影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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『立つ鳥跡を濁さず』

「ガァアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 千歳とイミテーションの手によって胸から股下まで切り裂かれた 〝闇の神〟は、絶叫を上げて見悶えた。

 

 

 その瞬間 〝闇の神〟の傷ついた体に光の玉が、銃弾が、榴弾が一斉に炸裂し、遂に立っていられずに 〝闇の神〟は無様に倒れ込んだ。

 

 

 イミテーションはすでに後方へと飛びのいており、抱えていた千歳をゆっくりと下ろした。

 

 

「ふんっ」

 

 

 千歳はじろりと睨みつけたが、何も言わず、ただ鼻を鳴らした。

 

 

 普段通な振る舞いで誤魔化そうとしているが、よく見ればその体は小刻みに震えており、無理をしていることは明らかだった。そんな千歳にイミテーションは苦笑いを浮かべながら何事か言おうとしたのだが、横合いから飛んできた空気の読めない声が遮った。

 

 

「追いついた! お前はえーんだ……終わってるぅううううううううう!?」

 

 

 人間体に戻った光の神がイミテーションへと抗議の声を上げたが、その目の前で倒れ伏す 〝闇の神〟を見て目を見張り、それからひっくり返らんばかりに身を仰け反らせて驚愕した。

 

 

「え? は? いやいやいや、まだ10秒くらいしか経ってないんだけど!? え? えぇ~!?」

 

 

 喚き散らす光の神に、やって来た者たちは誰も取り合わず、淡々と得物を構え、イミテーションの横に並んだ。

 

 

「相変わらずやる事が速くて助かるぜ」

 

 

 光黒暗夜は〝闇の神〟に聖剣を向けたままイミテーションに顔を向け、苦笑いを浮かべてその脇腹を小突いた。

 

 

「それは結構な事ですけど、せめて何かしら一報の一つでも入れて欲しいですね」

 

 

 光績が光を寄越して傷や体内に残留していた瘴気を浄化しながらジト目を向けてきた。

 

 

「うん、まあ、もう慣れたよ……」

 

 

 くたびれ切った表情の長谷川軌陸がげんなりと肩を落とした。

 

 

「ボス~! 平気っすか!?」

「畜生、乗ってたモンがオンボロだったから畜生!」

「あんたぶっ殺すわよ?」

「ボス~!」

 

 

 綾子が、一二が、萌が、リリーが、〝闇の神〟の精神汚染で相当に疲弊しているはずなのに、それでもなお体を引きずりながらこちらへと駆け寄ってくる。

 

 

((く、クソ! たらたら ()ってたからガキ共が合流しちまった! ど、ど~すんだ!? ていうか〝闇の神〟は!? あいつピクリとも動かないんだが!?))

 

 

 寄ってきた犬たちに対応しながら、イミテーションは倒れてからピクリとも動かない〝闇の神〟をチラチラ見ながら、唯々焦燥に身を焦がしていた。

 

 

 視線の先の〝闇の神〟は倒れ伏したまま、ピクリとも動かない。溢れ出る血は止まらず、漏れ出る闇は光の神が放つ光にその都度焼かれ、消滅してゆく。蘇る気配はない。期待していた終わりの終わりが始まらない。

 

 

((やべえやべえこのまま一生こいつらとこのまま? 大きな戦が終わっても日常は続く? 冗談じゃねぇぞ! 何が日常だ! あんなクソッタレな日々が日常であってたまるか! そうならないために色々頑張ってきたっていうのに結果は全員生還の大団円ってか? ざけんじゃねぇ!))

 

 

 掴み掛らんばかりに近づいて来た萌に横やりを入れ、言い争う千歳を窘めながら、健太郎は胸中で絶叫を上げた。

 

 

「相変わらずだよなぁあの二人」

「喧嘩するほど仲がいいと言いますし、まあ、放っておくのが一番です」

「触らぬ神に祟り無しともいうぞ」

「「仲良くない! 勝手なこと言うな!」」

 

 

 と、萌と千歳は声をそろえて叫び、今度は暗夜たちに食って掛かり、喧しく言い合う少年少女たち。

 

 

「ちくしょぉワシの見せ場あれで終わりかよ! もっと暴れたかったなぁ!」

「ともかく一件落着か?」

「あれ、まだ死んでねえから終わり良ければとはいかなさそうだがな」

「でもあの状態じゃ何も出来なさそうだけどね」

 

