影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『final chapter 異常空間』⑧

((あと30秒……まったく、気が遠くなるぜ))

『敵、周囲にフィールドを展開! 気をつけなさい! 〝手〟が来るわよ!』

『えっと、か、数は20……40……と、とにかくたくさん!』

『ゴァアアアアアアア!!!』

 

 

 下方向より伸び来る〝手〟をかわし、押し寄せる『壁』にバルカンとミサイルで穴を空けて潜り抜け、腕の大質量をエネルギーを瞬間圧縮開放の超スピードで強引に範囲外に抜ける。

 

 

 けたたましく鳴り響く警告音がうるさい。オープン回線から聞こえる呼びかけの声が喧しくてしょうがない。

 

 

 だが文句を言っている暇すら惜しい。

 

 

 倒れるように体を横に傾ける。一瞬後に〝手〟が殺到し、残像を滅茶苦茶にかき回した。

 

 

 息つく間もなくふざけた数の闇に覆われた。腰部装甲搭載のレールガンをフルオートで撃ち放って迎撃する。電磁加速された20ミリ弾丸が闇を次々と貫き、爆散。その衝撃で付近の闇が次々と誘爆し、天の川めいた爆裂の花が空中に花開いた。

 

 

 しかし、いかな連射力、貫通力を持っていたとしても、360度全てを包囲する『壁』否、『空間』そのものを撃ち落とすことなど不可能。上下左右前後斜め。空間そのものが敵意を持って迫り来るが如く、全ての方向から闇が迫る。

 

 

 だが穴は開いた。埋め尽くされるよりも先に穴に向けて飛び込む。一瞬遅れて空間は黒に閉ざされ、炸裂。衝撃に抗わずに身を任せ、更に距離を取る。

 

 

 闇は惑わされたように空中を蹌踉めき、されどすぐに標的を捉え直し、幾千本の槍衾の如く隙間なき闇は再び標的目がけて突っ込んでゆく。

 

 

 撃ち落とし、駆け、潜り抜け、振り下ろされる腕をよけ、埋め尽くす闇の束を霞の如くすり抜け、刹那の隙をついて眼球を穿ち抜く。

 

 

 悲鳴が轟く。痛みではない。憤怒の悲鳴だ。

 

 

 〝闇の神〟が覆う手を退ければ、破壊した眼球はすでに再生しており、怒りを新たに黒紫に燃え、病んだ光を放って無礼者を叩き落しに躍起になった。

 

 

「ちっ」

 

 

 尋常ならざる速度の黒い閃光を首をかしげてかわす。

 

 

 死が頬を掠める。視線の先で、死神が大鎌を構えてにやにやと嫌らしい笑みを浮かべて手ぐすね引いて待っている。

 

 

「う わ あ あ あ あ あ ! 右から来たぞ!」

「いや下だよ!」

「全部でしょ! もう、気が散るから黙っててよ!」

『〝手〟接近! 上から狙われてるわよ!』

「「ひえ~っ!」」

 

 

 目の端でぎゃあぎゃあと喚きながらかわし、弾をばら撒いて七転八倒する犬っころたちを鼻で笑い、イミテーションは光の柱へと目を向ける。

 

 

((あと10秒……!))

 

 

『カアッ!』

 

 

 とここで、〝闇の神〟は闇をばら撒くのを止めた。

 

 

「あ? なんだ?」

「急に全部消えちゃった!」

「こりゃあ……いかん」

 

 

 唐突に周囲を覆っていた闇が無くなり、困惑する犬たちを目尻に、イミテーションは〝闇の神〟を見た。その姿は忽然と消えていた。

 

 

 同時に、イミテーションの頭上に影が差した。

 

 

「ふんっ」

 

 

 鼻を鳴らし、イミテーションはブースターのエネルギーを瞬間圧縮し、瞬間解放。尋常ならざる速度で投げかけられる影を振り切った。遅れて大質量が突き立ち、大地を揺らした。

 

 

『猪口才!』

 

 

 〝闇の神〟は腕を振るい、大地より吹き上がる闇を操作し、〝手〟をイミテーションただ一人に向けて解き放った。

 

 

