影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『final chapter 異常空間』⑩

『ガァアアアアアアアア!!!』

 

 

 顔面を撃ち抜かれた〝闇の神〟は絶叫を上げた。声は空間を波打たたせ、衝撃波となって戦場を撫で、力無き者たちを吹き飛ばし、あるいは耐えた者にすらも汚染を残した。

 

 

 やがては長い絶叫も消え、残された体はがっくりと膝を付き、地響きを立てて力なく倒れふるふると震えたかと思えば、程なくして爆発四散した。

 

 

 尋常ならざる瘴気と闇が放たれたが、拮抗する力が無くなった途端に〝光の神〟の力は瞬く間に領域を広げ、その〝ほとんど〟を消し去ってしまった。

 

 

「「ワォオオオオオオオオオ!!!」」

 

 

 〝闇の神〟が爆散し、最後の抵抗とばかりに放たれた闇も〝光の神〟が滅ぼしたことを見届けた者たちは、自らの勝利を確信し、声高らかに吠えた。

 

 

「いよっしゃあああああ!!!」

「やりましたね!」

 

 

 勇者と聖女は互いに抱き合って勝利に酔いしれ、そして飛来してきた天使にまとめて抱擁され、もみくちゃになりながら落下していった。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「勝った! 勝った!」

「〝闇の神〟が死んだ!」

「教団もモウオワリダー!」

「アタラシイヨノハジマリダー!」

 

 

 管制室もやんややんやの大喝采である。ある者は全身で喜びを表し、ある者は隣の者と抱き合い、号泣したりしていた。

 

 

「お、終わった……」

 

 

 みみ子は椅子に深く持たれ、完全に脱力していた。

 

 

「はぁー……まったく、人騒がせな連中だったわ」

 

 

 萌も同様に脱力し、億劫そうに額の汗をぬぐった。

 

 

「後で覚えておきなさいよ。この分の埋め合わせは、絶対に支払わせるわ」

「……はは、あまり無茶を言ってやるな? あいつも十分に苦しんだんだからな」

 

 

 拳を握りこんで鼻息荒く語る萌に、みみ蔵は力無く笑いかけ、かすれ声で窘めた。

 

 

「爺さん……」

「何も言ってくれるな」

 

 

 そう言って、みみ蔵は指を指した。その先を目で追うと、早くも祝杯を挙げて宴会を開いていた管制室の面々である

 

 

「水を差したかねぇんだ」

「……」

 

 

 老人は萌を見た。萌は老人から顔を逸らしてみみ子を見た。それから顔を戻し、息を吐いた。

 

 

「頼むぜ」

 

 

 萌は頭を振るい、それから立ち上がって毛布を手に取り、みみ子にかけてやった。みみ蔵は笑い、咳き込み、項垂れた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

「よっしゃあ!」

「ざまぁみやがれ!」

「終わったぁ~……」

『終わった? なら俺は帰るぜ』

『ようやく肩の荷が下りました』

 

 

 犬の声を聞き流し、眼下で騒ぎ立てる残りわずかとなった混成部隊の上で浮遊する光の玉を足場に空中に立っていたイミテーションは〝闇の神〟の体があった地点を睨んだまま無言であった。

 

 

 その体は未だ臨戦態勢を維持しており、眉間に酔っていた皺はどんどん深くなってゆく。

 

 

『〝闇の神〟は滅びた!』

 

 

 通信から聞こえてきた、顔も知らない誰かからの声。

 

 

((──────否))

((まだ滅びてねぇ!))

 

 

 誰もが確信する中、異を唱えたのは一つの結末を知っているイミテーションと、同胞の気配が消えていない事を察した〝光の神〟の2人だった。

 

 

((本当に奴が滅びたなら死んだ瞬間にワームホールが出来るはずだ。それが拡散するのを暗夜が混沌で阻止し、それでようやく物語はお終い。悪い奴が死んでハッピーエンドの大団円だ))

 

 

 それが無いという事は、即ち──────。

 

 

 イミテーションは虚空を睨んだ。その視線の先に、〝光の神〟が広げた光の領域にポツンと生じた靄のような物が漂っていた。

 

 

