影武者転生異常あり!~俺は悪役令嬢の影武者なんだ…誰が何と言おうが影武者なんだ!だから脇役でいさせろや!   作:三流二式

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エピローグ③『死にぞこないのララバイ』

 雪が降り積もり、息すらもが凍り付かんばかりの、寒冷地のどこかに寂れた町の裏通りに、その死体はあった。

 

 

 粗末な身なりの、子供の死体である。年のころは14といった所であろうか。細く華奢で栄養状態も決して良くないと事は見ての通りだが、その中でもひときわ目立つのは、年不相応に実っている胸であった。

 

 

 見れば、明らかに暴行された跡が体の各所にあり、一体何が死因となったのかは一目瞭然であった。

 

 

 この不自然な死体の正体は、この町に君臨する金持ちたちの間で流行っているゲームに強制参加させられた家畜(プレイヤー)の成れの果てである。

 

 

 というのも、見た目の良い子供を攫い、スラムに放ち、どれだけ長く生き延びるかを観戦するという雅な遊びが、ここ数年の間で流行り出し、以来年間数十人の子供がスラムに放たれては、陰惨で凄惨な死を迎えていた。

 

 

 この死体もその一つ。住民たちは恐怖で怯えながらも、しかし全てが見て見ぬふりだ。不用意に触れてしまえば、自分が次のターゲットにされかねない。権力者たちは常に娯楽に飢えている。新しいゲームを思いつかれてはたまらない。

 

 

 それゆえの見て見ぬふりだった。

 

 

 此度のゲームは、相当な盛り上がりを見せた。この哀れな犠牲者は、元々は隣町の権力者の一人娘だった。

 

 

 両親に溺愛され、酷く甘ったれなこの娘を、どうにかしてゲームに参加させたいと思っていた彼らは、何とその権力者たちを一丸となって失脚させたのだ。

 

 

 思い立ったが吉日とはこのことだ。すぐさま行動に移した彼らは、何と角の週には計画を実行し、嘘八百をでっちあげ、裁判官を丸め込み、ついには有罪判決をもぎ取った。

 

 

 あまりにも突然に彼らは地位を追い落とされ、市民観衆の元、言うを憚れるような方法で処刑された。

 

 

 そうして宙ぶらりんとなった少女の権利を、彼らは嬉々として買い取った。

 

 

『このゲームに勝てば、君は自由の身だ』

 

 

 泣き叫ぶ少女にそのように吹き込み、彼らはわくわくした面持ちで画面の向こう側から少女の絶望を、憎悪を、見つめていた。

 

 

 少女が放たれた瞬間に、待ってましたとばかりに群がるスラムの住人達。彼らは権力者たちに完全に平伏する代わりに、こうしたおこぼれを賜って生きていた。

 

 

 あの傲慢ちきな少女が絶望と憤怒で絶叫を上げた時、彼らは両手を上げて歓声を上げた。

 

 

 呪詛を吐いて凍える空気の中で事切れた時など、絶頂すら覚えた者がいたほどだった。

 

 

 ひとしきり笑った彼らはモニターを消し、次の得物はどうしようかと嬉々として話し合った。そこに、打ち捨てられた少女の事など、欠片たりとも残ってはいなかった。

 

 

 少女の死体を、気にかける者はいない。こんな出来事はこの町では日常茶飯の出来事で、今更どうのこうの言うような者など、とっくの昔に出て行ってしまっている。

 

 

 取るに足らない、ありふれた不幸だった。

 

 

 だが。今日は違った。

 

 

 ここでは無い何処かの国で、世界の在り方を一変させるような大事件が起こった。その結果、力ある者が敗れ、最終的に自らの力に飲み込まれ、消滅したかに見えた。

 

 

 だが、それは死んではいなかった。

 

 

『オォ……オォ……』

 

 

 それはふらふらと、引き寄せられて、やって来た。死の間際に放たれた、絶望と憎悪の断末魔が、それを呼び寄せた。

 

 

『き……消えて……しまう……』

 

 

 前の依り代に比べれば天と地ほどの開きがあるが、虫の息のそれは、最早なりふり構っていられなかった。幼く、未熟な、されど凄まじい負の感情が渦巻く死体に、それは躊躇なく入り込んだ。

 

 

 びくり、と、少女の死体が震えた。かと思えば、ゆっくりと、まるで幽鬼の如く立ち上がった。さっきまで死んでいたそれが、動き出したのだ。

 

 

「ぅ……あ゛……」

 

 