 

 それを遠くから眺める大人たち。それはまさに物語の終わりの際に行われるやり取りで、その中に自分が組み込まれている事に健太郎は怒り狂った。

 

 

「おい」

「──────ッ」

 

 

 びくりと肩を震わせて声の方へと顔を向ける。いつの間にか言い争い合う団体から抜け出してきていた千歳が、相も変わらずのしかめっ面で、いつものように立っていた。

 

 

「帰るぞ。私は疲れた」

 

 

 そう言って無造作に手を伸ばしてきた。

 

 

((い、嫌だぁああああああああ!!! 掴みたくないいいいいいいいいい!!! 家に帰りたいぃいいいいいいいい!!!))

 

 

 荒れ狂う内心をおくびにも表情に出さず、健太郎はまるで何か躊躇っているかのように表情を変え、掌に付着する血を見て、さながら後悔するような素振りを見せて少しでも遅延を試みていた。

 

 

「えぇいさっさとせんか」

 

 

 そんな小細工など、目の前の少女には通用しない。鳳凰院千歳はとても押しが強いのだ。そんな事は知っているというのに、何という無駄な抵抗だろうか。少女は躊躇いなく踏み込み、悪魔の手を取った。数多の死と嘆きを吸ってきた忌むべき手を。

 

 

 そしてぐいっと引っ張った。

 

 

「うわっ」

 

 

 イミテーションはつんのめって転びかけ、何とかバランスを取り戻し、目を白黒させて千歳を見た。同じ顔。同じ色の瞳が見つめ返す。

 

 

 深い深海の様な深い青色の瞳と、奈落の底のように深い青色の瞳が交差し、両者は短く、しかし深く強く繋がった。

 

 

「んっ」

 

 

 やがて、千歳は目を細め、薄く笑った。かつての千歳を知る者では考えられない程に穏やかな、愛に満ちた微笑みであった。

 

 

((え? ま、待て……これマジであれじゃん。今まで碌に笑わなかった奴が最終回で見せるあれじゃん! それでその後に))

 

 

「あ、千歳が笑ってるぜ!」

 

 

 千歳の表情の変化に目敏く気が付いた暗夜が目を丸くして千歳を指さした。

 

 

「あ、本当ですね」

「あんな風に笑えるのか」

 

 

 績と軌陸も同様に目を丸くし、目を見合わせて驚いていた。

 

 

「ぶはははは! 何だありゃ!」

「似合わねー!」

 

 

 綾子と一二が指を指しながらゲラゲラ笑った。

 

 

「可愛いね!」

「同感ね。さっさと帰りましょ」

 

 

 今にも抱き着きたいとばかりに手をワキワキさせるリリーと、千歳に同意してうんざりと首を振る萌。

 

 

「あーハイハイお前らももう疲れたろ? こっちはワシが処理しとくから、さっさと帰れ」

 

 

 〝闇の神〟に近づき、じわじわと光で焼きながら首を巡らした光の神が、追い払うように手を払った。

 

 

「言われなくとも帰るわっ」

 

 

 すっかり仏頂面に戻ってしまった千歳が、肩を怒らせて、イミテーションの手を固く握ったまま歩き始めた。

 

 

((ノォオオオオオオオオ!!! オォオオオオオオオオマイガァアアアアアアアアア!!! ファック、ファック、ファァアアアアアアアアッッック!!! ゴー・トゥ・サノバ・ビィイイイイイイイイッッチ!!! ホー・リー・ファァアアアアアアアアッッック!!!))

 

 

 表情だけを懸命に維持し、それ以外が完全に機能しなくなり、今にも崩れ落ちてしまいそうな体を尋常ならざる気力で支え、健太郎は藁にもすがる思いで〝闇の神〟を見た。その目が見開かれた。

 

 

 彼は見た。聞いた。光に包み込まれ、今まさに浄化されようとしている〝闇の神〟が微かに動いたのを。指先が地面をかいた音を。

 

 

 その倒れ伏した姿に、健太郎はかつて散々にぶちのめされ、誰にも顧みられることなく這い蹲っていた自分の姿と重なった。

 

 

「──────」

 

 

 健太郎の眼に光が宿る。歓喜の光が。

 