 先程の最後っ屁の残り香。はたから見ればそのようにしか見えないだろう。放っておいても空間を支配した光にそのうちにかき消されるだけの完全な残り滓。

 

 

 しかしイミテーションは見た。黒い靄がひとりでに蠢き、収縮し、人魂めいて朧な塊となってゆく様を。

 

 

『お、おぉ……』

 

 

 〝闇の神〟は残骸となった己を見出し、きょろきょろと辺りを見回し、やがてある一点を凝視し、〝光の神〟が飛ばした精霊や光球が届くよりも先に、まるで暗黒の矢の如くまっしぐらに飛び去って行った。

 

 

((野郎どこへ行くつもりだ!?))

((ちっ))

 

 

 困惑する〝光の神〟と違い、〝闇の神〟が向かった方角から敵が何をするのか察しのついたイミテーションは、弾かれたように駈け出していた。

 

 

『オォ……オォ……烏……』

 

 

 目的の場所にはすぐについた。眼下には寵愛をくれてやった烏の亡骸と、その弟の白鳩が、相も変わらずそこにいた。

 

 

「兄さん……兄さん……」

 

 

 アベルは兄の亡骸を膝に乗せ、飽きもせずに凝視し、壊れた機械のように呼びかけていた。

 

 

 彼はずっと語り掛けていた。〝闇の神〟の出現も、主たる〝光の神〟の顕現も、邪神滅びも。何もかもが眼中に無かった。

 

 

 彼にとって兄は世界の全てだった。ずっと昔から。例え敵に分かたれた今でも。それは変わらない。変わらなかった。

 

 

 村が消え去った今、あの時の幸せの知るのは自分と兄の二人だけ。

 

 

 ならばこそ、あの幸せを再び享受するには2人が揃わなければならない。だが揃うためには会わねばならない。会うためには戦わなければならない。何せ自分と兄は敵同士なのだから。

 

 

 〝闇の神〟にとって、そんな事は路傍の石ころよりもどうでも良い事だった。邪神は淡々と事を成した。地を這う虫けらたちの事情の悉くを無視して、己の都合の良いように振る舞った。

 

 

 〝闇の神〟は自らの体を完全に瘴気へと変換し、かつて魔王と呼ばれた何某かの亡骸へと流し込んだ。

 

 

「え?」

 

 

 アベルは目をしばたいた。何が起きているのか、彼にはさっぱり理解できなかった。そうこうしている内に、膝の上にのせていた兄の亡骸が、突如として身をもたげた。

 

 

「兄さん?」

「窮屈也」

 

 

 それだけ言うと、〝闇の神〟はアベルの顔面を打ち抜いた。

 

 

「~~~~~~っ!?」

 

 

 声なき悲鳴を上げて吹き飛んで行くアベルの横を、黒く青い閃光が通り過ぎたかと思えば、〝闇の神〟の顔面に蹴りが叩き込まれた。

 

 

「ぐわっ!?」

 

 

 面食らってもんどりうって倒れる〝闇の神〟に、間髪入れずにイミテーションは踵落としを叩きつけにいく。

 

 

「くっ」

 

 

 

 肉体に宿る記憶に従って芋虫めいて横に転がった。その一瞬後に踵が地面を砕いた。蜘蛛の巣状の亀裂が幾本も走る。立ち上がった〝闇の神〟に、冷たい殺意が突き刺さる。

 

 

「いい加減終わりにしましょう」

 

 

 悪魔は奈落の底のような光差さぬ瞳に一切の慈悲を宿さずに〝闇の神〟を見据え、拳を握り、ゆっくりと構えた。

 

 

「イ……イ……」

 

 

 〝闇の神〟はぶるぶると震えた。そして憎悪に突き動かされ、叫んだ。

 

 

「イィイイイイイイイイミィイイイイイイイイイテェエエエエエエエエエショォオオオオオオオオオオンンンンンンンンンン!!!」

 

 

 それは叫んだ。恐らくこの地に来て同胞以外に始めて〝認識〟した個体の名前を。

 

 

「来るがいい。そして死ね」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 

 〝闇の神〟と悪魔は同時に地を蹴った。刹那で終わる、誰も知らない本当の最終決戦が幕を開けた。

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