『少女』は呻きながら頭を振るい、よたよたと、まるで動く死体の如くべたんべたんと足を動かした。

 

 

「あん? 何だ、まだ生きてたのか」

「お、もう一度おじちゃんと遊びたくなっちゃったのかい?」

 

 

 目の前には、先程暴行を加えてきた浮浪者の内の2人が『少女』に気が付き、実に無防備かつ無警戒に近寄ってきた。

 

 

「ち、力……力を……」

「あ? 何言って──────」

 

 

 二の句は告げなかった。少女が掌を向けたかと思えば、何か黒い物が発射され、首から上を2人纏めて吹き飛ばされてしまったからだ。

 

 

 血は出てこなかった。代わりに黒い墨汁のような物が噴き出し、やがては体を侵食し、溶け、ずるずると地を這い、『少女』の体を這い上り、その糧となった。

 

 

「う……うぅん……」

 

 

 僅かばかりの力だが、それがトリガーとなったのか、先程よりも意識がしっかりした『少女』は、導かれる様に歩を進めた。

 

 

 道中でさまざまな者が、ある時は襲い来たり、ある時は話しかけてきたが、全てに同じ処置を下した。

 

 

 糧を吸収する度に『少女』の足取りはしっかりしたものとなり、霧がかった意識も次第に晴れていった。

 

 

 やがて、権力者たちが集う屋敷のもんの前に立った時、『少女』は確固たる意識をもっていた。

 

 

 傍らには黒い染みが4つ。この門を守っていた者たちであったが。実に下らない有象無象であった。道中の糧と同じく、黒く吹き飛ばした。

 

 

『少女』は門を掴んでゆすった。門はあっさりとひしゃげ、意味の無い鉄くずと化した。放り捨て、中へと入ってゆく。

 

 

 屋敷の中は当たり前だが、警備に満ちていた。久方ぶりの侵入者に、蜂の巣をつついたかのように騒がしくなったが、程なくして音は止んだ。黒ずんだ地面を『少女』は悠々と進んだ。

 

 

 そして、一際大きな扉の前に立つ。観戦室(ゲームマスタールーム)と呼ばれている、権力者だけが踏み入れることが許された高貴なる部屋に、『少女』は何の気負いも無く入出した。

 

 

「──────!」

「──────!?」

「──────!!!」

 

 

 こっちを指さして、何事か喚いている。そこに、上から弱者を見下ろす喜悦は無い。あるのは、恐怖。この一つのみ。

 

 

「……」

 

 

『少女』は小さな者たちをただ茫然と見つめ、ただ淡々と行使した。少女を中心に、黒が広がった。黒は部屋全体を包み込み、足元からはたくさんの黒い影が這い出してきた。

 

 

「「──────!!!」」

 

 

 誰かが叫んだようにも聞こえたし、そうでない様にも聞こえた。どちらでも構わなかった。『少女』はただ力を行使した。

 

 

 黒い影にバラバラにされる権力者たちを見つめる傍らで、黒はどんどん広がってゆく。屋敷を通り越し、町すらも黒は浸食し、やがては付近一帯が黒に沈んだ。

 

 

 これで一つの町が消えた事になるのだが、気にしたものは存外に少なかった。

 

 

「……」

 

 

 黒い町の黒い館の黒い部屋の中で、椅子の上に腰かけた『少女』は朧になった記憶の中に、確かに煌く名を呟いた。

 

 

「イミテーション……」

 

 

 呟くと、それまで凍り付いたかのように動かなかった『少女』の表情が、僅かに引くついた。

 

 

「イミテーション」

 

 

 もう一度口に出すと、腹の底に燃えるような何かが沸き上がってくるのを感じた。

 

 

「イミテーション……!」

 

 

 次に口に出せば、最早収拾のつかない程に力が暴れ狂った。

 

 

 

「イミテーション!!!」

 

 

『少女』は刮目した。黒が荒れ狂い、形あるものをすべて破壊しても、この憎悪(おもい)は止まらない。

 

 

『少女』は首を巡らし、ある一点を見た。

 

 

 全く何の根拠もないが、そこに宿敵はいるという確信があった。

 

 

『少女』は歩を進めた。内にある憎しみに突き動かされて。

 

 

 白い雪が、黒に侵食されて呑み込まれてゆく。白を侵食して、黒が進む。宿敵を目がけて、迷いない足取りで真っすぐに。

 

 

 目指すは極東。黄金の国。今だ混沌の火種が巣くう、魑魅魍魎の箱庭。

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