『三人とも、ボスを援護して! これ全部ボスに向けられてる!』

「分かった!」

「くそ、リリー!」

「全速全身!」

 

 

 狂ったように殺到する〝手〟と〝闇の神〟自身の手による猛攻をしのぐイミテーションを援護すべく、猟犬たちは自らの意思を持って嵐の只中へと突入した。

 

 

『おのれちょこまかと羽虫風情が!』

 

 

 〝闇の神〟は心底苛立っていた。潰れず、目の前をぶんぶん飛び回り、隙あらば痛みを与えてくるのもそうだが、何よりあの羽虫が垂れ流す〝音〟が、あまりにも耳障りであった。

 

 

 この羽虫。イミテーションという小さな個体は、今まで聞いてきたどんな〝音〟よりも大きく、また耳障りであった。

 

 

((早く潰さなければ!))

 

 

 〝闇の神〟は焦っていた。

 

 

((何故私はこんなものを放置していた? 気が付かなかった? 愚かの極み! 早く、早く、早く、早く潰さねば!))

 

 

 取り返しのつかない事が起きてしまう前に、この羽虫を潰さねばならない。

 

 

 イミテーションを執拗に追い回し、腕を振るい〝手〟を向かわせて潰そうと躍起になる〝闇の神〟の脳裏に、遥かな過去の情景が過る。

 

 

 火星。悪くない土地だった。忌々しい■■■■■までやって来たが、眷属にも恵まれ、勢力もどんどん広げられた。

 

 

 心地の良い戦争。わが青春こそはあの地に眠る。

 

 

 楽しかった。本当に。

 

 

 延々と続く戦争。終わりの見えない争い。

 

 

 その最中に現れた金の衣の異星からの来訪者。強い力を持つ者たちであった。しかも法則が違う。 こちらの法則では手が出せぬ。実際そのせいで相当に勢力を削られた。奴もまた然り。

 

 

 おかげで踊りの中心でお眠りになられていた〝あの方〟の目まで覚める始末。だがそれだけならばよかった。

 

 

 恐らく〝あの方〟の流す〝音〟が、〝アレ〟の注意を引いてしまったのだろう。

 

 

 視線。悪寒。そして、すべてはゼロへ。

 

 

 漂白。粛清。我らを除いてすべては消えた。かつては栄えていた地は、クレーターだけを残して痕跡すらも残ってはいない。無だ。 〝虚無〟だけが、ただ残った。

 

 

 ぶつけ様のない苛立ちを、互いの憎悪に溶け込ませてより苛烈に争い合い、気が付けばこの星へ。

 

 

 この星に降り立った時、〝闇の神〟は愕然とした。この星はあまりにも〝音〟に溢れていた。

 

 

 その時〝闇の神〟は強烈な使命感に襲われた。

 

 

 この〝音〟を駆逐し切らなければならない。

 

 

 〝闇の神〟は急き立てられるように行動を開始した。こうして始まったのが永い永い戦いと憎しみの歴史。

 

 

 人間でいう所の悪しき感情を糧にする〝闇の神〟が、実のところ尤も恐怖や怖れといった感情に囚われていたのだ。

 

 

((不愉快不愉快! その〝音〟を止めろ! 今すぐ消えろ! この害虫がぁ!!!))

 

 

 苛立ちは最高峰を更新し続けている。悪魔の垂れ流す煩わしい〝音〟。一向に潰れずにちょこまかと邪魔をする3匹の羽虫。

 

 

 そして。

 

 

 ぼん、と音を立ててイミテーションのすぐ近くの〝手〟が爆ぜた。それは彼が意図してやった事ではない。ましては猟犬がやった事でもない。

 

 

『間に合ったな……』

 

 

 管制室にいる誰かからの声。

 

 

 それが引き金となって、イミテーションの周囲はたちまち砲火に包まれた。

 

 

『ぬっ!?』

 

 

 黒一色の世界に突如として生じた極彩色の花びらに、〝闇の神〟は困惑して辺りを見回して出所を探った。

 

 

 やがて〝闇の神〟は見つけた。それは〝闇の神〟にとって、完全に眼中に無かった存在達であった。

 

 

