影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

134 / 175
『final chapter 異常空間』⑨

『ギャッハハハハハハハハハハ!!!』

 

 

 光の柱を切り裂いて、狂った哄笑が辺りに響く。

 

 

 その声を耳にした途端、力無き人々は意識を白に染め、精神の力を根こそぎに奪い取られてその場に頽れた。

 

 

 世界中でその様な事は起こっていた。どこの国でも、どこの町にも、どこの村にも、森の遥か奥でも。弱き心の者は例外なく力を根こそぎに奪い取られ、たちまち喚起された防衛本能により意識は深い眠りへと落ちていった。

 

 

『ヒーッヒッヒッヒ!』

 

 

 哄笑は止まらない。暗黒に支配されていた空の半分が真っ白に染まり、直視する事すら困難な光が地に満ちた瘴気とぶつかり合い、激しく押し合いながら拮抗した。

 

 

 そして闇をさらに切り裂き、一筋の閃光が流れ星の如く降り落ち、光の柱へと吸収された。それを皮切りに1つ2つと振り落ち、遂には数えるのも億劫な数の光が集い、光の柱の糧となってゆく。

 

 

『は―っはっはっは! ご機嫌麗しう、愚かなる人民共!』

 

 

 光の柱はメキメキと軋み音を立てながら変異してゆき、呆然と見上げる数多の小さな者たちの観衆化の下、それはその姿を現した。

 

 

 巨大な、白い火球。あるいは生きた炎。 それが、〝光の神〟の真の姿であった。

 

 

 火球の中心にはいくつかの白い光の玉が密集して鎮座しており、まるで眼球めいてぎょろぎょろとあちこちを向き、やがて前方にそろい、さながら凝視するかのように〝闇の神〟へと向けられた。

 

 

 揺らめく白い炎は意思を持ったかのように蠢き、伸び、千切れ、その者の気質を表すかのように好き勝手に動き回った。

 

 

『■■■■■ァアアアア……!』

『ブフッーダッサ! あんなちっこい奴に尻もち突かされてやんの~!』

『キサマァ!!!』

 

 

 頭を振って立ち上がり、尋常ならざる闇と瘴気を解き放った〝闇の神〟は、〝光の神〟へ憎悪と憤怒の視線を叩きつけた。

 

 

『おうおう、久しぶりの再会にしちゃあ物騒だな!』

 

 

 しかし〝光の神〟は全くと言っていい程に取り合わず、〝取り合えず〟光と白い靄を解き放って闇と瘴気を相殺し、〝小さな者たち〟への影響を完全に消し去った。

 

 

『貴様、何を言って』

『ワシもお前と決着をつけてやりたいのはやまやまだがな、ま、ぶっちゃけお前に勝ち目無いじゃろ?』

『──────は?』

 

 

 呆けた声を出して固まる〝闇の神〟を前に、〝光の神〟は淡々と話しを続ける。

 

 

『ワシとお前だけなら昔みたいに拮抗しただろうがよ、残念ながらこの場にはお前の敵しかいないぜ?』

『……こんな羽虫に私を害する力など』

『たった今ぶっ飛ばされて尻もち突いてた奴の言う台詞じゃねぇな』

『……』

 

 

 〝闇の神〟は押し黙った。〝光の神〟は肩をすくめるように身を震わせた。

 

 

『お前はちょいと人間の事を無下に扱いすぎたな。その結果がこいつらだ』

 

 

 〝光の神〟は腕を生成し、ぬっと伸ばして小さな者たちへと指を向けた。それだけで何人かの者が発狂して気絶したり、血泡を吹いて倒れたりした。

 

 

『見ろっつって目を凝らしても豆粒みてぇなもんだが、こん中にはお前のためにあくせく働いていた奴までいるんだぜ? それが今じゃお前に対して牙を剥いてぶっ殺そうと躍起になっている』

『……知った事か。そんな〝雑音〟を垂れ流すモノなど』

『〝雑音〟ね』

 

 

 〝光の神〟は呆れた様にため息を吐いた。燃える呼気は空気中に解き放たれた瞬間に拡散し、前方から飛んできた瘴気の塊を爆発炎上させて相殺した。

 

 

『お前これを見てまーだンな事言ってんのか。〝アレ〟がそんなに〝怖い〟か?』

『〝怖い〟か、だと……?』

 

 

 〝闇の神〟はふるふると震え、そして叫んだ。

 

 