 

「? 何だ、どうした?」

 

 

 半身の雰囲気の変化を敏感に察した、千歳が振り向いて顔を窺ってきた。

 

 

「あ?」

「ガッ──────」

 

 

 光の神が訝った瞬間に、それまでピクリとも動かなかった〝闇の神〟が、突如としてガバリと起き上がった。

 

 

「「──────ッ!?」」

 

 

 途端に緊張が走り、彼らは直ちに臨戦態勢を取った。しかし、〝闇の神〟から放たれた膨大な闇が光のフィールドを押しのけて吹きすさび、堪らず後方へと押し流されてしまった。

 

 

「何だよ! いい加減死ねよ!」

「ッ! よせ小僧!」

 

 

 兆候を感じ取って跳び退った光の神は、今まさに混沌を放とうとしていた暗夜の傍らに着地し、手で制した。

 

 

「何でっすか!?」

「見ろ」

 

 

 光の神の示す先には、闇が放つ力で不自然な体勢で浮き上がった〝闇の神〟の姿があった。

 

 

「ガバッ!? ガババババッ!?」

 

 

 その体から尋常ならざる闇が溢れ出し、凝縮され、やがては小さな『穴』となった。『穴』の先には光差さぬ闇が広がるばかりで、人間たちはそれに潜在的な恐怖を感じ取った。

 

 

「ガババババーッ!?」

「なんじゃありゃ!?」

 

 

 一二が目を眇めて『穴』を見た。

 

 

「なんだ!? あんなおっかない雰囲気は成ってるくせに、()()()()()()()!?」

 

 

 探知の異能を持つ綾子が一早くの『穴』の異常性を感じ取り、説明しろと言わんばかりに光の神へと目を向けた。それと同時に『穴』が何もかもをも吸い込み始めた。

 

 

「ありゃ見ての通り『穴』じゃ! お前ら風に言うならブラックホールとか、ワームホールとかか!?」

「「なっ!?」」

 

 

 光の神の言及に一同は目を見張る。

 

 

「踏ん張れ! 吸い込まれりゃあどことも知らねえところに放り込まれるか、跡形もなく消滅しちまうぞ!」

「「はあっ!?」」

 

 

 一同驚愕。『穴』の吸引はますます強まり、その上徐々に広がっていくではないか。

 

 

「おわー引っ張られるーっ!?」

「クソがぁ!」

「ひゃあっ!?」

「このっ」

 

 

 保健所のメンバーは足に力を入れて踏ん張るものの、いかんせん体力がすっからかんであり、績が張った光の幕が無ければとっくに吸い込まれていたであろう。

 

 

「ここは俺の混沌で!」

 

 

 今にも吸い込まれそうな一二たちに焦った暗夜が再び政権に混沌を漲らせたのだが、やはり光の神が制したことで不発に終わった。

 

「やめろっつったろ! ありゃめちゃめちゃ不安定なんだよ! 少しでも加減を間違えちまえば一気に拡散して星の十分の一が亜空間送りぞ!」

「じゃあどうすればいいんですか!?」

「このまま黙って見ていろと!?」

「使えない屑!」

「うるせー!」

 

 

 績に、軌陸に追及され、挙句の果てには千歳に暴言を吐かれ、光の神はキレた。

 

 

「ワシが握り潰しゃあ全部済むと思ってんのか! 被害が出ない方法だぁ!? そうしたけりゃあ『光の速度で動き回ってその速度を維持したまま弱所を正確に撃ち抜ける混沌持ち』でも持ってこいやぁ~!!!」

「「──────!!!」」

 

 

 やけくそ気味に放たれた光の神の言葉に、全員がはっとなった。

 

 

()()。この世界に。恐らくはたった一人だけ。

 

 

 視線が集中する。注目の先にいたその男は、俯いていた顔を上げた。

 

 

「「──────」」

 

 

 戦慄が走った。その男が纏う、ある種、死者の如き安らぎに満ちた雰囲気(オーラ)に。

 

 

「イミテーション……?」

 

 

 千歳は呟き、イミテーションの手を力強く握りしめていた。彼は千歳を見た。どこか遠く、ここでは無い何処かを見ているような、そんな目だった。

 

 

「千歳様」

「──────ッ」

 

 