「クソァアアアア!!! 何が〝闇の神〟じゃぁああああ!!!」

「クソ闇のクソ神がなんぼのもんじゃい!」

「ファハハ! 退け雑魚共! 俺が殺してやる!」

「さっきまで寝てたやつが良く言うぜ」

「ナンオラー!」

「テメッコラ―!」

「が、頑張りますから捨てないでください~!」

 

 

 小さな者たちは喚き散らしながら各々の意思で好き勝手に動き、手の中にある得物を空中に向け、やたら滅多らにぶっ放しまくった。

 

 

 彼らはイミテーションや保健所の猟犬たちが〝闇の神〟の注意を引いている間に、管制室からの呼びかけに応じ、着々と準備を進めていたのだ。

 

 

 怪我人を運び、戦意を喪失していた者を励まし、敵すらも囲い込み、この未曽有の災害を前に一致団結し、機を窺い続けていたのだ。

 

 

 そしてその時は来た。準備は整い、上位者気取りで君臨する〝何某か〟に一矢報いるために、人類は反撃の砲火をぶちかました。

 

 

『な、何だ? この虫けら共は!? 何処から湧いた!?』

 

 

 〝闇の神〟からすれば全く理解できない事だろう。基本的にこの怪物は人間というものに興味関心など無い。

 

 

 所詮は力を取り戻す為に一時かき集めた十把一絡げの有象無象にすぎず、時が来れば造作もなく捨て去るだけの取るに足らぬものでしかなかった。

 

 

 力を取り戻してしまえば視点は遥か上であり、ただでさえ意識していなかった人間の事など、この時点では最早目に映る事は無くなっていた。周囲を薙ぎ払った所で、人を殺したという意識はない。

 

 

 あるのは邪魔なものを退かしたという事だけ。今の状態の〝闇の神〟にとって人間は人間でいう所の微生物程度の存在に成り下がっている。

 

 

 だから〝闇の神〟は分からない。

 

 

 〝一体いつからこんなにたくさんの虫けらが集まっていたのだろうか? 〟

 

 

 〝闇の神〟は本気でそう思っていた。

 

 

 思うに、この時点で敗北する事は決まっていたのかもしれない。否、もっと遡れば、ある男の魂がこの世界に流れ着いた時点で、この結末は決まっていたのかもしれない。

 

 

 

『~~~~~~!!! なんだか知らんが邪魔をするな虫けら共が!』

 

 

 激昂した〝闇の神〟は大口を開けて闇の束を放ち、地を這う虫けらたちを根こそぎにしようと目論んだ。

 

 

「貴方の敗因を教えて差し上げましょう」

『ッ!?』

 

 

 轟々と唸る風や放火の音で、決して届くはずの無い小さな声。されどなぜかは分らないがその声は物理法則を超えて〝闇の神〟の耳に届いた。〝闇の神〟だけではない。この場のすべての者にその声は届いていた。鈴の音のような声が。奈落の底から響く誘いの声は。

 

 

人間(われわれ)を舐めた事ですよ」

『ぐわっ!?』

 

 

 反応する間もなく横っ面を蹴り飛ばされた。〝闇の神〟は尋常ならざる衝撃に、そして痛みに目を剥いた。

 

 

 眼下の人々に躍起になって対処する〝闇の神〟に隙を見出したイミテーションは、スクラップ・タイタンより躊躇いなく己を射出した。

 

 

 そして無防備顔面に向けて、混沌を纏った蹴りを叩き込んだのだ。

 

 

 彼が混沌により歪めた概念は2つ。1つは当然防御能力。そしてもう1つは大きさの概念である。イミテーションは闇の神のサイズをほんの0.00000000001秒の間だけ人間(じぶん)と同じサイズであると歪めた。

 

 

 これにより〝闇の神〟は同サイズの存在に思い切り蹴り飛ばされた事となり、その結果は300メートル越えの巨体が山なりに吹っ飛んで大地に叩きつけられるという、いっそ滑稽なほどの信じがたい光景である。

 

 

 〝闇の神〟が大地に叩きつけられ、凄まじい地響きが轟く。

 

 

『ギャッハハハハハハハハハハ!!!』

 

 

 それと同時に、光の柱から、哄笑が聞こえた。

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