『当然だ! 貴様こそ忘れたのか!? 〝アレ〟は次元が違う! 〝金〟のような法則が違うだけではない! 〝アレ〟は! 〝アレ〟こそは我らの──────―』

『分かってる分かってる。皆まで言うな』

 

 

 どんどん熱がこもってゆく〝闇の神〟とは対照的に、〝光の神〟は何処までも冷静であった。

 

 

『お前が人間(こいつら)を信用せずに全部平らにしようとするのは、まあ間違ってるとは思わねぇ』

『ならば!』

『ワシはその上でこいつらの好きにさせようと思っただけさ。お前が停滞を望むのと同じようにな』

『…………正気か?』

 

 

 信じられない様な物を見る目で〝闇の神〟は〝光の神〟を凝視した。〝光の神〟は生やした腕で肩を竦めた。

 

 

『別によかろ。進みたきゃ進めば良い。んで全部が滅んだらそれまで。何か問題でもあるか? ん?』

『なっ……は?』

 

 

 〝闇の神〟は震える腕で指を指し、愕然とした。全てが滅ぼうがその先へ進もうがどうでもいい。宿敵から放たれたそれは、〝闇の神〟に大きな動揺を与えた。

 

 

『お、お前も消えるんだぞ!』

()()()?』

『──────』

 

 

 とうとう〝闇の神〟は絶句した。〝光の神〟はつまらなそうに鼻を鳴らした。

 

 

『女々しいやっちゃ。恐怖は克服するもんだぜ? 時間はあったんだからもう少しさァ~』

『お、お前、頭おかしいんじゃないか!?』

『はは……』

 

 

 指を突きつけて糾弾する〝闇の神〟に、〝光の神〟は虚無的に笑った。

 

 

『お前はほとんど眠ってたから知らねーだろうがな、いや、闇を取り込み続けたからこその悲嘆か? 今のお前、()()()()()()()()()?』

『は、はぁ!?』

 

 

 〝光の神〟に指摘され、〝闇の神〟は狼狽えた様に手を振り回した。

 

 

『ふざけるな! わ、私がこんな下等生物と同等だと!? 侮辱が過ぎるぞ!』

『で、話を戻すけどよ』

 

 

 〝光の神〟は取り合わずに続ける。

 

 

『永い、まあワシらにとっちゃ短い時間だが、そういう時の中でな、人間も随分やるようになった。そしてな、ここからが重要なんだが、その中で時々突出した個が現れるんだ。一番初めに力を与えた勇者と聖女と同じようなのがな』

『……』

 

 

 〝闇の神〟は口を閉ざした。脳裏にはこの徒に降り立った時の一番初めの記憶。同法の亡骸の只中に立ち、血に塗れ、虚ろの入り口の如く黒く見通せない瞳でこちらを見上げる一人の男の姿。

 

 

『何度も何度も代替わりを繰り返し、で、今。今年はヤバいぜ? あいつらを超える逸材がポコポコ現れやがった。まさに新生代(ニューエイジ)だ。分るか?』

『……』

 

 

 過る記憶。一羽の烏。二人ボッチの寂しい烏。もういない烏。

 

 

『こいつらなら賭けてもいいんじゃねえかなって。そう思ったのさ』

『──────やはり信じられん』

『だろうな』

 

 

 そう言って、〝光の神〟は笑った。〝闇の神〟は拳を握りこんだ。

 

 

『ま、言って聞かねぇのはずいぶん前から知っている。だからその身に刻み、そんで消えちまえよ■■■■■■■■■■!』

 

 

 〝光の神〟は大きく腕を広げ、中心にあった光の玉の内の4つを勢いよく射出した。

 

 

 

『抜かせ! ■■■■■! 消えるのは貴様らだ!』

 

 

 〝闇の神〟は3つの足を力強く踏みしめ、地響きを立てて走り出した。拳を固く握りこみ、射出された4つの光球に今まさに叩きつけんとした。

 

 

 しかし。

 

 

「老人の話というものはどうしてこう長くなるのでしょうか」

『ぐわっ!?』

 

 

 真後ろから生じた尋常ならざる衝撃に、〝闇の神〟は堪らず前につんのめった。その隙に4つの光球を内側から突き破り、白い炎を各所に纏った勇者一行が、各々の得物を振りかぶり、無防備胴体に向けて思い切り叩きつけた。

 

 

「「おぉおおおおおおおお!!!」」

『グォオ!?』

 

 

