伝えてくれたんだ。応えてやらなきゃ男じゃねぇな))

 

 

 健太郎はせせら笑った。

 

 

((ありがとよ。精々そこで指をくわえて見ていやがれ。俺は一足先にこのくだらないゲームから降ろさせてもらう。あの糞にありったけの糞を上塗りしてな))

 

 

 やがて、ブースターから火柱の如く炎が噴き出した。コンテナを溶かし飛ばしながら、2.5トンの翼を羽ばたかせて、悪魔は往く。地獄から抜け出す為に。地獄へとまっしぐらに。地獄の深淵へ。奈落の底へ。

 

 

 〝くだらないもの〟が光の柱に向かって何事か喚き散らしている。

 

 

 聞こえない。

 

 

 主砲を展開する。ジェネレーターの出力を瞬間的に跳ね上げ、加速と強弱で強引にエネルギー充填率を200%まで上げると、イミテーションは無防備顔面に向けて主砲を発射した。

 

 

 安堵。

 

 

 力が弾け、〝くだらないもの〟がたたらを踏んだ。

 

 

「神聖」

 

 

 無意識の内に、言葉が口を突いて出た。

 

 

『~~~~~~!!!』

 

 

 怒りで唸りながら、〝くだらないもの〟がこっちへと顔を向ける。怒りに燃える数多の黒紫の瞳が一点に集中する。力が空間を支配し、軋ませ、恐れ戦くように撓んだ。

 

 

 安堵が、胸に満ちる。

 

 

「下らないですね」

『貴様ぁあああああああああ!!!』

 

 

 尋常ならざる力の圧に、遂に空間に罅が入り始めた。今までの敵の比ではない。人の身で相対するような存在ではない。しかし彼は一人ではない。

 

 

 脈動する命。にわかに強くなる光。それは邪神の放つ闇ですら、染めることはできない。

 

 

 イミテーションに恐れはない。いくら力ある存在であろうとも、所詮は囲んで叩けば弱るような存在であることは、遥かな過去が証明している。

 

 

 自分はただ、大いなる存在達の補佐をすればよい。それですべての事は済む。

 

 

 何も恐れることはない。何も。何一つとして。

 

 

「さて、終わりの終わりを終わらせて、さっさと終わりにしましょうか」

 

 

 押し寄せる憤怒を微風の如く受け流し、悪魔は朗らかに微笑んだ。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 変異にはまだ時間がかかる。時間にすれば、1分といった所か。

 

 

「ならばそれまでの間は持たせましょうか」

『虫めが!』

 

 

 〝闇の神〟が憤怒と共に、顔や翼にある邪眼より闇をばら撒いた。狂った密度の闇は嵐とか雨とか、そういう次元ではなかった。

 

 

 さながら、壁。

 

 

 隙間無き超高密度射撃空間に、イミテーションはためらわずに突っ込んだ。

 

 

((さぁ~てどうするかね))

 

 

 瞬間的な探知で弱所を探り当て、バルカンやミサイルの放射で『壁』に穴を空けると、小刻みにブースターを吹かして速度を調整し、飛来する闇を叩き落しながら思案する。

 

 

『たかだか蟻風情が我ら聖戦に水を刺すなど! なんという傲慢!』

 

 

 〝闇の神〟の戯言を聞き流し、振るわれる(かいな)を上昇してかわし、脚部ミサイルポッドや肩部装甲搭載30ミリ2連装バルカン砲をばら撒いて『壁』を潜り抜け、付け入る隙を伺い続ける。

 

 

『この糞虫がぁアアアアアアアア!!!』

 

 

 と、〝闇の神〟がおもむろに大口を開け、口腔内から尋常ならざる闇の束を吐き出した。

 

 

「ッ!」

 

 

 イミテーションは目を見開き、発射の兆候が見えた瞬間にエネルギーを瞬間圧縮して解放。闇が発射された時には、すでにイミテーションは間合いの外に逃れていた。

 

 

 外れた闇の束は遥か後方の地面に着弾し、数キロに及ぶ広範囲の大地を薙ぎ払い、汚染した。

 

 

『消えたか羽虫!』

 

 

 付け入る隙は向こうから作ってくれた。ならば乗ってやらねば可哀そうだ。イミテーションは再びエネルギーを瞬間圧縮し、開放して超スピードで 『壁』を振り切り、腕部レーザーを放った。