 呼ばれただけだ。それだけにも拘らず、千歳は肩を強く震わせた。イミテーションは構わずに続けた。

 

 

「貴女は人形屋敷(ドールハウス)を脱した。もう誰かの操り人形ではない」

「う……あ……」

 

 

 千歳は何も言わない、何も言えない。イミテーションは微笑んだ。

 

 

「貴女はもう一人じゃない。()()()()()()()()()()

「な、にを、言っている……?」

 

 

 途切れ途切れに言葉を発する千歳に、イミテーションは顔を近づけ、額を重ね合わせた。

 

 

「どうか、お元気で」

「ふざけないで!」

 

 

 必死になって踏ん張りながら、萌が吠えるように叫んだ。イミテーションは一切取り合わず、また振り返りもせずに淡々と言った。

 

 

「萌、一二、綾子、リリー、社長(かれ)にはすでに話は通してあります。私が消えたら、『ペットショップ』で働きなさい」

「は、はあ!? あんた以外の奴の下につけってのか!?」

「ざけんじゃねえぞ! そんな命令聴けるわきゃねぇだろうが!」

「ボスっ!」

 

 

 犬たちからは悲鳴に近い懇願と拒絶の言葉が聞こえるが、やはりイミテーションは無視し、暗夜たちへと目を向ける。

 

 

「どうかうちの犬たちと千歳様の事は頼みます」

「ま、待てよ!? お前が命張る必要なんか!」

「まだ何か手がある筈です! それまで!」

「早まるな!」

 

 

 静止を促す声。やはり無視し、一歩前へ。それが妨げられる。

 

 

「行かせんぞ……!」

 

 

 千歳は強まった吸引に抗いながらも、イミテーションを引きとどめた。その目に宿る意思に、かつての憎悪と孤独は無い。

 

 

「ふっ……」

 

 

 それで充分であった。イミテーションは千歳の手に自らの手を重ねた。いかなる力を加えたのか、万力の力が込められていた千歳の手は、それだけで解かれた。

 

 

「あっ」

 

 

 千歳の口から声が漏れる。彼女が何事か言うよりも早く、イミテーションは背を向けて駈け出していた。

 

 

 闇が全てを覆いつつある空間の中、青空の如き鮮烈な青が切り裂きながら、駆ける! 

 

 

((終わる……終われる!))

 

 

 先の見えない虚ろへと駆け出す健太郎の心に、怯えや恐怖の感情は欠片も無い。

 

 

 胸中を満たすのは。歓喜。ゴールテープを前にした長距離マラソン選手のように。長時間潜水していた潜水艦が水面に映る太陽の光を見るかのように。

 

 

「ガババババーッ!」

 

 

 〝闇の神〟が、最早意識すらないであろうに、それでも見た。反射か。それとも無意識の憎悪に突き動かされてか。

 

 

 理由などどうでもいい。邪悪な眼差しは、さながら女神の慈しみの如し。憎悪の断末魔は、さながら祝福の号砲のよう。

 

 

((あぁ!))

 

 

 吉田健太郎の目の前に、虚ろが迫る。

 

 

 右腕に、一瞬のうちに黒と白の炎が巻き付く。何百何千とやった試み。たちまちのうちに境界線は消え、そこには黒でも白でも無い混沌の炎が燃える。

 

 

 それは、今まで作り出した混沌の中で、最もリラックスした状態で作られた、最高傑作とすら称せる出来栄えであった。

 

 

「「──────」」

 

 

 いかなる奇跡が働いたのであろうか。限りなく光に近い速度下で行われたプロセスはその場にいた者、のみならず、この星にいる生き物全ての網膜に映し出されていた。

 

 

 健太郎の眼前に、虚ろが迫る! 終わりが迫る! 

 

 

 ゴールテープが、見える! 

 

 

 天にも昇る、エクスタシー! 

 

 

「さらば!」

 

 

 叫び、右腕に纏った混沌を、虚ろの中心へ、終わりの終わりのお終いへ! 

 

 

 健太郎は弓の如く引いた右腕を、〝闇の神〟の胸の中心に、叩き込んだ! 

 

 

 瞬間、黒は彼の体を飲み込んで膨れ上がり、それから急速に縮み、消えた。

 

 

 後に残された物は、抉れた地面と、耳が痛くなるほどの静寂だけ。そこには何も残らなかった。

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