 体をくの字に折り曲げて地を滑る〝闇の神〟の背後で、イミテーションは再びスクラップ・タイタンから己を射出し、振りかぶった拳を叩きつけた。接触の瞬間、黒でも白でも無い炎が噴き出し、あらゆる概念を無視して〝闇の神〟の背中を抉った。

 

 

『グワーッ!?』

『ヘーイヘイヘイヘイヘイ!』

 

 

 今度は前方に向けて吹き飛んだ〝闇の神〟へ、〝光の神〟は自身のサイズすらも超える程に腕を膨らませ、向かい来る〝闇の神〟に向けて叩きつけた。

 

 

『クソぁ舐めるなぁ!!!』

 

 

 拳が叩きつけられる寸前に、〝光の神〟と同様に腕を膨らませた〝闇の神〟は拳を突き出した。

 

 

 山と山の激突の如き拳のぶつけ合い。尋常ならざる衝撃が吹き荒れ、天は震え、大地は悲鳴を上げるかのようにあちこちに亀裂を作った。

 

 

 それが合図となって、〝闇の神〟から雲霞の如き闇の玉や領域から〝手〟が射出され、〝光の神〟からは光の玉や燃える精霊が発射された。

 

 

「始まったぞぉ!」

「撃て撃て撃てぇ!」

「勇者を援護しろ!」

「保健所なんぞに良い所持ってかれてたまるか!」

 

 

 地を這う小さな者たちは〝光の神〟や勇者たちに闇を近寄らせないために砲撃を開始した。たちまち場は喧騒に包み込まれた。誰も彼もが押し寄せる重圧をはねのけるために雄たけびを上げ、さながら一つの声の如く轟き響き、〝闇の神〟にすらもその声はよく聞こえた。

 

 

「オラア何だか知らんが食らえ!」

『ぬぁああああオノレぇ!』

 

 

 勇者が叩きつけてくる混沌を嫌い、腕を振るって叩き潰しにかかる〝闇の神〟だが、腕部に膨大な光と闇の束が叩きつけられ、対消滅の衝撃で腕を跳ね上げられてしまった。それで〝闇の神〟は大きく体勢を崩した。

 

 

『ぬわっ!?』

『はっは―ッ!』

『グワーッ!?』

 

 

 その隙に接近してきた〝光の神〟は実に上機嫌に〝闇の神〟の横っ面を殴り飛ばした。

 

 

「今だやれやれ!」

「いきますよ!」

「言わずもがな!」

 

 

 倒れた〝闇の神〟に向けて勇者は聖剣から混沌光波を飛ばしまくり、聖女と女帝は光と闇を混ぜ合わせていくつもの混沌の玉を作り出し、〝闇の神〟に向けて射出した。

 

 

『くはぁああああ! 舐めるな羽虫が!』

 

 

 体中に爆ぜる混沌や光の玉に迎撃の闇を飛ばしながら、〝闇の神〟は大口を開けて闇の束を放とうとした。

 

 

「させるか!」

『ぬわっ!?』

 

 

 それを阻止したのは天使の刺突であった。天使は周囲を飛び回ってサポートに徹しており、凄まじい破壊の気配に一早く察した彼女は連続で刺突を放って頭部眼球を破壊しまくり、みごと砲撃を止めることに成功した。

 

 

「うわぁ、なんかスゲーことになってきたぞ!」

「撃て撃て撃ちまくれ!」

「いっくよぉ!」

『上上下下左右左右!』

『これもう私たちいる?』

『俺もいらねぇな。帰って良いか?』

『ダッハハハハハ!』

『軌陸! こっちは任せてください!』

「……」

 

 

 犬たちの声を聴き、下方の混沌空間を見下ろしながら、イミテーションは目を細めた。

 

 

((最終chapterはイベント戦だ。よほどレベル上げをサボっていなきゃ、〝光の神〟のバフで負けることはまずない))

 

 

 〝光の神〟が顕現した時点で勝負はついたも同然である。強化された暗夜たちの力は絶大であり、今の自分など最早賑やかし程度にしかならない。ここからはすべて消化試合である。

 

 

 全てはこの時のために準備をしてきた。戦力を集め、味方を鍛え上げ、敵を攪乱し、己を研磨し続けた。

 

 

 その結果が眼下の混沌。先ほどまで黒と白に二分されていた世界は、今や光が7割方を占めていた。この光景こそが、自分の行ってきたことの結果であろう。

 

 

 故に手を出す事など愚の骨頂。後は危ないと思った攻撃を適当に撃墜していれば、それで終わりだ。

 