 

 

 レーザーは埋め尽くされた空間を縫うように飛び、吸い込まれる様に〝闇の神〟の頭部眼球の一つに突き刺さった。突き刺さる瞬間に、黒でも白でも無い光が閃き、何物をも遮断する闇の幕を無視して爆ぜた。

 

 

『ぐわわっ!?』

 

 

 〝闇の神〟は突如生じた痛みに驚愕とも悲鳴ともとれぬ大声を上げた。

 

 

『ザザザ──────あ、繋がった。ボス! こちらプードル! 状況を!』

 

 

 ここで管制室と通信が繋がり、殆ど泣き叫ぶようなみみ子の声が聞こえた。

 

 

「はい、状況ですか?」

 

 

 イミテーションは痛みから脱し、先ほど以上に怒り狂った〝闇の神〟の凝視を見つめ返し、肩をすくめて、言った。

 

 

「こちらイミテーションです。闇の神が目の前にいます」

『何を言ってんのあんた?』

 

 

 萌からの呆れた声に、イミテーションは頭を振るった。

 

 

「今この状況に戸惑っているのは、私なんですけどね」

『馬鹿言ってる場合じゃないですよ! あれは人間が挑んでいい存在じゃない! しかも単騎でだなんて!ここは光の神様の変異を待ってからでも!』

「一人ではありませんよ?」

 

 

 そう言って闇の神から視線を逸らし、迫り来る『壁』の一点を見つめた。そこが突如として爆ぜ、黒煙を纏って何かが勢いよく突撃してきた。

 

 

「「ボス~~~~~!!!」」

「ね?」

 

 

 壊れかけた鉄塊を駆り、3匹の猟犬が嬉々として突っ込んできた。

 

 

『『~~~~~~……』』

 

 

 通信からはため息。イミテーションは薄く笑った。

 

 

『羽虫共がぞろぞろと!!!』

 

 

 吠えるように叫び、〝闇の神〟はばら撒く闇の密度をさらに高めた。そして両腕を高々と掲げ、尋常ならざるサイズの闇玉を作り出したではないか。

 

 

「タイミングを合わせなさい」

 

 

 飛び交う闇を叩き落し、縦横に動きながら、横に並んだ犬たちにイミテーションは呼びかけた。

 

 

「「はい!」」

 

 

 威勢のいい返事が聞こえ、主砲を展開する音が聞こえた。同様にイミテーションも主砲を展開し、迎撃しながらチャージしてゆく。

 

 

『充填率60……70……80……90……』

 

 

 プードルがチャージ率を知らせてくるのを聞きながら、イミテーションは〝闇の神〟を見据える。掲げる闇の玉はとうとう〝闇の神〟の全長すらも超え、あれが放たれればこの地どころか世界の10分の1ほどが汚染されることとなるだろう。

 

 

『100! 今よ!』

()ぇ!」

「「主砲発射!」」

 

 

 猟犬たちは声をそろえて引き金を引き、イミテーションもまた主砲の引き金を引いた。

 

 

 放たれた青白い光の束は『壁』を物ともせずに突破し、今まさに解放されんとした闇玉のど真ん中に着弾した。

 

 

 そして着弾の瞬間。ほんの0.00000000001秒の刹那に、光の束の先端に黒でも白でも無い光が灯った。

 

 

『なにっ』

 

 

 〝闇の神〟が目を見張ったと同時に、解放の瞬間、最も弱く脆くなったタイミングで打ち抜かれた闇玉は一瞬凄まじく膨張して膨れ上がり、しかし瞬時に収縮し、消えた。

 

 

『馬鹿なッ!?』

「撃て」

 

 

 驚愕する〝闇の神〟の口腔内に、主の命令の元で放たれた無慈悲なる閃光が着弾した。

 

 

『──────』

 

 

 口から煙を吐きながら、闇の神は震えた。それは怒りによる震えだった。周囲の空気が急速に冷えてゆく。

 

 

((さて第1フェーズ終了か。小手調べは終わった。気を引き締めんと終わる前に()()()()()()()))

『ゴァアアアアアアア!!!』

 

 

 大地から闇が吹き上がり、数多の手となって向かい来るのを見据えながら、悪魔は目を細めた。

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