 

((あとはタイミングだ。〝闇の神〟が撃破された瞬間。その一瞬こそが離脱できる最後のチャンスだ。出遅れんようにせんとなぁ……))

 

 

 飛んでくる闇や無差別に伸び来る〝手〟をブースターを吹かしてひょいひょいとかわし、主砲を常時展開したまま浮遊し、適当なタイミングで〝闇の神〟に向けて射出し、行動を妨害した。

 

 

『~~~~~~というか貴様!』

「うん?」

 

 

 何度目かの主砲を叩きつけた時、唐突に〝闇の神〟が振り向いた。

 

 

『お前が一番うざったい!』

「はあ……」

 

 

 怒りを向けられても、イミテーションは上の空であった。それでまた〝闇の神〟はいかったが、やはり上の空であった。

 

 

『この……!』

「おや、羽虫風情に随分とご立腹ですねぇ~。もう少し心に余裕を持ってはいかがですか?」

『──────』

 

 

 〝闇の神〟は、キレた。〝光の神〟は爆笑した。眷属や勇者たちは呆れた顔で悪魔を見た。

 

 

「こんな状況でもブレねぇなあいつ」

「それが彼の良さなのかもしれませんねぇ……」

「はぁ~……」

「下らんこと言っている場合か~!」

 

 

 全てを聞き流し、犬たちや支援射撃の撃墜を免れた闇や〝手〟をかわし、〝闇の神〟から伸ばされた手を急上昇してかわし、そのまま自身を上へと射出した。

 

 

『任せなさい!』

 

 

 残されたスクラップ・タイタンは萌により遠隔で操作され、勇者やイミテーションを援護すべく火器をありったけ解き放った。

 

 

 イミテーションは振り返らない。殺到する闇や〝手〟、それから光の玉を踏み台にし、高く、高く。宙を駆ける。

 

 

 高度はどんどん上がってゆく。雲を突き抜け、なおも駆け上げる。ついには空気が薄くなり、高さは1万メートルを超えた。

 

 

「いい加減飽きてきたよ」

 

 

 悪魔は右足を高々と掲げ、吐き捨てた。

 

 

「ふざけた命の賭け合いは、もううんざりだ」

 

 

 悪魔の眼光が赤熱した。その両目に、黒と白の炎がひときわ強い輝きを帯びて燃え上がった。掲げられた右足に、黒炎と白炎が二重螺旋めいて巻き付いた。

 

 

「こいつで終いだ!」

 

 

 重力に引かれ、体が自由落下を開始した。悪魔はそのまま縦に回転した。まるで地獄の車輪の如き白と黒の輪は、次第にどちらともなく交じり合い、やがれは黒でも白でもない車輪となって、摩擦熱で燃え上がりながら急降下した。

 

 

『うるさいうるさい! どいつもこいつも! その〝雑音〟を止めろ! 消えろ! すべて消えてしまえー!』

 

 

 丁度そのころ追い詰められた〝闇の神〟が、全てを巻き添えにしようと自身を中心に闇の大爆発を引き起こそうとしていた。

 

 

 そして〝光の神〟と勇者が阻止すべく手を伸ばしたものの、ぎりぎりで間に合わず、力が解き放たれようとした刹那。

 

 

 空の彼方から飛来した黒でも白でも無い光が、〝闇の神〟の脳天に鉄槌の如く突き刺さった。

 

 

『グッハアアアアアアアアアア!?』

 

 

 解き放たれる寸前で叩き込まれた混沌は、力が最も脆く弱くなった闇を侵食し、極たやすく消し去ってしまった。

 

 

「~~~~~~!!!」

 

 

 めきめきと軋む体を叱咤し、意識が飛ばぬように唇をかみしめ、悪魔は空中で姿勢制御しながら事の成り行きを見守る。

 

 

 一瞬だけ意識が白く吹き飛び、視界が元に戻れば、目の前には聖剣に膨大な混沌を宿した勇者と、同じくらい膨大な光を宿した聖女が、光を足場に堂々と前に立っていた。

 

 

「これで」

「終わりだ!」

『ア──────』

 

 

 解き放たれた混沌と光は尋常ならざる速さで〝闇の神〟に到達し、〝闇の神〟が何か手を打つよりも早く顔面に突き刺さった。

 

 

『ガァアアアアアアアア!!!』

 

 

 凄まじい断末魔が轟く。悪魔は眉根を顰めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。